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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第6章 真紅乃花嫁編
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第78話 決意の仮面

 あれから1週間。

 未だシアニーは学園に戻って来ていなかった。


「シアの奴、いつ戻ってくんだろうな……」


 ミルフォードの葬儀の時は5日間だったので同じくらいだと思っていたショウマだったのだが、スパーナ情報によれば、今回はアメイト家の当主を引き継げる者が居ない為に今後のアメイト家をどうするかについて話し合っている為、色々と長引いているらしいという事だった。

 相変わらずどこからそんな情報を仕入れて来るのか不明だが、女性に関わる情報である為、それは確実な情報と言えるだろう。


「もしかすると、もう学園には戻って来ないのかもしれないな……」


 レンチアが呟いた言葉に誰も反論はせず、重い沈黙に包まれる。

 シアニーは騎士であり、王族だ。

 この世界で機兵騎士は人間最大の武力である魔動機兵を持つ存在だ。

 戦闘用魔動機兵が1機あるだけで、盗賊など相手ではないし、狼や熊などの野生動物がどんなに群れていても一蹴出来る。

 訓練を積んだ騎士が乗れば、悪夢獣も撃退出来るだろう。

 そしてフォーガン王家はこの世界で最大の権力を持つ一族だ。

 一族の中では継承権が低い彼女ではあるが、フォーガンの名を持つだけでその発言力は絶大だ。

 シンロード魔動学園が身分の平等を謳っている故、そして彼女が王族である事を鼻に掛けないが故に普通に接する事が出来てはいるが、本来であれば気安く声を掛ける事など出来ない存在だ。

 そんな2つの力を持つ彼女は常々口にしていた。

 王家の威光と騎士の強さが合わされば、これまで以上に恐怖に怯える民を助けられるだろうと。

 だがアメイト家の当主が不在となれば、家の取り潰しという事にもなりかねない。

 つまり彼女の目指すものの1つが消えてしまう事となる。

 そうなっては困る為、恐らくシアニーは交渉を続けているのだろう。

 最悪な場合、家を存続させる為に学園を去らなければならない事態に陥るかもしれない。

 そういう考えが頭の片隅のどこかにあるから、誰も反論を出せない。


「……いや、シアは絶対に帰って来るさ。あいつが掲げる理想を実現する為には学園を首席で卒業する必要があるんだから」


 長い沈黙を破って反論を口にしたのはショウマだ。

 もし学園を止めてしまえば、待っているのはアレスとの結婚だ。

 そうなってしまえばどんなに実力があったとしても、次期王妃という身分に縛られてしまい、騎士になる事など出来なくなるだろう。

 仮に騎士となれたとしても象徴として存在するだけで、戦場に駆り出されるような事はまず無いだろう。

 それにあれ程毛嫌いしていたアレスとの結婚を承諾するとは思えない。

 だからこそ信じている。

 シアニーが何かしらの策でこの状況を打開し、この学園に戻って来るだろうと。

 今のショウマ達にはそう信じて待つ以外に出来る事は何も無かった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 シアニーは王宮にあてがわれた私室で力無く俯いていた。

 兄の死というショックは大きく、悲しみを癒すにはまだまだ時間を要する。

 だが目の前にあるアメイト家の家紋入りの長剣を手にすれば、悲しみを乗り越え、前を向く力が湧いてくるだろう。

 父と兄の意志を受け継ぐ為には自分が下を向いていてはいけないのだから。

 だが未だ、彼女にはその1歩を踏み出せないでいた。

 その原因はアメイト家の存続問題にあった。

 目の前の剣を手に取れば、2人の意志を引き継ぎ、騎士として生きていく覚悟が生まれるだろう。

 だがそれはアメイトという名と家を捨てるという事と同義になり、同時にアメイト家に仕えている使用人達を路頭に迷わせる事となる。

 だからと言って、養子を迎え入れるには時間が少な過ぎる。

 兄の死から未だ立ち直っていないという事もあるが、それ以上に迎え入れる人物の身分や人柄などを精査している時間が無い。

 他の家から何人か勧められているが、どうせその家の息の掛かった人物である事は間違いないので、信用は出来ない。


(もし私が男として生まれていたら……)


 基本的に王家の家督を継ぐのは男子という決まりになっている。

 もしシアニーが男として生まれていれば、このような事に頭を悩まされる事は無かっただろう。

 しかしシアニーが女性だという事実を今更変える事は出来ない。


(私が少しだけ生まれて来るのが早かったら……シルフィリットさんのように私がもっと早く正騎士として認められれば……)


 例外として、正騎士になれば女性でも家督を引き継ぐ事が出来る。

 これは機兵騎士がこの世界にとって最重要の存在であり、平民出でもそれなりの地位を与えられているからだ。

 王族ともなれば、女性で家督を継いだとしても誰からも文句は出ないだろう。

 しかしシアニーは未だ騎士見習いの身。

 多大な功績でも挙げない限り、順調に進んだとしても正騎士になれるのは数年後だ。

 流石にその間、当主が不在という事には出来ない。


(……けど、私があの男を受け入れれば……)


 シアニーはアレスの顔を思い浮かべる。

 ただそれだけで怖気が走り、身震いし、気持ちが悪くなる。

 何故そうなるのかの理由は分かっていた。

 言葉にすれば自己嫌悪や同族嫌悪が最も近いだろう。

 アレスの笑顔はまるで仮面に張り付けただけのような表情であり、その裏で何を考えているのか分からない。

 シアニー自身も数年前まで優等生や王族といった仮面を被り、自分の本心を曝け出さずに生きていた。

 心の奥底ではそんな自分を嫌っていたのだろう。

 だからこそアレスが、まるで自分を鏡に写したように見えて嫌いだったのだ。

 それは今でも変わらない。

 いや、逆に仮面を外した彼女にとって、未だに自分を偽り続けるアレスに対し、より一層の嫌悪感を抱いていた。

 だが、事態はそんな彼女の気持ちを汲んではくれない。


「シア。あなたは本当にそれでいいのですか?」


 いつの間に来たのか、母親のメアニーが背後から声を掛けて来る。

 その心配そうな声にシアニーはゆっくりと顔を上げ、久しぶりに優等生であり王族でもある、もう1人の自分という仮面を被る。


「……はい、お母様。このお話を受け入れれば、アメイト家の存続は安泰ですし、私の方も学園の卒業までは自由を保証してくれています。それに王家に生まれた以上、自分の我が儘を通す事など出来ないと覚悟はしていました」


 嗚咽も不平不満も漏らさずに、スラスラと喋れた事にシアニー自身も驚くいたが、この仮面とは幼い頃からの付き合いだ。

 本当の気持ちや感情を封印し、思ってもいない事を口にするなど造作も無い事だった。


「今から王に私が決心した事を、直接お伝えに行きます」

「シア……あなたって娘は…………」


 メアニーが抱き寄せる様にシアニーを強く強く抱き締める。

 そして耳元で小さくごめんなさいという言葉を繰り返しながら、まるでシアニーの分まで泣くかのように嗚咽を漏らし続ける。

 どうやら母親には仮面を被っていたとしても、彼女の本心は丸分かりだったようだ。


「…あなたはあなたなのよ。家や肩書に縛られる事なんて無いのに……」


 母の言葉に僅かに心が揺らぐ。

 もし本当に自由に出来るならどれ程幸せな事か。

 だがここで揺らぐ心に蓋をする。


「安心して、お母様。これは私が自分自身で決めた事。何にも縛られてなんていないから」


 こんな所で仮面を外す訳にはいかない。

 いや、恐らく今日この日から、一生、この仮面を外す日が来る事は無いだろう。

 なぜなら彼女は不快感と嫌悪感しか感じないだけの男と結婚すると決めたのだから。

 アメイト家の存続と残りの学園生活の自由と引き換えに。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 更に一週間が過ぎた頃、その噂はショウマの耳に届いて来た。


「氷結姫が結婚するって?」

「相手は誰かって?そりゃ、当然、婚約者だったアレス様だろ」

「って事は次期王妃って事でしょ?」

「王位継承権から最も離れていたアメイト家がまさかの次期国王様のお妃様か。大出世だよな~」

「アレス様も美形だし、きっと生まれて来る子供も美男美女でしょうね~」

「結婚式って何時なのかしら?やっぱり国を上げてお祝いするんでしょうね」

「いや~、めでたい事だ~」


 ざわつく校内を早足で歩きながら、目的の人物の元へと向かう。


「スパーナさん!」


 その目的の人物の姿を捉え、ショウマはツカツカと歩み寄る。


「おう、ショウマじゃねぇか。俺っちに何か用か…って、うぉい!そんな引っ張んなって!!」


 ショウマは無言でスパーナの腕を掴むと、そのまま引き摺るように彼を格納庫まで連れていく。

 先に来ていたイムリアスとアーシェライトになど目もくれず、ショウマはスパーナに顔を近付けて問い質す。


「で、信憑性は?」

「おい、近いって!」


 横に逃げようとするスパーナを遮る様に、ショウマは腕を突き出す。

 逆側に逃げようとしても同じように反対の腕を突き出されて塞がれる。

 残った後ろ側に逃れようとするが、すぐに格納庫の壁面があり、追い詰められる。

 気が付けば、壁を背にし、顔の真横に両手を突き出された壁ドン状態。

 相手が相手ならドキドキして頬を赤らめる所だろうが、スパーナは健全な男子学生で女性好きである。

 こんなシチュエーションでときめいたりしない。

 それどころか、あまりに真剣な表情で別の意味で心臓が跳ね上がり、ダラダラと脂汗が流れている。


「あの噂は本当なのか?」

「あ…ああ……ほほほ本当だ!くく詳しく話してやるからまずは、ははは離れろっての!!」


 そう言われてショウマは今がどういう状態なのか気が付いたのか、ばつが悪そうに壁際から離れる。


「す、すみません。なんかあの噂が凄く気になって、早く真相を知りたかったもので……なんて言ったって2年以上も付き合いのある大親友だから」

「ショウマ、お前……もしかして………」


 しかしスパーナは次の言葉を飲み込んだ。

 女性限定ではあるが、彼の情報収集能力は群を抜いている。

 情報網の広さや人脈の多さもさることながら、不確定な噂を統合してその中から真実を見つけ出す分析力に、人間観察で鍛え抜かれた洞察力と観察力で多くの女性を丸裸にしてきた。

 ただ情報面だけで、実際に彼の前で丸裸になった女性が未だに現れないのが、彼の長年の悩みだが。

 それはともかく、彼はそんな高い情報収集能力のおかげで誰が誰を好きなのかという事も分かってしまう。

 いや、そんな情報能力が無くても、2年も付き合いがあればシアニーとアーシェライトが誰に好意を抱いているかは、流石に理解出来る。

 理解していないのは好意を抱かれた当の本人だけだろう。

 しかしショウマがここまで切羽詰まった表情をするのも珍しい。

 自覚はして無くとも、それなりに心の奥底ではシアニーの事を想っているのは間違いないようなので、あえて鈍感という言葉は口にしない。

 単に今更という事もあるのだが。


「ともかく彼女がアレス殿下と結婚するのは確定のようだ。本人も了承済みって事らしいが、まぁ、色んな圧力が掛かったんだろうぜ」


 アレスと結婚するのが本当に嫌だったから学園首席卒業を目指して、今まで頑張って来ていたのを知っている。

 そう簡単に心変わりするとは思えないので、邪推するなという方が間違っている。


「正式な婚礼の儀は卒業後に執り行われるらしいが、近々、婚前式は行うらしい。多分、それが終われば、戻って来るだろうと俺っちは考えてるけど」

「そうか。とりあえず、暫くすれば戻って来るって事なんだな。そうかそうか。早く戻って来てくれないと俺もシルブレイドも保たないからな~」


 やれやれといった表情を浮かべるショウマ。

 今現在、週に2回行われるランキング戦は、シアニーが居ない分をショウマが戦っている。

 学園側が欠席を認めているのでペナルティが課せられる事は無いのだが、その試合でのポイントが得られなくなってしまうので、参戦しているのだった。

 底抜けの体力を持つショウマの体はともかく、シルブレイドの方は連戦によって消耗が著しい。


「ショウマさんは本当にそれで良いと思ってるんですか!」


 声を荒げたのはアーシェライト。


「良いも何も、あいつがそう決めたんだ。それに向こうは王族で、こっちは貴族ですら無いただの平民。俺が口を出す権利なんて無いさ」

「けど、シアニーさんは……シアニーさんは…………」


 しかしそこでアーシェライトは口を噤む。

 これは他人の口から言うべき事では無い。

 本人が言わなければ意味の無い事だから。


「……ショウマさんは、バカです!」


 最後にそれだけ言うと、アーシェライトは走り去ってしまった。


「へっ?なんで俺がバカ呼ばわりされんの?!」


 ショウマがアーシェライトの行動と言動の意味が分からず、周囲を見渡すと、誰もが大きな溜息を吐きながら、


「…ああ…俺っちが思うに本当におバカさんだねぇ」

「はい、バカっすね」

「大バカと言っても過言じゃないな、これは」


 その場に居たスパーナ、プライナス、イムリアスがそれぞれ、憐れむ様な、しかし呆れたような表情でショウマをバカ呼ばわりする。

 ここにレンチアが居たら鉄拳制裁の1つでも食らわされていたかもしれない。


「皆までなんだってんだよ、ちっくしょぉっ!」


 全員の冷ややかであり、でも生温かい視線に貫かれ、居た堪れない気持ちになるショウマであった。

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