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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第5章 魔動学園熱闘編
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第65話 ポテンシャル

 シンロード魔動学園屋内運動場。

 そこには半径500mの円形舞台があり、その周囲を10mを越える高い壁が覆っている。

 その上にはすり鉢状に観客席が設えてあり、屋内という名の通りドーム状の屋根で覆われている。

 王都フォーガンにある闘技場を模して建設された事から、学園の者からは闘技場という通称で呼ばれている。

 闘技場は春からの半年は主に生徒の肉体鍛錬の場として利用され、残り半年は校内ランキング戦に使用されている。

 そして今正に、そこでは4機の魔動機兵が戦っていた。

 女体を彷彿させるシルエットの蒼白の魔動機兵“エスト=アースガルト”を中心にその周囲を剣と楯を手にした赤、青、黄の3機の魔動機兵が囲っている。


「ふ~ん。まずは私を先に片付けようって事ね」


 囲まれているにも関わらず、エスト=アースガルトを操るシアニーの表情には余裕が浮かんでいる。

 3機の魔動機兵にはそれぞれ彼女より上の学年の騎士が乗っている。

 訓練期間に1年以上の開きはあるが、ただそれだけ。

 元々の基本能力が高ければ、訓練期間が短ろうと関係が無い。


「完全にこっちだけ狙ってくれるなら好都合よ!パーフェクト勝利させて貰うわ!!」


 エスト=アースガルトが先に仕掛ける。

 刺突剣を軽く振るった後、一気に正面にいる赤い魔動機兵に迫る。

 接近を察知した赤い魔動機兵が迎え撃つ為に1歩を踏み出そうとした所でガクンと前に躓く。

 いつの間にか地面は白く凍っており、そのせいで片足が地面に張り付いていたのだ。

 体勢を立て直そうとしている隙に一気に間合いを詰め、氷の刃を纏わせた刺突剣でその頭部を貫く。

 続いて左から攻めて来る青い魔動機兵に生み出した氷柱礫を放って牽制しつつ、背後から迫ってきた黄色の魔動機兵の斬撃を振り返る事無く、舞うように避ける。

 そのまま軽く背中を押してやれば、黄色い魔動機兵はたたらを踏んで、反対側に居た青い魔動機兵を巻き込んで転倒。

 エスト=アースガルトはふわりと舞い上がって、転倒した2機の魔動機兵の胸を片足ずつ踏みつける。


『ここで脚に力を入れれば終わりだけど、まだ抵抗する?』


 抵抗する手段を持たない2機は降参する以外に打つ手は無かった。



 その数日後。

 今度は白銀に輝くシルブレイドとショウマが闘技場で暴れていた。

 ブレイドソーの柄を引くと、ギュイィィンとチェーンソーが轟き、構えていた相手の楯をまるでチーズのように斬り裂き、戦意を削ぐ。

 突撃槍を構えて突進してくる魔動機兵に対しては、上半身を90度真横に倒すという人間の動きでは有り得ない方法でかわしながら、その頭部に剣を叩き付ける。


『さぁて、こいつでラストだ!!』


 長槍でシルブレイドを接近させないように遠い間合いから攻撃していた魔動機兵に対し、槍を引いた僅かな隙にオーバーブーストを使用して一気に間合いを詰め、剣で槍を半ば程から断ち斬る。


『武器を失ってもまだ立ち向かうか?』


 剣を突き付けて問い掛けると、相手は堪らず降参した。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



「凄いっす!凄いっすよ!!2人とも凄いっす!!どっちも全機倒しての完全勝利とかありえないっすよ!!」


 プライナスがいつにも増して興奮しているが、当の本人達はさも当然だとばかりに涼しい顔をしている。

 それも当然だ。

 ショウマとシアニーはランキング上位のチームからスカウトが来る程の実力者であり、そもそも下位グループに居るような人間では無い。

 実力差に大きな開きがあるのも当然だった。

 その上、初戦で勢いを付ける為にどのチームも一番実力がある上級生を初戦に出したのが、それでも全員がシアニーよりも実力が下で、2戦目は全員がショウマと同級生だった故、負ける要素は皆無だった。

 とはいえ全機撃破は出来過ぎだったと本人達も思っているが。


「プライナス、少しは落ち着け。まだランキング戦も始まったばかりなんだから」


 イムリアスが落ち着くように声を掛けるが、彼の興奮が冷める事は無い。


「何言ってんっすか、イムリアス先輩!!最初の1週目だけで20点も取るなんて、前代未聞の事っすよ!!」


 ランキング戦は闘機大会と同じのように4チームが1機ずつ代表を出して戦い合うバトルロイヤル方式だ。

 制限時間は30分。

 その勝敗決定方式も闘機大会と同様で、頭部破壊、戦闘続行不能、そして降参によって敗北となる。

 ただし闘機大会と異なるのは、相手を敗北させた者に3点、試合終了時に敗北条件を満たしていなかったら1点という点数が与えられる事。

 ランキング戦は同一チームで2戦、週初めの1日目と中2日を開けた4日目にそれぞれ行われる。

 そして騎士は余程の事情でも無い限り、週に1回は必ずランキング戦に出なければいけず、大した理由も無く不参加だった場合にはマイナス5点のペナルティが課せられる事になる。

 これらの総得点でグループ内のランキング順位が決まるのだ。


「でもプライナスの言う通り、確かに凄いな。こいつは」


 戦闘データを纏めた記録用紙を眺めながら、レンチアは驚きの表情を浮かべる。

 記録用紙には稼働時間や各部の使用率などが記載されているが、その中でも特に目立っていたのが、各部の負荷率と損耗率だった。


「3機の撃破と稼働時間の割に、機体の…特に手首や肘、膝といった関節の負荷が小さい。特にシルブレイドの方なんて、あんな重い剣を振るってるのに、エスト=アースガルトより腕の負荷率が低い。ほとんど最小の動きをしていると言っても良いね………」


 確かにこのデータを見る限り、シルブレイドには殆ど動きにロスが無い。

 ショウマ自身が極力、無駄な動きを無くすような訓練を積んできた結果だが、それを思考で制御しない機体で実践出来るのは、彼が機体の動かし方をしっかりと把握しているが故だろう。

 シアニーが保証した通り、確かに彼の方が魔動機兵を効率的に動かす事には長けているようだ。


「しかしそれにしてもシルブレイドの性能は凄いな」


 データ上だけで言えば、負荷率と損耗率以外はエスト=アースガルトの数値とほぼ同じ。しかし、シルブレイドの出力は、これでもまだ50%。

 つまり出力を全開にすれば単純計算でも2倍の性能がある事になる。

 先日の初顔合わせの時にショウマは、初戦で実力を証明してみせると自信満々に言っていたが、これならば自信があって当然だ。


「これなら相手が誰でも…それこそ、あのシルフィリットでも勝てるんじゃないかい?」

「…い、いえ。多分、で、ですけど、無理です。現状では全開には出来ませんから……」


 レンチアに反論したのはシルブレイドの事を良く知るアーシェライト。


「…シルブレイドの動力炉は特殊です……」

「確か、魔電動力炉っすよね?電力ってものが未だに良く分かって無いっすけど、簡単に言うと、動かす為の力が違う動力炉を2つ持ってるって事っすよね?」

「…は、はい。そうです。そしてショウマさんだけが乗る場合は…その…電力でしか動かせませんけど…」


 流石に異世界人で魔動力が皆無だとは言えないので、ショウマの魔動力は普通に比べてかなり少なく、普通の魔動機兵を動かせる程は無いとチーム員には説明してあるのだ。


「つまりは動力炉の半分しか使えてないって事だ。だから数値上の出力は50%でも、実質は普通の100%と同じなわけだ」


 アーシェライトの言葉をイムリアスが引き継ぐ。


「一応、操縦席は複座仕様にはしてはあるが、ランキング戦が授業の一環である以上、2人乗りは許可されないだろうしな」

「…はい。それに、もしそれが許可されて、動力炉をフル稼働出来たとしても機体は…僅かな時間しか耐えられない…と思います……」

「ああ、やっぱ、そだよねぇ~」


 その話に、今までショウマと機体の調整について話し込んでいたスパーナが割り込んで来る。


「常にオーバーブースト状態だと思えば、耐えられないってのも納得だわな。姉さん、このデータ見てみ?」


 スパーナから渡された紙は今まで見ていたものと同じ様式のデータシートだった。

 だがそこに書かれてある数値があまりにも異常で目が釘付けになる。


「なんなんだい、これは!これが本当に同じ機体の同じ戦闘時の数値なのかい!?」


 それはシルブレイドがオーバーブーストを使用した際の数値だった。

 本来、使わなくても勝てた試合にわざわざオーバーブーストを使用したのは、その際のデータを取る目的があったからだ。

 オーバーブースト時は通常時に比べて全ての数値が20%近く上昇している。

 出力や反応速度などは当然だが、同時に機体や操縦者に掛かる負荷や可動部の損耗率なども上昇している。


「今回は使用時間が短かったんで、負荷はこんくらいで済んでるけど、この状態が5分以上続いたら確実に自壊するね」

「…あ、はい。ス、スパーナ先輩の言う通りです。だ、だからオーバーブーストには制限時間と…そ、その後の自壊を防ぐ為のリミッターとして…出力制限とクールダウンの時間を設けているんです……」


 シルブレイドのこれまでの殆どの戦いは、ほぼ必ずどちらか片方の動力炉しか使用していない。

 ショウマしか乗っていない時は当然、電動力炉しか使用していないし、シアニーやアーシェライトが乗って魔動力炉を使用した場合も、電力不足だったり、アーシェライトが出力調整を行って50%を越えないようにしていた。


「これじゃあ、折角の高性能も宝の持ち腐れじゃないっすか。強度補強するとか冷却装置を強化するとか、なんとかならないっすか?」


 レンチアの脇からデータを覗き見ていたプライナスが至極真っ当な質問をする。

 だがシルブレイドの修復作業の際にイムリアスやアーシェライトがそれを考えない訳が無い。


「結論から言うと無理なんだ。これ以上強度を高めようとしたら、最も負荷の掛かる関節部をブレイドソーみたいに完全にアダマス鉱で造る必要があるんだが、その分重くなるし、アダマスは電気を殆ど通さないから電力では動けなくなる」


 イムリアスはお手上げだとばかりに肩を竦めながら説明を始める。

 例え出力が上がっても重量が増えて、今よりも動きが悪くなれば本末転倒であるし、そもそも電力が通わなければ動かないので、その補強方法を取る事は出来なかった。


「それと冷却装置だが、これ以上強化した所で焼け石に水。色々と試した結果が、今のバランスなんだ」


 冷却装置も使用すれば放熱する。

 冷やす為に更なる熱を発生させては意味が無い。

 それに今より冷却能力を上げる為には大型化が必要であり、そうなると重量が嵩む。

 これ以上補強出来ない関節は、立っているだけでもその重量分だけ常に負荷が掛かる事となり、10分も稼働させたら脚がバラバラになってしまうだろう。

 そもそもが魔動力の無い世界で造られた機体であり、その強度がその両方の動力炉を同時に使用する事は考えられていない。

 それ以前に、何故、魔動力を動力源とする動力炉が向こうの世界で造られたのかという謎があるのだが、それを知る術は今の所無いので考えない事にしている。


「……ドラグナイト…でも…あったら…………」


 アーシェライトの零した呟きに魔動技師全員が耳聡く反応するが、それはあまりにも現実的な話では無かった。

 現代においてドラグナイト鋼と呼ばれる金属は、発掘された魔動王国時代の魔動機兵の極一部からしか発見されていない、魔動技師の中では伝説の金属とまで言われる程に希少な金属だった。

 しかも長い年月をその解析だけに費やして尚、その組成すらはっきりしておらず、現在の技術では加工する事さえ出来ない代物であった。

 真偽の定かでない噂によれば大陸最西端の禁忌の地ならば、ドラグナイトそのものの採掘、あるいはその組成成分の採取が出来るのではないかと言われている。

 しかしそれを確かめる術は今の所無い。

 禁忌の地は悪夢獣の発生源である事もあり、無数の強力な悪夢獣が生息している。

 その上、西に向かえば向かう程、体調を崩したり、原因不明の病気を患ったりする。

 禁忌の地の手前にある西方最前線が、正しく人間が到達出来る最西端となっていて、その先は人が踏み入る事の出来ない場所なのだ。

 その為、その先に何があるのか、何が眠っているのかは誰にも分からない事だった。


「あんなもん、学生が手に入れられる代物じゃないって。っていうか貴族でも無理でしょ。俺っちが知る限り、この世であれが使われてんのは2機だけっしょ?」

「そうだね。1機は前国王が金に糸目を付けずにドラグナイトを掻き集めて造らせた国王機フェアリュート。もう1機はシルフィリットが“騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイツの称号と同時に賜ったっていうクリムズンフェンサーだね」


 スパーナとレンチアが顔を突き合わせて事実確認するが、その2機も全てにドラグナイト鋼が使われている訳ではない。

 ドラグナイト鋼はアダマス鉱を遥かに凌ぐ硬度があり、魔動王国時代には負荷の掛かる関節等に主に使われていた。

 シルブレイドを修復する際に利用した魔動王国時代の魔動機兵の設計書9番でも、関節部にはドラグナイト鋼を使用すると書かれてあった程だ。

 しかしドラグナイト鋼は元々希少であり、先述したように現在では加工技術も確立していない。

 製造も加工も出来ない以上、過去の遺物をそのまま流用する事しか出来ず、2機とも最も負荷の掛かる箇所の関節に使用されている程度。

 その硬度の為、滅多に壊れたりする事が無く、負荷率の高い箇所の部品にはもってこいの素材ではあるのだが、もし万が一にも壊れた場合には換えがきかないというデメリットがある。


「まあ、現状でも十分高性能なんだし、無い物強請りをしてもしょうがないだろう。そんな事より、ほら!損傷も無く、データ上でも殆ど損耗してないが、一応は動かしたんだから点検整備を行うぞ!」


 イムリアスの号令に魔動技師達は返事を返すと、機体整備を開始するのだった。

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