第76話 悲報
『今日こそは僕が上だと証明してやる!!』
試合開始直後、レグラスの新たな魔動機兵“ソルインフィニオス”が“獄炎の守護者”を展開し、両肩に4体ずつ、合計8体の炎蛇を生み出す。
『毎回毎回、同じ台詞で聞き飽きたぜ!!』
炎蛇から吐き出された巨大な炎をショウマの操るシルブレイドがブレイドソーの一撃で斬り裂く。
閃光を伴った爆発が起こり、視界が一瞬、真っ白に染まるが、そんな事でショウマは動揺しない。
意識を集中させ、ピピという電子音が右耳側から聞こえたのを確認すると同時に、そちらに向けて剣を突き出す。
剣先で再び爆発が起こり、更に続けて聞こえる電子音の方に向けて、次々と剣を繰り出していく。
その度に爆発が起こり、8つ目の爆発が収まる頃には、視界も色を取り戻す。
『俺が斬ると分かって目潰しに来たのは良い案だと思うけど、その程度じゃまだまだだぜ!!』
視界を奪われたら、近接戦しか出来ないショウマには不利が多い。
だが、シルブレイドに乗っている場合はその限りでは無い。
この機体には魔動機兵には搭載されていない熱感知センサーが搭載されている。
更にザンスとの戦いで一時は使用不能となっていたものの、アーシェライトの必死の努力により振動感知センサーも修復されていた。
この2つのセンサーが音で知らせてくれるおかげで、視界を奪われてもある程度、相手の動きや攻撃を把握する事が出来るようになったのだ。
今回は熱源と空気を震わす振動から、火球が飛んでくる位置を予測してそのことごとくを斬り払っていったのだ。
生身でこんな事をやったら爆発の余熱で全身大火傷だろうが、シルブレイドの鋼の体は余熱程度ではビクともしない。
『ふん。この程度は序の口に過ぎない!!』
レグラスはニヤリと笑みを浮かべた後、8つの炎蛇の口を背後に向けて、炎を放ち爆発させて、その勢いを利用してソルインフィニオスは一気に間合いを詰める。
これまでのレグラスの機体は防御を固め、強力な炎による遠距離攻撃が主戦法だった。
だからまさか自分から接近してくるとは思わず、ショウマは驚く。
しかしその驚きも僅か。
すぐに剣を構え直し、迫り来るソルインフィニオスを迎え撃つ。
見た所、近接武器らしきものは見えない。
隠し武器かもしれないし、単純にタックルなのかもしれない。
(けど向こうからこっちの間合いに入ってくれるなら好都合だ)
近付く手間が省けるし、何より近接戦闘には絶大な自信があるのだから。
カウンターの一撃の為、剣を腰溜めに構え、ソルインフィニオスが剣の間合いに入るのを待ち構える。
シルブレイドの間合いに入る僅か手前でソルインフィニオスが何も手にしていない右腕を振り上げる。
何をする気なのか。
意図が分からず僅かに逡巡した後、シルブレイドはカウンター攻撃をせずに横へと飛ぶ。
直後、先程までシルブレイドが居た空間を超高熱が通り過ぎていく。
『ほう。咄嗟に危険を感じたか』
ソルインフィニオスの右手には右肩から伸びていたはずの炎蛇の頭があり、その口からはまるでガスバーナーの様に真っ直ぐの炎が立ち昇っていた。
超高温の為か、その炎は赤では無く青くなっている。
『剣聖のおっさんがやってたやつか』
魔動力はその密度を濃くする事で威力が増す。
血の滲む鍛錬の末、レグラスはそれを会得していたのだ。
会得したばかりの為、溜めに時間が掛かり、高い集中力を維持し続けなければ、あっと言う間に力は拡散してしまうが、防御魔動陣に護られていない箇所なら、全てを斬り溶かす事が出来るだろう。
正に一撃必殺の剣だ。
『一撃でも当てれば僕の勝ちだ!』
『確かにそいつは防ぐ手段がねぇ。けどどんなに威力があろうと、当たらなきゃどうって事ねぇんだよ!!』
背部から放熱板が展開され、シルブレイドの動きが一気に加速される。
一瞬で死角に回り込み、剣を振り上げる。
振り下ろしと同時に一歩を踏み込もうとして、逆に強引に足の動きを止めて、一歩下がる。
何の手応えも無く剣は空を斬って地面を穿ち、ほぼ同時に振り下ろした剣の先を熱剣が過ぎる。
『甘い!死角を狙ってくる事は予想済みだ!!』
『その考えも甘いぜ!』
地面に叩き付けた剣の勢いをそのまま利用して、シルブレイドは更に加速して、熱剣を振り切って無防備状態のソルインフィニオスの懐に飛び込む。
上半身を一回転させて、左の裏拳を脇腹に叩き付ける。
鎧甲に覆われている為、大したダメージは与えられない。
しかし乗っているレグラスにはその衝撃は伝わる。
ある程度は緩和されるだろうが、操縦席間近の衝撃は操縦者をかなり揺さぶる。
機兵騎士として訓練する者にとって、このくらいの衝撃で怯む事は無いだろうが、熱剣を維持する為に極限まで集中していたレグラスにとっては、そのほんの僅かなものでも致命的だった。
集中力が僅かに欠け、それと同時にソルインフィニオスの右手から伸びていた熱剣が霧散する。
『思った通り!』
最初の目眩ましからの火球8連撃以降、レグラスは牽制用の火炎弾すら発していなかった。
死角からの攻撃を予測していたと言っておきながら、肩から伸びた炎蛇は動く事無く、熱剣を振るって牽制してきた。
それらの事から、ショウマはレグラスが熱剣を維持するだけで手一杯なのではないかと予測したのだ。
そしてそれだけ集中していなければならないのなら、僅かでも集中を乱してやれば、簡単に維持出来なくなるのではないかと考えたのだ。
そして思った通り、熱剣はその力を失った。
このほんの僅かな情報だけでそこまで予測出来るようになったのは、魔動力の事をより良く理解してきたからだ。
ショウマ自身に魔動力は無く、魔動器を使用する事は出来ないが、彼以外の全員がほぼもれなく魔動器を使用して来る。
それに対処する為にも、魔動器だけでなく、その力の元となる魔動力そのものを深く理解しなければいけないと猛勉強した結果、威力を強くすればする程、範囲を広げれば広げる程、制御が難しくなり、高い集中力と溜め時間が必要だと言う事が分かった。
魔動力の溢れるこの世界では誰もが感覚的にそれを理解している為、授業でもその事については教えられず、教本などにも載っていなかったので、古い文献やら学者しか読まない様な分厚い学術書を読み漁ってようやく分かったのだ。
この知識のおかげでショウマはすぐに対応策を考え出す事が出来たのだ。
『悪いけど、今回も俺が勝たせて貰うぜ!!』
剣の柄を引き、鋸刃を高速回転させながら斬り上げて、左の肩を刻み裂く。
ソルインフィニオスが慌てて、右肩に残った炎蛇で反撃を試みるがもう遅い。
返す刃で振り下ろしたチェーンソーが頭部を斬り裂こうとするのと同時に炎蛇から放たれた炎の塊が目の前で爆発。
もうもうと立ち込める爆煙の奥から姿を現したのは、全身の熱を冷却して出た蒸気を機体の背面から吐き出した白銀の騎士。
『そんな威力の小さい爆発じゃ、このシルブレイドは倒せないぜ、レグラス。さぁて、次の相手はどいつだ?』
これはランキング戦で、対戦相手はソルインフィニオスを含めて3体。
オーバーブーストによるクールタイムで性能はかなり落ちたが、最大の障害であるレグラスは倒した。
残りの2体が同時に掛かって来ても負ける気はないし、負けてやるつもりも無い。
なぜなら彼は絶対的な王者として、その強さを誇示しなければいけないのだから。
学園最強のチームの一員として恥じない戦いをしなければならないのだから。
『さぁ、どこからでも掛かって来やがれっ!!』
* * * * * * * * * *
チーム・ブラックロータスとの昇格戦から2年。
チーム・キングスは一気に学園トップへと上り詰めた。
それも当然である。
不慣れな機体であったとはいえ、数多の悪夢獣を屠り、騎士最強の称号を賜ったシルフィリットを倒したショウマとシルブレイド。
本気を出した際は現学園最強と言われたノワールを倒したシアニーとエスト・アースガルト。
この2人に敵う者は学園には存在しなかった。
実力的に匹敵すると目されていたレグラスでさえ、この2年間、勝つ事が出来ていない。
最近ではショウマとシアニーをどうやったら倒せるかという事では無く、この2人のどちらが強いのかという事の方が注目を浴びる程だ。
訓練で立ち合う事はあるが、それはあくまでも訓練であり、同じチームに所属している為、ランキング戦でのように本気で立ち合う事はこれまで一度も無かった。
それ故に学園最強がどちらなのか、誰もが気になっているのだ。
とはいえ本人達はその事についてあまり気にしていなかった。
ショウマはシアニーの婚約破棄の条件を知っているので、主席の座は彼女に譲る考えであるし、シアニーの方は恋する相手という事もあって、もし闘っても本気を出せるか不明な状態。
もし別チームであったとしてこの2人が対戦したとしても、全力を出さなければいけない状況にでも陥らない限り、互いに全力を出して闘い合う事はまず無いだろう。
順風満帆とも言える彼らであったが、その足元には不穏な暗雲が忍び寄っていた。
事の起こりはシアニーが家路に着いた時から始める。
「ただいま!いつもご苦労様ね♪」
「あ…お嬢様……おかえりなさいませ……」
いつものように庭の手入れをしている初老の庭師に挨拶をするが、どうも反応が鈍く、その表情もどこか暗い。
訝しみながら玄関に入ると、そこで執事長が彼女を出迎えた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。メアニー様がお待ちですので、こちらへどうぞ」
いつも厳つい表情をしている彼の顔もどこか疲れ切っているかのように曇っている。
屋敷の中もまるで父親が亡くなった時のように重苦しい空気に満たされ、どこか澱んでいる感じがする。
執事長の後に付いて行きながら、シアニーは何か大変な事が起きているのだと直感的に理解し、そしてそれは決して良い内容では無いという確信を持つに至る。
それが何かはまだ分からないが、母に会えば、すぐにそれは分かる事だろう。
「メアニー様。シアニーお嬢様がお戻りになられました」
メアニーの私室の前で執事長がそう告げると、か細くやや震えた声で「お入りなさい」という声が聞こえる。
シアニーは執事長と共に部屋に入る。
明かりも灯していない薄暗い部屋の中央でメアニーは何かを抱えるように蹲っていた。
「お母様!どうしたの!?どこか具合が悪いの?!」
咄嗟に駆け寄るシアニー。
だが、執事長はこんな状態のメアニーを前にしても、何も動こうとしない。
シアニーが執事長に何か言おうと口を開き掛けた瞬間、メアニーの口から言葉が漏れる。
「…ごめんなさい…シア……」
何故謝られるのか。
その意味が分からない。
しかしメアニーが抱えていたものを目にした瞬間、シアニーは理解した。
理解してしまった。
理解せざるを得なかった。
心の中では否定しても、頭ではそれがここにある意味を解ってしまった。
「……そ…それ…って……もしかして………」
シアニーの問い掛けにメアニーは嗚咽で返すのみ。
だからなのか、後ろに控えていた執事長が意を決したように口を開く。
「今から一月程前に西方最前線で大規模な悪夢獣の討伐作戦が実行されたそうです。作戦自体は被害も少なく成功に終わったそうですが、その追撃戦の最中、突出したアントーン様率いるアメイト騎士団が悪夢獣に奇襲を受け、壊滅したとの事です。そしてアントーン様が騎乗していた魔動機兵の残骸の中から見つかったのが、アメイト家当主の証である家宝の剣と肌身離さずお持ちになっていたそのペンダントです」
淡々と喋っているように見えるが、執事長の顔は今にも泣き出しそうな程、クシャクシャに皺枯れている。
特に執事長はアントーンの生まれる前からアメイト家に仕え、不在がちなミルフォード以上にその成長を見守ってきた人物だ。
その悲しみは相当な物だろう。
「お兄…様が………」
とっくに理解していた。
だが言葉として聞いた瞬間にその実感が心を満たしていく。
発狂する程大声で泣き叫びたかった。
だが王族としての誇りが、騎士としての誇りが僅かに勝り、痴態を晒す事は無かったが、溢れ出る涙を押し留める事は出来なかった。
この日、アメイト家の屋敷は深い深い悲しみに沈み、女達は疲れ果てて涙が枯れるまで泣き続けた。
私事で申し訳ありませんが、暫く忙しくて執筆速度が遅くなる為、次回より5月くらいまでは2週間更新に変更しますので、ご容赦下さい。




