第63話 新たなる幕開け
1つ前の幕間を11/12に一部改稿してありますので、まだ読まれていない方はそちらを先にお読み下さい
「さぁ、そろそろ観念したらどうなんだい?」
「うるせぇー!総合成績2位だからっていい気になんなよ!俺に対抗戦で1度、それも運良く勝っただけのくせに!!」
片刃が鋸のようになった両刃の大剣を軽々と振り回す黒髪黒目のやや粗野な印象のある青年と、六角形大楯をこちらも軽々と操って剣戟を防ぐ、やや縮れた深緑色の髪を持つ落ち着いた雰囲気の貴族然とした青年が、闘技場の中央でぶつかり合う。
「ふっ、君が総合成績3位なのは教師が僕の実力をちゃんと分かっているという事さ。だが、僕も対抗戦で味わった敗北は忘れてはいない。確かにお前とはそろそろ白黒着けた方が良いようだな」
大楯を持った青年、レグラス=クローブはニヤリと笑い掛けながら、剣鋸を弾き、間合いを離そうとする。
しかし剣鋸を持つ青年、ショウマ=トゥルーリはそうはさせまいと、地を這うように駆け、その懐の潜り込む。
「そうだな。いい加減、どっちが上か決めるのには賛成だ!!」
下から力任せに振り上げた剣鋸によって大楯は弾かれ、レグラスの身体が大きく仰け反る。
ショウマは剣を振り上げた勢いを殺さず、右足を跳ね上げ、レグラスの顎を蹴り上げる。
脳を揺さ振られたレグラスは数歩後ろに下がり、そして地面に片膝を着く。
対するショウマもバランスを崩し、尻餅を着くような体勢で地面に着地。
「くっ!」
すかさず剣を突き付けるも、レグラスはクラクラとした頭でなんとか楯を前に突き出して、突きを防ぐ。
「タイムアップ!そこまでだ!」
ジャージに身を包み、無精髭が目立つ顎を擦りながら、担当教師であるタンニが終了を宣言する。
それと同時に午前の授業が終わった事を知らせる鐘が鳴り響く。
「ふぅ、また時間切れか」
「へっ!制限時間に救われたようだな」
「ふん、それはこちらの台詞だ」
お互い仲の悪そうな言動を繰り返しつつも、ショウマは跳び起きて、意識をはっきりさせようと頭を振っているレグラスに向かって手を差し伸べる。
「また引き分けか。これで20回連続だな」
レグラスは嫌な顔もせず、差し伸べられた手を握り返して立ち上がる。
3ヶ月前のクラス対抗戦、そして闘機大会での遺恨はもう綺麗さっぱり無い。
あの日、仲裁に入った剣聖ソディアスに何を言われて何を諭されたかはショウマには分からないが、あれ以降、レグラスはショウマとは良いライバルになり、良い友人となっていた。
2人の対戦成績はほとんど五分。
クラス対抗戦個人戦でレグラスが勝利し、団体戦ではショウマが勝利。
しかしレグラスは今ではショウマの実力を認めており、個人戦での勝利は、審判役のタンニの誤審だと理解していて勝ったとは思っていない。
一方のショウマも団体戦では自分1人の力だけで勝てた訳ではないので、勝利には数えていない。
それ故にお互いがお互いに相手に負け越していると思い込み、その後も幾度となく授業中にこうして対戦を繰り返していたが、いつも時間切れで決着は付いていない。
しかしそれは仕方が無い事。
授業は彼ら2人だけが受けている訳ではない。
王国祭のテロで亡くなった者や重度の怪我を負って騎士として戦えなくなった者、本当の戦場を体験してその怖さを知って学園を辞めた者など、入学時に比べれば半数に減ってはいるが、約20人近くが未だ騎士科に残っている。
その上、休暇明けの授業からは座学と対人訓練以外にも、魔動機兵の操縦訓練や魔動力を伸ばす訓練、野外活動訓練と様々な訓練が増え、騎士科における対人訓練の時間はかなり減っている為、1試合は10分までと決められていた。
それに元々レグラスの戦い方は、専守防衛のカウンターが主で、隙を見て反撃するか、攻め疲れた所を狙うという戦法だ。
対するショウマは魔動器が使えない不利を補う為に絶え間無い連続攻撃を繰り出す戦法であり、剣だけでなく体術を駆使して隙を見せず、その上、人よりも体力があって10分程度なら攻め疲れる事が無い。
ショウマはレグラスの鉄壁の防御を打ち崩せず、レグラスはショウマの攻撃を凌ぐのが精一杯で反撃出来ない。
それでは決着が着かないのも道理というものだ。
ちなみに10分に近付くと、体力的なものなのか集中力的なものなのか、僅かにどちらかに傾き掛けるので、制限時間がもう少し長ければ、決着は着いているのかもしれない。
「結局、対人戦じゃ決着は着かなかったな。けど来週からは違うぜ」
「ふん。それはこちらも同じ事。だがまずは僕と戦える所まで登って来る事だな。決着はその時までおあずけだ」
来週からは遂に本格的な魔動機兵演習が始まる。
これは機兵騎士本科と魔動技師科の全生徒が少人数のチームに分かれ、それぞれのチームが順位を争うランキング戦、いわば学内闘機大会である。
1チームは機兵騎士2人を基本とし、騎士1人に対して魔動技師の人数は5人まで。
これは実際の戦場でも1機の魔動機兵に対して数人の専属魔動技師が整備を担当して運用するので、それを想定した内容となっているのだ。
ただし生徒数にも上限があり、しかも例え全体数が騎士より多いとはいえ、技師のなりてというのは少ない。
その為、大抵のチームは魔動技師が不足し、1チームに騎士が2人居たとしても、技師は5~6人程しか居ないというのが普通だった。
今年度、学内に存在するチーム数は26チームで、騎士の人数はおよそ50人、技師はその3倍の150人。
例年では20チーム前後なのだが、今年進級した騎士が20人も残っている為、チーム数が増えたのだ。
ランキング戦は上位と下位のグループで半分ずつに別れ、各グループ毎に総当りのリーグ戦を行い、月に1度、下位グループの上位2チームと上位グループ下位2チームによる入れ替え戦が行なわれる。
当然、上位グループに留まっていた方が成績が優遇される為、皆、上位を目指し、下位グループには落ちないように必死になる。
当然、ショウマ達も既にチームに所属していた。
つい先日まで優秀な人材の獲得争いが起こっていて、レグラスは同学年の総合成績が2位という事もあって、ランキング6位の上位グループのチームにスカウトされていた。
そして総合成績3位であるショウマも数多のチームから誘われたのだが、彼はその全てを断った。
というより彼には上位チームを選ぶ余地など無いのだ。
彼の乗るシルブレイドは、既存のどの魔動機兵とも異なる操縦方法を持つ異世界の機体だ。
例え上位グループの優秀な魔動技師でも、そう簡単にはメンテナンスすら出来ない。
この学園でそれが出来る者と言えば、シルブレイドの開発に関わった前世の記憶を持つ瓶底眼鏡と銀髪が特徴的な飛び級の少年のような少女・アーシェライトと、キングス工房で修復作業をした際に一緒に携わっていたキングス工房の跡取り息子のイムリアスだけであり、ショウマは必然的にこの2人の居るチームに入るしか無かった。
チームのグループ別けは基本的にチーム員全体の前期の評価によって総合的に判断される。
イムリアスは今年の春、所属したチームの騎士が他チームに引き抜かれ、その後、新しい騎士を獲得出来なかったのだが、アイリッシュ理事長の計らいでチーム戦が開始する前にシルブレイドの修復を行うという事で、なんとか前期の評価は得られていた。
アーシェライトも特例でイムリアスと同じ恩恵を受けていたのだが、その特例を受ける以前より、授業をサボっていたりと生活態度に問題があった為、最低限の評価しか得られていない。
それ故にショウマ達のチームは下位グループからの出発となっていた。
「へんっ!最初の入れ替え戦ですぐに上位グループに上がってやるから、首を洗って待ってろ!!」
「ああ、待っていてやる。だから僕に倒されるまで、誰にも負けるんじゃないぞ!」
ショウマとレグラスは再びガッチリと握手を交わす。
「ああ、はいはい。いつも思うけど、男の友情ってのはなんでこんなに暑苦しいのかしらねぇ」
水を差すように割って入って来たのは、流れるような輝く金色の長い髪を耳の後ろ辺りで纏めた変則的なツインテールの、末席とはいえ王族に名を連ねる、誰もがつい振り返って2度見してしまう程の美女であるシアニーだ。
「常勝無敗を掲げるんだったら、まずは私に勝つ方法を考えた方が良いんじゃない?」
彼女の総合成績は断トツのトップ。
いつも涼しい顔で何を考えているか分からず、近寄り難い雰囲気のせいで氷結姫などという異名で呼ばれていた彼女も、クラス対抗戦後からは、王族という仮面を被らなくてもよくなってクラスメートと交流を広げた結果、その冷たい印象は薄れて、今では親しまれる存在にまでなっていた。
その上、テロで父親を亡くして、その悲しみから立ち直ってからのシアニーは、まるで何かをふっ切ったかのようにその実力を伸ばしていた。
対人戦において、それまでは対等に戦えて、6割くらいの勝率だったショウマも、今では3回に1回、引き分けに持ち込むので精一杯な程に実力に開きが出始めている。
「そうだな。俺への対策もそうだけど、シアへの対策もちゃんとしとけよ。レ・グ・ラ・ス」
「くっ、人事だと思って」
「いや~、だって人事だし」
「というか、そもそもなんで総合成績1位で学園でも10指に入る実力を持つなんて言われているフォーガンがこいつと同じ下位グループのチームになんて入ってるんだ!君の実力ならばトップチームは引く手数多だっただろう?!」
シアニーにはどうしてもこの学園を首席で卒業しなければいけない理由がある。
それは現在の王位継承権第1位であるアレスとの婚約を破棄する為だ。
先王が健在の時にアレス側から無理矢理、婚約を推し進められ、それが嫌で出した苦肉の案が、誰もが認めるような強い騎士になる事であった。
その為には最初からトップ付近のチームに加入するのが一番であるにも関わらず、彼女はそれをしなかった。
「一応、スカウトされたチームには顔を出したわよ。けど、何となく居心地が悪かったのよねぇ。その点、こっちはイムリアスさんとかシェラちゃんとか、気心が知れてる知り合いがいるから、楽って言うか、やりやすいのよねぇ」
そんな理由でトップチームの誘いを蹴るのもどうかと思うが、それはこじつけの理由に過ぎない。
シアニーはチラリとショウマに視線を送る。
たったそれだけの事なのに彼女は自身の頬が熱くなっていくのを自覚する。
これこそが真の理由。
少しでも長くショウマと一緒に居たい。
そんな俗物的で利己的な理由だったのだ。
だが別にトップの座を諦めた訳では無い。
「それにランキング下位から破竹の勢いで一気にトップに輝くっていうのも箔が付きそうだしね」
イムリアスとアーシェライトの魔動技師としての腕前はよく知っている。
ボロボロに破壊されたシルブレイドをキングス工房の協力があったとはいえ、短時間で修理した2人の技量は相当高いレベルにあるといえ、恐らくはトップチームにも引けを取らないだろう。
彼らが居れば一気にトップに躍り出る事も不可能では無いと確信しているからこそ、シアニーはこのチームを選んだのだ。
「フォーガンは相変わらず自信過剰だな」
レグラスの台詞にショウマは心の中で「それはお前もな」と呟きつつ、もしかして自分も周りから見たら同じに見えてるんだろうかと考え、苦笑いを浮かべる。
「他の奴に足元を掬われないよう気を付ける事だな。上級生達は僕達の実力を見るという名目で、この3ヶ月間ずっと観察し続けてきたんだ。戦い方や癖なんかも、相当研究しているだろう。それに対し、僕らは殆ど相手の事を知らない。チーム員からある程度聞く事は出来るだろうが、聞いただけと実際に見るのとでは違うからな」
「おやっ、もしかして心配してる?まさかのツンデレ発言?」
「ツンでもデレでも無い!と、ともかく、さっきも言った通り、お前を、いやお前達を倒すのはこの僕だ。僕と戦うまで他の誰にも負けるんじゃないぞ!」
そう言うと、レグラスはショウマ達に背を向けて歩き去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、ショウマは隣のシアニーに小さく呟く。
「あれ、絶対に俺に指摘されて、照れ隠しで逃げたんだぜ」
「私もそう思う。だって彼もショウマにご執心だもんね」
そう呟き返した後、シアニーは自分の言った言葉に頬を赤くする。
何気無く言ってしまったが「彼“も”」なんて言ったら、自分が気にしていると思われかねない。
彼女自身、ショウマを想う気持ちは自覚しているが、未だそれを告白する勇気は持てていない。
ショウマ側が彼女の事を親友だと言っている事も1歩を踏み出せない要因の1つになっていた。
チラリと横目でショウマに視線を向けるが、どうやら彼は彼女の言葉の意味に気付いていない様子だった。
気付かなかった事にホッとしつつも、その鈍感さに少しだけ怒りを覚える。
「ああ、もう!ほら、ショウマ!私達もそろそろ行くわよ!!今日の午後はチームの全員が初めて集まる日でしょ!!」
いつもの事ではあるが、いきなり不機嫌になるシアニーに苦笑いを向けながら、ショウマは彼らのチームに与えられた機兵倉庫へと向かうのであった。




