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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第6章 真紅乃花嫁編
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第83話 届け物

 婚前式はつつがなく進行した。

 途中、王妃に祝辞を述べさせたら、親バカぶりを発揮し、アレスの幼少時代からのエピソードを長々と話し始め、アレスが制止しなければ、後2時間は1人で喋り続けたかもしれない。

 そんな事もあったが、婚前式は遂に剣結びの儀が始まろうとしていた。

 剣結びの儀とは、元々は騎士同士の婚儀の際に行われていた儀式だ。

 夫と妻が持つそれぞれの武具を鍛冶師に渡し、それを元に新たな武具を作り出すという風習が元となっている。

 元来、騎士の間にだけ伝わる儀式で“夫婦のものから新たなものを作り出す”という事から転じて、子宝に恵まれる様にという願いが込められたものだった。

 しかしそれも時の流れの中で変化してゆき、今ではお互いの家の融和と繁栄を祈り、それぞれの家の家紋の入った武具同士を一度混ぜ合わせ、そこから再び両家の家紋入りの武具を作るという儀式になっていた。

 剣結びの儀の開始と共に両家の家紋の入ったそれぞれの武器が運び込まれる。

 オーレリア家の家紋の付いた武器はショートソード。

 アレスが生まれた際に名工によって作られた、世界に1本しか存在しない剣だ。

 アメイト家側の武器は長剣。

 ミルフォードとメアニーの剣結びの儀によって作り出され、ミルフォード、アントーンとアメイト家の当主に引き継がれていった剣だ。

 父親と兄が使用した思い入れのある武器を差し出す事を決めたのは、想いに捕らわれ、縛られないようにする為だ。

 この剣が側にあるだけで、母親はその死を思い出し、涙に暮れるだろう。

 だからこその決断だった。

 神父の前に差し出された2振りの剣。

 神父は脇に置いてあった清めの水を手で掬い、それぞれの剣に振り掛ける。

 それと同時に声楽隊の澄んだ歌声が教会内に響き渡る。


「それでは両家に祝福が訪れん事を祈願して奉納させていただき――」


 だが、ドォーンという爆音と振動によって途中で神父の声が途切れ、声楽隊の子供達が悲鳴を上げる。


「な、何事だ!」


 キザーヲが声を荒げ、部下へと報告を促す。

 2年前のテロを思い出したのか、教会内の人々が騒ぎ始め、動揺と緊張で包まれ始める。


「お静かに!」


 教会内に凛とした声が轟く。


「音も振動も先程の1回だけ。それにこの場には王国騎士団と我が級友のシンロード魔動学園の精鋭もいます。何も心配する必要などありません」


 シアニーの、その毅然にして落ち着きのある言葉に教会内の喧騒も静まって行く。

 その威厳に満ちた姿は、彼女の祖父である前国王を幻視させた。

 そんな彼女の姿にアレスは心の中でほくそ笑む。


(どうやらこれはかなり良い拾い物をしたようだ)


 祖父譲りのカリスマ性はアレスをも凌ぐかもしれない。

 このカリスマ性が高ければ高い程、後の悲劇による影響も大きくなるだろう。

 それを思うと高笑いしたい気分だった。


「キ、キザーヲ団長!そ、外に白銀色の魔動機兵が1機!」


 その時、外を確認に向かった王国騎士団員の1人が報告に現れる。


「なんだと!すぐに捕え……いや、排除しろ!!」

「あ、いえ、それが操縦席はもぬけの空で……」

「何を言っている!?魔動機兵が勝手に動いてここに来たとでも言うのか!!」


 誰かが転移魔動陣を使用したという訳では無い。

 もし魔動陣が描かれれば、すぐに発見するだろうし、騎士団が保有する魔動探知機が警告を放つはずだ。

 それに外には騎士団員以外は近付く事さえ出来ない状態なのだ。


「ならばどうやって現れたというんだ?!」


 突如現れた無人の魔動機兵。

 キザーヲを始めとした王国騎士団は困惑していた。


「すまない。1ついいだろうか」


 そんなキザーヲにレリアとレグラスが声を掛ける。


「お前達は確か……」

「はい。シンロード魔動学園の騎士候補生です。その節はお世話になりました。元教官殿」


 レグラスがキザーヲに向けて騎士礼をする。

 レリアはそこまで知っている訳ではないが、レグラスの方は彼が学園に教官役としてやって来ていた際によく師事されていた。


「それで何の用だ!我らは今、忙しいのだ」

「はい。その件で彼女が心当たりがあると」


 レグラスに促され、レリアが口を開く。


「無人の魔動機兵が突然現れたという事だが、魔動機兵の足元は抉れていなかったか?」


 レリアの問いに報告に来た団員が頷く。


「やはりな。先程の音と揺れから考えて、恐らくその魔動機兵は上から来たのでは無いだろうか」

「上だと?」

「ああ。恐らくだが、街を覆う外壁の上から跳んできたのだと推測出来る」

「バカを言うな!外壁からここまでどれ程の距離があると思っているのだ!」


 いくらこの教会のある場所が北側の外壁に近い場所であるとはいえ、その距離は300m以上離れている。

 飛びでもしない限り、不可能だろう。


「私の知る限り、それが可能な機体は4機。高い出力と風の魔動力を利用して完全な飛行を可能とした王国機フェアリュートと同じ原理の私の機体。3つ目は空中に生み出した氷を踏み台にするエスト・アースガルト。そして最後の1機は……」


 最後の1機を口にしようとした所で、レリアの顔についつい笑みが零れる。

 どう考えても無茶を通り越して無謀とも言えるやり方だ。

 けれど彼ならば、躊躇い無くやるだろう。


「…あいつの機体だ。白銀の魔動機兵と言っていたし、間違いが無いだろうな」

「ふん。また派手な登場だな、あの男は」


 レグラスも口元を僅かに笑みの形にして同調する。

 普通ならば考え付かないやり方だろうとレグラスも思う。

 だが常識に捉われないのが彼だ。

 そしてその機体も常識外れな機体である。


「おい、貴様ら!何がおかしい!あいつとは誰だ!あの機体はなんだ!どこのどいつの奴のだ!!」


 答えを言わない2人に対し、キザーヲが激昂する。

 それに対しても2人は笑みを浮かべるだけで答えず、彼がどうやってここまで来たのかを想像する。

 彼の機体には機体内に空気を圧縮して一気に噴き出す機能が備わっている。

 全て噴き出すと空気を溜める為に時間を要してしまうが、その噴出を調整すれば、空中でもある程度、機体の動きを制御出来るだろう。

 そして着地の直前に、残った全ての空気を逆噴射させて落下速度を減じ、教会の屋根の上にでも飛び乗ったのだろう。

 そして自然と視線を上に向ける。

 釣られてキザーヲが上を見上げた瞬間、その影は飛び降りて来て、先程の答えを自らの口で教える。


「あの機体の名前はシルブレイド。そしてその操縦者はこの俺。シンロード魔動学園の騎士候補生、ショウマ=トゥルーリだ!」


 教会の天井付近に張り巡らせてある梁の上からショウマは飛び降りて来たのだった。


「っなっ!貴様は!」


 流石にキザーヲもショウマの顔は覚えていた。

 あの対抗戦で煮え湯を飲まされ、その結果、王国騎士団長の地位に就く為にアレスに媚びを売り、絶対忠誠を誓わなければならなかったのだから。


「……ふぅ…捕えろ」


 アレスの一言で、それまでこの事態に対処出来ずに唖然としていた王国騎士団員が我に返り、ショウマを取り押さえようと襲い掛かる。


「おわっと!理由も聞かずに問答無用かよ!!」


 団員をかわし続けるショウマだったが、多勢に無勢。

 すぐに囲まれてしまう。


「驚かせたのは悪かったし、招かれざる客だってのは重々承知してるけど、次期王妃様にお届けものがあったんだよ!」

「私に?一体、どんなご用ですか?」


 それまで黙って成り行きを見守っていたシアニーが口を開く。

 そして団員達の包囲を割って、シアニーがショウマの元へ歩み寄る。

 そのおかげで団員達はショウマを抑えつける機会を逃し、その行く末を見守る事しか出来なくなる。

 そしてシアニーがショウマの正面に立つ。

 既に自身の想いは完全に氷に閉ざし、アレスの妻としての仮面も外れようが無い程に強固なものになっている。

 学園の校門前の時とは違い、ショウマの顔を真正面から見詰めても、何の感情も浮かんでは来ない。


「貴族でも無いあなたが何を私に届けに来たというのですか?」


 氷のように冷たい口調で尋ねる。

 だがその程度でショウマは臆さない。

 彼女が王族の仮面を被っている事など一目見ただけで承知済みなのだから。


「こいつを見たらきっと泣いて喜ぶだろうぜ。ああ、そうそう。折角だし、次期国王様にも見て貰おうか。それとも騎士候補生程度に恐れをなして騎士団に守られたままの方が良いのかな?」

「貴様!アレス様になんて口の――」


 激昂するキザーヲをアレスが手で制する。


「安い挑発だが乗ってやろう。だが、我らに見せたいというものがつまらないものならば、死をもって償って貰うぞ」


 アレスがシアニーの隣まで歩み出る。

 互いに剣を振れば致命的な一撃を与えられる距離。

 教会であり婚前式という神聖な場。

 血で穢す事はあってはならないが、もしショウマが変な動きをすれば、即座に斬りかかれるよう、キザーヲは団員達にハンドサインを送りつつ、自身も剣の柄に手を添えて構える。


「まぁまぁ、そんな警戒すんなって。本当に届けものをしに来ただけなんだからさ」


 そんな殺気の集中した場でもショウマの態度は変わらない。

 彼は確信しているのだ。

 シルフィリットから預かったこの懐に入っているものを見せれば、シアニーの心を覆っている氷が解け始め、目の前の2人の被っている仮面が剥がれ落ちていくという事を。


「そんじゃあ、お披露目といこうか」


 ショウマが懐に手を入れ、長細い布包みを取り出す。

 長さ的にはナイフ程度の長さだ。

 ショウマがおもむろに布を剥がすと中から現れたのは一振りの薄汚れた剣。

 にわかに殺気が膨れ上がるが、その剣身が根元から折れているのを見て、殺気がやや静まる。


「そ、それは!」


 シアニーが柄しか無いその剣に目を瞠り、


「何故それがここに!?」


 アレスも驚愕の表情を浮かべている。

 この教会内にそれがなんなのか理解している人間はどれ程居るだろうか。

 アレスとシアニー、そして彼女の母親であるメアニー。

 それにどうやら神父もそれが何か気が付いたようだ。


「ど、どうして同じものが2本も……」


 神父がショウマの手にあるものと自分の手元にあるものを見比べるという行動と、その言葉で理解した人間が増える。


「……ど…どうして……」


 まるで人形のような表情だったシアニーの顔に動揺という感情が浮かび上がってゆく。


「くっ、何をしている!早くこいつを取り押さえろ!!」

「おいおい。状況が不利になったからってそれは無いだろう」


 団員達の間にも動揺が走っているらしく、ショウマを取り押さえようと動く者はいない。

 いや、唯一、キザーヲが動き出し掛けていたが、剣を引き抜こうとしていた手をレグラスに押さえられて抜く事が出来ずにいた。


「まぁまぁ、元教官殿。折角だし最後まで見届けましょうよ」


 キザーヲは動けない。

 アレスのコネで王国騎士団長となったとはいえ、それだけで団長になれる程、王国騎士団は甘くない。

 団長になっても文句が出ないくらいの実力は彼にもあるのだ。

 彼の実力でも騎士候補生程度に遅れを取る事は無いだろう。

 だがそれは正面から1対1で戦えばの話。

 背後からレグラスとレリアの2人の騎士候補生に抑え込まれては、流石に動きようが無い。

 不本意ながらこのまま事の顛末を見続けるしかない。


「……ショウマ……どこでこれを?なんでここにもあるの?」

「こいつはある人から預かったものだ。そんで何故2本も同じものがあるかっていうと、そっちにあるのが偽物だからさ」


 ショウマの取りだした剣の柄。

 そこにはアメイト家の家紋がしっかりと刻まれていて、剣身と汚れの有無を除けば、剣結びの儀で奉納予定の長剣と全く同じように見える。


「ずっと違和感はあったんだ。シアの兄貴が死体さえ判別出来ない程の死に方をしたって話なのになんで剣だけは無事だったんだろうって。理由は単純。奉納しようとしている方が精巧に作られた偽物だったって訳だ」

「何をバカな事を!そっちのものこそ私を陥れる為に用意した偽物では無いのか!」


 語気を荒くして反論するアレスだが、ショウマにはそれが虚勢である事は明白。

 だから畳みかける様に自分の推理を披露する。


「それは無いね。シアの兄貴が亡くなったという時期は、今から1ヶ月ちょっとくらい前。その時点で今日の婚前式を想定して偽物を作らせたとしても、アメイト家の人間ですら見間違えるくらいに精巧な模倣品なんて作れそう簡単に作れる訳が無い。時間が全然足りないんだ。特に今日の式はかなり急ぎで行われたみたいだしな間に合う訳が無い。どちらかと言えば、今日の事を想定していた側の人間の方が偽物は作りやすいんじゃないか?そうだなぁ~、例えば、ミルフォード卿が存命の頃から、彼の剣の手入れをする鍛冶師に金を積んでおいて、同じものを作らせるとかすれば可能だろうな」


 証拠の無いただの推論だ。

 それでも理に適っていて、周囲の者は半信半疑ながらも納得しかけている。

 完全に納得しないのは、オーレリア家の威光が心の中に未だ燻っているからだろう。

 ここでもしも表立って同意してしまえば、オーレリア家を敵に回しかねないのだから。


「ふん。そんなものは憶測に過ぎん。証拠も無い。全く、つまらない事で時間を費やしてしまったな。さぁ、この者を捕えよ」


 例え疑惑があり、誰もが不審がろうと、確実な証拠が無い限り、オーレリア家の発言力の前には無力。

 アレスが白と言えば白になり、黒と言えば黒になる。

 それが絶大な権力というもの。

 しかしショウマの顔に絶望の色は無い。

 それどころか今まで通りの不遜にして自信に満ちた表情さえ浮かべている。


「おっと、まだ途中だぜ?こいつだけで認めてくれれば楽だったんだけど、やっぱりこっちも見せなきゃいけねぇか……」


 そしてショウマは懐からもう1つの物を取りだした。

次回より週1ペースに戻します

とはいえストックが未だ少ないので、どこまで保つことか……

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