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第一話

 ぼっちではなかった二か月前の高校入学式、軽く聞き耳を立てれば潤也の話が聞こえてくるくらい学校中は彼の噂話で満載だった。もちろんその内容というのは、


 「ねぇねぇ、あの人、めちゃくちゃイケメンじゃない!?」


 だとか、


 「いいなー、俺もあんな顔に産まれたかったなー」


 とかいう僻みであったりした。

 潤也は身長180cm、髪の毛は茶髪のショートカットで目鼻立ちがハッキリしているイケメンフェイスだ。妬まれるのも仕方ない。

 入学式が終わり、最初のホームルームが終わった後も勿論、彼は人気者だった。

 入学初日にしてはやくも潤也に狙いを定めた女子たちが、蟻の大群のように押し寄せてくる。


 「潤也君って彼女とかいるの!?」

 

 「いや、彼女はいないけど…」


 潤也のそのたった一言で女子たちが「キャー!」と悲鳴をあげて更にヒートアップ。


 「ねえ、潤也君どこ住んでるの!?」

 「これからカラオケ行かない!?」

 「モデルとかやってたりするの!?」


 一度に何個も質問をされても聞き分けられないに決まっている。そんなことお構いなしに聞いてくるくらい、女子たちは盛り上がっていた。

 ただ、潤也には一刻も早く帰らなければいけない用事があった。


 「ごめん、俺、他の女の子待たせてるからはやく帰らないといけないんだ。だから、その質問はまた明日。」


 そう女子たちに告げると彼は席を立ちあがり、教室の出口を駆け抜けて校舎を後にした。教室を出る時の「待ってー!!」という女子たちの声を聞かなかったことにして。


 待たせている女の子というのは潤也の家で待っている。


 彼の新しい高校は自分の家から電車で11駅。30分電車に揺られれば着くが、学校では割と遠い方である。自分の家から最寄りの駅まで徒歩10分、学校最寄りの駅から学校までも徒歩10分。合計1時間あれば家に帰ることが出来る。


 なんとか13時前には帰宅することができた潤也は一目散にリビングに駆け込み、テレビを点けた。そしてレコーダーのスイッチもオン。すぐさま録画した番組の中で一番新しいものに決定ボタンを押す。

 潤也は息を切らしながら、


 「待たせてごめんよぉ…」


 テレビ画面には昨日第一話の放送が始まった「まじかるみるく☆」という萌えアニメが映っていた。

 そう、お気づきの人もいたかもしれないが彼の「待たせていた女の子」というのはアニメの美少女キャラである。本当は昨日見る予定だったが、昨日は姉がテレビを占拠していたため見ることが出来なかった。夜がダメなら早起きしてみようと思っても夜型オタクにそれは酷な話だ。結局起きた頃には学校に向かわなければいけない時間で、「ごめんな。でも、すぐ戻ってくるから待っててくれよ」と捨て台詞を残して家を出てきたのだ。


 この日はまだ、潤也は学校でぼっちではなかった。むしろ、ぼっちとは最もかけ離れた存在だっただろう。入学式で人気者だった彼は翌日、一気に不人気者になってしまったのだ。


 入学式の次の日の学校は始業式で3時間授業だった。

 最初の1時間で長い校長の話が終わり、生徒たちは各自教室へ。

 休み時間には前日に引き続き、潤也は女子たちの猛攻撃を受けることになった。


 「昨日の待たせてた女の子ってどんな関係なの!?」

 「やっぱり彼女いるの!?」

 

 彼は頭を掻きながら答えた。


 「いや、彼女とかそういうのではなくて…」


 それを聞いた女子軍からは「よかったー」と安堵の声。

 と、同時に授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 潤也の周りにいた女子たちも席に戻り、担任が教室に入ってきた。


 「それでは、提出物を回収します。後ろから回してきてください。」


 担任が指示をすると生徒たちはカバンからクリアファイルを取り出し、そこから学校に提出するプリントを引き抜いて前に回していく。

 しかし、一見普通に見える一連の行為に固まっている女子たちがいた。

 何故かというと、それは潤也の取り出したクリアファイルに原因がある。


 ―――彼のクリアファイルは美少女アニメキャラのクリアファイルだったからだ。


 潤也に目がけてドン引きの視線が向けられる。そして、クラスの中は入学式の時のように潤也の話で満載だ。今日のものは前日と違う種類のものであるが。


 「はい、静かにしてー」


 担任の鶴の一声で教室は静まり返るが、生徒たちはいまだ困惑していた。委員会だとかの決め事が終わり、二時間目の終わりのチャイムが鳴った後に女子たちは再度潤也の席に集まった。

 心なしか、一時間前に集まった女子より数が減っていた。


 「潤也君… そのクリアファイルどうしたの…?」


 女子軍の中の一人が意を決して彼に問いかけた。クラス中が彼の返答に聞き耳を立てている。

 

 「これ? ちゅきちゅききゃんでぃーっていうアニメのミナだけど? 俺の一番好きなキャラなんだ」


 彼は少し口元を緩ませながら答えた。好きなキャラの話をすると少しニヤけてしまうのがオタクという生き物である。

 ただ、二ヤついているのは彼だけだ。目の前の女子はさらに軽蔑の眼差しを強め、


 「いや、なんで潤也君がそんなの使ってるの?」


 と更に問いかける。”そんなの”という言葉は潤也には聞き捨てならなかった。


 「そんなの…って、どういうことだよ! ミナを馬鹿にするな! そういうこと言うから三次元の女は嫌いなんだよ!」


 推しキャラを馬鹿にされたあまり、声を荒げてしまった。クラス中の生徒たちは完全にドン引きしているが前にいる女子も声を荒げ、


 「別に、馬鹿にしたわけじゃないし! ていうか、三次元の女が嫌いってどういうこと!? 昨日待たせてる女の子がいるって言ってたじゃん!」


 「それは家で録画してた、まじかるみるく☆というアニメの女の子たちのことを言ってたんだ! 別に嘘はついていない!」


 この発言で前の女子も戦意喪失。「あ、うん、なんか、ごめんね」と言って潤也の前から去っていった。

 この事件以降、潤也はヤバイ奴認定され話しかけられることはなくなってしまったのだ。

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