幕間 最西端の地で
「とうとう見つけたわ」
女は歓喜に満ちた妖艶な笑みを浮かべる。
しかし、その笑みは誰の目にも止まらない。
なぜなら今の彼女の姿は、まるで宇宙服のような、顔の前面部分のみが遮光ガラスとなった頭から足の先までの全身を覆う防護服に身を包んでいるからだ。
隣に同じような防護服を着た少女が立っているが、真横である為、女の表情を窺い知る事は出来ない。
「これがお姉様が探していたものなのですか?」
人間の活動可能域である西方最前線より更に西。
禁忌の地と呼ばれる場所の最西端。
生物を奇形化させてしまう瘴気とそこで生まれたものしか耐える事の出来ない毒が空気中に蔓延する場所。
彼女達はそこに居た。
彼女達が身に纏っている防護服は瘴気から身を守り、毒を中和する。
だからこそ、この場に立っていられるのだ。
目の前にはまるで隕石が落ちたか爆発でも起きたかのように抉り取られ陥没した草木一本すら生えていない巨大なクレーターが存在していた。
「ここは遥か600年程前に魔動王国という国が栄え、一夜にして消滅した場所。そして今から80年程前に救世の騎士が最後の悪夢と共に果てた場所」
女はおもむろに足を踏み出し、そのクレーターをゆっくりと下っていく。
「あ、待って下さい。お姉様~!」
ちょこちょこと小走りで女を追う少女。
そしてその背後には、まるで錆びているかのように赤黒い鎧に覆われた、鉤爪を持った二本角の巨鬼が、膝をついて沈黙している。
その巨鬼は王都のテロのどさくさに紛れて奪わせた魔動機兵“ディアブローガ”。
そしてそれを操るは、女の使う魅了の力で操り人形と化したランズラット傭兵団の副団長のガレルエア。
ここに至るまでに数多くの正騎士を葬り、そしてそれ以上に多くの悪夢獣を葬ってきた、正しく鬼神だ。
その鎧甲が錆のように赤黒くなっているのは多くの返り血を浴びてきたからだ。
もしこの手駒が無ければ、たった2年ちょっとでここまで辿り着く事は不可能だっただろう。
だがそんな鬼神も今や全く動く気配がない。
胸元に穿たれた大穴は、このクレーターの中心部でまるで何かを守る様に居座っていた悪夢獣と相討ちとなった時の傷だ。
恐らく中の操縦者は完全に即死しているだろう。
だが2人はそんな事は気にしない。
彼女達にとっては彼は使い捨ての駒の1つでしか無いのだから。
「ところでお姉様?こんな所に一体何があるというのですか?」
「さっきも言ったでしょ?ここは救世の騎士が果てた場所だと」
そう言われても少女にはピンとこない。
異世界からの転移者である彼女だが、一応、黄金の救世騎士の伝承は知っている。
しかしあの伝承には救世の騎士が悪夢と共に泡となって消えたという事しか伝えられていない。
内容的には悪夢を倒して命を落としたという事くらいは分かるが、どこで死んだのかは、それだけでは判別しようが無い。
けれど彼女がお姉様と慕う美しくも妖艶な目の前を歩く女性は、何故ここがその死に場所だと知っているのだろうか。
そしてこの場所に何があるというのか。
「救世の騎士というのは、異世界人で、黄金の魔動力を操り、白銀にして黄金の騎士を操縦する人物の事。確かに彼はこの世界から居なくなったわ。死んだのか、元の世界に戻ったのか。それは分からないけれど、この世界から居なくなったのは確実。なら白銀にして黄金の騎士…つまり彼が乗っていた魔動機兵はどうなったと思う?」
「え?え?それって、もしかして……」
話をしながら女はクレーターの窪みの中央部でその歩みを止める。
そして地面に向けて視線を落とし、再び、いつもの妖艶な笑みを浮かべる。
「さぁ、目覚めの時よ。絶望を塗り潰し、希望をも飛び越えた最強の魔動機兵“ルシフィロード”よ!!」
女の宣言と共に空気が震え、大地が鳴動する。
そしてクレーターの中央の大地を割り砕き、彼女達の前に白銀にして黄金の騎士は姿を現したのだった。




