Mission1-1 裏切り者を発見せよ
「……で、晴輝から見て、誰が怪しいわけ?」
「うん。普通に、一般的に考えたら、神楽坂麗亜が怪しいと思うはずだよね。でも……。もし本当にそうなら、あんなに分かりやすいことはしないはずだ」
「同感」
此処は、晴輝の部屋である。何故二人が、自分専用の部屋があるのに此処に集まっているのかは、前の会話を見れば分かるだろう。
二人は、この館にいる生徒の内、誰かが向こう側だと考えている。その為、常に全員の行動を監視しているのだ。
「この館を大体は見て回った。けれど、監視カメラの様な、僕達の行動を妨げるモノは見当たらなかった。また、各階の北の端と南の端に、隠し扉…開かずの扉、と言った方が正しいかな。それもあった。僕達が今持っている、それぞれの部屋の鍵とは別に鍵があるのかは分からないけど、いずれ開けられるか……開けなくてはならないような気がするんだ」
晴輝はそこまで一気に話すと、深く息をついた。
すると、千景が晴輝の言葉を継いで話し始める。
「多分、先輩達は私達の動きを警戒する。さっきのこともあるしね。でも、迷わないように館を見て回っているとでも言っておけば、大抵の先輩達は騙せる。ただ……私でも騙せない先輩は、神﨑汐里、神楽坂麗亜、宇佐美隼人、まだ中心に立ってはいないけど、3年C組の松原慧斗の四人。宇佐美先輩と汐里先輩は、普段は優しい先輩を演じているけど、あれは本心じゃない」
まあ……、と言って晴輝は続ける。
「本心じゃないのは、僕達もだろう?」
「……それ言ったらお終いなんだけど」
晴輝に言い返してから、千景は溜め息をついた。自分の鞄からあるモノを取り出し、そっとポケットに滑り込ませる。
「出来れば使わないことを願うよ」
晴輝の言葉に、千景は頷く。
「そろそろ行こう。何か言われるのも嫌だし」
「うん」
二人は椅子から立ち上がり、ドアの方へと歩みを進める。
「────兎に角、アタシは認めない!何で仲間割れしようとするの?皆で残る方法を考えれば良いじゃない!」
西園寺明梨の声だ。相手の声はよく聞き取れないが、男の声であることは確かである。
晴輝の部屋と明梨の部屋は離れているので、部屋で言い争っているということでは無いだろう。
「アタシは、全員で生き残る道を探すから。アンタは勝手にしてよ!その代わり、アタシ達の邪魔はしないで!」
そう明梨が吐き捨てたのと、彼女の悲鳴が聞こえたのはほぼ同時だった。
千景と晴輝は部屋を飛び出し、廊下を見渡す。
しかし、明梨の姿は見えない。代わりに部屋の前に落ちていたのは、血痕で汚れた小さなカード。
†其方が私を捜していることは重々承知†
†私もそれを考慮した上で、この作戦を実行に移す†
†其方が何を望むか私は興味が無いが、其方の考えは興味深い†
†阻止できるのなら阻止してみよ†
†西園寺明梨と同じ目に遭うことになる†
この匿名のカードは、たった今置かれた物だろう。
でなければ誰かしらがカードに気付き、それこそ大騒ぎになることは間違いない。
「取り敢えず、西園寺先輩を捜そう。物陰に隠れているかも知れないから。もし見付けても、一人で入っていかないでよ、千景。危ないから」
「はいはい」
二人は同時に部屋を出ると、まるで示し合わせたかのように二手に分かれて駆け出した。
しかし二人は、否、二人の観察力を持ってしても、物陰から此方の様子を窺う視線に気付くことは出来なかった。
◇◇◇
「作戦成功……ってとこか?」
男の声。その手にはキラリと光る一本のナイフが握られている。
「君の悲鳴は本当に素敵だったよ……。どれほどまで私を困らせれば気が済むんだい?明梨────」
そしてそのナイフは真っ赤な血で染まり、男の着ている黒いローブには、うっすらと血痕が見える。
「さあ……。次に美しい音を奏でてくれるのは、誰かな───?」
男は妖しげな笑みを浮かべると、黒ローブを脱ぎ捨てて部屋を出て行った。
その服は確かに、花の木学園指定の制服だった。
それは静かに、千景と晴輝の考えが正しい事を物語っていた……。




