第8話 偶然の再会は運命…では無く……
あれよあれよという間にショウマはシンロード魔動学園の編入試験を受ける事となった。
学園史上初めての本科編入という特例だが、学園の最高権力者の理事長であるアイリッシュが言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。
ここでもし力が劣ると判断されれば、魔動学園に入るどころか、騎士にもなれず、更には造聖の称号を持っていた師匠の顔に泥を塗る事となる。
だが逆を言えば、力を示してこの学園に入る事が出来れば、機兵騎士への道が一歩近付くのだ。
さすがに高齢な上に視力が殆ど無いアイリッシュは付き添う事が出来ないという事なので、挨拶をして屋敷を出た後、ショウマはエルアに案内されて、ここに来る前に見掛けた巨大な屋内運動場へと来ていた。
エルアから説明をされていた通り、屋内運動場の中は闘技場という通称の名に恥じない、まさしく円形型の闘技場になっていた。
ただしその規模はショウマの予想を遥かに超えるものだった。
石畳のようなもので作られた円形の闘技場は隣にあった屋外運動場とほぼ同じくらいの広さがある。
恐らくは直径で1km近くになるだろうか。
その周囲には高く強固な壁があり、その上にはすり鉢状に観客席がズラリと並んでいる。
「ここでは魔動機兵での実践演習や機兵同士で戦う闘機大会を行ったりもしますので、これだけの広さが必要となっているのです。学生の人数を考えるとこれでもまだ足りないくらいですが」
「は、はぁ~」
ショウマにとっては想像を絶する巨大さだと思っていたのだが、エルアの説明によればこれでも小さいのだという。
魔動機兵20体程度までならば同時に演習を行っても大丈夫そうではあるが、学園には機兵騎士課の本科生だけで100人近く居る。予科生を含めればおよそ倍の人数になるだろう。屋外運動場と併用しても5分の1に足りるかどうかだ。確かにこれでは広さが足りないと感じても仕方がない。
ショウマはあまりのスケールの違いに生返事を返す事しか出来ず、ただ唖然とエルアの後ろを付いて行くだけ。
「やはり今日も居ましたね」
闘技場の中に入ったエルアは、その一画で剣を振る少女を見つけ、そこへ向かって歩いて行く。
ショウマも周囲のスケールの大きさに圧倒されてキョロキョロと闘技場内を見回しながらも、遅れないようにその後ろについて行く。
「シアニー様。今日も精が出ますね」
赤いラインの入った真っ白なジャージの上下に身を包み、一心不乱に剣を振り続ける少女の後ろからエルアは声を掛ける。
少女は動きを止め、大きく息を吐く音が聞こえる。
まるで小麦の穂のように輝く黄金色の髪を耳の後ろ程で纏めたツインテールが揺れ、シアニーと呼ばれた少女がこちらに振り向く。
「あ、エルアさん、こんばんは。こんな所に何か用です…か……って、あああっっ!!!昼間の強盗痴漢変態男っ!!!」
「げっ!勘違いデカ尻女……ってだから俺は強盗でも痴漢でも変態でもねぇっ!!!」
ショウマは彼女の後姿を見た時から、何となく嫌な予感はしていた。
見惚れてしまうような透き通る輝きを放つ金色の髪に、特徴的な髪型。柄頭に金色の宝石の嵌った僅かに刺突剣。
金髪の女性は多いが、一目で見惚れてしまうような髪の持ち主はそうそう滅多には居ないだろうし、変則ツインテールとでも呼ぶべきこのような髪型もあまり見掛ける事が少ない。
それに刺突剣は軽さと突く事に特化した剣で、現実に使用するには的確に急所や鎧の隙間などを狙わないと致命打を与えられない高等な技術を要する武器だ。長剣やナイフやダガーといった小型剣に比べて使用者は圧倒的に少ない。その上、武器に宝石の装飾がされているというのも珍しい。
振り返るまでは、これらの事柄がただの偶然で、他人の空似であって欲しいと願っていたのだが、やはりというべきか当然というべきか、その美貌には見覚えがあってしまった。
「なななな、なんで……エエエエエルアさん!?ななななんでこんな奴と一緒に居るのですか?!こここここいつは………」
身体を動かしていた為に紅潮していた顔を更に真っ赤にさせて、シアニーがわなわなと全身を震わせながらショウマを指差す。
「あら、どうやらお2人は顔見知りのようで。これは丁度良いですね。あなたに彼の実力を見て貰いましょう。編入希望者なんですよ、彼は」
わざとらしい口調と作ったような笑顔でエルアが言う。
ショウマが出てくるタイミングで衛兵詰所まで迎えに来たのだから、恐らく彼女との事も含めて昼に起こった全ての事情を知っているのだろう。
そしてこの時間、この場所でシアニーが自主鍛錬をしている事も知っていたのだろう。
全てはエルアというかアイリッシュによって計画的に引き合わせられた必然という名の偶然。
「ここここの痴漢男が編入希望者ですって?!」
「だから俺は痴漢じゃねぇての!!ちゃんとショウマ=トゥルーリって名前があるんだよ!この尻重女がっ!!」
「なななっ……また言った!!私は重くなんて無いわよ!それに私にだってシアニー=アメイト=ラ=フォーガンってちゃんとした名前があるんだからっ!!」
出会いが最悪だった事もあり、2人はまるで犬猿の仲のように睨み合う。
冷静であれば互いの名に聞き覚えがある事に気が付いたはずだ。
造聖のトゥルーリ。
王家のフォーガン。
しかし今の2人には、名前を気にしている余裕は無い。
シアニーに至っては今にも手にした刺突剣で突き殺さんばかりの剣幕だ。
「どうやらお互い、ちゃんと自己紹介が終わったようですし、早速始めましょうか」
2人の言い争いなど気にする素振りも見せず、淡々とその場を仕切るエルア。しかし何故か楽しそうな表情をしているのは気のせいだろうか。
「いいわ!丁度良い機会だし昼間の屈辱をその身にしっかりと刻まさせてあげるわっ!!」
「こっちだって濡れ衣を着せられた上に顔面を殴られた恨みを晴らしてやるよ!!」
「何が恨みよ!あ…あんなことしておいて殴られて当然じゃないっ!!!!」
「何度も言うけど誤解だから!!くっそ~、俺が勝ったら、絶対に昼間の事を土下座で謝らせてやる!!」
「わ、私の事を押し倒しておいて誤解ですって~!!ふん、あんなたみたいな最低な奴にこの私が負ける訳無いでしょ!もし負けるようなことがあったら素っ裸で土下座でも何でもしてあげるわよ!!けど私が勝ったら、そっちこそ土下座して謝って、2度と私の目の前には現れないって約束だからねっ!!」
売り言葉に買い言葉とはこういう事を言うのだろうか。
気が付けばショウマとシアニーは互いの土下座を賭けて戦う事となってしまっていた。
そしてエルアは2人の会話が終わった頃合いを見越したかのように、丁度良いタイミングで準備を整え終えていた。
「シアニー様、ショウマ様。準備が整いましたのでこちらへ。一応、この場所には防護魔動陣を張っておりますので、致命的な攻撃を受けそうな場合には自動でその攻撃を防いでくれます。ですが、それ以外では普通に傷を負ってしまいますので十分気を付けて下さい」
魔動陣はこの5年程で一般的に知られるようになった新しい魔動具である。
地面や建物等に魔動力を通しやすい染料で、能力を発動させる為に必要な図形を描いた代物であり、魔動力を持つ者がその図形の上に居るだけでその図形に対応した能力を一定時間だけではあるが発動させる事が出来る。
昔は魔動力が特別強い者だけが、魔動力そのもので図形を描く事で様々な力を行使出来たというが、それを誰にでも使えるようにした画期的な魔動具だ。
基本的に図形を大きくすればするほど効果が増す為、民間にはそれ程広まってはいないものだが、病院などでは施設全体に治癒魔動陣を施して自然治癒力を促進させたり、村や町では悪夢獣の侵入を防ぐために、村全体、町全体を覆う障壁魔動陣を張っている場所があったりするという。
「勝敗はどちらかが負けを認めるか戦闘不能になるまでです。また防護魔動陣が発動した時点でも行動不可能な致命傷を受けたとして敗北と見做します。制限時間は防護魔動陣の発動制限時間の30分間。もしこの時間内で決着しなかった場合は、私の方で裁定致します」
「つまり全力で叩きのめしても死にはしないって事よね」
エルアの説明にシアニーは薄く笑い、剣を構える。
昼間は問答無用で刺し殺そうとしていただけにその笑みはとても不穏なものにしか見えない。
「ああ、そうだな。俺も存分にやれるって訳だ」
刃の付いた真剣を使用しての勝負となると相手を殺めてしまう恐れがあったので、ショウマは少しばかり戸惑っていたのだが、そこは一応教育施設。防護魔動陣のおかげでその杞憂は無くなった。
シアニーが構えたのを見て、ショウマも手荷物に差していた剣を引き抜く。
「なっ!それは!!」
ショウマが構えた武器を見てシアニーは目を見開く。
肉厚の大剣。だが片方の刃は欠けているようにギザギザしている。いやよくよく見れば、それは欠けているのではなく、鋸のような刃となっているのが分かる。
片刃の剣と鋸を合わせたような特殊な形の剣――ブレイドソーがショウマの武器であった。
「造聖様の武器!!なんであんたみたいなのがそれを!?」
「その造聖様が俺の師匠だからだよ!!」
ブレイドソーは造聖のトゥルーリが自身の為に作り出したこの世界に1本しか無い剣だ。
彼がどういう理由でショウマにこの剣を渡したのかは分からないが、この3年間、この剣で修行していたショウマにとって手に馴染んだ愛剣と言っても過言では無かった。
「そう…あんたの師匠は造聖様の名を騙り、あまつさえ模倣品まで作って……それに髪なんか黒く染めちゃって、救世の騎士の真似事まで……あんたに土下座させる理由がどんどんと増えていくようね」
「おい!ちょっと待て!!」
造聖が師匠である事も、ブレイドソーが本物である事も、黒髪が地毛である事も全て真実で、決して嘘では無い。
だが何を勘違いしているのか、シアニーは更なる闘志をその目に宿す。
相変わらず自分がこうだと決めつけたら人の話を聞かない性格だ。
「くそっ!昼間といい、人の話を全く聞かねぇ女だな!!」
「なんとでも言えば良いわ!そんな偽物尽くしで私を倒せると思っているならね!!」
「なら偽物かどうか、実力で分からせてやるさ!!目に物見せてやるよ」
余裕があるように答えてはいるが、ショウマは内心ではまだ躊躇っていた。
性格はともかく、見た目は美少女の女性に怪我を負わせる事になるかもしれないという負い目を払拭出来ずにいたのだ。
だが、その考えが甘い事だと、戦い始めてすぐに痛感する事となる。
「それでは開始です」
エルアの掛け声と共にシアニーが一気に駆け、一瞬でショウマとの間合いを詰める。
真っ直ぐに突き抜いた刃先がショウマの目を穿つ。
咄嗟に首を捻って眼球への直撃は避けるが、瞼を斬り裂かれ血飛沫が舞う。
「くっ、速いっ!」
追撃が来る前にショウマもブレイドソーを横に払い、シアニーを牽制して更なる接近を防ぎつつ、間合いを離す。
「おいおい。マジで俺を殺る気満々だな~」
急所狙いは対人戦闘における常套手段だ。
特に目が見えなくなれば、相手の動きを捉える事も、相手からの攻撃を防ぐ事も出来なくなる。片目が見えなくなるだけでも距離感が掴めなくなるので、初手で目潰しを行うのは必定と言えるだろう。
というより今の一撃をまともに受けていたら、眼球どころか脳にまで達していてもおかしくない。回避が一瞬でも遅れていれば防護魔動陣が致命傷と判断して発動していた事だろう。
シアニーの躊躇無い攻撃に、ショウマは瞼から流れる血を手の甲で拭きつつ、手加減という言葉を意識の中から捨てる。
「あ、1つ言い忘れていましたが、シアニー様は今年の新本科生の中でもトップクラスの剣の腕前ですので、侮ってはいけませんよ」
いつの間にか壁際まで下がって、戦いの行く末を見守っているエルアが、思い出したかのようにそう言う。
「ちょっ!そいういう事は先に言って…うわっと!」
壁際で鋭い表情を浮かべてとんでもない事をさらっと言ったエルアに文句を言おうとした矢先にシアニーからの攻撃を受け、なんとか剣の腹で防ぐ。
「余所見してる暇なんて無いわよ!!」
続け様に繰り出される攻撃にショウマは防戦一方だった。
手に腕に肩に腿に腹に頬に耳に、繰り出される剣戟によって斬り傷が増えていく。
だが防護魔動陣が発動するような致命的なダメージとはなり得ない。
初撃は女性相手と侮っていた部分があり、反応が遅れたが、既に油断という言葉は頭から捨ててあるし、更に鍛え上げた肉体と類稀なる動体視力のおかげでなんとか彼女の動きを見失う事は無かった。
僅かな身体の動きと剣で軌道を逸らす事で、その攻撃を完全とまではいかないが見切っており、ダメージを最小限に抑えている。
本来ならば掠らせもしない所なのだが、完全に避けきれていないのは、それだけシアニーの攻撃が速くて鋭いという事を意味していた。
唐突に苛烈な連続攻撃の嵐が止み、シアニーが後ろへと飛び退き、間合いを離す。
立て続けの連続攻撃で息が続かなかったのだろう。大きく息を吸い込み、呼吸を整える。
一分の隙も油断も無い為、ショウマは反撃に出る事が出来ない。
「逃げるのだけは上手いみたいね。私のスピードについて来たのは少し驚いたけど、これならどうかしら?」
シアニーは自身の手を通して刺突剣に魔動力を注ぎ込んでいく。
柄頭に嵌った金色の宝石が光を放ち、そこに刻まれた魔動陣が白く浮かび上がる。同時に刀身から白い靄が立ち昇る。
「ゲッ!もしかしてそれって魔動器かよ!」
魔動陣を武器や防具に組み込んだものは魔動器と呼ばれている。
その特性上、大きな魔動陣は刻む事は出来ないが、使用者本人が高い魔動力を持っていたり、媒介となるものに強い魔動力が宿っていれば、その力を十二分以上に発揮する事も可能となる。
しかも魔動力は血液と同じで体内で生成され循環している。つまり生きている限り、ほぼ無限にその力を使えるのだ。
今年の本科生のトップクラスだというのなら、内在する魔動力も当然高く、魔動器を扱う事くらいなんともないのだろう。
その上、金色の宝石も媒介としての役割を担っているようで、その相乗効果でどれ程の威力を発揮するのか想像もつかない。
「私の本気を見せてあげるわ!」
刀身から発せられた靄は地を這うように2人の足元を白く染めていく。
その光景にショウマは背筋がゾクリとする。
直感的に恐怖のようなものを感じたからという訳では無く、ただ単純に足元が冷えて来たからだ。
「こいつは……まさか冷気か?」
ショウマの言葉通り、白い靄の正体は冷気。そしてその冷気は周囲の温度を徐々に下げていく。
「今頃気が付いてももう遅いわよ」
既に靄はショウマの膝下まで迫っていた。
先程までは戦いで火照った身体には気持ちの良い冷ややかさだった靄は、今では寒いと思える程の冷たさとなっている。
「後数分もしない内に体温は奪われ、動きは鈍くなる。そしていずれは動けなくなる。それが私の魔動器“氷雪の女王”の力。本気の私の力よ。これを使わせたあんたの評価を少しだけ改めて上げるわ」
シアニーが笑みを浮かべる。白い世界に浮かぶ金色の髪とその笑顔は極寒の地に咲く一輪の華を彷彿させた。
その間にも周囲の気温はどんどんと下がっていく。
しかしシアニー自身は冷気の影響を受けないのか、寒さに震えてすらいない。
「それなら、動けなくなる前に勝負を決めるまで!!」
ショウマは足に纏わりつく白い靄を振り払うようにシアニーに肉薄する。そうやって身体を動かさなければ凍えそうな程に周囲の温度は下がっているから。
しかしその攻撃を嘲笑うかのように、シアニーはまるで舞うような華麗な動きでその悉くをかわしていく。
力ではショウマが勝るが速さに関してはシアニーの方が上。しかも時間が経つにつれ、ショウマの動きは鈍っていく。
「くっそ……」
そして遂にショウマの動きが止まる。
急速に冷やされた筋肉は萎縮し、流れていた汗は白い結晶となって肌に張り付く。
その姿を見たシアニーはゆっくりと右手に持った刺突剣を掲げる。
先程まで刀身から出ていた冷気は刃の周囲で凍り固まり、まるで突撃槍のような氷柱へと変化していた。
「ああ、シアニー。お前は凄いな。スゲェー強いよ。自分がどれだけ井の中の蛙だったか、よく分かった。けどだからって俺もそう簡単には終われない!俺はこの学園に入って…騎士になって……悪夢獣を全部ぶっ倒すって決めてるんだからなぁっ!!」
ショウマは震える体を無理矢理抑え込み、ブレイドソーを鞘に納めるとゆっくりと腰を落とす。やや前傾姿勢で半身に構え、その瞳を真っ直ぐシアニーへと向ける。
幸いな事に周囲の冷気と体温低下のおかげで血流は鈍くなり、傷口から流れ出ていた出血は止まっている。更に寒さで全身の感覚が麻痺してきているおかげで、傷の痛みは殆ど感じないし、身体の感覚に意識を向けなくていい分、集中力も高まっている。
とはいえ周囲の温度は更に下がっていき、纏わりついていた靄は霜となって身体に張り付く。吐く息はキラキラと瞬時に氷の結晶へと姿を変える。
恐らくはこのまま温度を下げ続け、逃げ回っていればものの数分でシアニーは勝てるだろう。
だが彼女はそんな卑怯な真似はしない。
現に目の前でシアニーは最後の一撃を与える為に氷槍となった剣を掲げ、刺突の構えを取っている。
己の強さへの自信と騎士としてのプライドがそうさせているのだろう。
ショウマはそんな彼女の強さとプライドの高さに敬意を払い、その絶対の自信と揺るぎない正義感に感謝する。
彼にはもう足を動かすだけの余力は無い。仮にあったとしてもその動きはかなり緩慢だろう。
だが逃げる事を良しとしないシアニーの方から止めを刺しに向かってくるのならば勝機はある。
残った体力の全てを最後の一撃を放つ為だけに使う事が出来るのだから。
「これで最後です。少しの間でしたが、久しぶりに全力で戦えて楽しかったですよ、偽も…いいえ、ショウマさん」
白い世界を切り裂き、金色の閃光が駆ける。
シアニーは今までで一番の速度でショウマに向けて氷の槍を突きつける。
対するショウマは朦朧とした意識の中、緩慢とも思える動きで鞘に収まったブレイドソーの柄に右手を掛けて強く握り込み、全ての力を解放して抜き放つ。
左肩を貫く激痛と手に伝わる鈍い衝撃に全身を襲われながら、ショウマの意識は白き極寒の世界に溶けていく。
「勝負あり!それまでです!!」
「う、嘘……そんな…………」
エルアの勝負の終了を告げる声に続き、シアニーの驚愕する声が凄く遠く聞こえる。
シアニーの放った必殺の一撃はショウマの左肩を貫き、その周囲を凍りつかせていた。
対してショウマの最後の一撃はシアニーの腹部の僅か手前で止まっていた。刃と腹部の間に魔動陣によって生み出された障壁の輝きを放ちながら。
全くの無傷の少女。
全身を刃で斬り刻まれ、冷気による霜で真っ白になり、蒼白になった顔で意識を途絶えさせた少年。
見た目上だけならばシアニーの圧勝だ。
だがそんな見た目に反して、勝利を収めたのは満身創痍のショウマの方だった。
6話で出て来た美少女にして王族で残念ヒロインのシアニー登場です