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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第5章 魔動学園熱闘編
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第64話 チーム・キングス

 イムリアス・キングスロウ。

 彼の事を初めて見る者は、その2m近い筋肉で覆われた体躯を見て、騎士科か衛兵科の人間だと思うだろう。

 そして毛の一本も生えていないスキンヘッドを見て、制服を着ていても教師か保護者に間違えられる事もしばしば。

 それらから怖そうなイメージが浮かび上がるかもしれないが、その顔に張り付いた目尻の垂れた線のように細い目が常に温厚に笑っているように見えて、優しそうなイメージしか湧かない。

 同級生はもちろん、上級生でさえ“イムさん”という愛称で親しみを込めて呼ばれる彼は、当年17歳の現役のシンロード魔動学園魔動技師科の2学年生である。

 その彼の前にはショウマを含む6人の男女が並んでいた。

 イムリアスは6人それぞれの顔を見回した後、口を開く。


「今日から約半年間、ここに居る全員が同じチームとして活動するメンバーとなる。見知った顔もあるかもしれないが、初顔合わせの者も居るので、まずは全員、自己紹介でもするか。まずは俺からだな。イムリアス=キングスロウ。魔動技師科の2年だ。一応、このチームのリーダーって事になっている。んじゃ、次」


 イムリアスの自己紹介は簡単なものだったが、彼だけがここに居る全員と顔見知りなので、詳しく説明する必要も無い。


「んじゃ、俺っちからだ」


 そう言うとツンツンに逆立った茶髪の男が1歩前に出て、他の5人にその顔を見せる。

 それなりに整ってはいるが、どこか軽薄そうでお調子者っぽい顔立ち。

 制服は着ているが、上着のボタンは全て外されており、ワイシャツの裾も出していて少しだらしない。

 腰のベルトにはまるでシルバーアクセサリーのようにジャラジャラと大きさの異なるスパナが大量に吊るされていた。


「俺っちはスパーナ。スパーナ=ボルナットって言うんだ。ヨロシク!イムさんより1コ上の技師科3年。もし何か分からない事があったら、俺っちに聞きに来てくれ。まぁ、女子限定だけげばふはぁーっ!!」


 自己紹介の途中でいきなりスパーナが悶絶する。

 視線を少し下にずらせば、その理由はすぐに分かる。

 隣に居た女性の右拳が、彼の脇腹に深々と突き刺さっていたのだ。


「ったく、いっつもそうやってすぐに下級生に手を出そうとするから、チームから追い出されたり、長く居られないんだよ!少しは学習したらどうなんだい?!」

「…女の…子を……口説くのが…俺っちの……アイデンティティー……」

「ああん?あたいは1回も口説かれた記憶が無いんだけどねぇ~?」

「…だってアネさんは女の“子”じゃなぐげぼはぁっ!…………ひ、左……は……ダメっす……よ…………」

「ふん!男として不能にされなかっただけ、ありがたく思いなっ!」


 ベリーショートの赤茶色の髪の女性の言葉が耳に届いたかどうか。スパーナは彼女の左手で鳩尾を貫かれて、白目を剥いて崩れ落ちていく。


「はぁ~、全く。腕は良いのに、そんな性格だからどこのチームにも入れて貰えないんだよ。イムが拾ってくれなかったら今頃は…………って、あっはっはっ、すまないね。いつもの事だからこいつの事は全く気にすんな」


 まるで何事も無かったかのように、女性は他の4人の方へと振り向く。

 ノースリーブにオーバーオール姿の彼女は、ニカッと笑みを浮かべてから自己紹介を始める。


「あたいは技師科4年のレンチア=カーペントさ。こん中じゃ一応一番年上ってことになるが、纏め役ってのが苦手なんで、リーダーはイムの奴に任せたんだ。もし何か相談する事や聞きたい事があったら、スパーナの奴じゃなくてあたいにする事をお勧めしとくよ」


 髪はややボサボサで化粧っけも無いが、いかにも姉御肌でスパーナよりも漢らしさを感じる。

 そんな彼女には気になる点が1つあり、ショウマは尋ねる。


「レンチアさんの左腕って………」


 彼女の左肘から指の先まで鉛色に輝いていて、明らかに人間のものでは無かった。


「ん?ああ、こいつは魔動機兵の技術を応用した魔動義手さ。まだあたいが幼い頃、アルザイルがフォーガンと戦争していた頃に運悪く巻き込まれちまってね。そん時に潰されちまったんだ」

「す、すみません!変な事聞いてしまって……」

「そんなの気にしなくて良いよ!それに今じゃ、こっちの方が元の手より器用に繊細な作業が出来るからね。もし換えられるなら右手も換えたいくらいさ」


 レンチアは豪快に笑い飛ばす。

 その表情にも言葉にも悲壮感は全く感じられない。

 確かに腕を無くしてすぐは、利き腕を失って立ち直れそうにない程に絶望して世界を呪い掛けた事もあった。

 義手や義足といったものは元から存在したが、魔動力で自分の意思通りに動く魔動義手は、その時代はあまりに高価で貴族でもおいそれと手に入れられる代物では無かった。

 だが、たまたま訪れた旅の魔動技師が幼かった彼女を不憫に思ったのか、無償で魔動義手を与えたのだ。

 その後、旅の魔動技師は名前も告げず去って行ってしまい、礼を言う事すら出来なかった。

 その時レンチアはそんな名前も知らぬ魔動技師のように、魔動具で人々を助ける事が出来るような魔動技師になる事を決意した。

 そしていつか再会する事が出来た時には「あなたのおかげで立派な魔動技師になれた」と胸を張って言える人物になると決めたのだ。


「まぁ、そう言う訳で宜しく頼むよ。ほら、次はあんただよ!」


 レンチアの義手の左手で背中を叩かれ、咳き込みながら小柄な薄紫の色の髪の少年が前に出る。

 これから成長する事を期待してなのか、かなりダブダブの制服を着ている。


「えええっと、ぼぼぼぼ僕はプライナス=ディ=ライバーっす!こここ今年本科に進級したばかりのまま魔動技師の1年っす!イイイムリアス先輩に憧れて、このチームに入ったっす!よよよ宜しくお願いいい致しますっす!!」


 小柄な体格からは想像出来ない程、大きく響く声を出すプライナス。

 憧れの先輩がいるからなのか、それともそれ以外の理由があるのか、頬を赤く染め、緊張でやや声が上擦っているが、元気だけは十分にあるようだ。


「んあっ?ミドルネームがあるっつー事はお前っちは貴族か?」


 プライナスの大声で意識を取り戻したのか、鳩尾を擦って起き上がりながらスパーナが尋ねる。


「あ、はい!ですが6男で家を継ぐ訳でも無いっすし、小さい頃から魔動具を弄るのが好きだったっす。なのでこの道を目指したっす!」


 ただ単に好きというだけでこの学園には入れない。

 相当な勉強と努力、そして魔動技師としての才能が彼にはあるのだろう。

 ただし貴族という割には言葉に品性が足りようないので、技師の勉強ばかりで、その辺りの勉強の方は疎かだったのかもしれない。


「そんじゃ、技師科の面子は次で最後だな」


 イムリアスに促され、小さくコクンと頷いたのは、プライマスより更に小柄で瓶底眼鏡を掛けた男子制服姿の少女だった。


「…ア、アーシェライト=ケレイル。技師科1年…です……」


 プライナスの声が大きかった事もあり、彼女の声は蚊の泣くような小さな声だった。

 大半が知り合いとはいえ、彼女は元来人見知り。

 3人も初めて出会う人間がいれば、こうなってしまうのも仕方が無い。

 声を出しただけでも成長したと言えるだろう。


「……よ…よろしくお願いします…………」


 ペコリとお辞儀をすると瓶底眼鏡がずり落ち、それを慌てて手で押さえる姿は、小動物とか愛玩動物を見ているようで微笑ましいものを感じる。

 隣で目を見開いて彼女の事を見詰め続けるプライナスの視線を感じたのか、それ以降はただ俯いて黙り込んでしまった。


「そんじゃ、次は待望の騎士である残りの2人だな」


 アーシェライトの様子を察したイムリアスが先に促す。

 ショウマが前に出ようとするより一足早く、金色のツインテールを翻しながら、シアニーが前へと出る。


「機兵騎士科1年、シアニー=アメイト=ラ=フォーガンです。愛機はエスト=アースガルト。魔動力の属性は氷。私が入ったからにはこのチームをランキング1位にするつもりなので、よろしくお願いします」


 シアニーはその大きな胸を張って、そう宣言する。

 プライナスはアーシェライトから視線を外し、そしてその胸のボリュームと彼女の美貌を前に、頬を赤くしつつも目を離せずに見惚れ続け、スパーナは鼻の下を伸ばして鼻息荒く興奮する。


「うっひょ~!!学年トップの実力でナイスバディ。しかも美少女のお姫様の頼みってんなら、俺っちは何でも協力しちゃうよ~♪ついでにベットの上でも仲良くしげぼらふはぁーっ!!!」


 調子に乗ったスパーナに対し、レンチアの再度の文字通りの鉄拳制裁。

 再び白目を剥き、今度は口から泡まで出しているが、これが日常茶飯事らしいので無視を決め込んで、ショウマはシアニーに続く。


「俺はショウマ=トゥルーリ。彼女と同じ騎士科1年。乗機はシルブレイド。これからよろしくお願いします」


 ショウマが名乗った所で、シアニーに見惚れて半分上の空だったプライナスが慌てて手を挙げる。


「あ、ああのっ!トゥルーリさんって、もしかして……もしかして、もしかすると、もしかしたりするっすか?!」


 プライナスの要領を得ない質問。

 だがショウマには彼が何を尋ねたいのか理解していた。

 ショウマの入学当初、彼に関する様々な噂が飛び交い、一時期、学生の間では有名人だった。

 故にレンチアはショウマの事を噂の範囲ではあるが知っていたし、彼の姓を聞いてもそこまで驚く事は無かった。

 だが今年の春に本科に進級したばかりで自分の事で手一杯だったプライナスに人の噂に耳を傾ける余裕は無かった。

 だからショウマの姓がトゥルーリで、魔動技師の間では有名とも言えるその名を聞いて驚くのも無理は無い。


「えっと、何が言いたいかは大体分かった。別に隠すもんでもねぇしな。造聖のトゥルーリは俺の剣の師匠で養父だ。ちなみに簡単な整備の仕方とかは習ったけど、あくまで剣を教えて貰っただけで、造聖の称号を継げるような技術なんて無いからな……」

「凄い!凄いっすよ!!憧れていたキングス工房のイムリアス先輩に、学園始まって以来の天才技師と噂されれているケレイルさん!更に造聖のお弟子さんのトゥルーリさんに、トップクラスの強さを持つ美人で王女のアメイトさん!!もうこれはランキングトップも間違いないじゃないっすか!くぅ~、こんなチームに入れるなんて僕は嬉しいっす!!!」


 興奮しすぎて、ショウマの後半の言葉は耳に入っていない。


「なぁ、なんで貴族とか王族とかって、こう人の話を聞かない奴ばかりなんだ?実は全員そういう教育を受けてるとか?」


 ショウマは数々の見知った顔を思い浮かべ、そしてその最もたる人物であるシアニーにジト目を向けながら話を振る。


「ななな何よ!なんで私に話を振るのよ!私は人の話を――」


 と、そこまで言い掛けて、シアニーはショウマと初めて出会った日の事を思い出す。

 あの日、スリと勘違いして彼を刺そうとしていた自分の事を。

 そしてその後の自分の数々の勘違いの事実を。


「――ゴメン。よく考えたら私も同じだったから反論出来ないわ………」


 3ヶ月前までならば、こんなに素直に自分の非を認めて謝ったりはしなかっただろうから、ある意味、これも成長と言えるだろう。


「あっ。あたいも1つ聞いて良いかい?」


 レンチアが興奮して五月蠅いプライナスを拳で黙らせてから、ショウマを見据えながら口を開く。


「氷結姫のお嬢ちゃんの事は、その成績も含めて実力があるのはよく知ってる。けどそっちの坊主がいくら造聖の弟子だからって、あのシルブレイドって機体を預けるだけの実力があんのかい?あれは確かキングスの最新機のはずだろ?」


 今年の闘機大会では、操縦者は明かされていないが、シルブレイドはキングス工房の代表機体として出場していた。

 しかも、テロのせいで有耶無耶になってしまったが、闘機大会では一応、シルブレイドが優勝を果たしている。

 今年の大会を知る者ならば、シルブレイドがキングス工房の最新鋭機と思うのは当然だろう。


「…えっと、実はシルブレイドは元々俺の機体……っていうか、俺が住んでた村の近くで発掘されたものでキングス工房で全面改修した機体なんだ。そんで、まぁ、色々とあって俺が闘機大会に出る事になった訳なんだ」


 嘘は言っていない。

 フューレンの村の近くの谷の中にあったし、キングス工房でその殆どを修理している。


「実は俺もこの事は後から聞かされてな。どうやら過去のシルフの奴の件もあったから学園長も了承したらしい。全く、王都支部の連中も無茶な事をしやがる」

「はぁっ!?つまりこの1年坊主があれに乗って闘機大会で優勝したってのかい?そんであんな魔動機兵では考えられない、人間業とは思えないような戦い方をしたっていうのかい?あれについては王立魔動研究所でも物議を醸してるっていう噂だし」


 彼女の口ぶりから、あの場に直接居て、ショウマの戦いぶりを見ていたのだろう。

 それにやはりこれまでの常識を大きく外れた戦法は、王立魔動研究所さえ気にする程に知られているらしい。


「え~っと、それは………」


 ショウマが口籠ってイムリアスに視線を向けると、彼は「話しても大丈夫だ」と頷く。


「実は操縦方法に秘密があって……さっきも言ったけどシルブレイドって発掘品なんだ。それで現行の操縦系である思考操作とは大分違う仕様になっているんだ。だから人間では出来ないような動き方が出来るんだよ」

「ふ~ん、操縦系統が違う発掘機ねぇ~……」


 レンチアが一瞬、訝しげな視線をショウマに向けるが、すぐにその表情は笑顔になる。

 発掘された魔動具に関しては、例えそれが今の世に存在しない新発見の物であったとしても、発掘した人物が所有者になる事が出来る。

 なので発掘品である操縦系統の異なる魔動機兵をショウマが持っていたとしても、そこまで疑問には抱かない。

 しかし魔動技師で歴史に詳しい者ならば、どれだけ遡っても現行の魔動機兵の操縦方法である思考制御操縦と異なる魔動機兵など、殆ど無い事は知っているだろう。

 なぜなら現行の操縦系統こそ、発掘された魔動機兵を復元して判明した操縦系統なのだから。

 とは言っても完全に否定する事も出来ない。

 単に他に発掘されていないだけで、もしかしたら本当にあるのかもしれないし、彼女がただ知らないだけで、既にそういう魔動機兵が発掘されているという可能性だってあり得る。

 現状ではあったという証拠も無いが、無かったと断言出来る証拠もまた無いのだ。

 もしそうだとしたら、いや、そうでなくても、これまで見た事の無い、全く異なる技術を目に出来るという喜びの前には、ショウマの言葉の真偽など、正直どうでも良い事だった。

 なんだかんだで彼女も根っからの魔動技師なのだ。


「ショウマの操縦技術については私が保証するわ。多分、魔動機兵の扱いについてなら、私より上かもしれないわね」


 シアニーの言葉をショウマは素直に受け取るが、その表情は微妙。

 確かにシルブレイドの機体性能だけで見れば、あの王国機フェアリュートと同等か、もしくは勝っているだろう。

 ショウマ自身もその性能をかなり引き出せるようになってきているので、魔動機兵を操る事に関しては、誰にも負けないと自負している。

 しかし魔動器という彼には扱えない魔動具が絡んで来ると、総合的な性能差が覆ってしまう可能性があるのだ。

 闘機大会だって魔動器の使用が禁止されていたから勝てたようなものである。

 レンチアは曲がりなりにも闘機大会で優勝した事、そしてシアニーがショウマの強さを保証した事で、納得はしてくれたようだ。


「そうかい。氷結姫が保証するのだったら、これ以上その実力を疑う事はしないよ。技師としてしっかりサポートさせて貰うよ!」

「疑っていても構いませんよ。まぁ、どうせ初戦でその疑いを吹き飛ばして見せますけどね」


 それを聞いたレンチアは大笑いしながら、ショウマに手を差し出す。

 ショウマもしっかりと握り返す。


「シルブレイドに関しては整備方法とか色々異なってくるから、当面はその構造を把握している俺とアーシェライトを主に、他の3人には徐々に覚えていって貰う予定だ。他に何か質問はあるか?……っていうか2人程気を失ってるし、もう無いようだな。それじゃあ、早速、来週からランキング戦が始まるので皆、自分の力を十二分に発揮すように。以上」


 イムリアスが締め括り、こうしてチーム・キングスは活動を開始するのだった。

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