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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第6章 真紅乃花嫁編
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第84話 花嫁を賭けて

 ショウマが懐から取り出したもう1つの物。


「ふん。そんな小汚い石ころが何だというのだ」


 片手の平に収まる、やや濁った白色の石を見て、アレスが鼻で笑う。

 だがそれを出した瞬間に、兵士の壁の外から嗚咽が漏れ聞こえてくる。


「ああ……そんな…どうして…ここに……」


 声の主はメアニーだった。

 その尋常じゃない様子に全員の注意がメアニーに集まる。

 それは遺品の中に無かった為に、アントーンの死と共に失われたと思われていたもの。

 それはこの世界で1つしか存在しない、模造品を作る事など絶対に不可能なもの。


「お母様?」


 酷い取り乱しようにシアニーは母親を心配するように声を掛ける。

 しかしメアニーはそんな声さえ届いていないかのようにショウマの側までヨロヨロと歩み寄り、その白い石を手に取る。


「……この宝石は…ユニコーンパール。ああ、本当に……本当にこれが…………」


 周囲の目など気にせず、メアニーは白い宝石を握り締めて、咽び泣く。


「そこな騎士よ。何故そなたがそれを持っておる。いや、それがどのような物なのか、何故知っておるのか?」


 ショウマに声を掛けたのは、この場で最も高い地位に存在する王妃だ。

 護衛を引き連れ、ショウマの元までやってくる。

 ショウマは先程までの不遜な態度とは打って変わって、王妃が声を掛ける事を想定していたかのように、慌てる事無く跪き、頭を下げながら答える。


「託されたと申し上げれば、王妃様には御理解頂けるかと存じます」

「……そうか。とは故、王家としてはそう簡単に認める訳にもいかない。そなたの力が妾の目に適うか、妾の息子に劣らぬか見定めさせて貰う必要があるが、良いか?」

「はっ。寛大なご配慮に感謝致します」


 王妃とショウマが何の遣り取りをしているのか、この場で理解出来ていたのは、当人達だけ。

 その為、王妃は皆に分かるように声を上げる。


「妾の名において、この騎士にアメイト家を継ぐ資格があると認め、シアニー=アメイトの伴侶となる資格を得た事をここに宣言する」


 その言葉に教会内にどよめきが走る。

 王妃はアレスとシアニーの結婚には元々反対だった。

 王族とはいえアメイト家は末席であり、その上、当主が不在となって没落を余儀なくされた家の娘を迎え入れるなど、オーレリアの名に傷が付くだけで、利する事など何も無かったのだから。

 だが、アレスが何年も前からシアニーにご執心だった為、息子の意志を尊重していただけだ。

 シアニー側が結婚を嫌がっていたので、反対の言葉を口に出さずにそのままにしておいたのだが、突如の心変わりで急に結婚が決まってしまった為、反対を言い出す切欠を失ってしまっていたのだ。

 だから今回の事は丁度良い切欠となった。

 突然乱入してきたこの名も知らぬ騎士が持っていた白い宝石“ユニコーンパール”。

 あれは王家に伝わる宝石の1つだ。

 この世に2つと無い宝石であり、フォーガンの名を持つ王家の当主とその妻にだけ伝えられる真の当主としての証。

 それを託されたという事は、生前のアントーンか、あるいはその後見人が彼をアメイト家の次期当主として相応しい人物と見做したという事に他ならない。

 ならばそれに賭けてみるのも面白いかもしれない。


「妾が子アレスよ。シアニー=アメイトを賭け、この騎士と決闘せよ」


 流石にここまで来て白紙に戻すという事は、王妃の発言力と権限では難しい。

 だから決闘は妥協案。

 自分の息子が、それもオーレリア家の人間が一介の騎士候補生に負けるとは思ってはいないが、仮に敗北しても、その時は自分が、家柄も良く性格も良い、アレスに相応しい伴侶を探し出せば良い事。

 実の所、何人か候補の目星は付けていたりする。

 勝った場合もそこまで痛手にはならなくなった。

 つい先程まで没落寸前だったアメイト家は、新たな当主候補が現れた事により、没落を免れている。

 故にオーレリア家の名に傷が残る事は無くなる。

 その上、王妃自身の裁量でアメイト家を没落から救ったような形となるので、今後、アメイト家はオーレリア家には頭が上がらなくなり、十分な見返りが保証されるだろう。

 乱入者の登場で、オーレリア家はどちらに転んでも利を得る事が出来る様になったのだ。

 だからこの決闘は形式的なものに過ぎない。

 見定めると言った手前、その実力を見なければならないが、勝敗に関わらず、王妃はアメイト家の当主として認めるつもりなのだった。


「何故このような不敬者に王家の名を継ぐ資格があるのか納得はいきませんが、母上がそう仰られるならば、是も非もありません」


 不承不承ながらもアレスは決闘を容認する。

 彼としては剣結びの儀が進まないのは歯痒い所だが、相手は騎士候補生でしかない。

 面倒ではあるが、王妃の言葉である以上無碍には出来ないので、さっさと片を付けるのが最も迅速に儀式を再開する方法であると結論付けたのだ。

 だがこれが彼の敗因となるなど、この時はショウマ以外の誰も思ってはいなかった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 教会の外に場所を移し、アレスとショウマは剣を構えて対峙する。

 流石にこんな所では防御魔動陣も発動させられず、また教会という神聖な場を血で穢してはいけないという事で、2人は刃の無い儀礼用の剣を手にしている。


「さぁ、かかってくるが良い」


 アレスとしては自分から攻めて一撃で終わらせたい所だが、オーレリア家という地位と王族としてのプライドから、初手をショウマに譲る。


「そんじゃ、遠慮無く、こっちから行かせて貰うぜ!」


 極端に姿勢を低くし、地面を滑るように駆ける。

 間合いに入るや否や剣を振り上げるが、それはアレスの遥か前方を通り過ぎる。


「ありゃ?」


 空振りの隙にアレスが剣を突き付けて来て、慌てて後ろに跳び退る。

 切っ先が僅かに前髪を掠める。


「っと、ついついいつもの間合いで攻撃しちまった……ってだけじゃ無さそうだな」


 普段、大剣を使っているせいで剣の長さを見誤っていた。

 その上、アレスは右手の剣を前に突き出し、体を真横に向けた構えを取っている。

 心臓などの急所を隠し、正面側の体面積を減らすこの構えは、やや遠近感を失わせる。

 対人戦を念頭に置いた構え方と言って良いだろう。

 その2つが重なり、ショウマは距離を測り損ねたのだ。


(剣のリーチはこっちで調整が出来るとして……問題はあの構えか。意外と厄介だな……)


 と言っても厄介なだけ。

 引き際と踏み込みを1歩増やせば対処は可能。


「さて、初撃は譲ったのだから、今度はこちらから行かせてもらおう」


 アレスの体がゆらりと揺らめいた次の瞬間、剣の切っ先が眼前に迫る。

 顔を傾けて避けながら、カウンターの一撃を放つが難無くかわされてしまう。

 その精錬された動きには目を瞠るものがある。


「曲がりなりにも正騎士。元王国騎士団長なだけはあるって事か」

「鍛錬は欠かしていないからな。さて、それはそうと……」


 アレスが肉薄しながら、ショウマにだけ聞こえるよう問い掛ける。


「貴様はどこまで知っている。どこであの剣を手に入れた。それとさっきのあの宝石は何なのだ」

「いっぺんに聞き過ぎだっての。託されたって言っただろ?それ以上の事を知りたきゃ、俺を倒してみなよっと!」


 アレスを突き飛ばすと同時に後ろへと飛び、間合いを離す。

 しかしそれを許さぬとばかりに間合いを詰め、剣戟を繰り出すアレス。

 ショウマは剣で逸らし、避け、剣の腹で受け止め、と防戦一方だ。


「逃げるのだけは得意なようだが、それも時間の問題だ」


 軽口を叩いているが、アレスは徐々に苛立ち始めていた。

 アレスはショウマが騎士候補生という事で侮っていた部分があった。初撃が間合いも掴めていない空振りだったという事もある。

 所詮は騎士候補生という事で、心の中で力がセーブされていたのだろう。

 その為、最初の一撃を紙一重で避けられてしまった。

 だから次は本気で攻勢を仕掛けていた。

 例え儀礼用の剣とはいえ当たり所が悪ければ、骨くらいは折れるだろう。

 しかしそのことごとくを防がれている。

 それ故の苛立ち。

 決闘が長引いていしまっている故の苛立ち。

 だがその心にはまだ幾分か余裕がある。

 守るだけで手一杯でショウマは反撃が出来ず、追い詰められつつある。

 それがアレスの心に余裕を生んでいるのだ。


「そらそら。どうした?最初の威勢はどこにいったのだ?」

「なぁに、まだまだこれからさ」

「反撃もままならぬのによく言う。次はこちらも本気で行くぞ!」


 言うが早いか、更に剣速を上げる。

 威力を抑え、速さに重点を置く事で、ショウマの防御を打ち崩すつもりだった。

 現に防御が追い付かず、アレスの振るう剣はショウマの頬を、腕を掠り始める。


「……ようやく馴染んできた……」

「何を言っている?あまりに実力差があり過ぎて、感覚も頭もマヒしたか?」


 既に防御は崩した。

 後は一撃を叩き込むだけ。

 嘲笑を浮かべたアレスの身体が再びゆらりと傾ぐ。

 最初の時よりも速く、深く、鋭く、剣を繰り出す。

 ショウマの剣が下がった僅かな隙を狙って、眉間目掛けて真っ直ぐに剣を突く。

 アレスが勝利を確信した瞬間、剣から腕に鈍い衝撃が走り、腕が上へと跳ね上がる。


「な、何?!」

「ようやく馴染んで来たって言っただろ?」


 普段、超重量級のブレイドソーを扱っているショウマが、こうして儀礼用とはいえ普通の剣を扱うのは何年振りだろうか。

 その為、そのあまりの軽さに腕の振りと力の込め方のバランスが全く分からなかった。

 だが何合も打ち合いを続けた結果、ようやくそのバランス調整に成功。

 まさに神速と言っても良い程の速さで、アレスの刺突を弾いたのだ。


「ふん。たった1度のまぐれで、いい気になるなよっ!」


 更に速さと鋭さを増したアレスの怒涛の如き攻撃が続く。

 いくら剣の重量に慣れて来て、剣速が上がったとはいえ、この猛攻では隙を見い出せず、再び防戦一方となる。

 だが先程までと異なるのは、全ての攻撃を剣で捌き切っているという点だ。

 反撃までは至らないが、ショウマにとってはそれで十分だった。

 そもそもこの決闘において、ショウマには何が何でも勝利するという気持ちは無い。

 王妃がシアニーを賭けてなんて言っていたが、当人の意思を無視した賭けなど意味が無いから。

 かつて自分も賭けの対象にされた事があるから、よく分かる。

 既にアメイト家の存続という足枷は解いたし、王妃の口添えがあった為にショウマという人質も意味を為さなくなっている。

 つまりシアニーがアレスと結婚するという縛めは完全に解かれているのだ。

 だからそれに関しては彼女自身が決める事であり、決闘の勝敗は関係無くなっていた。

 それにアメイト家当主の座にも興味が無い。

 正直に言えば、ショウマもあのユニコーンパールがどういった物なのか理解していない。

 シンロードの街を出る前にシルフィリットから折れた剣と宝石を預かって「託された」と言えば良いと言われていただけで、完全なブラフだった。

 そしてこのまま防御に専念して、ズルズルと戦いが長引いた方が更に都合が良い。

 なぜなら彼の目的はただの時間稼ぎ。

 シルフィリットがこの場に来るまで、剣結びの儀を終わらせなければ、例えこの決闘に敗北しても、勝利となるのだから。

 そしてその瞬間はすぐに訪れる。


「っと、ヤバッ」

「これで終わりだ!」


 僅かに地面に足を取られた隙をついて、アレスの渾身の一撃がショウマの剣を弾き飛ばす。

 2人の実力は拮抗していたが、その想いの差が出た結果だ。

 勝つつもりの無かったショウマに対し、アレスはこの決闘で絶対に勝たなければならなかった。

 オーレリア家の人間としてこれだけ多くの者の前で恥を晒す訳にはいかないというプライドの為。

 ショウマの背後で糸を引いて居る者を炙り出す為。

 そして何より剣結びの儀を終わらせて、証拠を隠滅させる為。

 そんな想いが、この結果を生んでいた。


「はぁはぁ…これで私の勝利だ」


 尻餅を着いたショウマの眼前に剣を突き付けながら、アレスはニヤリと笑みを浮かべる。

 しかしそれと同時にショウマも同じような笑みを浮かべて返す。


「…ああ、そうだな。俺の勝ちだ」

「ふん。強がりもここまで来ると滑稽だな。この状況のどこが貴様の勝ちだというのだ?」


 勝利を確信し、嘲笑を浮かべるアレス。

 しかし直後、人垣の向こうから飛んできた一本の剣が、その足元に突き刺さる。


「何?!こ、これは……ま、まさか!?」


 それは刺突剣。

 だがその剣身は太く、円柱状でまるで杭のよう。

 こんな特徴的な剣を持っているのは、この世界で唯一人。


「何故だ!?何故、貴様がここに居るのだ……」


 アレスは視線の先に居るはずの無い人物の姿を認めて、驚愕の表情を浮かべる。


「だから言ったじゃねぇか。俺の…いや俺達の勝ちだって」


 ショウマはもう一度勝利を宣言しつつ、アレスの視線の先に居る人物に声を掛ける。


「っていうか、来てるんならもっと早くに割り込んでくれよなぁ」

「いやいや、君だったら彼に勝つと思ったから見守ってたんだよ」

「流石に慣れない武器じゃ、これが限界だって。それに元々俺は機兵戦の方が得意だし」

「ははは、よく言うよ。その腰の剣を外せば、もっと楽だったんじゃないかな?」


 柔和な笑みを浮かべて、シルフィリットは姿を現した。

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