第66話 グループリーグ最終戦は正直、消化試合
チーム・キングスの快進撃は続く。
流石に毎回、全機撃破とはいかなかったものの、当然、敗ける事は無く、それどころか苦戦すらする事も無く、コンスタントに点数を稼いでいった。
グループリーグ最後の週には、チーム・キングスと2位との差は既に20点以上離れ、最後の2戦ともサボりでもしない限り、入れ替え戦への出場は確定していた。
流石にここまで実力に差が出てくると他のチームが不憫に思えてくるが、この程度でシアニーが手を抜く訳も無い。
彼女は圧倒的な力を見せつけて、最終週の第1戦目で10点を獲得。
これでショウマが不戦敗でペナルティを受けたとしても下位グループトップは変わらない。
しかしチームの順位に影響が無いとはいえ、ペナルティを受ければ個人的な評価の方には影響が出てくる。
それ故に、ショウマは渋々といった感じでランキング戦に挑んだ。
「まっ、消耗しない程度にやれば良いか……」
シルブレイドは既存の魔動機兵とは異なる素材を多く使用している。
以前の修復作業の際に、学園長に依頼されたシルフィリットから材料を多めに確保して貰ってあるし、何故かその依頼が終わっているというのに定期的に送られてくるのだそうだ。
その為、1度くらいなら全損しても修復出来るだけの在庫はある。
フレームに使用されている雷鉱が入手困難な以外は、そこまで手に入れるのが難しいものは無いが、既存の量産部品と異なる1点ものが多いので、加工の手間などを考えると、どうしても既存品よりそれなりに割高になってしまう。
その為、部品の消耗を抑えられるに越した事は無いのだ。
(そういえば、ロボットもので専用機がガシガシ前線で戦ったり破壊されたりしてるけど、現実に置き換えてみると、あんなことされたらいくら人手と金があっても足りねぇわなぁ。ご都合主義で完全に元通りになってたりパワーアップしてたりするけど、たった1機の為にそこまでするくらいなら、その分を量産機に回した方が戦力的にはアップするしなぁ)
フェアリュートやクリムズンフェンサーのような強力な機体は、確かに戦局を打破する切り札となる強さを持っている。
だが、その運用費と維持費を考えるとコストパフォーマンスが良いとは言えない。
それと見合ったコスト分で、闘機大会の出場機体の1機くらいは造れるだろうし、正式量産機ならば維持費込みで20機は生産が可能だろう。
先日の帝国残党のようなイレギュラーが極稀にはあるが、今現在のこの世界の戦いの殆どは悪夢獣との戦いである。
数が多く、どこに現れるか分からない悪夢獣に対するには、こちらも数で応戦する方が効率的なのだ。
と、ランキング戦の最中にも関わらず、ショウマがそんな事を考えているのは、単に暇だからという一言に尽きる。
入れ替え戦直前の最終戦。
奇しくもチーム・キングス以外の3チームは、入れ替え戦最後の1枠を数点差で争う2位グループだ。
最後まで生き残って1点を獲得するだけでも順位が変わる可能性があり、もし1機でも倒す事が出来たなら、下位グループランキング2位の座は目と鼻の先に見える事だろう。
その為、勝ち目が薄いと分かっているシルブレイドには目も向けず、残り3機が争っているという状況。
無駄な消耗を避ける為に、もし向かって来るなら迎え撃ち、そうでなければ最後の1機になるまで傍観すると決め込んでいたショウマは、開始から15分もの間、1歩も動いていなかった。
そしてあまりにも暇だったので、機体のコストパフォーマンスについて考えを巡らせていた。
といっても思い付きでそんな事を考えていた訳ではない。
来週までにコストパフォーマンスに関する論文の課題が出ているので、その為にこの時間を利用して頭の中で整理していたのだ。
「さぁ~て、どんな状況になってるかな?」
闘技場の方に意識を戻すと、どちらが倒したかは不明だが、1チームは既に脱落していた。
薙刀を持つ方が執拗に攻め込んでいる事から、片手剣と丸楯を装備した方が1機目を倒し、ポイント的に優位を奪ったのだろう。
果敢に薙刀を振り回すも、丸盾がその全てを防ぎ、かわし、いなしていく。
残り時間も僅かになって焦り始めたのか、薙刀の振りが大きくなる。
薙刀使いに大きな隙が出始めるが、それでも丸楯使いは防御に専念し、反撃をしようとしない。
それを外から見ているショウマは感心する。
「へぇ~、あそこで反撃しないって事は、あの隙がワザとだって事を見抜いていたのか」
実力が拮抗して膠着状態が続いた時、ワザと隙を作るというのは、読み合いや駆け引きが重要な対人戦においては、よくある手法だ。
しかしそれが罠だと分かっていれば、リスクを冒す必要の無い側はわざわざ踏み込む必要は無い。
丸楯使いの騎士は、恐らくそういう読み合いに長けた人物なのだろう。
そうこうしている内に試合時間は残り5分となる。
2機の決着はこのままでは付きそうもない。
なのでショウマはこの戦いに割り込む事を決めた。
このまま終了時間まで何も動かないというのも個人評価に関わるかもしれないし、なにより背後の客席から聞こえるチーム・キングスの面々が煩いというのが一番の理由だ。
イムリアスとアーシェライトはショウマらしいと苦笑を浮かべるだけで静かなものだが、スパーナは「おら~っ!早くぶっ壊せ!!」とか「相手の技師が泣くくらいにボロボロにしてしまえ~!」などと大声を張り上げているし、レンチアは「整備大変なんだから、壊されたり無理させたら承知しないからね!」と脅しを掛けて来る。
プライナスは「そうっすよ~!」と上級生2人に半ば強制的に同調させられている様子だ。
そして最も煩いのが、
「コラ~!あんた、それでも男なの!!ちゃんと戦いなさいよ!相手が弱るのを待つなんて騎士らしくないわよっ!!」
自分を偽る事を止めたシアニーだった。
ショウマとしては他の3チームが自分達の力で入れ替え戦の座を勝ち取るのを見守る方が騎士道精神に則っていると思うのだが、どうやら彼女の騎士道はショウマとは異なっているようだ。
以前程、勝つ事だけには拘っていないようだが、やるからには全力で闘い、勝利するのが彼女の信条。
傍から見て、それが例え弱い者苛めに見えようとも、対戦後に清々し程に裏の無い美しい満面の笑顔で対戦の礼を振り撒かれたら、憤りを感じる者は少ないだろう。
だが、同じ事をショウマがやった場合はそうはいかない。
シアニーの側仕えとか使用人という噂を否定しなかった為、彼女にお近付きになろうとする者やファンクラブのメンバーなどは、シアニーに最も近い彼の事を疎ましく思っている者が多い。
今残っている2人もそんな人物らしいので、極力、同時に相手はしたくなかったのだが……。
「…はぁ。しょうがない、動くか。どうやら膠着状態みたいだし……別に外野が煩いからじゃないからな」
自分自身に言い訳しながら、シルブレイドが動き出す。
『そろそろこっちの相手をして貰うぞ!』
わざわざ声を掛けて、2機に自分が動く事を示す。
本来ならそんな事はしなくてもいいのだが、何も言わずに攻撃を仕掛けたら、対戦後にまた色々と問題が起きかねないからだ。
そう宣言してから、シルブレイドを2機が睨み合う間に剣を振り下ろして割り込む。
当然、丸楯使いと薙刀使いの2機は後ろに退がって避ける。
シルブレイドが挟まれる形になるが、これはショウマの狙い通り。
点数的に恐らく負けているだろう薙刀使いは、得点狙いの為にはシルブレイドを狙うか、迂回して丸楯使いを狙うしかない。
だがシルブレイドと戦うのはリスクが高いと踏んでいるのか仕掛けるのを躊躇っている。
対する点数で上回っている丸楯使いの行動は早かった。
それは脱兎のごとくという言葉そのもので、一瞬で転身して、一気に間合いを離そうとする。
「けどそれは予想済みだ!」
シルブレイドは丸楯使いが加速する前に間合いを詰めて剣を薙ぐ。
逃げに入っていた丸楯使いは、その丸楯でなんとか斬撃を防ぐも、体勢が悪かった為、横へと体勢を崩す。
止めの一撃を加えようとした瞬間、シルブレイドの背後から刃が迫る。
「悪いけど、それも予想済みだし、見えてるんだよね」
シルブレイドの左腕が背中側に曲がり、背中に迫っていた薙刀を横から叩き、軌道を逸らす。
完全な死角からの攻撃を振り返りもせずに払い除けた事に動揺する薙刀使い。
しかし後ろから来る事が予想出来ていたならば、こんな事はショウマとシルブレイドには造作も無い事だ。
何度も言っているように魔動機兵は人が自分の手足のように扱えるように人間を模して造られている。
当然、視界も操縦席の正面から200度程が見えるような仕組みになっている。
そこはシルブレイドも同じなのだが、1点だけ異なる部分がある。
それは操縦席自体を任意に回転させる事が出来るという点だ。
上半身をグルグルと回転させる度に操縦席まで回っていたら、目が回ってしまうから闘機大会後に改装したものなのだが、それ以外にも使いようはある。
今回のように死角から攻めて来ると簡単に予想出来ている場合、予め操縦席を90度回転させておくと視界は横、つまり首を小さく振るだけで機体の正面と背後を見る事が出来るのだ。
これを駆使すれば、シルブレイドに死角は存在しなくなるのだった。
『悪いけど、こいつでお終いだ』
薙刀をいなされて、たたらを踏む薙刀使いの頭部に剣を叩き付け、その側頭部が陥没する。
続けて上半身を1回転させながらチェーンソーモードを発動させて陥没した頭部を容赦無く斬り刻み、続け様、ようやく体勢を立て直した丸楯使いの右膝に向けてチェーンソーを振り抜き、スッパリと切断する。
逃げる事が出来なくなった丸楯使いは降参の意を表すかのように片手剣を手放し、両手を上げる。
試合時間、残り1分弱。
たった数分でショウマとチーム・キングスは入れ替え戦前の最後の試合を勝利で飾るのだった。
* * * * * * * * * *
「ああ、やっぱりいいわぁ~♪」
観客席の片隅で、彼女はシルブレイドの戦いを蕩ける様な表情で見ていた。
色白な肌をフリルの付いたゴシック調のドレスで纏い、赤茶色の頭の左右からはクルクルとカールしてドリル状になった、敢えて名称を付けるとしたらドリルツインテールが生えている。
「ああ~、ショウマ様~。早くこの想いをあなたにぶつけて、私のモノにしたいわぁ~♪」
まるで恋する乙女のように頬を上気させ、腰をくねらせながら、ただただ視線をシルブレイドに注ぐ。
もしこれがスタイル抜群な大人な女性なら、その色香に釣られて、周囲に男子が集まって来るのだろうが、彼女の周囲には誰1人として居ない。
童顔で胸元もささやかで腰のくびれも見て取れない。
幼女とまではいかないまでも少女と言っても過言ではない彼女が独り言をブツブツと呟きながらクネクネと変な踊りを踊っていれば、その怪しさの前に誰も近付こうなどと考えはしないだろう。
だが彼女はそんな周囲の目など気にはしない。
ただ1人。
彼からの視線を独り占め出来れば、それで十分なのだから。
「うふふっ、待っていなさい♪来週にはこのノワール=アーク=ワールアックが、あなたをモノにしてあげるからっ♪」
ノワールはシルブレイドが闘技場から姿を消すその時まで、熱い視線を送り続けるのだった。




