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ルドラス皇国皇都アウレーアの路地裏


「こんなトコに呼び出して一体何の用だ?店も開けてるんだ。手短にしてくれよ。」

「あぁ。すぐに済むさ。お前が正直に話してくれればな。」

シャキンッ。

そんな甲高い音と共に、薄明りの中でも相手が剣を鞘から抜いたのが見えた。


陽が沈んですぐとは言え、ここは皇都のスラム街だ。

周囲に人の気配はあっても、誰も出てくる気配も無ければ助けを呼んできてくれるような者もいない。むしろ、一体どうなるのか?と息を殺してじっと見つめているようだ。

その周囲は人の気配とは逆に、ひっそりと静まり返っている。

関わり合いになりたくない。

だが、自分に矛先が向いては堪らない。

スラムの住人が考えている事なんてこんなもんだろう。


「冗談はやめてくれよ。もう荒事や冒険者稼業からは足を洗ったんだ。今の俺は、ただの酒場の店主だぜ。話が聞きたきゃ店に来てくれ。」

「うるせぇ!お前が正直に話せばすぐにでも、帰らせてやるよ!」

「お前、酔ってるのか?」

「あぁ、酔ってるさ……。あいつらが死んで、パーティも解散しちまった。リリアも……帰ってこない……。これが飲まずに居られるか?あぁ!?」


若干ふらつきながらも、しっかりと両手で柄を握り、威嚇するようにゆっくりと剣先を左右に揺する。


「おいおい……。何するつもりだよ……。そんなモンどうしようってんだ……?何度も言ったじゃねぇか!あいつらが死んだのは俺の責任じゃねぇ!ダンジョン内の事はどうしうもなかったんだよ!」

「分かってるさ。分かっちゃいるが、認められるかどうかは別の問題なんだよ!」

「報酬の事を言ってんのか?情報を持ち帰るには死ぬ訳にはいかなかった!ただそれだけだ!受け取ったモンは全て皇国に提出した!これ以上俺にどうしろってんだ!」


「あいつらが……、あいつが死んだってのに、何でお前が生きて帰ってこれるんだ……?どう考えてもおかしいだろうが!…………お前、売っただろ…。仲間を……。ダンジョンマスターとやらに唆されて、仲間を売った報酬で何をもらった!金か!」


「話にならねぇ……。さっきも言った通り、情報の対価としてダンジョンでもらったマジックアイテムや金貨は、全てギルドを通して皇国に提出した。店を開けたのも皇国からの特別報酬としてもらった金でやってる!疚しい事なんてこれっぽっちもしちゃいねぇ!」

「じゃあ、何でお前は戻って来たのに、同じように捕まってたって言う、リリアは戻ってこねぇんだ!」


「それこそ分からねぇよ!リリアの考えてる事なんて俺に分かる訳がねぇだろ!あいつは自分の意志でダンジョンに残った!それだけが事実だ!」

「それを信じろって!?お前が逆の立場なら信じられるってのか?」

信じられる訳がない。自分でも確かにそう思う。


「信じられねぇかもしれねぇが、これが正真正銘真実だ。これ以上俺に言える事はねぇよ。」

「…………。」

「話がそれだけなら、もう行くぜ……。俺達は運が悪かったんだよ。ただそれだけだ。」

何も言わずに自分の考えに耽っているのか、威嚇するように揺らしていた剣も下してしまっている男の横をすり抜け、自分の店に戻ろうとする。


「……運が……、悪かっ……た?て…めぇ……。てめぇが売りやがったんだろうが!」

完全な油断だった。

先日まで盗賊でありながら、現役として活動していたにも拘らず、避けきれなかった。

剣先を下げた状態からの、横薙ぎをまともに食らう。幸いにも、後ろにバックステップする事で上半身と下半身に断ち割られる事は避けたが、この腹の傷だけでも十分に致命傷と言える。


立っていられずに、膝を突き前かがみになりながらも声を発する。

「ぐ、くぅ……。てめぇ………。マジか……。皇都内でこんな事して、無事に済むとでも思ってんのか……。い、今なら、な、何も無かった事にしてやる……。ポーションを…、よこ…せ。」

剣を振り切った体勢のまま硬直している相手に向かって声を掛ける。

まずい……。まずい……。まずい……。まずい……。

このままでは、そう時間もかからず死ぬ。

少しでもその時間を伸ばそうと、必死に傷口に手を当てて血が漏れないようにしていると、すぐ近くまで寄ってきているのが分かった。


「早く!ポーションを!おめぇは混乱してただけなんだ。話ならあとでゆっく……。」

ぞぶっ。

耳元からそんな音が聞こえた。

妙に大きく聞こえた。

横目で音のした方向を見ると、質の悪い鏡の様な物に自分の顔が映っている。


「みんなの、リリアの……仇だ。死ね。」

両手で逆手持ちにした剣を、突いた後に捻りを加える。


そうか……。鏡じゃなくて剣だったのか……。

ははっ…。そりゃそうか…。スラムに鏡なんて高級品……、ある訳ねぇよな……。


男が立ち去った後、冷たくなった者の影がゆっくりと動き始めると、周囲の建物のさらに濃い影と同化して消えた。



「以上です。」

「そうか。また何かあれば報告を頼む。」

死んだか。案外時間が掛かったな。

それに、皇国が手を出すと思ってたんだがなぁ。元仲間に殺られたかぁ。考えていた通りになったとは言え、少々可哀想な気もするな。


冥福を祈ります。えーっと……………。

名前なんだっけ?






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