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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第5章 魔動学園熱闘編
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第72話 1つ目の決着

 時間は少ない。

 早くしなければシアニーのエスト・アースガルトは、これまでの対戦相手と同様に何も出来ずに敗北してしまうだろう。

 ノワールの魔動器“姿無き光ヴァニッシュメントライト”を打ち破る方法が分かった以上、それを彼女に伝えに行かなければいけない。

 その為には目の前に立ち塞がるシュバルのダークシュバリエを速攻で片付ける以外に無い。

 だがその為に焦ってはいけない。

 シュバルは強い。

 おそらく自分を含めた闘機大会の出場者の誰よりも強いだろう。

 そんな相手を前に、焦って行動してほんの小さなミスでも生まれたら、それが命取りとなりかねない。

 現に警戒も怠らず、油断もしていなかったのに、僅かに意識を逸らしただけで左肩をやられたのだ。

 だからこそショウマは意識をダークシュバリエだけに集中する。

 その一挙手一投足に全集中力を注ぐ。

 これまでの激しい攻防が嘘のように両機の動きが止まり、時間だけが過ぎていく。

 とはいえその過ぎた時間もほんの僅か。

 しかしその僅かな時間でも、今のショウマには惜しかった。

 意識しないようにしても心の中には焦りが募っていく。

 ジリっとダークシュバリエが少しだけ前に出していた右脚を踏み締めた刹那、この膠着状態に焦れたシルブレイドが先に仕掛ける。

 ダークシュバリエに向かって駆けながら、右腕一本でブレイドソーを下段から振り上げる。

 しかしハルバートによって簡単に軌道を逸らされ、シルブレイドは大きく体が泳いでしまう。

 シュバルとしてはショウマが攻め急いでミスしたと思った事だろう。

 これ程の大きな隙を逃す訳が無い。

 ダークシュバリエが振るったハルバートが胴を薙ぐ。

 バランスが崩れている最中の為、タイミング的に回避は不可能。

 誰もが捉えたと思った。

 しかし唯1人、ショウマだけはここまでの流れが全て思惑通りに進んだ事に笑みを浮かべる。

 焦っているように見せていたのも、焦れて先に攻撃を仕掛けたように思わせたのも、急いで決着をつけようと大振りな一撃を放って受け流されて大きな隙を作ってみせたのも、シュバルの意識を完全に攻撃に向けさせたのも、全てはショウマの思い描いたシナリオ通り。

 ここまでのダークシュバリエの戦い方は、カウンターを主眼とした防御を重視したものだった。

 まるでシルフィリットのように無駄の無い動きと円運動を利用した次の動きを意識した槍斧捌きは、シルブレイドでも突破するのは難しい。

 だがそんなダークシュバリエが唯一直線的な攻撃をしてきた場面があった。

 それはショウマがシアニーの様子に意識を逸らした僅かな隙を突いてシルブレイドの左肩に傷を負わせた一撃だ。

 その一撃だけは真っ直ぐに突きを放ち、そして直角に振り下ろした。

 攻撃の際に次の事を考えて動くのは連続で攻撃するには有効だが、その分、一撃の威力が弱まってしまう。

 人体ならば威力が弱くても、それが重なれば痛みが走るだろうし疲労もするだろうが、魔動機兵相手では鎧甲に阻まれて有効打となりえない。

 威力を求め、金属の塊を斬り裂き、貫く為には、どうしても一撃に力を込めるしかない。

 その結果が直線的な動きとなって表れていたのだ。

 そして当然、そう簡単に避ける事も反撃する事も出来ない今のシルブレイドをダークシュバリエが見逃すはずも無い。

 ハルバートを腰溜めに構える。


『…終わり…だ……』


 胴を真っ二つにするべく、斧刃がシルブレイドの腰に迫る。


『ああ、そっちがな!』


 迫り来る斧刃に向けて、シルブレイドは身体の捻りを利用して左腕を叩き付ける。

 ぐしゃりと左腕が潰れるが、既に左腕は殆ど動かない状態だったので、惜しくは無い。

 イムリアス達に苦労を掛ける事になるが、この1ヶ月は損傷も無く、簡易整備だけしかしてこなかったのだから、これくらいは許して貰えるだろう。

 左腕を叩き付けた事で少しだけ威力が弱まったハルバート。

 その威力に逆らわず斧刃を支点にシルブレイドはクルリと上下逆さまになって宙を舞う。

 連続での攻撃を考えず、一撃の威力を上げて、直線的に振るわれたハルバートが完全に振り抜かれ、ダークシュバリエは無防備となる。

 その一瞬を逃さず、宙を舞うシルブレイドが頭部目掛けて剣を振り下ろす。

 左腕を叩き付ける直前にブレイドソーの柄頭にある鎖を引いて、既にチェーンソーを発動している。

 触れれば頭部破壊で勝利は確定だ。

 だがそれは頭部に触れればの話。

 防ぐ事も避ける事も出来ないと踏んだダークシュバリエは、咄嗟に脚の力を緩める。

 振り抜かれたハルバートの遠心力は、踏ん張っていた脚を緩めた事で、身体全体に作用し、僅かに泳ぐ。

 そんな僅かな差でしかないが、致命傷を避けるのには十分であった。

 ブレイドソーはダークシュバリエの頭部を逸れ、右肩を斬り刻む。

 横滑りするように地面へと着地するシルブレイド。

 追撃を警戒して後ろへと退がり、間合いを離すダークシュバリエ。

 一瞬の攻防の後、左肘から先を粉々に砕かれたシルブレイドと右腕をズタズタに切り裂かれたダークシュバリエ。

 互いに片腕を失って痛み分けにも見えるが、有利なのはシルブレイドの方。

 シルブレイドは元々超重量級武器であるブレイドソーを片手でも扱える出力があり、特にその右腕は片腕で振るっても自壊しないよう左腕に比べて、かなり頑強に造られている。

 対するダークシュバリエのハルバートは重量もあるが、その重量バランスが悪く、片手では支え切れない。

 突いたり振ったりする事は出来るだろうが、その場合、武器に振り回されて大きな隙を生んでしまうだろう。

 シュバルもその事が分かっているのか、既にハルバートの穂先を地面に刺して手放し、腰に差していた細い棒にも見える剣を抜いている。


『お互い片手になっちまったけど、そんな細い剣で俺の攻撃を捌き切れると思ってんのか?』

『……やってみなければ…分からない……』


 相変わらずシュバルの言葉数は少ないが、剣を構える姿を見るに、まだまだ諦めてはいないのがその気迫から伝わってくる。


『んじゃ、そろそろ決着といこうぜぇっ!!』


 ブレイドソーを肩に担ぎ、シルブレイドが先手を取り、一気に間合いを詰める。

 後一歩で剣の届く間合いに入るという所でそれは飛来してきた。

 突然、目の前に飛び出してきた黒い塊。

 急停止して慣性に逆らいながら、無理矢理真横に飛んで避ける。

 だが避けた先にも先程と同じような黒い飛来物。

 剣を振って大きめのものは打ち落とすが、小さなものは防ぎ切れず、ほぼ全身を強かに打つ。

 一体、何が飛んできたのか。

 それを確認するより早く、別の黒い影がほぼ真下から赤く燃えた剣を突き出してくる。

 予想もしていなかった所からの不意の攻撃。

 シルブレイドが避ける事が出来たのは、ただの偶然。ただ運が良かっただけ。

 脚元に転がる黒い塊に足を取られ、後ろへとよろめいたおかげで、その一撃が逸れたのだった。

 体勢を崩しながらも黒い影に向かって剣を振るうが、影は大きく後ろに飛び退いた為、空を切る。

 しかしそのおかげで間合いは離れ、体勢を立て直す事は出来た。

 そしてようやく黒い影の正体を見る。

 全身を漆黒に染めた、まるで骨のように細身の機体。

 そう、それはまさしく魔動機兵の骨格である魔動フレームそのもの。

 先程、勢い良く飛んでいた黒い物体は、目の前の機体を包んでいた鎧甲。

 それは鎧甲を完全に排除し、防御する事を捨てたダークシュバリエの素体姿。

 左手には突き刺す事に特化した太い釘のような剣が炎を纏っている。


「また騙されたな。まさか剣の方が本命の魔動器だったなんて。その上、装甲パージでの攻撃と目眩ましとか……」


 更に言えば、自らが弾き飛ばした鎧甲に追い付き、剣をかわした反射速度は今のシルブレイドを凌駕するだろう。


「こうなったらこっちも奥の手を使うしかないか」


 いくつかのボタンを操作して、肩口背部の、腰部背面の、脹脛後面の鎧甲が開き、翅のような放熱板が姿を現す。

 ダークシュバリエはまるでその準備が終わるのを待っていたかのように、放熱板が完全に開いた頃合いを見計らって突撃を開始。

 更に剣から後ろに向けて炎を噴き出させ、噴射炎にして更に加速する。


『こっちも負けてられるか!オーバーブースト!!』


 出力のリミッターを解除し、溜めていた圧縮空気を脚部から吐き出して、一瞬で最高速に至る。

 互いに剣を突き出し、剣先が触れた瞬間、ダークシュバリエは噴射炎で上昇。

 炎の壁を突っ切ったシルブレイドは急停止から飛び上がり、上半身だけを反転させてダークシュバリエを正面に捉える。

 下半身を回転させてその背中に回し蹴りを放つが、ダークシュバリエは炎を発して軌道を変えて、寸での所で避ける。

 ほぼ同時に地面へと降り立った両機は再び互いに向けて駆ける。

 ダークシュバリエは先程と同様に剣を突き出し、シルブレイドは剣を薙ぐ。

 そして甲高い金属を響かせて、今度は交差する。

 すれ違い、互いに背を向けて2機の動きが止まる。

 一瞬の沈黙の後、膝を着いたのはシルブレイド。

 左膝は炎を纏った剣で貫かれたのだろう。関節部が貫かれ、その周囲が溶けている。

 更に右手の指も3本の根元が溶けて逆側に折れ曲がり、2本指では重量を支えきれなくなったブレイドソーが地面へと落ちている。

 あの交錯する刹那の瞬間でダークシュバリエは2撃を与えていたのだ。

 鎧甲を全て外したダークシュバリエの速さは、オーバーブーストしたシルブレイドと同等。

 その上にシュバルの一切の無駄を排した動きの技術が上乗せされれば、シルブレイドの速さを越える事も可能。

 ただし魔動フレームが剥き出しの状態である為、機体に掛かる負担は大きく、防御力も皆無となる。

 まさしく最後の手段であり、奥の手だ。


『…もう終わり……だな』


 武器を失い、動きも封じられたシルブレイドを見下ろしながら、シュバルはショウマに告げる。

 もう反撃出来る力は残っていないと見たのか、剣は手には持っている状態だが、構えは解いて、ただぶら提げている。

 だが隙も油断も無い。

 力を抜いて剣をぶら提げているのは、変に力みが入っていない自然体で、何かあった際に即座に反応が可能だった。

 恐らく相手が動き出した次の瞬間には、剣を突き刺す事が可能だろう。


『……降参は…しないか?』


 そう問うシュバルにショウマは頭を横に振る。

 負ける訳にはいかなかった。諦める訳にはいかなかった。

 誰にも負けないというレグラスとの約束もあるし、何より、目の前の相手を倒せないようでは、全ての悪夢獣を滅ぼすなんて事は出来る訳が無い。


『……慣れていないとはいえ、僕をここまで追い詰めたんだ。この敗北は恥じるべきものでは無いよ』

『……ああ、そうだな。恥じるべき敗北じゃない…ぜっ!!』


 止めを刺すべく近付いて来たダークシュバリエに対し、シルブレイドは右脚1本で地面を蹴り、一瞬でその懐に入り込む。

 だがダークシュバリエは既に剣を引き、後はそれを突き出すだけ。

 しかしダークシュバリエの剣は引いた状態のまま動きを止め、直後、後ろへと傾き、その上半身が地面へと落ちる。


『……まさか…こっちの反射速度を越えるスピードがまだ出せるなんて……見事だよ……』


 シルブレイドの居合切りのような神速の右腕の一振りで、ダークシュバリエは腰から真っ二つに両断されていた。


『いや、単純な話だよ。重いブレイドソーを手放したから軽くなったってだけさ。後はアンタが鎧甲を全部外して防御力が無かった事。シルブレイドの右腕が剣の重量を支えられるように頑丈に造られていた事。そしてオーバーブーストの効果がまだ残っていた事。それらが全て上手く噛み合った結果だよ。乗り慣れていない機体で、調整が不十分でアンタの反応速度に機体が追い付いてなかったからってのもあるかもしれないな。シュバ…いえ、シルフィリット先輩』

『あれっ?いつから気が付いていたんだい?一応、喋るのは最小限にして声音や喋り方も変えてたんだけど』

『最初に違和感を感じたのはあの無駄の無い動き方。初めて先輩の戦いを見てから、ずっと目に焼き付いていて、それに近付けるようにずっと訓練してたからね』


 ショウマがシルフィリットみたいな動きだと思ったのは当然である。本人の動きだったのだから。

 それにもし本物のシュバルがその動きを体得していたなら、いくら相方のノワールの勝率が気紛れでも、チームの順位はもっと上位になっているだろう。


『決め手になったのはあの剣。あんな釘のような杭のような特殊な形の刺突剣は他にないだろう?』

『本当は抜かないつもりだったんだけどね。予想以上に君が強かったから、ついついね』


 シンロード魔動学園の3年生にして、イムリアスとは幼馴染み。

 最強の騎士である事を証明する“騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイツ”の称号を賜り、世界で初めて学生の身で騎士叙勲を受けて、独自の判断と最高権限を与えられた最年少の正騎士。

 そして伝承にもなった金色の救世騎士の末裔。

 それが目の前にいるシルフィリット=パーシヴァルという青年だった。

 彼は昨日、シルブレイドに使われる特殊素材を納品する為にシンロードを訪れて今日の事を知り、急遽、シュバルと乗り換えたのだ。

 本来、学生の能力と成績を評価する為のランキング戦で、乗り換えなんて事は出来ない。

 だが今回はお祭り的な要素を含んでいたという事もあり、アイリッシュ理事長も、イーグレット学園長も承諾。

 シュバルとブラックロータスのメンバーも、シルフィリットが出る方が確実だと言う事で快諾した。

 ちなみにノワールにだけは、この事は秘密にしてある。

 もし彼女に知られれば、彼との戦いを渇望していた彼女とも戦うはめになったかもしれないからだ。


『…っと、色々とまだ聞きたい事はありますが、それは後で。今は……』


 オーバーブーストの効果が切れて放熱板から蒸気を立ち昇らせながら、ショウマはシルブレイドを片足で無理矢理立ち上がらせる。

 機体の損傷は激しく、オーバーブースト後のクールタイムの為、性能も著しく低下している。

 これ以上戦う事は正直に言って難しいが、せめてシアニーに“姿無き光ヴァニッシュメントライト”の事を伝えなければならない。


『彼女の事が心配?でもショウマ君が思ってるほど彼女は弱くは無いよ』


 確かにシルフィリットが言う通り、シアニーは弱くない。

 むしろ体術ではショウマより強い。

 真正面から正攻法で戦えば、まず間違いなく彼女が勝つだろう。

 だがその半面、搦め手には弱い。

 自分の間合いに入らせて貰えなかったり、今回のように姿を消すような相手では、自分の戦い方に持ち込めない為に苦戦を強いられるのだ。


『君はもう少し彼女の事を信じたらどうだい?ほら、そう言っている間に決着がつきそうだよ』


 シルフィリットに言われ、ショウマはシアニー達が戦う場へと視線を向けた。

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