神域
先程の灯篭の先端。
実際は、台座に据えられた球状の宝玉。
ダンジョンコアと呼ばれるコイツに触れた事で俺がダンジョンマスターとして、完成した訳だ。
目は未だに見えない。
身体・記憶を改変された段階で視覚は不要だと判断された様だ。
確かに、不要だと思う。
俺はダンジョンの一部であり、ダンジョンは俺の一部なのだ。
つまり、自由に動き回れる防犯カメラのような感じで視覚を得ることが出来る。
そしてなにより、自分自身で感じ取ることが出来ている。
ダンジョン内部の構造や設置物など、目で見る様に分かるのだ。
「こりゃ、便利なもんだ。」
意識しただけで、自由に視界を動かすことが出来る。
もちろん自分自身で見ているように固定すれば以前のように見る事も可能だ。
「っと。そんな事よりまずはこいつか。」
迷いなくダンジョンコアの前に立つ。
もう一度、今度はしっかりと両手で触れながら意識を集中させる。
しばらくそうして集中していると、ダンジョンコアの上方へ光の粒子が集まっていく。
徐々に粒子が輪郭を成していくと、フラッシュの様な強い光の後に、体長約30Cm程のオコジョの様な動物が光に包まれながら現れた。
「これからよろしくお願いします。マスター。」
「あぁ、よろしく。」
コイツはダンジョンコアの現身。
俺のサポートをする為の機能の一つだ。
「マスター。それでは早速ですが、機能を使用してダンジョンの拡張・防衛の魔物の配置などを行っていきましょう。」
「あぁ、分かっている。」
基本的に、俺個人の戦闘力と言う物はほとんど無いに等しい。
もちろん銃火器等を装備する事ができるのであれば、その銃火器の分だけ強くはなる事が出来る。
だが、この世界には魔法やスキルと呼ばれる技能もあれば、詳しく知る事は出来ないがレベルと言う概念も存在しているようだ。
所謂、オーソドックスなファンタジーの世界って事だな。
このアルエイルと言う世界には、様々な人種が存在しており
大きく分けて、人間族・獣人族・竜人族・魔族・天族と言った五大種族がこの世界を支配している。
そしてそれらに共通した敵として、魔物と呼ばれる存在が居る。
魔族も魔物と混同されがちだが、様々な姿をした魔法の得意な人類と言う認識だ。
まぁ、一部の宗教国家からは同一と見なされ、迫害や侵略を受けているらしいが……。
つまりは、ダンジョンと言う堅固な要塞を持ち、強力な魔物を使役してダンジョン内だけではなく、時には暴走を引き起こし、周辺国を飲み込んでしまう様な大規模な天災を撒き散らす。
生きとし生けるものの共通した敵。
それがダンジョンマスターである俺の役割だ。
特に、動物や魔物がダンジョンコアに触れてダンジョンマスターになった場合と違って、知識や意志を持ったままダンジョンマスターになった、俺の様な者は特に危険とされていて最優先の討伐対象だと言う事らしい。
辺境でひっそりと人知れず、なんて考えていない俺からすれば丁度良いけどな。
「ところで、ここはどこなんだ?」
「はい。どこだ、と言う質問に対してですが、地上のどこでもない。と言うのが答えとなります。」
「どう言う事だ?」
「はい。この場所はまだ地上とは繋がっておりません。神域と呼ばれる場所に存在しており、マスターが決定した場所へダンジョンごと転移する事になります。」
「ふぅん……、それは便利だな。つまり、しっかりと準備して移動する事が出来るって事か。」
「はい。ですが、ここで一か月を過ぎると自動的に地上へランダム転移する事になりますので御注意下さい。」
「準備期間は一か月って事だな。まぁ十分だろう。」
「それでは、準備を始めて参りましょう。」
「あぁ、そうだな。」
「まずは、タイプを選びましょう。洞窟・古城・塔など様々なタイプがございます。例えば、霧に覆われた森の中にある古城などと言った複合タイプも可能です。」
「塔だ。そして周囲には入り組んだ地形の渓谷か、洞窟なんかは可能か?」
「可能です。それでは塔の周囲を渓谷と洞窟タイプの複合で囲みます。どれ位の範囲にしましょうか?」
「最大だと、どれ位になるんだ?」
「はい。最大で半径10kmになります。」
少し考えた結果、最大限の大きさとした。
そして、塔の高さは20階層。
本来であれば、もう少し高く出来るのだが周囲にリソースを割いているのでこれが限界だという事だ。
その代わり塔自身の大きさは半径5kmの巨大な物とした。
入口は地表部分には無く、地下部分の洞窟の最深部から昇って行く事になる。
その為、塔としては20階層だが地下部分も含めると30階層程になる。
それに、功績によってはさらなる拡張や、トラップなどの具現化などに恩恵が受けられる様だ。
神様の望み通り、そして俺が思うがままに生きて行く準備をじっくりと考えながら進めていく。
俺に与えられた一か月と言う時間はあっという間に過ぎて行き、ダンジョンごと転移する当日となった。
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