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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第1章 魔動学園春嵐編
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第9話 誇りと責任とナース服

 ショウマが目を覚ますとそこは見知らぬ白い天井だった。

 すぐにそこが病院だと気付いたのは、独特の消毒液の匂いを鼻が感じたから。

 身動ぎしようとすると全身から悲鳴と共に激痛が走る。仕方無く首だけをなんとか動かして自分の状態を確認する。

 腕も足も肩も腰も、そして自分では見えないが顔や頭も、まるでミイラのように全身を包帯が包んでいる姿を見て、ようやく意識を失う前の出来事を思い出す。

 今年の新本科生の中でもトップクラスの実力を持つシアニーとの決闘形式の編入試験。

 その勝負が決まった直後にショウマは意識を失った。いや彼自身は勝負の結果が判明する前に気を失った為、どちらが勝ったかは知らない。

 しかし今の自身の怪我の状態を見れば、どういう結果になったかは分かっている。

 無数の刃による切傷と刺し傷に全身の凍傷。そして左肩はその両方によって穿たれている。

 痛みはあるが、それは左肩がちゃんと動くという証拠。感覚が無かったりしたら、最悪、左腕不随とかもありえた程の傷だった。

 もしそれ程のダメージだったなら、防護魔動陣が働いていただろうが、そんな事は彼自身知りようも無い。

 だがこれ程の怪我を負えば、今の状態になっているのは納得出来た。

 とりあえず痛みはあるが五体満足だという事を確認したので、次は周囲を見回す。

 天井も壁も清潔な病院らしく白一色で染められた個室であった。首から上しか動かせないので床までは見えないが、恐らくは同じように白いのだろう。

 彼が寝ているベットとその脇にある小さなテーブルしか無い、質素というより簡素な部屋。

 その部屋のドアが開かれ、二輪の花がそこから現れる。

 一輪は花瓶に生けられた赤い花。


「あら?ようやく目が覚めたようね」


 もう一輪はその花瓶を持った1人の少女。

 その陽の光のように艶やかに輝く金色の髪と整った美貌を忘れるはずもない。


「…シアニー……さん……??」

「シアで良いわよ。親しい人からはそう呼ばれてるから。それに戦いの最中にシアニーって呼び捨てにしてたじゃない」


 部屋に入って来たのは綺麗な金髪を両耳の後ろ辺りで結ったツインテールの美少女であるシアニーだった。


「え、ああ、うん。えぇ~っと、その…もしかしてシアが看病してくれてた…とか?」


 シンロード魔動学園の本科生なのだから病院に勤めている訳がないと思いつつも、ついついそう尋ねてしまう。


「な、ば、そそそそんな訳無いじゃない!!なななんで私があんたなんかの………確かにこんな怪我をさせちゃったのは私だから、ちょっとは責任を感じては……べべ別に責任を感じたからって、わざわざあんたなんかのために看病なんてしないわよ!!」


 物凄く動揺して、更には顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げるシアニーだが、今の彼女の格好を見たら創勘違いしてもおかしくない。

 だからショウマは彼女の着ている服について敢えて尋ねてみる。


「いや、うん…でも……それじゃあ、なんでそんな格好を?」


 つい今し方、彼女が看病してくれていたと勘違いしそうになった服装。

 それはナース服だった。

 しかも清潔と清廉を信条とする病院の看護師ならば絶対に着るはずの無いピンク色で、下はスリット入りのミニスカート。太股までを覆う白いタイツとミニスカートの間には10cm程の隙間があり、肌色の絶対領域が垣間見えている。

 頭にはちょこんと同色のナースキャップまで乗っている凝りようだ。

 服がやや小さめなのか胸元は窮屈そうに膨らみ、ミニスカートの裾は片手で押さえられている。

 シアニーが少し動くだけでスカートの中が見えそうになっているのは、ベットの位置が少し低いせいもあるだろうか。


「べべべ別にあんたの為にこんな格好したんじゃないわよ!!エルアさんがお見舞いに行くなら…あ、別にお見舞いに来た訳じゃなくてただ様子を見に来ただけで……ででででも行くなら、これが正装だって言われて無理矢理に…………好きでこんな服を着ている訳じゃないんだから、勘違いしないでよね!!」


 シアニーは怒りと羞恥で顔を真っ赤にさせながら、ショウマに向けて怒鳴り散らす。

 いくらショウマが異世界人でこの世界の常識に疎いとはいえ、見舞いに正装があるなんてことは聞いた事が無い。

 恐らくはエルアにからかわれているのだと思うのだが、彼女はこれが正装だと思い込んでいるようなので、敢えて指摘しない。

 決して目の保養になってるからとかいう理由では無い…きっと多分。


「分かったから怒鳴らないでくれ。傷に響くんだから……」

「う……ご、ごめん………」


 流石に傷を負わせた負い目を感じているのだろう。ようやく怒鳴るのを止めて静かになる。

 ミニスカナースという扇情的な格好で急にしおらしくなられ、ショウマはドキリとさせられる。

 面倒な性格ではあるが、見た目だけなら抜群のプロポーションの美少女なのだ。

 このままでは変な気が起きてしまいそうだったので、ナース服をなるべく視界に入れないようにシアニーの顔へと視線の焦点をあてる。

 その表情も今まで知っている勝ち気で自身に溢れた表情では無く、羞恥で顔を真っ赤に染め、しゅんと項垂れて伏し目がちの表情だった為に、落ち着こうとしていた心臓の鼓動が更に高鳴ってしまったが、そこはなんとか自制して雑念を振り払う。

 そしてナース服の事から話題を逸らす為に、別の話題を振る。


「あ、あのさ?俺ってどれくらい寝てたんだ?あ、そうだ!決着ってどうなったんだ?と言っても、まぁ、予想はつくんだけどね……」


 いきなりの出来事のせいで忘れそうになったが、彼はシンロード魔動学園の編入試験として彼女と戦ったのだ。

 エルアによって戦いの終わりを告げられた事は覚えているが、それ以降の記憶は意識を失ってしまった為、覚えていない。

 結果は予想もしているし覚悟も出来ている。

 対戦した相手が目の前にいるのだから、直接聞くのが手っ取り早いと思ったのだ。


「あれからまだ半日しか経ってないわ………そ、それと…………」


 シアニーはそう言った後、口篭る。

 暫くの無言の後、まるで絶対に生きては帰れない戦地に赴く覚悟を決めたような決意の籠った表情をする。

 そして手を震えさせながら、ゆっくりとナース服の上着のボタンを1つずつ外していく。


「のわぁっ!き、急に何をして…のぐぉあっ」


 シアニーの思い掛けない行動にショウマは慌てて止めようと身体を起こそうとしたが、全身を襲う激痛に苛まれ、痛みに呻く事しか出来ない。

 その間にも上着は徐々に肌蹴ていく。

 痛みを堪えてなんとか顔だけを背けてからショウマは焦りの声を上げる。


「ちょっちょっといきなり何してんだよ!!」

「何って決まってるじゃない!私はあんたに負けたのよ!だから約束通り、そその…すす素っ裸で土下座するのっ!!何か文句ある!!」


 思春期の男としては文句は無い。

 女性の裸、それも彼女の様な美少女の裸を見てみたいという欲求が無いといえば嘘になる。

 だが今はそれよりも彼女が言った言葉が信じられなかった。


「俺が…勝った…だって?!」


 自分は気を失い、病院に運ばれる程の大怪我。対する彼女は傷一つ付いていない。


「そうよ!最後の一撃で私の攻撃は致命打にならなかった。けどあんたの攻撃は防護魔動陣が発動したのよ!!だだだから約束は守らなきゃいけないのよっ!!!」


 シアニーはそう言うと再び上着に手を掛ける。

 確かにそういう約束はした。あの時は売り言葉に買い言葉で土下座をする事は承諾した気がする。

 しかし全裸でするという事は彼女が勝手に言った事だ。

 騎士としては自分からした訳ではない口約束を実行させて良いのかという疑問が付き纏う。

 強さに裏付けされた高いプライド。

 その強さで敗北を喫した彼女は遺された自身のプライドの為に、たかが口約束を守ろうとしている。

 それが例えどんな屈辱的な事であっても。

 約束を違えないという事は騎士として立派かもしれないが、今のシアニーはただ意地を張っているだけにしか見えない。

 決断するまでの僅かな沈黙。

 ボタンに伸ばした震える手。

 悔恨と苦渋と決意の篭った表情。

 強がるように荒げる声。

 それら全てが彼女の性格をはっきりと表していた。

 よく言えば素直で正義感が強くて意志が強い。

 だがそれは単純に、嘘や誤魔化す事が苦手で自分が言った事を曲げる事が出来ない、ただの頑固者でしかない。

 そして無駄に高いプライドのせいで、自分を追い詰め、勝手に窮地に陥る。

 まだ出会ってからそれ程時間は経っていないが、ショウマはこれまでのやりとりでシアニーの性格をおおよそ理解していた。


「くそっ、馬鹿野郎だよ!お前は!!」


 背後から聞こえていた衣擦れの音がピタリと止む。


「俺にこんな大怪我させておいて、たかが土下座で済ませようってのか?!ふざけんなよ!!」

「ふ、ふざけてなんかいないわよ!!私にだってこの程度で責任が取れるなんて思ってない!でも今の私にはこれくらいしか思い付かないのよ!!」

「だからって俺が望んでも居ない事をやられたって、それは俺に対する責任なんかじゃない!ただの自己満足だ!!」

「それじゃ何をすればいいっていうのよ!!教えなさいよ!!どどどどんなくく屈辱的な事でも、そ、そのエエエッチな事だろうと耐えてみせるわっ!!!」


 ショウマは言質を取れた事に僅かに頬を緩ませる。

 本当なら彼の方から言うつもりだったのだが、彼女から言い出してくれたおかげで一手間省けてしまった。

 まぁ、彼女の性格上、売り言葉に買い言葉でこうなるだろうという事は分かっていた。


(しかし本当に自分から窮地に足を突っ込む性格だよなぁ。その台詞は絶対に騙されて身も心もボロボロにされるパターンだってのに……)


 本人がやる気みたいなのでエッチな事を試してみたいという気持ちが芽生えるが、それを口に出してしまったら騎士道というか人道に反するので、なんとかそれは妄想だけに留めておく。

 ショウマがやりたいのは、彼女にさせたいのは、そういった類のものではないのだから。


「それじゃあ、1度しか言わないから聞き逃すなよ」


 騒がしかった病室は一気に静かになり、シアニーがゴクリと喉を鳴らし、何を言われるのか戦々恐々としながらショウマの後頭部を見つめる。


「俺のこの街で初めての友人になってくれ。そして同時に力を高め合う良いライバルになって欲しい」

「えっ?い…今、なんて?」


 毒気が抜けたような呆けた表情でシアニーは思わず聞き返す。


「1回しか言わないって言っただろ!」

「え?だって…だけど………」


 彼女としてはもっととんでもない事を言われると思っていたし、覚悟もしていた。最悪「俺の性奴隷になれ」とでも言われるかもとも思っていたくらいだ。

 だが言われた言葉は全く予想すらしていない言葉だった。


「ね、ねぇ…なんで?なんでなのよ!!」


 シアニーは変な事を言われなくて安堵すると共に納得出来ないといった表情でショウマに詰め寄る。

 これでは全然責任を取ったという気がしない。寧ろ情けをかけて貰っているとしか思えなかった。


「なんでって……その………」

「ちゃんとこっち向いて私の目を見て喋ってよ!!」

「あがっ、いてぇだろが!……って……」


 首を強引に向けさせられたショウマの視界の目の前にシアニーの顔が迫る。その真剣で困惑した表情にショウマの胸が高鳴っていく。

 頬が赤くなっていくのを自覚しながら、それを隠すかのようにおどけた口調で理由を言う。


「ほら、男なら当然だろ?こんな可愛い女の子と知り合いになれるんだったらさ」

「かかかか可愛い?!へ?なな何、いきなり変な事をいいいい言ってんの!だだだ誰が…そそそんな……からかわないでよねっ!!!そんなこと言われて、わわ私が喜ぶなんて大間違いなんだからねっ!!」


 臆面も無く言われてシアニーは激しく動揺する。


「皆、そう思ってるんじゃないか?俺も初めてあの路地裏で会った時、そう思ったもん。綺麗で可愛い人だなって」


 シアニーの目を真っ直ぐ見て素直に答える。

 意固地な性格である彼女にはこうした素直で真っ直ぐな言葉は効果的だった。その証拠に顔どころか耳の先まで真っ赤にし、目は泳ぎまくっている。


「ああ、強いて言うならもう少しお淑やかで清楚な方が俺的には好みだったんだがな~。だから“恋人”じゃなくて“友人”になってくれって言ったんだ」

「わ、悪かったわね!!べべ別にあんたなんかに好かれるつもりも無いから、恋人になんかならないし、私の性格にとやかく言われる筋合いも無いわよ!!けけけど……その……そんなに友達になりたいって言うんなら、わ私はべ別に構わないけど…ね……」


 相変わらず素直じゃない面倒臭い性格だが、どうやら受け入れてくれたようだ。

 ショウマが今言ったのは理由の1つ。

 本当の理由は全く勝った気がしないので、無茶な要求はしたくなかったからだ。プライドの高いシアニーが自身の負けを認めている為、口には絶対に出せないが。


「って訳で宜しく。俺の事は呼び捨てで構わないぜ。握手は……っと…あはははっ、こんな状態じゃ出来ないから怪我が治ったら改めてって事で」

「う、うん、こちらこそ…その宜しくね、ショウマ」


 いつの間にか調子も取り戻しているので、ショウマとしては安心する。

 だがもう1つ、言わなければならない事が彼にはあった。


「え~っと、それからもう1つ言って良いか?これはお願いっていうか忠告というか不可抗力というか……その無理矢理首をこっちに向けたのはお前であって、更に自分を見て話せって言ったのもお前であって……俺もなるべくは見ないようにはしてるんだけど、無理矢理首をそっちに向けさせられたせいで動かすのがつらいからってのもあって……その…悪気は無い事だけは理解して欲しいんだけど……」

「何よ!言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!!友達なんでしょ?」


 しどろもどろになりながらショウマは自分自身で気付いてくれないだろうかと淡い願いを抱いていたのだが、どうやら先程まで彼女自身が何をしていたのかすっかり頭から飛んでしまっているようだった。

 なのではっきりと言う事にする。


「シア……えっと…その…そろそろ服を……着よう…ぜ?」

「へっ?」


 シアニーは、言われてようやく自身の上半身が涼しい事に気がつき、視線を送る。

 ショウマもなるべく凝視しないようにはしていたのだが、そこは男の性。どうしてもチラチラと視線がいってしまうのは仕方がない。

 そんな異なる2人の視線が交わる先には真っ白な平原に聳え立つ白き双丘。

 同年代の平均と比べても2周り以上は大きいだろうか。

 全裸で土下座をしようと服を脱いでいた途中だったのだ。それがまろび出ているのも当然だろう。いや、実際には下着を脱ごうとしていた辺りで動きを止めたのだが、何かの拍子で下着そのものがずり落ちてしまったのだろう。

 何も隠すものも無く、完全にその姿はショウマの目の前に晒されていた。


「なんとか痛みを堪えて背けた顔を無理矢理に振り向かせたのはお前だからな?俺の意思じゃ無く不可抗力だからな?み…見たくて見た訳じゃあ無いからな?」


 ショウマが何か一言言う度に周囲の気温が下がっていくような気がする。シアニーが魔動器“氷雪の女王クイーン・オブ・ゲヘナ”を発動させている訳ではないはずなのだが。


「きぃゃゃぁぁぁぁ~~~~~!!!!!みみみ見るなぁぁぁ~~~~!!!不可抗力って言うなら目を瞑ればいいじゃない!!!っていうか早く瞑れぇぇ~~~!!!!」

「さっきも言ったが自分の事を見て話せっていったのはそっちだろうが!!」


 言われてからようやく目を瞑り、そう叫ぶが、既にシアニーは聞く耳を持っていない。


「こここのスケベエッチへんた~い!!!ショウマのバカバカバカバカバカ~~~~~~!!!!!!!」


 病院内にシアニーの絶叫が木霊する。

 そして怪我で身動き出来ず、更には目を瞑っていた為に何が起きたか分からないまま、ショウマの顔には新しい青痣が1つ出来るのであった。

ナースコスネタは異世界の機兵技師からのオマージュ。

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