進物
少し短くなってしまいました。
◇
セエレ共和国内の山間部に近い場所。
ダンジョンが出現した場所からは、ほぼ真っすぐ南。険しい峡谷などに阻まれてはいるが、ルドラス皇国ともほど近い場所に存在するその集落では、未曾有の事件が起きていた。
とある国からの進物が原因だ。
名目上は、今後の関係性の強化と言う事だったが、言外に自国への移住を勧める物だった。
布や食料など、様々な物が運ばれてきたが取り立てて騒ぐ程の物では無かった。
使者の言では、金属精錬や加工の施設が完成したばかりだとかで、今後は質の良い金属が手に入ると言う事だった。
集落の者達は、それらの施設とやらにも興味はあったが、取り立てて食いつく程では無かった。
何より自分達の作り出す物に、過剰な程の自信を持っていたので、使者の言う事にも『人族が大言を吐きよる』程度の認識しかなかったのだ。
彼等の認識からすれば、わざわざ偏見や差別の存在する土地へ、好き好んで移住すると言う選択肢は、取りようのない物だった。
最後に使者が取り出した、木箱に詰められた物を見るまでは……。
セエレ共和国のシステム同様に、その集落も合議制にて運営されていた。
代表は5名。
まるで子供の様な身長に、一切の無駄無く鍛え上げられた肉体、そして突き出た腹。
伸ばした髭は、鳩尾の辺りまで届く勢いだ。
彼等はドワーフ。
土の種族と呼ばれ、金属加工を得意としており、何よりも酒を愛する者達。
その彼らの目前に、今まで見た事も無いコレを出せばどうなるか。
使者はギース将軍から事前に言い聞かされていた。
曰く、これは麻薬だと。
曰く、本当にドワーフが言われている様に、酒の好きな種族なら劇的な変化を起こす、と。
使者の手によって取り出された、美しく透明度の高いガラス瓶。
その中には琥珀色の液体。
まるで宝石の様な輝きを放つ。
使者は取り出した瓶を手にしたままで、周囲の反応の薄さに戸惑っていた。
もしや、ギース将軍の助言は的外れの物だったのか。
進物を取り出す順番を間違えたかと、軽く後悔しながらも、そっと伏せていた目線を上げる。
だが決してそうではない事に気が付く。
余りにも反応の無かったのは、全員が使者の取り出した手元、酒瓶へ注目していたからだ。
まるで時が止まったと錯覚してしまう程に、全員の注目が集まって居る事を確認して、使者は自分の役目が無事に果たせそうだと確信する。
使者が退出してからの混乱ぶりは言うまでもないだろう。
使者を送った集落全てのドワーフ達が移住を決めるのに、さほどの時間は必要なかった。
◇
「へぇ、ドワーフ達来てくれたんだな。それなら反射炉のある集落は、彼らに任せてしまっても良いんじゃないか?」
「はい。私もそう思いましたので、王女へ周囲との軋轢を避ける為という名目と、生産の利便性と言う事で提案し、承認を頂きました。」
「そうか。流石はブレオベリスだな。このまま頼むぞ。」
「はっ!このブレオベリス。必ずやあるじの御希望を叶えてご覧に入れましょう。」
そう言って頭を下げたのは、報告に現れたブレオベリスだ。
そして、その際にどうしても外せない者以外は、ダンジョンに一時帰還して会議に参加する様に伝える。日程の調節はブレオベリスに任せたが、自らの役目を全うした上で無理のない程度の範囲で、参加する事を言い聞かせておくことも忘れなかった。
俺が呼んで居るとなると、何を置いても駆けつける者が出かねないからな……。
それなりに計画が進んで来た今、俺が取り組んでいるのは調味料の開発だ。
現代日本にあったような物は、取り寄せる以外には当然ではあるが手に入る訳も無く、現地の食材で再現する事を研究していた。
だが、現地の食材に特に詳しい訳でも無く、俺が求めている物がこの世界の人々には適切な調理のされ方をしていなくて広く知られていない可能性や、もしかすると食材として認識されていない可能性すらあるのだ。
色々と事情を聞かせてもらったリリアにしても、ルドラス皇国でのみ冒険者活動をしていた為、他国の食事事情にまで詳しい訳では無かった。
元々奴隷であった子供達については、言わずもがなと言う奴だろう。
各国の食料事情などを知る為には、その土地を旅するのが良いのだろうが、苦労やトラブルに見舞われる事が分かり切っている事に躊躇する。
別に旅行好きと言う訳でも無いしな……。
この辺りも会議の議題として挙げる事にしよう。
ガウェイン?
昨日は子供達と一緒に、米の収穫作業をしていたのを見かけたよ……。
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