10年後の少女に
四国。
と昔呼ばれていた。
今は、
『最後の希望』
と人は呼んでいる。
10年前竜達が世界を破滅の一歩手前まで追いやった。
が破滅は一歩手前で止めることに成功。
それができたのは数多くの犠牲があったからだ。
『神』。
オリビア。
がいるお陰で四国だったところは今ある。
ここには、竜達は攻撃もできない。
近づくことさえできない。
ここ以外は、竜と呼ばれる怪物が闊歩している。
なぜここなら大丈夫なのか?
答えは……
***
海岸に立っている一人の少女がいた。
空には竜が何頭か飛んでいる。
翼を豪快に振り、竜巻ができて海を呑み込み、そして人類の『最後の希望』までをも呑み込もうとしていた。
が、そうはならない。
一人の少女がそれを右手だけで受け止め竜巻の威力を無くし、そのまま消滅させた。
少女は足までつくかつかないか分からないくらいの長い黒髪で、ブレザーの制服を着ている。
少女は宙に浮かぶと竜の元へと向かう。
エレベーターで昇っているのかように行く。
竜は少女を見ると咆哮をあげた。
腕をあげ、ムチのようにそれを少女めがけて振り落とす。
少女に直撃してしまう。
ビッチャリ!
血が海に落ちてしまう。
海には血の雨でいっぱいだった。
が、それは少女のではない。
竜のものだ。
竜の腕は切断されていた。いや、強引に千切られたという方があっているか。
その腕を少女の小さな手で持ち上げていた。
少女は竜の腕を海に投げ捨て、竜を見る。
竜は怒り狂う。
翼を羽ばたかせ、少女目掛けて突進してくる。が。
少女はさらに空高く飛び上がる。
竜もそれを追いかけるかように空高く飛ぶ。
少女は宇宙にでも行ってしまうのかと思うくらい高く飛び続ける。
大気圏まで来るといきなり、少女は動きを止めた。
少女はそこで初めて口を開く。
「ねぇ、ドラゴン」
竜も知能が低く理解能力がないがそれでもお構いなしに少女は続ける。
「10年前の私はただあなた達に恐れを抱いて泣くことしかできなかったけど、今の私はあなた達を殺せる」
それだけを言い終わると、少女は殺気を出す。
竜にそれが伝わっているだろうか、いや関係ない。
だって、今から殺すのだから。
竜が先に動きを見せる。
口の中に炎を溜めた。
それを一気に放射する。
少女ぐらいある炎の玉。
炎の玉は少女に直撃する。
だが、少女は何事もないかのように浮かんでいる。
そして、
おかしな表現かもしれないが空中を歩くように飛び竜の元へと行く。
その間、竜は炎の玉を打ち続けた。
全て直撃するが、無意味。
少女の体には傷がつかない。
ゆっくりと確実に竜に近づく。
あと、1メートル。
竜はそれでも炎の玉を撃つ。
少女には効かない。
あと、50センチメートル。
竜は残された片方の腕で、少女を切り裂くために鋭い爪で襲う。
爪は少女に当たるが、その直後爪はボロボロ砕け散る。
あと、0メートル。
竜に触れることができる距離まできた。
口から牙を出し、少女を食らおうとする。
少女は横にステップを踏み、それをきれいにかわす。
竜の顔面を横から右手に力を込め、握り締め殴った。すると、竜の顔面は粉々に粉砕されそのまま絶命した。
生を失った竜は、地上へ落下する。
普通だったら。
落下する前に竜の右の翼を掴み、大気圏まで昇って行き、竜を宇宙に投げ捨てた。
竜は宇宙へと姿を消していく。
それをただ呆然と少女は眺めていた。
少女は地上へゆっくり下降して行く。
下でも戦闘が繰りひろげられている。が。
ブッシャリ!
たった今終わったようだ。
少女は一頭倒している間に、下では全ての竜が討伐されていた。
海岸には大きな山が構築されている。それはもちろん人為的もの。
竜の亡骸で作られた山に1人の少年が座っている。
少年は少女に声をかけた。
「どんだけ、ドラゴン一頭に手間取ってんだよ。彌生 星風」
「そんなあなたは、どれだけ海岸を汚せば済むのかな?それになんでいつもフルネームなのかな?」
「どれだけ汚そうが最後は掃除してきれいにすればいいだろ」
適当に少年は、少女―星風の質問を返し、そのまま続けた。
「フルネームなのは、お前をライバルだと認めてるからだよ」
星風は下を向き、「はぁー」と小さくため息をついた。
疲れた様子で口を開く。
「私は、あなたの事をライバルだなんて一度も思ったときなんてないよ。ただのうるさい犬って感じかな」
「なーに、俺よりも強いだと……!?それにうるさいは余計だっての」
「いや、そんなこと言ってないし。うるさいのは事実じゃん」
「って言うことだけ言って帰ろうとすんなよ」
星風は飛んでそのままその場をあとにしようとしていた。が。
少年に阻まれる。
ダルそうに少年を見て、早く帰りたいですオーラを出しながら言う。
「まだ、あるのかな?早く帰って、シャワー浴びたいんだけどな」
「飛んで帰るんだったら俺も一緒に……」
星風は少年の言葉を最後まで聞くことなく、今度は嫌そうなオーラを全面に出し手で拒むような仕草をし言った。
「いやいや、何であなたと一緒帰らないといけないわけ?」
「飛べるお前には分からないと思うが」と少年は前置きし訴えるように話始めた。
「知ってるかここから寮まで結構遠いんだぜ。それに今日は宿題がたんまりとあるわけだ」
つまり少年は宿題を早く終わらせたいがために、星風にこうして頼んでいるわけだ。
だが、そんなの星風が知ったことではない。
だから、
「それは大変だねー」
と半ば棒読みで言い、そのまま飛んで行こうとした時。
少年は砂浜の走りだし、勢いをつけると足で一蹴りをして空中に飛び上がった。
空気を蹴り星風に無理矢理掴みかかった。
星風はかわそうとするが失敗してしまう。
「うあぁ!?」
と悲鳴を上げた。
少年は笑っている。
少年は右肩にぶら下がり、浮いていた。
「さぁ、寮までレッゴー!」
「人を使い勝手のいいタクシーがわりにするな」
星風は若干怒りを露にして言うが少年はそんなのおかまえなしという感じだ。
星風は本当に嫌そうだった。
「私をライバルとか言っておいて、恥ずかしくないのかな?」
「ライバルだって助け合いが時には大事だろ」
「一方的に私が助けてるように見えるんだけどな」
苦い顔で星風は言うと、ポツリと呟く。
「たがらライバルじゃないんだけどね」
***
星風は少年を連れて空を飛んでいた。
そのスピードは鳥と同じくらいのもの。
少年はつまらなそうに言った。
「もっとスピード出そうぜ」
「私は安全飛行を心掛けているんだよ。そんなに不満ならここから自分の足で寮に戻ればいいんじゃないかな」
「安全飛行でお願いしまーす」
なんとも現金なやつと星風は思った。
安全飛行なのには、理由がある。
それは、もし速度の出しすぎでそこら辺を飛んでいる鳥達に被害を加えてしまうかもしれない。だから、速度には気をつけているのだ。
そんな事、全然少年は知るよしもないのだが。
少年は無邪気に空の真下を眺めていた。
いつもと違う景色になんだか子供のように興奮しているのだろうか。
まぁ、それはどうでもいいのだが。
今、星風達が目指しているのは、元は愛媛県と呼ばれていた場所にある学校だ。
その学校の名前は、『愛媛学園』というものだ。
なぜ、この名前なのかと言うと、いつか愛媛県を復活させる思いからそう名がついたた星風は聞いていた。
この学校は、小・中・高の一貫している。
だから、自分より下の子供がいても何ら珍しくない。
目的地まであともう少し。
そんなところまできて、少年はとある質問をしてきた。
「なぁ、彌生 星風。お前もあのチビ女神みたい一瞬でその場に行ける瞬間移動みたいなものが使えんだろ、なら飛ぶよりもそっちを使えばいいんじゃないか?」
「あぁ、『神の歩行』のこと。私のじゃオリビアみたいに長距離は移動できないかな」
星風は、それにとつけたし続けた。
「体力の消費が激しすぎる」
「なーんだ、不完全なのか」
少年な何気ない一言が星風の心に突き刺さった。
そう実は本人が一番それを自覚している。
少年の言葉に怒りを覚えるよりもショックのほうが強く、表情が曇った。
無表情で星風は少年を地上へ落とす。
少年は悲鳴をあげて落下する。が。
地面へ衝突する寸前で星風がキャッチする。
少年はオロオロした様子で言う。
「人を殺す気か!」
「ごめんなさい、手が滑ちゃって……」
「そんな殺意満々で謝るやつがあるか」
少年の寿命は大分縮まったような感じだった。
嫌な汗をかきながら吠える少年。
その少年を気にせず目的地まで飛行を続ける。
しばらく飛んでいると無数の白いマンションが見えてきた。
マンションを空の上から見ると白一色でなんだか気持ち悪い。ここでは、約10年近く住んでいるはずだが慣れない。
少年はどうってことないような感じだ。
これは、星風だけかもしれないが。
まぁ、飛べる者自体限られるからこんな風に思うのは少ない。
土色をベースとしたビルのような建物が見えた。
その建物は星風達が目指している学校だ。
ビルのような学校は周りをレンガで囲んでいる。
校門にはしっかり『愛媛学園』と書かれた看板があった。
星風は音を立てないように不時着した。
二人は校門前に立つと中へ入って行く。
ドアは自動ドアで、入ると中は受付のような窓口があり二人の20代ぐらいの女性がいた。
少年は二人の女性に笑顔で手を振っていると、エレベーターから1人の13歳くらい少女が降りてきて、星風達の元に行くと口を開く。
少女は、翡翠色の首まである髪に紺色の中学生の制服を着ていた
「お帰りなさい。星風先輩、青先輩」
「ただいま、紅愛ちゃん」
星風は挨拶を返すのだが、少年―青はムスッとした表情になるとそのままエレベーターで昇っていった。
それを見て星風はキョットンとし首を傾げて、「どうしたのかな?」と喋る。
紅愛も続けるように言った。
「青先輩、私のこと嫌いなんですかね?」
「それはないと思うかな。青は、紅愛ちゃんのこと好きだと思うよ、だって小さい頃は本当の兄妹のように仲良しだったじゃん」
「”だった”かぁ、それもう過去の話じゃないですか」
紅愛の表情は少しだけ暗かった。
2人は最上階専用のエレベーターに乗り、目的の部屋まで行こうとする。
エレベーターの中では、紅愛が簡単な質問をしてくる。
「あの、ドラコンはどうでしたか?」
「どうってこともないかな。ただ、以前よりもドラコンの数は増えたってのが率直な感想かな」
「やはり数は増え始めているんですね。私も皆さんに協力できれば嬉んですが……」
紅愛はなんだか悔しそうな声色で言う。
肩をポンポンと星風は叩き微笑むように言った。
「何言ってるの、私達が心配せずに戦えるのは紅愛ちゃんのおかげだよ」
「私なんてただ皆さんのケガを治すしか能がないです、だから青先輩も戦えない私を避けるんですかね」
「青がそんなつまらない理由で紅愛ちゃんのこと避けるとは思えないだけどな」
「あっ、”今避けてる”って認めましたね。やはり皆さんも青先輩が私を避けているって思ってるですね」
紅愛は鎌をかけて、それをそこはかとなく聞き出した。
一本とられたと素直に認める星風。なんとも清々しいと思う。
だが、紅愛はなんだか落ち込んでいる。
必死にフォローにしようと星風は話始めた。
「今のは言葉の綾ってやつかな。何度も言うけど、青は紅愛ちゃんのこと好きだと思うよ」
「はぁ……」
納得していないようだった。
その言葉の後に星風に聞こえないくらいの声量で、
「でも、それは家族的な”好き”なんですよねぇ」
と喋った。
それは星風に聞こえない。
だから、首を傾げて『?』マークを浮かべた。
そんなやり取りをしているエレベーターは最上階まできて、チーンという音を出しつく。
エレベーターのドアが開き、2人は降りた。
***
エレベーターから出ると奥に1つの大きな部屋があり、部屋まで赤いカーペットが敷いている。
これが日常なのか、2人はなんのリアクションも取らずに歩いてく。
ドアの前まで来ると、紅愛が言う。
「ちゃんと、星風先輩を神様の元へ送りましたので、私はこれで失礼しますね」
「ご苦労様」
紅愛は来た道を戻るかのようにエレベーターに行き、そのまま降りていく。
ドアは木製で金色のノブの回し、中へ入る。
中には、1人の少女の姿がある。
その少女は、年齢が10歳ぐらい。
腰まで伸びた金色の髪。
それにどこまでも透き通るような蒼い眼。
星風よりも見た目は子供だが全然そんな感じは少したりたもしない。
少女は木製の机の上に肘をつき星風を待っていたようだった。
近くに置いてあったマグカップを掴むと1口、口の中へと入れる。
そして、落ち着いた感じで話始める。
「星風、力は大分使えるようになった?」
「あの人と比べるとまだまだだけど、今の私なら竜がどんなに来ようと殺せる」
星風は少女にも分かるくらいの殺気を放つ。が。
少女は表情を崩さずに言う。
「まぁ、それはいいことね。でも油断は禁物」
「それは分かっているかな、オリビア」
注意を受けるが適当に返事を返した星風。
オリビアに報告をした星風を部屋は後にしようとするが、「待って」と呼び止められる。
そのまま、続ける。
「新たに頼みたいことがあるの」
「それって、私じゃないといけないのかな?」
「……」
「例えば、赤斗 青とか、赤斗 青とか」
「なぜ、青を2回も指名するの?まぁ、青を含め他のみんなは色々とやることがあるのよ」
とても、嫌そうな目付きで星風はオリビアを見ている。
仕事帰りでいきなりまた仕事に駆り出されるのにかなり不安があるようだ。
ブラック企業。
そう感じたのかもしれない。
オリビアは本題に入る。
「話を戻すよ。つい、1時間くらい前にここから2人が”外”に出たっていう情報が入ってきた、だから星風、連れ戻すことがあなたの新たな仕事。いい?」
「いいか、よくないかって言われればよくないかな。そもそも何で連れ戻す必要があるの?」
「そりゃ、”外”だと竜に襲われるからでしょ。早く行かないと食い殺されるかもしれないし」
「自分から出て行ったなら、別にいいんじゃないかな。ドラゴンに襲われてもそれは自己責任だよ」
星風は、面倒臭そうに言った。
オリビアは「はぁー」とため息をつき、なんだか情けなそうに言う。
「確かにあなたの言うとおりなのかもしれない。けど、放っていい理由にはならない」
「……」
「何でだって顔してる。それは、あなた達が”十二支”だから。それにあいつならそんな理由なんて無くとも行く」
「意味が分からないかな。まぁ、でも連れ戻しに行けばいいんだね」
半ばやけくそ気味で言う星風。
オリビアは、「そうそう」と頷く。
「やれやれ」とオリビアに視線を向けながら質問する。
「で、そいつらの今の場所は分かるのかな。場所が分からないと、どうしようもないよね?」
「そんなに心配しなくても今すぐにでも送ってあげる」
「いやいや、自分で行くからいいかな。っていうか、絶対に送らないで」
「何言ってんの?私ならすぐに送れるし、それにこうしている間にも、竜に教われてるかもしれないのに」
それでも星風は拒んだ。
その拒みようはなんだか小さい子供のそれに似ている。
それほど、何かがあるということだろう。
だが、オリビアには一切関係ない。
オリビアは椅子から立ち上がると、星風の近くに寄ってくる。
星風は手で避けようとするが、その手に当たらないようにオリビアは行く。
オリビアは星風の目の前に立つと右手を星風に当てる。
星風は泣き目で訴えた。
「お願いやめてよ」
「大丈夫、今度はやれるから。さぁ、いってらっしゃい」
「せめて、シャワーを浴びてから行きたいかな」
「いってらっしゃい」
とオリビアはもう一度そう言うと、星風の胸の辺りが濃い淡色に光だしそのまま、音を立てることなくその場から消滅した。
さっきまで、部屋には2人の少女がいたはずなのだが、今は1人だけだ。
部屋にはまた静寂が戻る。
オリビアは椅子に座り直す。
そして、マグカップを掴みコーヒーを飲む。
「うーん、冷めてる」
飲みながらそう言うオリビアの表情は微妙というのがよく伝わってくる。
それでもまたコーヒーを飲む。
次の投稿は来週の土曜日の午後6時です。