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紫の百合 〜乙女ゲームの世界に転生して、前世で好きだった人と再び出会いました〜  作者: 冬野月子
第四章 白の聖女

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02

先頭を歩くルカがふいに立ち止まった。


「ルカ?」

「———妙な気配が…」

素早く周囲を見渡し、視線を止めた先からガサリ、と音が聞こえた。


木々の間に大きな———狼に似た二頭の獣が立っていた。

赤い瞳が怪しく光っている。


「魔狼!?何故こんな所に!」

「ロイド!二人を護れ!」

フレデリックは素早く腰に下げていた護身用の剣を抜いた。


フレデリックとルカが魔狼を塞ぐように立つと、ロイドは呪文を唱え始めた。

足元が丸く光ると、地面に銀色の魔法陣が浮かび上がる。

「二人はこの中に入って」


「リリー様…私…」

「———大丈夫。ルカもフレッドも強いわ」

魔法陣の中で、リリーは震えるマリアの手を握りしめた。



一頭の魔狼が飛び掛かってきた。


喉元に喰らいつこうとするのをフレデリックが剣で受け止める。

ルカが腕を振ると複数の光の矢が飛び立ち、獣の脇腹を襲った。

苦しげな咆哮を上げ身を捩らせた隙をつき、フレデリックは魔狼の首を切り割いた。


「あと一頭!」

間を置かずに斬りかかるが素早く避けられる。

すかさずルカが光の矢を打ち込み、倒れ落ちた魔狼の首をフレデリックが剣で切り落とした。




「何故こんな所に魔物が…」


ルカが魔狼の死体を確認するのを横目で見ながら、フレデリックは剣に付いた血を払うと鞘に収めようとした。

けれどその瞬間、茂みから黒い影が飛び出してきた。


「後ろっ」

「まだいたか!」

新たな魔狼はリリー達のいる魔法陣へ飛び掛かってきた。



「イヤ———ッ!」


マリアの悲鳴と共に、魔法陣の中で激しい白い光が立ち上がった。




光は周囲に溢れ出し———弾け飛ぶように消えた。


「なっ…」

「魔狼が…?」

光の消えた後には、獣であったと思われる黒い塊があるだけだった。


「今の光は一体———」

フレデリックが振り返った先に、まだ光が残っていた。



「あ…」

白い光が、マリアの身体を包み込むように揺れていた。


「いや…そんな……」

信じられないというように、ゆるゆると頭を振る。



「今のは…マリアが?」

「…この白い光…力…まさか」

何かに気付いたように、ロイドは目を見開いた。


「ロイド?」

「聖魔法———」


「聖魔法?」

「〝聖女〟だけが使える、浄化の力だ———」




ああ、始まってしまう。


祈るようにリリーは天を見上げた。

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