誕生
ピチョン……。
ピチョン……。
水滴の落ちる音が聞こえる。
目は閉じたままだが、段々と聴覚以外の感覚が戻り始めるのを感じる。
眠りから徐々に覚めていくような感じだ。
さっきの地震は夢だったのだろうか……。
それにしては、えらく生々しい夢を見たもんだ。
だが、何にせよ夢で良かった……。
ピチョン……。
しかし、我ながら夢とは言え恥ずかしい事を叫んだもんだ。
まぁ、夢だからこそ。って所だろうか?
願望が出るって言うしな。
ピチョン……。
さっきから何の音だ?
水滴の音なのは分かるが、こんなに俺の部屋って音が響いたかな?
体を起こして音の正体を探ろうと思ったが、異常なダルさと筋肉痛の様な感じで身体が動かない。
ピチョン……。
「ぅ……あ……。」
まともに体が動かないだけじゃなく、声まで出ない。
どういう事だ?
自分が横になっている事は判るが、明らかにベッドではない。
ピチョン……。
目覚めている筈なのに、目が開かない。
シンと静まった空間に、水滴の音が一定間隔で響いてくる。
目も見えず、明らかに自分の部屋じゃない場所で寝かされているにも拘わらず、不思議と恐怖心と言った物は一切感じていない。
むしろ、安らぎの様な物すら感じている。
ピチョン……。
気になる事は沢山あるんだが、動く事が出来ない時点でどうしようもない。
諦めと共に、襲ってくる睡魔に身を任せてそのまま意識を手放した。
ピチョン……。
ピチョン……。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
睡眠を取る度に身体が楽になって行くのが分かるのだが、まだ目は開かない。
不思議と喉の渇きや、空腹を感じないのは幸いだった。
ピチョン……。
相変わらず水滴の音が響いている。
ピチョン……。
あれから何度目覚めただろう?
ゆっくりとだが、身体を動かせる様になってきた。
目は相変わらず開かないが、周囲を手探りしながら這って進んで行く。
俺が横たわっていた場所は、ゴツゴツとした石のような物で構成された地面だった。
コンクリートとは違って凸凹とした感触で石畳と言った方がしっくりくるものだ。
水滴の音が相変わらず聞こえているのだが、水気は感じない。
不思議に思いながら音の出所を探る。
暫く探っていると、指先に何か灯篭の土台の様な物が当たった。
どうやら水滴の音は、この灯篭のような物の上から聞こえてくるようだ。
立ち上がる事に、少し躊躇を覚えるがゆっくりと灯篭に触れながら立ち上がっていく。
先端部分に向かって徐々に細くなっていく。
恐らくここが先端部分だろう、と予想してゆっくりと手を差し出していく。
指先で水音を発する何かに触れたと思った瞬間。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
知識の洪水とも言える物が俺の中に流れ込んでくる。
このまま俺の頭に詰め込まれていく物でパンクし、破裂してしまうのではないかと思える地獄の様な時間が過ぎる。
その地獄の様な時間は唐突に終わる事になる。
そして俺は理解した。
ここがどこなのか。何故ここに居るのか。
俺の身に一体何が起きたのか。
「やっぱり、死んでいたのか……。」
思ったより衝撃は無かった。
薄々気付いていた事でもあったし、何よりあの火災はとても夢には思えなかったしな。
しかし、
「ダンジョンマスターか……。」
ゲームなどとは無縁の俺でも、昨今のラノベやネット小説ブームは知っている。
その中で色々な形で出て来る単語だ。
まぁ殆どは敵としてだが。
「第二の人生?が人類の敵ってのも面白いかな。」
流れ込んで来た知識によると、もはや俺は人間ではなく外見だけは似ているが、魔物と言う人類の敵と呼ばれる者達の一種らしい。
とは言え、それは人類側の理屈でありこちらの言い分としては、そもそもこの世界で神様と呼ばれる者が世界を発展・循環させる為に呼び寄せたのが俺だと言う事だ。
俺の他にもダンジョンマスターは存在しているようだが、明確な意思を持って呼び寄せた人間型のダンジョンマスターは俺が初めてらしい。
なぜ、俺か?
仮にも人類の敵として呼ぶ訳なので、普通の精神構造じゃ耐えられないだろうとの配慮から俺が選ばれた様だ。
発展・循環と言われたが、別にそれだって律儀に守る必要も無いし、この世界を滅ぼすような存在になったとしても問題は無いらしい。
たった一つの異物で滅んでしまう世界など、神様にとっては失敗作も同然。
それならば、さっさと滅んでくれた方が管理も楽だと。
それだけの話なのだ。
神様からすれば、発展する機会が幾つもあったにも関わらず停滞し、同族同士(神様の生み出した者同士)で侵略戦争や、果てには奴隷制度などを生み出したこの世界は、もはや保護するに値しないのだ。
それらを壊す為の起爆剤・劇薬として俺が選ばれたらしい。
大層な買い被りだが、好きなようにやるだけで良い。
との事なので、それこそ好きなように気楽にやらせてもらう事にする。
「ダンジョンマスターになると、名前は要らないのか……。そりゃそうか。誰に呼ばれる事も無いしな。」
俺の知識はそのままだが、名前等の個人としての情報は綺麗さっぱり消えて無くなっている。
そして、その事に何の痛痒も感じていないと言う事も、人としての生を捨てたと言えるのだろう。
こうして最低なダンジョンマスターが誕生した訳だ。
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