侵入者
俺達がここハイランド平原(もはや平原の欠片も無いが)へ居を構えてから10日。
南西の方角から10名ほどの侵入者があった。
地理的な話をすれば、菱形に中央から十字を入れた中心に俺のダンジョンは存在している。
ダンジョンから見て、
北東にブラント神教国。
北西にアルスロー王国。
南東にセエレ共和国。
南西にルドラス皇国。
ブラント神教国は、唯一神である何て言ったかな?あー、そうそうリュシリルとか言う神様からこの世界を預かり、教えを広める為に生まれた国と言う建前を持った国だ。人間族を至上としてそれ以外の種族は認めないと言う、何とも分かりやすい国である。
当然、そんな教義は嘘だ。と言うかそんな神様事体が存在していない。
別に宗教を否定するつもりは無いが、因縁を付けては他国に攻め入り神の名の元に侵略・虐殺を行う何とも血生臭い国だ。
そしてアルスロー王国。
大国なのは確かなのだが、一見特徴の無い平凡な国だとも言える。
人間族が多いのだが、その他の種族もそれなりの数で存在している。主に奴隷として。
ブラント神教国に睨まれないように、奴隷は人ではなく物だ、と位置付けている。
そして、何かあれば奴隷を処刑。もしくはブラントへ送り、のらりくらりと躱しているようだ。この周辺では一番の狸だと言えるかもしれない。
セエレ共和国。
この周辺では一番規模の小さい国だ。主に獣人族で構成されており、多種多様な種族が入り乱れている。人口としては4国で一番少なく不利とも言えるが、獣人特有の圧倒的な身体能力を持って他に対抗している。この国は王政ではなく、有力種族の代表によって合議制の様な事が行われており、一見すると民主主義の様に見えなくも無い。
だが、内部はほぼ一強の独裁政治に近い形だ。そして、その種族の代表こそが獣人至上主義の脳筋一直線バカ。多種族に対しては徹底して排他的なスタンスである。
ある意味ではブラント神教国に似ているのかもしれない。
そして、今回一番反応の速かったルドラス皇国。
まぁ、予想通りと言えば予想道りだった。多数の獣人や人間族、そして冒険者を抱えている。
その為、この4国の中では頭一つ飛びぬけており油断ならない相手だ。
国としては、実力さえあれば立身出世も可能で、この殺伐とした世界ではお似合いの国策を取っている。まぁ力の無い者はお察しってやつだがな。
軍ではなく冒険者を送り込んできたのも、良いやり方だろう。
もし仮にここが他国に占有されていたとしても、軍事行動と言う訳ではないので表立って対立する事も無い。そして、軍と違い自分達で全てを賄う必要のある冒険者と言う存在は、少人数にも拘らず極めて優秀で、戦闘・偵察・分析、そして不利と見るや迅速な撤退を行う。
それだけに、しっかりと情報を持って帰ってくれる事だろう。
「まぁ、最初だからな。1~2人は情報の為に捕らえて、他の人にはそれなりの物を持って帰ってもらおうか。」
「はい。シャドウデーモンにやらせますか?」
「いや、どんなスキルを持ってるか分からないからな。程々の戦闘で、あの部屋まで誘い込ませよう。」
「分かりました。」
◇
「ちょっと止まってくれ。ここから壁の様子が変わっている。」
「本当だ。境目でもある様に微妙に色が違うね。」
「少しここで休憩にしよう。警戒はしつつ交代で休んでくれ。さすがにこんな狭い場所にジャイアントやオーガなんかは入ってこないとは思うが、念の為だ。それからリリア、少し来てくれ。」
「どう思う?ただ地層が違うだけか?何だか妙な感じがするんだが。」
「うん。オルスマンの勘は正しいよ。見てて。」
護身用のショートソードで壁に傷を付けて行く。
「おいおい。何………を……。まさかダンジョンか!?」
「そう。ここから先がダンジョンだね。そしてダンジョンから出て来たキラーアント達が掘った道を私達は進んで来たって訳。」
「マジかよ……。こんな規模のダンジョンなんて初めて見たぜ。」
「どこからどこまでがダンジョンなのかは分からないけど、ここから先が本物のダンジョンなのは確か。」
そうやって話している間にもゆっくりとダンジョンの壁は修復されていく。一方の壁に付けられた傷はそのままだ。
「でもそうすると、おかしな点がある。」
「何がだ?新たにでかいダンジョンが生まれたってだけじゃないのか?」
「それについては否定しないけど、そうなるとダンジョンの外に宝箱を設置した存在がいる。途中で箱に入ったマジックアイテムの盾を見つけたでしょ?そしてその存在は誰かに命令されて運んでいると思って良い。」
「…………まさか。知能型のダンジョンマスターか!?」
「恐らく……。十中八九間違いないと思う。」
「どんな意図があってそんな事をしているかわからんが、かなりやばいのは確かだぞ。」
「うん。リッチなのかデーモンなのか、相手は分からないけど確かに知能を持って何らかの意思で動いている。」
「よし。とりあえずはこの報告を持ち帰るのが重要だな。最初の部屋、ないし敵を確認したら撤退しよう。みんなに伝えておいてくれ。」
「わかった。」
「……って訳だ。まずここを進み最初に出会う敵、もしくは部屋。その様子を確認したら、そのままUターンして撤退だ。いいか?」
知能型のダンジョンマスターと聞いて、全員の表情が厳しい物へと変わる。
「では、先程の隊列と同じ。ただリリアだけは前の方へ頼む。何か気付いたことがあれば教えてくれ。」
「わかった。」
◇
「さすが冒険者ってとこか。しっかりと持って帰ってもらいたい情報はキッチリ汲み取ってくれるな。」
「良かったのですか?」
「ん?あぁ、元々そのつもりだったしな。しっかりと俺に対して警戒してもらわないといけないからな。その上で有用な場所だと認識されればいいんだ。彼らはしっかりとやってくれたよ。」
「それにテストも出来たしな。ちょっと減らしすぎたかもしれないが、あれはシーフの責任だな。目に見えている罠に集中し過ぎだ。」
「彼らはどうしますか?」
「うん。計画通りに19階層まで運んで監禁しといてくれ。目が覚めたら色々と聞きに行こう。」
そう言って、ダンジョン部分から外周部へと出て行く4人の背中を見送った。
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