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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第4章 王都炎上編
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第58話 若者への期待

「なんなんじゃ?あれは?!」


 王国祭で最も人の集まる南側の商業地区。

 王国騎士団による避難誘導のおかげで、数はそれなりに減ってきているが、元々の人数が多かったせいで未だに人は多い。

 彼らの被害を抑える為、6機もの敵機を引き付け、被害のあまり出ないであろう海岸で戦っていたソディアスは、王城の更に北側に現れた巨大な魔動機兵の姿を見て、驚きの声を上げる。


「あれがお主らの大将という訳じゃな。儂の誘いにホイホイと付いて来たと思っとったが、逆に儂の方がまんまと足止めをくらっとったというわけか」


 6機のイルディンギアドライはソディアスのソルディアークの前で楯を構えた防御姿勢で対峙している。

 ソルディアークが長剣を振り下ろすも楯で防がれ、隙を見つけて突きを繰り出すも別の機体が割り込んで腕を伸ばし、致命的なダメージとならない部位で防ぐ。

 着実にダメージは与えているが、操縦席を狙った攻撃や脚への攻撃を放とうとすると今のように他の機体が割り込んだり、協力して防いだりと、中々に嫌らしい動きをして有効打が中々与えられない。

 その連携した防御網は、例え彼であろうと容易に突破する事は出来なかった。

 とはいえ、そこは剣聖。

 実の所、既に2機は戦闘不能にしていたりする。

 だがその2機を倒すのにも相当な時間を掛けている。

 残りが6機という事は単純にその3倍。

 時間が経てばダメージは蓄積されるし、数が減れば連携もスムーズに行えなくなるので、時間は短縮されるだろうが、それでも巨大魔動機兵が王城に迫る前に倒し切れるかは微妙な所。

 かといって彼らを放置して巨大魔動機兵に向かうという事もそうそう出来ない。

 このテロリスト共を野放しにしておけば、戦う術を持たない数多くの人々の命が奪われてしまうだろう。

 数も纏まってしまっているので、王国騎士団や他の者に任せるにしても、ほぼ同数以上の魔動機兵を用意して1対1以上の戦況にしなければ、倒す所か逆に倒される可能性もある。

 となればソディアスとしては、やるべき事は1つ。


『捨て石と分かっていながら、この剣聖を相手に1歩も引かぬその根性は褒めてやろう。じゃから息絶える最後の瞬間まで、この儂が相手をしてくれようぞ。あのデカブツの方は若いもんに任せるとするかのぉ』


 ソディアスは闘技場で出会った前途ある騎士候補生達の姿を思い浮かべる。

 名前を聞くのを忘れていたが、彼らには自分にはもう存在しない、若さと未知の可能性で溢れていた。

 彼らならきっとなんとかしてくれる。

 それほど親しい仲という訳では無いが、そう思わせる何かをソディアスは長年の騎士として経験と直感で感じ取っていた。


「そういえば、あの少年はトゥルーリとか呼ばれておったな。それにあの剣……そして黒い髪と黒い瞳………」


 考えに耽る間もソルディアークは白きマントを翻しながら、剣を振り続ける。


「……そうか。まさかあの少年がそうだったとはのう。これは期待しても良いかもしれんの」


 足払いを掛けて倒した所に操縦席目掛けて剣を振り下ろす。

 だがやはり別の機体が割り込んできて、肩の楯で防がれてしまう。

 しかしその一撃に耐え切れなかったのか、楯は半ばから砕け落ちていく。


「造聖の奴がわざわざ養子にし、自身の剣まで与えた弟子。荒削りじゃが、あやつに似て奇抜な戦い方で、力も速さも並み以上。さてさて、儂が行くまで持ち堪えられるか?それとも儂の想像を越えて倒してみせるか?」


 ソルディアークは楯が砕けたイルディンギアドライに再度剣を振り下ろし、その胸部を撫で斬る。


「ようやく4つ目じゃな。全く、老体には持久戦は堪えるのう」


 言葉とは裏腹にソディアスの顔には疲労では無く、笑みが浮かんでいた。

 まるでこの戦いを楽しむかのように。

 若者達がどれくらいの事をしてくれるかを期待するかのように。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



「さて、これでこの辺りはなんとかなりそうかな」


 今日2機目のイルディンギアドライを倒したショウマは周囲を見回す。

 この辺りは貴族の屋敷が多いという事もあり、貴族自らが傭兵やら退役騎士を護衛として雇っていた為、比較的魔動機兵の数が多い。

 そのおかげで戦況は優位に傾いている。


「王国騎士団も居ますし、この辺りのテロの鎮圧も時間の問題でしょう」

「だな。そうなると……」


 目に見えるだけで5機の魔動機兵の姿があり、その内、イルディンギアドライの数は1機。

 西側地区の大勢は決まったようなものだ。

 本来ならこの地区を完全に鎮圧してから全機で他の地区に援軍に向かうのが、最も効率が良いのだが、雇い主の貴族は自身の安全を優先させる為なのか、魔動機兵を他の地区には派遣しようとしていない。

 退役騎士は元々が正騎士である為、他を助けに行きたいという気持ちはあるが、雇われである以上、自由に動く事は出来ず、また傭兵は追加料金を払うとでも言わなければ、自主的に動く事は無い。

 となれば一番自由に動けるショウマが他の地区に援護に向かうのが、最良と思われた。


「南は剣聖の爺さんが行ってるから、北か東ってとこか」

「はい、そうですね。ですが東に向かうには王城を迂回して移動する必要がありますので、効率を考えたら北側地区に向かうのが良いと思います」

「まぁ、それしかねぇよな。機体の状況は?」

「最初の戦闘以外は他の方と協力が出来たので、損傷は殆ど変わりません。脚部の負荷率が結構上昇していますが、許容範囲内です。それとクールタイムは残り1分を切りましたので、北側地区での戦闘開始前にはリミッターは解除されると思われます」

「オッケー。んじゃ、さっさと北へ……………って、はぁ?!俺、夢とか幻を見てるわけじゃないよな……………」


 北側地区に視線を向けた瞬間、その有り得ない光景に、つい自身の頬をつねって、夢ではない事を確かめてしまう。

 北側地区はあまり高い建物は存在せず、精々が2階建で高くても8m前後。

 魔動機兵が直立して、頭部の先が見えるかどうかという所なのだが、視線の先にある魔動機兵はそれより更に大きく、腰から上が完全に見えている。

 遠近感が物凄くおかしい。


『フォーガンの王よ!恐れ戦くが良い!!余の名はアルザイル帝国皇帝フォルテ=ヴァン=ユスルフ=アルザイル!!そしてこの機体こそ、世界最強の超魔動機兵“フォルテギガンティス”である!!国を奪われる苦しみと悲しみを貴様らも味わうが良い!!!』


 超巨大魔動機兵から老人の声が轟く。


「テロの首謀者のお出ましってわけか。わざわざ知らせてくれてありがたい事で」


 フォルテギガンティスの巨大さを見た時に一瞬面食らった事は確かだが、その程度で臆するようなショウマでは無い。

 元々北側地区に行く予定だったし、何よりテロリストがアルザイル帝国の残党であり、フォルテギガンティスに乗っているのが本当に皇帝なのであれば、あれを倒す事で残っているテロリストの戦意を挫き、彼らを完全に黙らせる事が出来るだろう。


「となれば、善は急げってね」


 あれだけの巨体であれば目立つし、皇帝を名乗る以上、ショウマと同じようにフォルテギガンティスを倒せば、この戦いが終わると思う者は多いだろう。

 流石に称号持ちでも無ければ1機で相手取る事は出来ないだろうが、数が集まれば十分に対応は可能だろう。

 もし倒せなかったとしても、ここの戦いの場にはソディアスが居る。

 彼が来るまで足止めさえ出来れば、勝利は確定したも同然。

 そんな考えを持ちながらフォルテギガンティスに向かったショウマだったが、到着した瞬間、それが少し甘い考えであった事を理解する。


「……想像以上にデッケェなぁ…………」


 遠くからでは実感出来なかったが、間近で見ると魔動機兵に乗っていても見上げるその巨体の存在感だけで気圧される。

 どこかの魔動機兵がフォルテギガンティスの進攻を止めようと前脚にしがみ付くが、上げた脚に軽々と持ち上げられて、振り落とされてしまう。

 別の1機は無謀にも正面に立ち塞がり、振り下ろされた脚を構えた楯で防ぐ。

 これが二足歩行ならばバランスを崩したかもしれないが、フォルテギガンティスの脚は8本。

 1本程度のバランスが不安定になった所で全く揺るがない。

 しかしそこにもう1機が巨大な戦斧を振り回して、別の脚を切り倒そうとする。

 体勢は崩せなかったものの動きが止まったのを好機と見たのだろう。

 だが無情にも戦斧による一撃は脚の鎧甲に僅かに食い込んだだけ。

 その事実に唖然として一瞬動きの止まった戦斧の魔動機兵をフォルテギガンティスが踏み付ける。

 楯で防いでいた魔動機兵共々、更に脚に力を込めて押し込み、その自重も相俟って一息で2機を同時に踏み潰してしまう。

 脚元が駄目ならばと別の数機が周囲の建物の屋根から飛び上がり、上半身に襲い掛かる。

 だが剣を振り上げて頭部を狙った魔動機兵は、フォルテギガンティスが右手に持つ錫杖の一振りで呆気無く彼方に吹き飛び、胸部を狙って槍を突き出した魔動機兵も、左肩の楯で防がれた後に振り下ろされた手で地面に叩き落とされる。

 それを見た他の面々は、怖気づいたかのようにフォルテギガンティスの進攻に合わせる様に後退りする。

 騎士の矜持からかプライドから、それとも報酬の為か、表立って背を向けて逃げ出す者はいないが、及び腰でまともに戦えそうにはない。


「リーチに差があり過ぎるし、空でも飛べなきゃ避ける事も出来ねぇか」


 数機の犠牲から、ショウマは冷静にフォルテギガンティスを分析する。

 30mを越える巨体故にかなりの重量があるのか鈍重で、その進攻速度は遅い。

 だが代わりに魔動機兵を脚1本で持ち上げ、腕の一振りで吹き飛ばす程、パワーだけは有り余っている。

 スピードを生かして翻弄すれば勝機はありそうだが、場所が悪い。

 現在地は貧民街との境。

 王城に近付けば建物も密集し高い建物も多いが、この辺りは低い建物しか無く、一番高くても10mも無いだろう。

 いくらオーバーブースト時は軌道を変えられるとはいえ、縦横無尽に空を飛べる訳では無い。

 足場となるものが少なければ、そのスピードを生かし切る事は不可能。

 更には右手に持った錫杖が厄介であった。

 長さは悠に20mを越え、振り回されれば、いくらシルブレイドでも近付く事は困難だろう。

 その上、戦斧の一撃を防いだ事から、重量と大きさに見合ったぶ厚い鎧甲を纏っているのは明白だ。


「デカイだけだと思ったけど、そのデカさが予想以上に厄介だな」


 これでは他の騎士や傭兵が尻込みするのも当然だ。

 敵機の強さばかりが目立ち、勝てる要素が見つからない。

 まともに正面からぶつかっては、先程の魔動機兵達の二の舞になるのは明白だ。


「シェラ。技師としてあいつをどう思う?」

「そうですね。興味深い点はいくつもありますけど、まず特筆すべきはあの脚部ですね。あれだけの重量を支える為には相当な強度が必要となります。恐らくですが、純アダマス鋼製あるいは凄く厚くコーティングしていると思われます。動きが遅いのは重いのもありますが、耐久性を出す為に脚部フレームを極限まで細くしているからでしょうね」


 純アダマス鋼製とは表面だけをアダマス鋼でコーティングしたものでは無く、他の素材を一切使用せず、アダマス鋼のみで加工したものの事を指している。

 強度が跳ね上がるのに比例して重量も跳ね上がる為、ブレイドソーのような一部の、複雑な動作と耐久性が必要な武具に用いられる程度で、一般的には殆どこの製法では造られていない。

 ましてや魔動機兵と同等の大きさの脚の魔動フレーム以外全てをそれで造ったとしたら、普通は動けない程の重量になっているはずだ。


「それでも脚を振り上げたりする事が出来るという事は、魔動力炉を3つか4つ…もしかしたら5つ程載せているのかもしれませんね。それならばあのパワーも頷けます。ただ重量バランスから考えて、上半身はそこまで重鎧甲だとは思えません。もし脚部と同様の防御力があるなら、打ち払ったり、楯で防いだりはしないはずです」


 流石は魔動機兵スキー。

 魔動具に関しての観察力や知識はショウマをも上回る。


「ってことはやっぱり上狙いが妥当なのか」

「はい、そうですね。狙うのでしたら、肩か腰の境目が良いと思います。肩の楯とあの大きな武器を振り回していれば、肩と腰には相当な負担が掛かっているはずです」


 機体の特性から考えられたアドバイスにショウマは頷くが、どちらにしろまずは間合いを詰めなければならないし、飛び上がる事にも変わりは無い。

 完全に事態を打開できたとは言い難い。


「それと、脚部なんですが、僕の予想通りだとしたら多分、個別には動かせないと思います」

「ん?どういうことだ?」

「歩く際に必ず右側か左側の4本ずつがほぼ同時に動いているんです。それに先程、前脚1本の動きしか止めていないのに進攻が止まりましたよね。あれだけのパワーがあるなら、そんな事で簡単に止まる訳がありません。それに魔動機兵の操縦方法の関係上、8本脚で歩くなんて芸当は難しい…いえ不可能なはずです」


 確かに魔動機兵は思考制御により操縦者である人間の動きを完全にトレース出来る様に造られている。

 ただそれ故に人間が出来る動き以外は殆ど出来ない。

 当然、人間には2本の足しかない訳だから、8本の脚を同時に動かせるような思考回路を持っていない。

 その事からアーシェライトは前脚2本と連動させて、他の脚を動かしていると予想したのだ。


「もしかして、それって前脚以外は自由に動かせないって事か?」

「僕の予想なので、確信を持って言える訳ではありませんが、予想通りならそのはずです」


 魔動機兵を熟知するアーシェライトが言うのだから、恐らくは間違いは無いのだろう。

 前脚以外の脚が歩行動作しか出来ないのであれば、幾分、接近のリスクを下げる事が出来る。

 そしてフォルテギガンティスの脚には、その全重量を支えるという意味合いが強い。

 つまり、最小限のリスクで脚元まで接近し、1本あるいは2本を破壊する事が出来れば、フォルテギガンティスは自重で動けなくなってしまうのだ。

 動きさえ止める事が出来れば王城に進攻する心配も無くなるだろう。

 しかしその脚を切り落とす事ははっきり言って困難だ。

 まず接近するにしても、錫杖による攻撃が頭上から降って来る。

 それに最接近したとしても、歩行している間、脚は常に動いているのだから、巻き込まれる可能性だってある。

 上手く脚に取り付く事が出来れば、ブレイドソーのチェーンソーモードなら切り落とす事も可能だろう。

 だが、同じ製法で造られているとはいえ、サイズ的に考えて脚はブレイドソーよりも厚く頑丈であり、切断するとなると相当な時間を要する。

 その間、フォルテギガンティスが黙って見過ごす筈も無い。


「…くそ。せめて後2人。いや最低でももう1人、あいつの注意を引く事が出来る奴だけでも居てくれれば…………」


 周囲を見渡すが全員が弱腰で、もし頼んでも引き受けてくれそうに無い。

 もし引き受けてくれたとしても、空を縦横無尽に飛べなければ、先程までと同様に一蹴されるのがオチだ。


「仕方無い。やっぱりリスクを冒してでも、上半身を狙うのが一番なのか」


 脚の破壊を諦めて、フォルテギガンティスの腰部に飛び乗ろうと準備をし始めた所で、キラキラとした輝きを発しながら、それは舞い降りた。

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