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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第6章 真紅乃花嫁編
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第81話 国家の機密

 シルフィリットは愛機“クリムズンフェンサー”を駆って、東へ急いでいた。

 こういう時に限って、途中、幾度も悪夢獣と遭遇し、殲滅させながら先を急いだ。

 彼の機体整備を担当する部隊が、少し遅れてやって来る。

 護衛には彼が信頼する腕の立つ機兵騎士と魔動機兵2機が随伴している為、心配はしていないが、急いでいる事を考えると、自分が倒しておいた方が結果的に部隊が早く到着出来る。

 その為、若干のタイムロスがあっても殲滅しながら進むのがベストな選択であった。


(後4日……ギリギリと言った所か……)


 わざわざ単独行動までして急ぎで向かっている場所は王都フォーガン。

 だが度重なる悪夢獣との連戦とほぼ全速で走り続けていた為、機体のあちこち、特に脚部の各関節がギシギシと悲鳴を上げている。

 シルフィリットの体力もそろそろ尽きかけている。

 体力の方はなんとか持ちそうだが、このままでは王都に辿り着く前に機体の方が限界を迎えてしまうだろう。

 クリムズンフェンサーは彼の為だけの魔動機兵であり、この機体にしか使われていない技術などの機密情報もあり、また特殊な素材も多数使用している為、専属の魔動技師にしか整備する事を許されていない。

 それ故に立ち寄った街にある魔動工房で簡易整備する事さえ出来ないのだ。


(時間は無いけど、手前で休んで後続を待つしか………いや、そうか。あそこなら彼がいるな)


 移動経路上、王都へ向かう手前にはシンロードの街がある。

 そこで後続部隊を待って休憩と整備を行うのが最良と言える。

 だがそうなると王都への到着が遅れ、タイミング的に間に合うかどうかという所だろう。


(ショウマ君とシルブレイドならば、僕らより足が速い。きっと間に合うはずだ)


 脇から突然現れた狼のような姿をした悪夢獣の頭に向けて、冷静に剣杭を突き刺しながら、彼は自分の祖父と同じ異世界の人間と異世界製の魔動機兵に期待を抱く。

 シルフィリットはショウマがその頼みを断る事は無いだろうと確信していた。

 なぜなら彼にもメリットがあるのだから。

 1人の少女を不幸から救い出すというメリットが。

 だからこそこんな所で足止めなど食らっている訳にはいかないのだ。


「だからいい加減邪魔しないで貰いたいね」


 狼は群れを成すというが、それは悪夢獣でも同様のようだ。

 クリムズンフェンサーは10体ほどの狼型の悪夢獣に周囲を囲まれていた。

 だがシルフィリットはそんな雑魚には目も向けず、その奥に居る、この群れを統率しているのだろう3つ首のボス狼に鋭い視線を送る。

 中央は普通の狼顔だが、左右には1つしか目の無い人間らしき顔がある。

 それは邪法のなれの果て。

 元々が人間であり、邪法によって悪夢獣化した姿だと如実に表していた。


「ここに来るまでやけに悪夢獣が多いとは思っていたけれど、やっぱり……」


 悪夢獣の発生の地は大陸最西端の禁忌の地だ。

 西方最前線の砦の監視の目を掻い潜ったり、突発的に発生する事もあるが、基本的には、禁忌の地から離れる東側に行けば行くほど、その出現率は低くなるのが普通だった。

 にも関わらず、まるでシルフィリットを王都へ向かわせない様にその進路上に悪夢獣は姿を現している。

 そして目の前に居る邪法によって人為的に悪夢獣化されられた人間の存在を目の当たりにして、完全に確信する。


「どうやら、あちらさんは相当に僕らが辿り着くのを嫌がってるようだね。まぁ、当然かもしれないけれど」


 確信を得たシルフィリットが不敵な笑みを浮かべると同時に、クリムズンフェンサーは肩から伸びたマント状の鞘を展開する。


「世の中は思い通りに行かない事の方が多いって事を教えてやろうじゃないか!」


 両手に持った剣杭に魔動力の炎を灯しながら、クリムズンフェンサーは狼の群れへと突撃を開始した。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 アレスとシアニーの婚前式が執り行われるまで後2日。

 ショウマは理事長室へ呼び出されていた。

 以前のように、許可も無く勝手に魔動機兵を持ち出すような学則違反もしていないし、当然、それ以外の学則違反もしていない。

 イーグレット学園長が婚前式に招待されているが、その護衛にはショウマに気を遣ってくれたのか、レグラスとレリアが担う事になり、既に今日の昼前には出発している。

 アイリッシュ理事長は高齢で体力的な問題から婚前式には出席しないので、護衛の依頼という事も無い。

 つまりショウマは、自分が何故呼び出されたのか、その理由が分からなかった。

 とはいえ断る訳にもいかないので、こうして理事長室前までやって来ていた。


「ショウマ=トゥルーリ、参りました」

「どうぞ、お入り下さい」


 ショウマが扉の前で名乗ると、理事長を補佐する秘書兼メイドのエルアが中から扉を開け、ショウマを招き入れる。

 最初に目に入ったそこには思わぬ人物が居た。


「え?剣聖の爺さん?それにそっちに居るのはシルフィリットさん?」


 更に視線を巡らせると、いつも通りの朗らかな笑顔を浮かべるアイリッシュ理事長の左右にソディアスとシルフィリットがそれぞれ立ち、中央に置かれてあるソファには足を組んでリラックスした様子のイムリアスと、それとは対照的にガチガチに緊張して固まっているアーシェライトが座っている。

 本来はアーシェライトのようになるのが普通だ。

 この学園のトップでシンロードの街においても有力者、更には元王族のアイリッシュ理事長に、最強の騎士と最高位の剣士という称号持ちの2人。

 そんな3人が並んでいるというだけで萎縮してしまうだろう。

 イムリアスが普段通りなのは、アイリッシュは幼い頃からの祖母の様な存在であり、シルフィリットとは幼馴染み。ソディアスとも昔から面識があるからだ。

 彼の乗る魔動機兵“ソルディアーク”はキングス工房製であり、イムリアスの父親が設計から担当したもので、昔からよく知っており、彼にとってこの場には顔見知りしか居ないので、緊張したり萎縮したりする理由が無いのだ。


「……この顔触れ……嫌な予感しかしないんだけど………」


 ショウマは小さく呟いた後、アーシェライトの隣に座る。

 正直に言えば、先日彼女の想いを蹴った身としては、少々気不味いのだが、ソファの空きがそこしか無かったのだから仕方が無い。


「そんじゃ、全員揃った所で話を始めるとするかの。シルフィリット」


 ソディアスが場を仕切り、名を呼ばれたシルフィリットが続けて話し始める。


「今から1ヶ月くらい前。僕らの部隊は任務の行動中に大怪我を負ったある人物を発見しました」


 西方最前線で実行された大規模な悪夢獣討伐作戦。

 元々ここまで大規模に行われる予定は無かったのだが、騎士統括長であり、王位継承権第1位のアレスの鶴の一声によって決行される事となった。

 西方最前線に駐屯する騎士団の中からは、穏健派の現国王の父親に対する反抗心から実行しようとしているだけだと揶揄されたりもしたが、表立って反対する者はいなかった。

 そもそもここに駐屯している騎士達は、様々な想いを胸に悪夢獣と戦っている。

 家族や恋人、友人を殺された恨みを晴らす為。

 騎士として故郷の家族や民を守る為。

 戦功を上げて出世する為。

 ただ強い相手と戦う為。

 理由は様々だが、悪夢獣を倒すという目的は一致していたからだ。

 さらにアレスが新たな機兵騎士と魔動機兵を増援として送り、戦力が増強された事から、作戦はすぐに実行された。

 そんな中、シルフィリットの部隊は、各騎士団に助力したり、各個撃破したりと遊撃隊として戦場を駆け回っていた。

 犠牲も少なく、作戦自体は大成功。

 多くの悪夢獣を倒し、追撃戦を行って、これまで維持していた前線を大きく押し上げる結果となったのだ。

 だが追撃戦の最中、いくつかの騎士団が突出し、孤立するという報告が齎される。

 上層部は救援を考えるが、これまでの戦闘で騎士も機兵も疲弊し、救援に向かえる余力がある者は僅かであった。

 当然、シルフィリットも救援部隊に志願し、僅かな手勢ながらもいくつかの騎士団を助け出す事に成功はした。

 しかし犠牲はそれ以上。

 救援部隊が辿り着いた時には魔動機兵の無残な残骸のなれの果てしかない場所もあれば、地面が大量の赤で塗り潰されている様な凄惨な場所、最後の最後まで戦い抜いたのか、無数の悪夢獣の屍の上で磔になったかのように串刺しになっている魔動機兵がある場所などもあった。


「こっちには多少の犠牲を出しながらも作戦は大成功だと伝わっているようだけど、もし追撃戦を行わなければ、その犠牲も最小限に抑えられたでしょう」


 それだけ酷い惨状だったのだろう。

 シルフィリットは救えなかった命を想って悔しそうな表情を浮かべている。


「だがシルフィー。お前が居たから救えた命もあったんじゃねぇのか?」

「ああ、そうだね。僕達が駆けつけなければもっと多くの命が失われていたのは確実だった。終わってしまった事は悔やんでも悔やみ切れないけれど、生きている限り亡くなった人達の分まで精一杯前を向かなきゃね……っと、すまない。少し話が逸れてしまったね。続けるよ」


 慰めの言葉を掛けてくれたイムリアスに笑顔を浮かべる事で礼をした後、シルフィリットは再び話し始める。


「討伐作戦終了後、僕達は別の任務で最前線から離れる事となったんだが、天候不良で急遽、立ち寄った小さな村で、あの追撃戦で孤立し、重傷を負いながらもなんとか生き延びて手当てを受けている1人の騎士を偶然、見つけたんだ」


 その小さな村では薬や医療具が足りず、まともな治療が出来ずにいつ命の火が消えてもおかしくない状態だった。

 だがシルフィリットの部隊が所持していた医療キットと機兵運搬用魔動車両内に設置されていた簡易治癒魔動陣のおかげで、その騎士は一命を取り留


めた。

 治癒魔動陣は、フォーガン王城や街の大きな病院、そして最前線の砦くらいにしか未だ設置されていない代物だ。

 簡易版とはいえ、そんなものを所持出来ているのは、彼が基本的に単独行動が多く、フォーガン王国から最大限の支援を受ける事が出来る騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイツであったからこそ。

 通り過ぎるはずだった村に急遽、立ち寄る事になった騎士が、そこで偶然にも瀕死の機兵騎士を見つけ、偶々、簡易治癒魔動陣を持っていた。

 それはまさしく奇跡と言っても良い確率。


「その騎士が今から1週間程前にようやく意識を取り戻しました。そして彼から重大な事を聞いたので、その事を伝える為に僕1人が先行して王都へ向かったのです。ですが流石にここまで来るのに無理をしてしまって、機体を整備しないとまともに動かないので、ショウマ君に僕の代わりに伝令役をお


願いしたいのです」

「偶然こっちに来ていたので儂でも良かったのだが、急を要するという事で、それならお前さんの機体の方が速いと思った訳じゃ」


 シルブレイドの機体性能はシルフィリットのクリムズンフェンサーやソディアスのソルディアークに匹敵する。

 超重量武器のブレイドソーを持っていなければ、スピードに関してだけなら遥かに凌駕しているので、伝令役としてはピッタリと言えるだろう。


「つまり俺達が呼ばれたのは、シルブレイドを完璧に整備しろって事だな。だったらここに呼び出す必要ねぇじゃねぇか?」


 イムリアスの疑問は尤もだ。

 急ぐというなら尚更だ。


「そうしたいのはやまやまだったんだけど、国家機密に関わる事だったからね。あまり多くの人には知られたくなかったんだ。もし僕やソディアスさんがイムの所に直接赴いたら、周囲が騒がしくなるだろうしね」


 騎士候補生である学生にとって正騎士というだけで憧れの的だ。

 それが称号持ちとなれば尚更だ。

 2年前にシルフィリットが正体を隠してランキング戦でショウマと戦った後など、物凄い大騒ぎになったものだ。

 戦闘よりも学生達への対応の方が疲れた程だ。


「理由は分かった。ならこいつを呼び出した理由は?」


 イムリアスが視線をアーシェライトへと向ける。

 彼女はここに来てからずっとガチガチに緊張している。

 いい加減、この場から離れさせないと固くなり過ぎてポキッと折れてしまいそうだ。


「それに関しては儂から話そう。その嬢ちゃんにはこいつの解読を頼みたい」


 ソディアスがソファ前の机に差し出したのは、様々な大きさの紙を束ねた10cm程の厚さの紙束と表紙に何も書かれていない本の様なもの。


「こいつは儂がここ数年で集めて回ったものじゃ。頻発しておる邪法による事件、2年前の王都のテロ事件、そして今回の事。どうも裏で操っておる者が居るような気配があっての。それらの事件に関わっている者や現場などで見つけたものを集めたものじゃ」

「……共通語に魔動王国語……それにこれは凡字やサンスクリットなども使われているようですね。それと見た事も無い文字も……」


 技師魂が触発されたのか、紙束に目を走らせた途端、それまで緊張していたのが嘘のように紙束をめくり始める。


「ふむ。異世界の知識が豊富というのは嘘では無いようじゃの」

「まさかとは思っていたけど、やっぱりアーシェライトの事も調査済みかよ」


 イムリアスは大きく手を上げて降参するかのような格好を取る。

 ショウマが異世界人であると知っている人物が集められていた時点で、そうではないかと思っていたのだ。

 まぁ、大々的に言って無いだけで隠していた訳ではないのだが。


「本当なら坊主にも手伝って貰いたかったんじゃが、伝令役の方が重要じゃからな」

「ええ、そうですね。なんとしても明日までには伝えて貰わないと間に合わなくなりますから」

「……なんで俺なんだ………」


 それまで黙っていたショウマが口を開く。


「今、丁度、学園長が王都に向かってるじゃないか。それにレグラスとレリアも…あいつらに伝えるだけで良いじゃないか!わざわざ俺が王都まで行く必要なんて無いじゃないか!!」


 明日はシアニーの婚前式の日でもある。

 王都に行けば、嫌でもその話題を耳にするだろう。

 彼女との別れ際の言葉が今でも心から離れないショウマには酷な仕打ちだ。


「君だからこそだよ」

「え?」

「これは君じゃ無ければ駄目なんだ。きっと僕の声では彼女…シアニーさんの心には響かないから」


 なぜここで彼女の名前が挙がってくるのか分からない。

 怪我をした騎士。

 国家機密。

 暗躍する存在。

 そして婚前式。

 それらがどうやって、どのように繋がっているのか全く分からない。

 何故、彼女がその要となっているのかも分からない。


「……行ってくれるね?」

「お…俺は…………」


 ショウマの答えは――――

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