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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第7章 世界崩壊編
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第91話 聖都消滅

 シンロードの街はシンシンと降り積る雪で覆われていた。

 後、半月もすれば新たな年を迎える為、街の中はにわかに活気づいていた。

 いや、例年より活気に満ちているように見える。

 2ヶ月くらい前まではアイリッシュの急逝で、街全体がやや沈んだ空気だった事を考えれば、良い傾向と言えるだろう。


「なんかこの時期は忙しない感じがするけど、賑やかで良いよな~。けどちょっとやり過ぎな気が……いつもより派手じゃないか?」


 街を散策していたショウマがポツリと呟く。

 街の至る所で“ライト”が輝いている。

 特に最近では7色の光を放つ“レインボーライト”が開発されて安価に出回った為、商店や家屋の軒先などにはそれを利用したイルミネーションで彩られている。

 それが余計に賑やかな印象を与えていた。


「あ、ショウマは初めてだっけ。今年は聖教祭と重なったから、尚更賑やかなのよ」


 隣で一緒に肩を並べて歩くシアニーが疑問に答えてくれる。


「聖教祭?」

「うん。名前から分かる通り、元々はサイヴァラスのお祭りなんだけど……」


 サイヴァラス聖教国の聖都中央には聖樹と呼ばれる巨大な樹木がそびえ立っている。

 その聖樹には数年に一度だけ果実が実る時期がある。

 そして果実が実った日から1年間は様々な良い事が起きるという言い伝えがあるのだ。

 実際に、今から7年程前に果実が実った時は、悪夢獣の活動が鈍り、大陸全土で豊作になったという。

 それ故に果実が実った事を祝福し、幸福を願う為、果実が実った時期にお祭りを行う事となったのだ。

 今年はそれが年末と重なった為、例年以上の賑わいを見せているということだった。


「ま、人間、楽しい方が良いし、幸せな方が良いもんな」


 そう言いながらショウマはシアニーに笑顔を向ける。

 不意打ち的なその笑顔に彼女の胸の鼓動が跳ね上がる。

 相思相愛である事を確かめ、キスをも交わした間柄だが、未だにこの恋心に馴染めないし、慣れない。

 ショウマのちょっとした仕草、ちょっとした言動で顔が赤くなり、ドキドキしてしまう。


「あ、そそそそうだ!すっかり聞くのを忘れてたんだけど」


 シアニーは話題を振って、恥ずかしさを紛らわせようとする。


「なんであの時あんたは来てくれたの?犯罪者になるかもしれない。もしかしたら殺されるかもしれない。それなのになんで?」

「シェラに言われたんだよ。自分の気持ちに素直になれって。確かに1度は諦めかけたけど、アレスの奴が悪い奴だって聞いたら、そんな奴にシアは任せられないって思ったんだ。いや、これはただの建前だな。俺は他の奴にシアを渡したくなかっただけなんだよ」


 恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無く真顔で答えるショウマの言葉にシアニーの方が恥ずかしくなる。

 振る話題を間違えてしまった。

 シアニーはさっき以上に真っ赤になり、心臓は飛び出してしまうのではないかと思うくらいに跳ね上がっている。

 そんな矢先に、ショウマがシアニーの肩を抱いて少しだけ自分の側に寄せる。

 その横を魔動馬車が通り過ぎていく。


「はぅっ……あ、そそその…ありがと………」


 魔動馬車の存在には気が付いていたし、騎士である彼女が正面から向かってくる魔動馬車如きに轢かれる事などありえない。

 だが彼のそんなさりげない優しさは、彼女の事を1人の女性として扱ってくれている証拠であり、嬉しい気持ちになる。

 そしてそれをさらりとやってしまう彼に対し、恋心とは別種の何とも言えない複雑な感情が湧き上がる。


「うぅ~、やっぱりズルイ気がする~」

「は?ズルイ?」

「だって、ショウマって昔の記憶が戻ってから、なんか落ち着いているっていうか大人っぽくなってるっていうか、その、なんというか……」


 要は自分だけがドキドキしっぱなしな気がして、不平等に感じているのだ。


「って、そう言われてもなぁ~」


 肉体年齢的には同世代かもしれないが、ショウマには元の世界でシンとして生きて来た時間がある。

 単純に考えて、精神年齢的にはシアニーの倍以上の人生を送っているのだ。

 その上、結婚して、もうすぐ中学に上がる息子までいる。

 大人っぽいのも当然であり、こればかりはどうしようもない。

 確かに以前のように互いに引かないで口喧嘩に発展するのも楽しいと言えば楽しいのだが、それよりも今はこういう対応に、シアニーが照れたり拗ねたりしている姿を見ている方が幸せに感じるのだ。


「まぁ、すぐに慣れるさ」


 ショウマはそう言うとそのまま肩を抱いたまま歩き出す。


「うぅ~、やっぱり調子狂うなぁ……」


 そう言いつつもシアニーも肩に置かれた手を払い除けたりしない。

 なんだかんだ言ってはいるが、彼女も満更ではないのだ。


「あ、そうだ。年末は時間空いているよね?」

「ん?ああ。緊急の呼び出しが無ければね」


 形式上、シンロード魔動学園に通う騎士候補生ではあるが、今のショウマは“騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイツ”シルフィリットや“剣聖”ソディアスよりも遥かに強い力を持っている。

 その上、彼の扱う転移魔動陣は無機物だけでは無く有機物、つまり人間そのものを転移させる事が可能だった。

 流石に魔動力の量的な問題で最大で2人までしか転移させる事が出来ないが、大陸中、どこにでも転移が可能だ。

 それ故に突発的に悪夢獣が出現したりすると、アーガスがショウマに退治を依頼して来るのだ。

 魔動輝石に魔動力が溜まっていないと使えないし、その発動の為にキスをしなければならないという事で、今の所は近場の出動で済んでいるが、今後はどうなるか分からない。

 王命という事で学園を休む事になったり、休日や夜中でも呼び出されるので、学生との二足のわらじは意外と大変だった。

 こんなことなら素直に褒美として、シルフィリットのように正騎士にして貰えば良かったと思う事もあるが、なったらなったで、今度は今のようにシアニーとゆっくりとデートを楽しむ事も出来なくなるので、どちらの選択が正しかったかは分からない。

 ただコロコロと変わる彼女の表情を見て、幸せを感じる事が出来るので、今の選択に後悔はしていない。


「年末に何かあるのか?」

「えっと、その…ほら、お兄様の入院とか理事長の葬儀とか、色々と立て込んでて、結局、ちゃんと紹介してないじゃない……だから、その……うん、そう。お母様が一緒に食事をしたいって言ってるの!お兄様も年末は一時退院出来るっていうから……それで…その………」

「ああ、そうだな。分かったよ。ちゃんと挨拶に行くよ。印象が悪くなっても困るしね」

「そんな事無い!ショウマは私とアメイト家を救ってくれた恩人だもん!というかその逆で、お母様なんてこのまま会わない日が続いたら、ショウマの事を神格化して崇め始めそうな勢いなんだから!!」

「あはははっ、そんじゃ祀り上げられる前に早く会っとかないとな」


 そんな他愛無く、けれど幸せな会話を続けながら、2人は雑踏の中に紛れていく。

 だが彼らはまだ気が付いていない。

 既に世界が崩壊の序曲を奏で始めているという事を。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 サイヴァラス聖教国聖都。

 聖樹と呼ばれる100mは越えようかという巨大な樹木が山頂中央にそびえ立つ人口1000人にも満たない都市である。

 国土も聖樹を中心に半径20km程しか無いサイヴァラス神を崇める国家である。

 ここだけを見れば、小さな宗教国家と思えるだろう。

 だがこの世界唯一の宗教であるサイヴァラス聖教の影響力は全世界に広がっている。

 各都市には必ず1つ以上教会や礼拝堂が存在し、小さな村や町にまである為、その存在を知らない者は殆どいない程有名である。

 その総本山は聖都というだけあってその景観は美しく、荘厳。

 聖樹へと至る長い登り階段は観光名所としても有名だ。

 この聖都には神に仕える神官とその世話役係しか住んでいないが、1日に何千、何万という巡礼者や観光者が訪れている。

 王都フォーガンとは別の意味で活気があり、王都に次ぐ賑やかな都市と言えるだろう。

 そんな聖都の聖樹の根元にある大聖堂で、この国一番の地位と権力を持つ教皇は、神に祈りを捧げていた。

 しかしその途中で祈りは妨げられる。


「きょきょきょ教皇様~!!たたたた大変です!!」


 大聖堂に駆けこんで来たのは、次期教皇候補の1人である大神官だ。


「何事ですか?神への祈りを妨げる事は神を冒涜するのと同義。それを分からない、あなたでは無いでしょう」

「それは重々承知しております。ででですが、その神への祈りが通じたのです!それをお教えしない方が冒涜になると思いましたので……」

「どういう意味ですか?」

「神の御使い様が降臨されたのです!我らが頭上、聖樹の真上に!!」

「そうですか。遂に神は我らの祈りを聞き届けて下さったのですね」


 教皇は歓喜の表情を浮かべ、頭上に向けて祈りを捧げる。

 聖樹の根元にあるここからではその姿を拝む事は出来ない。

 だから願う。

 だから祈る。

 全ての不幸をこの世から消し去って欲しいと。

 この世界の全てに幸福をもたらして欲しいと。

 だがそんな願いが届く訳がない。

 そこにいるのは神の御使いなどでは無いのだから。

 確かに聖樹の上空に浮かび、陽光を照り返して白銀に輝く鎧を身に纏い、その背から伸びた8つ翅の姿は神の御使いと錯覚してもおかしくない。

 だがそこにいるのはかつて救世の騎士が生み出した史上最強の魔動機兵“ルシフィロード”。

 そしてそれに乗るのは神でもなんでもない、自身の望みを叶える為だけに世界に混乱の種を撒いた、ただの銀色の髪の女とそれに従う日本人形のような黒髪の少女。


「さぁ、やってしまいなさい」

「はい、お姉様!」


 女の命令に少女は嬉しそうに頷く。

 それと同時に黒髪の少女の全身から黒金色の魔動力が立ち昇る。

 その黒金の魔動力はルシフィロードの全身を覆い、その白銀に輝く鎧甲を変色させてゆく。

 それは名前の由来となった天使ルシフェルが堕天した姿に似ていた。

 黒金に染まったルシフィロードが右手を頭上に掲げ、掌の上に漆黒の球体を生み出す。

 弧を描くように頭上で右手を回転させると、漆黒の球体は徐々に潰れ、平らになり、どんどんとその直径を広げていく。

 聖都の空を埋め尽くすかのような巨大な黒い円が出来た頃、ルシフィロードは無造作に右手を振り下ろす。

 手の動きに合わせ、黒円が下降を開始。

 黒円は聖樹に触れた部分から、まるで生気を奪うかのように枯れさせて腐らせていく。


「ああ、神よ。これが我々に下した決断なのですね……」


 漆黒が全てを枯渇させ、腐食する。

 それは聖樹だけに限らず、その根元にある大聖堂、そしてその中にいる教皇と大神官にも等しく与えられた。

 聖樹を中心とした聖都の約半分が闇によって完全に消失。

 いや、たった1ヶ所だけ残っているものがあった。

 大聖堂があった場所より遥か下。

 聖樹の根の更に下にそれはあった。


「ようやく見つけたわ。私の本当の身体……」


 格子状の光の柵で囲われた立方体。

 まるで光で出来た牢獄のようなその中に、見目麗しい銀髪の女性が眠っていた。

 その姿を目にした瞬間、ルシフィロードに乗っていた銀髪の女は意識を失い倒れ、同時に光の牢獄の中の女性が目を開ける。

 彼女の目覚めに呼応して光の牢獄は霧散。

 銀色の髪と一糸纏わぬ真っ白な肌を陽光が照らし、輝く。

 その姿は幻想的であり、神秘的であり、魅惑的。

 その美貌もその肢体も人とは思えない程に美しく妖艶で、彼女こそが美の神であると言われても疑う者はいないだろう。


「あれがお姉様の本当の姿」


 黒髪の少女は銀髪の女の姿に見蕩れながら、ルシフィロードの両の掌を皿のようにして、壊れものを乗せるかのように女を乗せる。


「さぁ、次の目的地に向かうわよ」

「はい、お姉様!」


 ルシフィロードが背中の翅を広げ、ゆっくりと上昇。

 瞬く間に空の彼方へと消え去っていく。

 後には希望の象徴であり、神の象徴でもあった聖樹を失い、都市の中央にまるで火山の火口のようにぽっかりと大穴が穿たれた聖都の姿のみが残る。

 難を逃れた人々の間には恐怖が蔓延し、中にはこの世界はもう終わりだと悲観する者まで現れる。

 そう。まさしく世界は滅びに向かって歩み始めていたのだった。

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