洗礼
グロくならないように注意はしていますが、気になる方はバックお願いします。
さて、10人の冒険者達を襲撃して4人を殺害。2人を捕らえることに成功した。
彼等の断末魔と言うか、悲鳴に思う所が無い訳ではないがそれでどうこうしようとは思わない。
元々の資質だったのか、それともダンジョンマスターとして作り上げられた際の副産物なのかは分からないが、些細な事だ。
むしろ変に同情心など起こさなくて済む分、楽だと言えるだろう。
捕らえた2人は19階層にある個室に閉じ込めてある。鍵開けなんかの技能があれば簡単に抜けられるだろうが、20階層を守護する為の最後の防壁だ。
当然、最大限の戦力を揃えてある。
彼らに見付からない様に脱出する事はほぼ不可能と言って良いだろう。
まぁ、道具も何もないしな。
男女1名ずつだが、眠っている間に装備・衣服だけでなく下着に至るまで剥ぎ取らせてもらった。
役得、なんて事は無い。配下の魔物に命じて剥いただけだ。
元々、性欲等とは殆ど無縁だったがこの体になってからは特にそう言った欲望は希薄になった。
恐らくは、人としての子孫を残すと言う本能から解放されたおかげだろう。
「起きるまでどうするかな…………。」
◇
「扉だ。セルジル、罠の確認を頼む。」
「あいよ。」
「皆も何が起こるか分からん。今まで以上に十分警戒をしてくれ。これまで一本道だったからな。何かあると思って間違いないだろう。」
「オル。特に罠は見当たらねぇな。開けるかい?」
「いや、俺が開けよう。念の為にリリアを守ってくれ。」
「了解。」
「開けるぞ。」
後ろで仲間達が身構える音が聞こえる。
少しだけ扉を開き、抜刀したまま盾を構える。
構えた盾で扉を押し開ける様に前進していくと、扉が開き切るかどうかと言った辺りで風切り音が耳に届く。
「弓だ!」
声を上げながら、盾に身を隠す。弓を使う魔物が複数で扉へ向かい矢を放つ姿を想像し身構える。
だが、予想に反して最初の1発しか音は聞こえず拍子抜けしてしまう。
弓を構えていたのはゴブリン1匹で、しかも矢を番えるのに手間取っているのか、もたもたとしてしまっているのが分かる。
ようやく矢を番え終わったのか、こちらへ向けて放ってくるが、そんなものにやられるほどヤワじゃない。十分な体勢で盾を使い矢を弾く事に成功する。
よくよく観察してみると15m四方ほどの部屋にゴブリンアーチャーが1匹いるだけだった。
周囲を警戒しながらも、油断なくアーチャーから目を離さずに徐々に距離を詰めていく。
この程度の相手であれば、後衛の者でない限り早々後れを取る事もなさそうだ。
「セルジル。罠はどうだ?」
「見た感じ、見当たらないな。あれ、やっていいか?」
「あぁ、頼む。」
後ろのメンバーも部屋の内部へ進んで来たようだったので、万一の事も考えアーチャーの始末をセルジルに任せる。
「リリア、どう思う?何の意図があってあんな弱い魔物に守らせているんだろうか?」
「分からない。戦力が整っていないにしては、ジャイアントやキラーアントなんかの厄介な魔物は外に居た。何か意図があるんでしょうけど、判断するには情報が少なすぎる。」
「ぐぎゃ。」
セルジルの投擲用ナイフがアーチャーの喉元に刺さり絶命した様だ。
その場でアーチャーが崩れ落ちたのが分かった。
「当初の目標通り、この部屋を調査して帰還する事にしよう。セルジルは罠関係。リリアは魔法関係で調査を始めてくれ。」
「あいよ。」
「わかった」
「俺は前方の扉の警戒をする。後衛を部屋の中心にして、扉をカバーするようにしてくれ。」
後ろから皆が思い思いの返事を返してくる。
俺とセルジル、リリアの3人がアーチャーの方へ向かっていく。
セルジルがアーチャーの喉元に刺さったナイフを回収しているのを横目に、正面の扉へと注意を向ける。
アーチャーの体に光の粒子の様なものが纏わりつき徐々にその輪郭を薄れさせていく。
そう、死体などはダンジョンに吸収されて無くなってしまうのだ。その際にドロップアイテムとして、コアとなる魔石や使っていた武器・防具などが残る事がある。
ゴブリンの魔石なんて今更なぁ…………。
そんな事を思いながら、消え去って行くアーチャーの体を横目で見ていると、何か違和感を感じた。
違和感の正体を確かめようと、首をそちらへ向けた瞬間。
それに気付く。
「罠だ!」
ゴブリンと言う重石が無くなった床石がゆっくりと、まるでスイッチが元に戻る様に上昇していたのだ。そして、その床石から薄い紫色の霧が吹きだすのが見て取れる。
毒ガスか!
付近に居たリリアとセルジルが糸の切れた人形の様に倒れ込むのを見て、一瞬躊躇する。
キリキリキリキリ……。
そんな音と共に、四方の壁に隙間が生まれて夥しい数の矢が放たれる。
身を固め、矢の襲来に備えるがとても全てを防げる訳も無く、鎧に守られていない部分へと次々に矢が突き立ち焼ける様な激痛が走る。
「撤退だ!走れ!」
最後の力を振り絞り、叫んだ。
数人の足音が遠ざかるのを確認し、膝を突いた
「くそ……ったれ……。やっぱり……知能型のダンジョンマスター……は、厄介…だぜ…。」
薄れゆく意識の中で、第二射を知らせるキリキリと言う音が聞こえた気がした。
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