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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第6章 真紅乃花嫁編
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第88話 光満ちて

 アレスは苛立っていた。

 万全を期してこの婚前式を迎えたはずだった。

 邪魔者であるシルフィリットの足止めに成功し、式がつつがなく進めば間に合う事も無かった。

 だがたった1人の乱入者のせいで、時間稼ぎをさせられ、シルフィリットの到着を許してしまった。

 だがまだそこまでは許容内。

 例え計画を暴かれても死の突撃行進デス・パレードの力があれば、全てを葬り去る事が出来たからだ。

 案の定、向こうは操られているだけで罪の無い騎士達を殺す事も出来ず、防戦一方で追い詰められつつあった。

 乱入者とシアニーの2人が白銀の魔動機兵の元に向かうのを見逃してしまったが、あちらには騎士団の中でも指折りの精鋭を警備に回している。

 邪法の武器も与えているので辿り着く事など不可能だろう。

 全てはアレスの想定の内側で動いていた――筈だった。

 しかし現実は“造聖”の予想外の登場とシルフィリットの捨て身の攻撃で操っていた騎士団員(駒)の殆どが居なくなってしまった。

 死の突撃行進デス・パレードの効果を1度発動させてしまうと12時間は再使用が出来ない。

 つまりこれ以上他の者を操る事が出来ないという事だ。


(こんな事であれば、騎士団では無く、他の奴らを操って人質とすれば良かったか……)


 だがそれで上手く行ったかも怪しい。

 その場合、騎士団から離反者が出ていた可能性もある。

 それに今更、そんな事を考えても意味が無い。

 今はこの状況でどれだけ優位に事を進めるかだ。

 そう思い直し、邪法の武器を与えていた残りの4人を悪夢獣化させて、状況を有利にしようと試みる。

 だが精鋭騎士を倒したのか白銀の魔動機兵が現れてしまい、たった1機と1人によって4体の悪夢獣が抑え込まれてしまった。

 状況は有利になるどころか、逆に芳しく無い。

 ゆっくりしていては全員に逃げられてしまうだろう。

 そうなれば増援を呼ばれ、邪法を使用した犯罪者として処罰されるのは明白。

 最悪でも王族で発言力のある自身の母親である王妃とメアニー、そして全てを知っているであろうシルフィリットだけでも殺しておかなければ、言い訳も立たないし、スケープゴートも役に立たない。


(くっ。こうなれば已むを得んか……)


 そうこうしている内にゴリラ型の悪夢獣が白銀の魔動機兵によって、頭を砕かれて倒れ伏す。


「おい、キザーヲ。貴様も戦いに加われ。私はあれを使う準備を始める」

「は。承知致しました」


 自分の護衛としてキザーヲを残しておいたが、もう形振り構っている訳にもいかない。

 キザーヲが転移魔動陣を発動させて、シェイティアを呼び出す。

 それを横目に見ながら、アレスもまた転移魔動陣を発動させる。

 彼が呼び出したのは、王国騎士団に与えられたシェイティアでは無い。

 それよりも更に洗練されたフォルムの薄緑の機体。

 本来ならば国王の了解が得られなければ、持ち出す事も使用する事も出来ない、この世界最高の技術の粋を集め、救世の騎士が乗っていた黄金騎士を再現させようとして生まれた世界最強の魔動機兵。

 その名は王国機“フェアリュート”。

 2年前のテロ事件。

 確かにあのテロは邪魔な存在を暗殺する為に彼が裏から画策していたものだ。

 だが目的は暗殺だけでは無かった。

 フォルテギガンティスという強大で凶悪な敵を出現させる事で、フェアリュートを出さざるを得ない状況へと追い込む。

 そしてその操縦者には当然、当時の王国騎士団長だったアレスが選ばれる事は必然。

 こうして彼は計画通りにフェアリュートへ乗り込み、そしてその際に、整備担当の魔動技師に見つからないように、自身の血で転移魔動陣を刻み込んでおいたのだ。

 それこそがもう1つの目的。


『私に服従しない愚か者共は全て、このフェアリュートで葬り去ってくれよう!!』


 フェアリュートの操縦席でアレスは高らかにそう宣言する。




「そ、そんな……なんでフェアリュートが………」


 シルブレイドのサブシートに座るシアニーは、姿を現したフェアリュートを愕然とした表情で見詰める。

 あの機体の出力は既存のどの魔動機兵よりも高い。

 恐らくはフルパワーでオーバーブーストを使用したシルブレイドすら凌駕しているだろう。

 更に特筆するべきはその内在魔動力。

 機体の各所に小型魔動力炉が設置されていて、何十倍、いや何百倍にも魔動力を増幅させる事が出来る。

 そのおかげで適正属性を持たない者であっても高威力を発揮し、適正属性であれば、一撃で消滅させる事が出来る程の威力を発揮させる事が出来る。

 この教会のある周辺は、2年前にフェアリュートのたった一撃で完全に更地となったのだ。

 もしまたそんな一撃を放たれたら、誰も生き残れないだろう。


「ショウマ!」

「ああ、分かってる!けど……」


 2機の魔動機兵が追加された。

 シェイティアはともかくフェアリュートは、かつてその強さを目の当たりにしているだけに、非常に脅威だ。

 流石のフィランデルでも、棘顔悪夢獣1体を足止めするだけで手一杯。

 こちらも動きが遅かった事もあり、ゴリラ型を頭を砕いて絶命させる事は出来たが、痺れの治った狼と半人半馬はスピードが速く、ちょっとでも気を抜くと横を通り過ぎて、避難中のシルフィリット達の元へ向かおうとするので、その都度、移動を遮るように割り込まなくてはいけなく、思うように戦えない。

 今現在、他に魔動機兵を呼び出す事が出来る者はおらず、悪夢獣や魔動機兵とまともに戦える者はいない。


「こいつは、ちとヤバイかな……」


 オーバーブーストを使用すれば、なんとかなるだろうとは思うが、もし発動時間内にフェアリュートを行動不能に出来なければ、敗北は濃厚。この場の全員が死ぬ事になる。

 大勢の人の命が関わってくる以上、一か八かの賭けに出るのは難しい。

 だがこのままの状態が続いても勝つ事は厳しい。


「そうだ!剣はどうしたのよ!ブレイドソーを使えば、あんなの簡単に倒せるでしょ!?」


 ここまでの戦いでシルブレイドは蹴りや拳による格闘戦しかしていない。

 打撃ではダメージを与えて弱らせる事は出来ても決定打にはならない。

 爪撃も同様で小さなダメージは与えているが、止めを刺すには至らない。

 必殺の威力を誇る膝のパイルバンカーは既に打ち尽くしている。


「…………ねぇよ……」

「えっ?」

「持ってねぇよ!」

「はぁ?!なんで!?」

「あんな重いもん持ってたら、ここまで跳べなかったから置いて来たんだよ!!」


 人間用と同様に機兵用のブレイドソーは重い。

 その重量は作業用魔動機兵かレリアのウィンディグラス並み。

 そんなものを抱えていては外壁から教会まで跳ぶ事など不可能だった為、ブレイドソーは外壁の上に突き刺して置いて来たのだ。


「まさか悪夢獣の団体様と戦う事になるなんて思わなかったんだから!」


 外れとはいえここは王都の中だ。

 まさかこんな所でここまでするとは予想すらしていなかったのだ。


「ちぃっ!」


 横蹴りで通り過ぎようとした狼の足を止め、蹴りの反動を利用して反対側を抜けようとしたケンタウロスの顔面に右拳を叩き付ける。


「正面!!」


 シアニーの注意に即座に反応し、着地と同時にキザーヲのシェイティアが突き放った槍の穂先を上半身を逸らせてやり過ごす。

 地面に手を付けてバク転の要領で下がりながら体勢を立て直す。

 その間にもフェアリュートは空に舞い上がり、胸の中央には真っ赤な魔動力の炎が集まり始めている。

 いくらフェアリュートでも強力な一撃を放つには若干の溜めを必要とする。

 だからといってそんなに猶予がある訳ではない。


『くそっ、間に合えっ!!』


 脳震盪でも起こしているのか、フラフラとよろめいているケンタウロスの足を掴み上げ、ハンマー投げのように身体全体を回転させ、更には上半身も1回転させながら、ケンタウロスを上空のフェアリュート目掛けて投げ放つ。


『フン、無駄な事を』


 勢い良く飛んでくるケンタウロスに向けてフェアリュートが胸の前に集めた炎を解き放つ。

 太陽の如く眩い光がケンタウロスと接触し、光の中に包み込む。


『全員、伏せろぉぉぉっっっ!!!!』


 危険を感じたショウマが叫んだ瞬間、世界は光に包まれた。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 まるで太陽がもう1つ生まれたような輝きが収まる。


「全く。大した威力じゃのう。こやつが楯代わりにならんだ、儂も危ない所じゃったわい」


 フィランデルの目の前には黒焦げになった巨体が横たわっている。

 棘頭の悪夢獣がフェアリュートの攻撃を防いでくれたおかげで彼は難を逃れたのだ。

 広範囲への攻撃であった為、獄浄の炎ヘルズブレイズよりは威力が弱かったようだ。

 もしそうでなければフィランデルもただでは済まなかっただろう。


「おかげで悪夢獣化した奴らは一掃出来たようじゃが、形勢は完全に向こうに傾いてしまったようじゃな」


 シルブレイドとの戦いで弱っていた狼型の悪夢獣も目の前の巨人と同様に黒焦げになり、ケンタウロス型に至っては直撃を受けたこともあって上半身である人の部分が完全に消滅していた。

 そしてシルブレイドはというと、胸の前で腕を十字に組み、片膝を着いた状態でなんとか原形を留めていた。

 だが高熱に晒された鎧甲はドロドロに溶けており、よくあの一撃を耐えたといった所だ。

 だが一目でこれ以上の戦闘が行えるとは思えない状態だ。

 いくら人間離れしたフィランデルが無傷といっても、向こうにはキザーヲの操るシェイティアとアレスの操るフェアリュートが居る。

 シェイティアだけなら、倒せずとも全員が避難する時間くらいは稼げるだろうが、フェアリュートに関してはどうしようも出来ない。

 絶望的な状況だ。

 そしてフィランデルがそう思っているのと同様、いや、それ以上にシルブレイドの中に居るショウマは絶望感を味わっていた。


「くそっ、動け!動けよ!!」


 いくらレバーを動かしても、どんなにフットペダルを踏み込んでも愛機はピクリとも反応してくれない。

 ただ無音を返すばかり。


「くそっ!くそっ!!俺はまた………」


 モニターも壊れ、外の状況は分からない。

 咄嗟にシルフィリット達との射線に割って入ったが、彼らがどうなったのかは不明だ。

 シルブレイドをたったの一撃で戦闘不能にした威力から考えて、多大な被害が出ている可能性は高い。

 しかしそれを確かめる術は操縦席を出るしかないのだが、どんな惨状になっているのかを見に行く勇気が出て来なかった。

 だからつい悪い方に考えてしまう。

 最悪の事態を考えてしまう。

 守れなかった最愛の家族の事を思い出してしまう。


「きっと大丈夫だよ」


 絶望の淵から落ちかけようとした所で、ふわりとショウマの頭は優しく包み込まれる。


「あ……」

「ショウマが身を呈して守ったんだよ?だからきっと大丈夫」


 サブシートから降りてきたシアニーがショウマの頭を胸に抱き締める。


「大丈夫。きっと大丈夫。大丈夫、大丈夫だから……」


 彼女は大丈夫と繰り返しながら更に強く抱き締める。

 ふくよかな胸に挟まれながらもショウマはシアニーが震えている事に気付く。

 当然の話だ。

 あそこには彼女の母親も居たのだ。

 大丈夫じゃ無ければ、彼女はまた1人、家族を失う事になる。


「ああ、シアの言う通りだ。きっと大丈夫さ。いや、絶対に大丈夫さ」


 根拠は無い。

 だが彼女の言葉に勇気づけられたように、彼もまた彼女の事を勇気づけたかった。

 そんな折に外側からアレスの声が響く。


『どうやら少々、手加減し過ぎたようだ。だがもうこいつは動けない。もう守るものはいない!次で完全に消し去ってやろう!!』


 外の状況が分からなかった2人にとって、その言葉は希望。

 その言葉はまだ全員が生きているという証。


(俺のやった事は無駄じゃ無かった。まだ皆生きている。なら俺がやる事は…出来る事は……)


 ショウマがここに来たのは何の為か。

 最後に学園で会ったあの日。

 彼女の去り際の告白を聞き、モヤモヤとしていた自分の気持ちをはっきりさせる為にここまで来た筈だ。

 これ以上、彼女を悲しませない為に、苦しませない為に、ショウマはここに来た筈だ。


「シア。俺はお前が好きだ。愛している。だからお前が愛するものを俺は守る。お前を悲しませるものは全て俺がぶち壊してやる!!」

「ショウ…マ……」


 ショウマからの愛の告白に、こんな状況にも関わらずシアニーの瞳から嬉し涙が零れ落ちてゆく。


「奇跡が起きるのなんて待っていられるか!俺自身が奇跡を起こしてやる!!」

 

 ショウマがレバーとフットペダルに更に力を込めると、僅かに反応が返ってくる。


「そうだ。シルブレイド!お前だってまだ死んじゃいない筈だ!!俺の想いに応えて見せろぉぉっっ!!」


 機体が軋みを上げる。

 動力炉はまだ生きているのだ。

 だったらまだやれる事はある筈だ。

 全てを守ろうと必死になるショウマをすぐ側で見詰めていたシアニーはふと思い出す。

 もしもの時に役に立つと言われ、シルフィリットから託された物。


「ショウマ!あの宝石を!シルフィリットさんから預かったルビーハートを出して!!」

「そうか!もしもの時はって言ってたよな。けど使い方が……」

「大丈夫。使い方は私が聞いたからっ!」


 その話を聞いた時には、恥ずかし過ぎて、絶対に出来ないと思っていた。

 心ではしたいと思っても、絶対に天の邪鬼な自分が邪魔をすると思っていた。

 確かに今でも恥ずかしい。

 けれど先程の告白のおかげで、もうシアニーには恐れるものは無くなった。

 偽る必要が無くなったとも言えるだろう。


「ショウマ……少しだけ目を瞑って……」

「え、ああ。良いけど、それが何だっていうんだよ」

「いいからっ!絶対に目を開けちゃ駄目なんだからね!」

「はいはい、分かっ――んんっ!!」


 言われた通り目を瞑った瞬間に口が塞がれる。

 とても甘く、とても柔らかい感触に、塞がれたのが手では無いと理解し、慌てて、その瞳を開ける。

 魔の前にあるものが何なのかショウマが理解するより前に、彼が持っていたルビーハートから赤い光が飛び出し、全てを染め上げた。

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