軍勢
風邪でダウンしていまして、遅くなりました。
申し訳ありません。
「貴様らは我があるじの怒りに触れた。大人しくその命差し出すが良い。」
ブラッディデーモンと言われる種類の悪魔。血液の塊の様な魔物がブレオベリスの言葉を伝える。
本来は血溜まりに擬態して、襲い掛かってくる不定形の魔物なのだが、今はブレオベリスの姿を真似ている。
場所はブラント神教国の首都ルドウィックから、一日程の場所にあるストローツと言う町だ。
地理的に、首都の喉元に当たる場所で軍・物流の面から見てもかなり重要な場所だ。
ブレオベリスは自分達のダンジョンの功績を、ひいては俺の力を自分達の功績の様に騙り、政治に利用したブラント神教国と言う国に対して、かなり怒っている。
いや、そんな物では生温いか?激怒、憤怒、と言っても良いだろう。
その為に、こうやってわざわざ城門の前に立ち宣戦布告をしているのだ。
ブラッディデーモンと使っているのは、一般の者がただのリッチとリッチキングであるブレオベリスとの区別が付くのか?と言う疑問からだ。
リッチは十分に危険な強敵とは言え、正体の分かっている者より分からない者の方が恐怖を煽るだろう、と言う判断からだ。
それに、ここまでの道中で一切隠れる事はしていない。
見せる為の軍として、小規模ではあるが五人のデーモンロードが呼び出したレッサーデーモンの群れを400。
そして、本人が呼び出したデュラハンとスレイプニルの組み合わせを50。
合計で450の集団を、ストローツ・首都ルドウィックへ向けて粛々と進軍させたのだ。
昼夜を問わず、一定の速度で隊列を乱さずに進んでくる悪魔の軍。
能力のない聖職者からすれば、なまじ相手を知っていたりするだけに恐怖は倍増する事だろう。
そして、ストローツに到着して城門から多数の人間が見ている目の前で、全ての者達を影の中に伏せさせた。
見ている人からすると悪魔の軍が急に掻き消えた様に見える事だろう。
そして、冒頭の宣戦布告である。
その後に起きた恐慌は推して知るべし、と言った所だろうか。
まぁ、だからと言って許すつもりは無いようだが……。
そして俺も止めるつもりは無い。
耳の早い商人達は、まだ太陽のある内に逃げ出そうと、我先にストローツからルドウィックへ向けて出発をするようだった。
しかし、それを許すようなブレオベリスではない。
どの様な集団だろうと、一人だけを残して他は全て命を奪われた。
さらに、その死体をゾンビに変え新たな戦力として活用までするおまけつきだ。
残した一人には、首都への伝言としての役割を持たせた。
それは、ただ一言。
「我があるじは貴様らの死を所望だ。」
段々と夜の闇が深くなって行く。
昼間にあんな事があったのだ。城壁に立てられる篝火の数が、異常なほど焚かれ煌々と辺りを照らしている。
篝火の数だけ恐怖に怯えているのだろう。
ブレオベリスは少しだけ溜飲を下げたが、だからと言って許すつもりは無い。
もはや、許す許さないなどと言う次元の話ではないのだ。
ゆっくりとした歩調で歩みを進める。実際には宙を浮く様にして進んでいるのだが。
◇
「篝火を絶やすな!光の強い場所では奴らは十分に力を発揮できぬ!」
守備隊長はそう言いながらも、自分自身が何よりもその言葉を信じていなかった。
なぜなら、奴らは昼間の太陽の光が降り注ぐ中、堂々と現れたからだ。
だが、それを言ってもどうしようもない。徒に不安を煽る必要はない。
「た、隊長!」
今年入隊したばかりの新人隊員が、ノックも無しに隊長室へ転がり込んでくる。
普段であればノックをしろ、と注意をする所だが、この様子からすると何かが起きたのだろう。
「どうした?」
「ひ、昼間の、あいつです。で、出ました!」
やはり、と言う思いが頭をかすめる。
あの口ぶりからすると、決して突発的な魔物の発生などではなく、明らかな怒りを含んでいた事が窺われた。決して諦めはしないだろうと言う事も。
「あの数は厄介だな。」
そう。唯でさえ厄介なデーモンがあれだけの数だ。レッサーデーモンとは言え熟練の騎士ですら一対一で勝てるとはとても言えない程だ。それがあれだけの数と言う事は、間違いなくそれらを使役する存在が居ると言う事だ。
そんな苦い思いを抱いていると、
「そ、それが。い、一体です。骸骨の様な姿の魔物が、一体だけでゆっくりと近付いてきています!」
「まずは案内しろ。」
「はい。」
実際に自分の目で確かめるまでは、と気を引き締めて現場へ向かう。
自分の目で確認してみても、やはり一体だけだった。
残りが何処へ行ったのか。気にはなるが今は目の前の敵だ。
「敵は魔物一体だけだ!姿からアンデッドだと思われる!騎士隊の浄化の魔法が完成するまでの時間を稼ぐぞ!」
「おぉう!」
支援の為に待機してくれていた神官達が、皆の武器に神聖属性を付与してくれる。
普段は常にこちらを見下し、鼻持ちならない相手だがアンデッドを相手にするならば、さすがに専門家だと言える。警備隊の武器にエンチャントを掛けた後に、数名がかりで唱える不死祓いの、魔法準備に入る。
「構え!撃て!」
エンチャントの掛かった矢が、青白い光の尾を伸ばしながらアンデッドへと殺到する。
一本一本は淡い微かな輝きなのだが、さすがにこの数で放つと恐ろしいまでの強い光となった。
「撃ち方やめ!撃ち方やめ!!」
歩みが止まったのを見て、倒すまでにはいかないが、動きを止める事は十分に可能だと判断する。
良く見てみると、自分の体に突き立った無数の矢を眺めているように見える。
「…………。」
何かを言っているのか、なにやら呟きが聞こえる。
「素晴らしい。何と大いなる力か……。あるじよ。感謝致します。」
そんな声が聞こえると同時に、軽く手を振るうと刺さっていた筈の矢が抜け落ち、乾いた音を立てる。
「準備出来たぞ。」
神官長の声に頷きを以って返す。
六名の神官が力を合わせて行う奇跡。不死祓いの光が魔物に向かって一直線に伸びて行く。
避ける動作すらないままに、光に包まれそのまま消えていくと思われた時、魔物が動き始めた。
まるで、何も感じていないかのような動きでゆっくりと進んでくる。
「う、撃て!撃て!何としても止めろ!」
城壁から放たれる雨の様な矢と神官達が放つ神聖魔法。
それらを無視して、骸骨の魔物は両手を掲げ魔法を完成させる。
「闇咬」
足元の影が大きくなったと感じた時には、腹部を咬み千切られていた。
自身の影によって。
そしてそのまま警備隊長は永遠に意識を手放した。
読んで下さりありがとうございます。
誤字・脱字や感想など頂けると励みになります。
皆さんも風邪などには十分お気を付け下さい。




