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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第4章 王都炎上編
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第56話 悪魔の如き魔動機兵

 ブラックサイズの暴走で闘技場から逃げ出したミルフォード達は、逃げ出した最中に新たな惨状を目撃する。

 突如、家屋が倒壊し、その中からアルザイル帝国の紋章の付いた魔動機兵“イルディンギアドライ”が現れ、近くに居た人々を蹂躙し始めたのだ。

 それが帝国残党によるテロだという事は、ミルフォードにはすぐに理解出来た。

 恐らく、何年も前から工作員を王都民として紛れ込ませ、目立たぬように少しずつ準備をしていたのだろう。

 今し方現れた魔動機兵も一見民家としか見えない場所に密かにパーツを運び込み、組み上げて、今日のこの日を待っていたに違い無い。

 そこまでの執念を燃やす事はある意味で凄いとしか言いようが無いが、何故、この場所、このタイミングなのか。

 王国祭で世界中から多くの人が訪れ、王城には各国首脳が集まっているのだから、頷ける部分はあるにはあるが、わざわざ王都でテロを起こす理由が分からない。

 テロを起こしたのは皇帝派だろうと、ミルフォードには確信があった。

 そして恐らくはその背後に皇帝フォルテがいるであろう事も。

 アルザイルが共和国になる切欠となったクーデターが成功した後、捕えられた皇帝フォルテは首を刎ねられたと国民には知らされたが、それは偽物であり、皇帝派の意思を挫き、国民を安心させる為の嘘であった事は、ミルフォードをはじめとした一部の者は知っている。

 事実はフォルテにまんまと逃げられた事を隠したかっただけなのだが、クーデターが成功したとはいえ、その時は未だ、国内の情勢が不安定だった為、その判断は正しかったと言える。

 もしあの時に逃亡された事を認めていたら、皇帝派は息を吹き返し、情勢はどちらに傾いていたか分からなくなっていただろう。

 クーデターを企てて、それに同意して参加した者の多くは、現在の共和国の重鎮に取り立てられている。

 確かにアルザイル共和国の国家元首はこの王都へと来ているが、彼はクーデターの数年後に共和国民からの選挙で選ばれた人物であり、クーデターには直接、参加していなかった人物だ。

 フォルテ率いる皇帝派が恨みを持つとすれば、共和国首都に居る重鎮達のはずだ。

 それにフォーガン王国も帝国と戦争状態であったとはいえ、クーデターには直接の関与はしていない。

 内通者により、その事実がある事を知り、国境で魔動機兵の部隊の多くの目を引き付けていたに過ぎない。

 だからフォーガン王国を恨み、復讐するのは筋違いであり、王都でテロを起こすのは逆恨みも良い所だ。

 だが、筋違いだろうと逆恨みだろうと、帝国残党はこの王都で今正に破壊と殺戮を行っている。

 しかし今のミルフォードには歯噛みして、隣に居る妻のメアニーの手を強く握り締める事しか出来ない。

 彼は西方最前線で指揮を任された機兵騎士である。

 数多くの悪夢獣と戦ってきた歴戦の騎士である彼ならば、魔動機兵を駆れば帝国残党など敵では無いだろう。

 愛機を喚び出す魔動機である騎士の剣も帯剣している。

 だが、出来ない。

 彼が王国祭の為に暫くの間、最前線から離れるという事で、彼の機体は今頃は分解されて総点検整備を行っているはずである。

 いくら民を守るはずの騎士、それも現役の屈強の騎士であろうと、魔動機兵を相手に生身で抗う事など不可能。

 どんなに悔しくても今は敵を打ち倒す事が出来ない。


「くっ、こうなれば……」


 ミルフォードは妻の手を離し、逃げる足を止める。


「あなた?」

「私が囮となる。王族となれば、奴の注意を引く事が出来るだろう。それで多くの命が救われるはずだ」


 今、この場でやれる事といえば、それくらいしかない。

 それは王族として、そして騎士としての使命にして誇り。


「で、ですが、それは………」


 メアニーにはそれが意味する所を理解していた。

 自分達だけを逃がすだけならば、僅かな時間を稼げれば問題無い。

 だがこの溢れ返るような人だかり全てを逃がすまでの時間を稼ごうとしたならば、どれだけの時間を囮として逃げなければならないことか。

 しかも囮である以上、敵機の目を自分に向けさせる為には生身で魔動機兵の前に姿を晒す必要がある。

 それは命の危険、いや、死を覚悟したという事に他ならない。


「…妻を頼みます」


 その事実に声を出せずにいるメアニーを優しく抱擁した後、護衛に付いていた兵士と、共に逃げて来ていたイーグレット学園長にメアニーの事を頼むと、イルディンギアドライに向けて駆け出す。

 器用に建物の壁や出っ張りを利用して、建物の屋上へ昇り、魔動機兵の近くまで行くと、大声を張り上げる。


「我が名はミルフォード=アメイト=ド=フォーガン!!フォーガン王家に連なる者である!!!」


 残党の魔動機兵はすぐにその声に反応し、ミルフォードの方へと機体を向ける。


「逆恨みしか出来ないようなテロリスト共にこれ以上、好きにはさせない!!」


 ミルフォードの挑発に乗り、王族という餌に釣られたかのように、イルディンギアドライは足元に居る烏合の衆を蹴散らすのを止めて、屋上へと飛び上がる。

 人の大勢居る路地から離れた事で人的被害は最小限に食い止める作戦は成功した。

 ズドンという音を立てて、イルディンギアドライが屋上へと降り立った刹那、ミルフォードは逃げる様に走り出す。

 当然のようにそれを負い始める帝国の残党。

 後はミルフォード自身がどこまで粘って逃げる時間を稼げるかに懸かっている。

 ミルフォードの命を賭した魔動機兵との追い駆けっこが今、始まった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 王城の東側。

 魔動技師の工房や魔動器の倉庫が立ち並ぶ区画にあるキングス工房の巨大な倉庫の前に1人の男が姿を現した。


「あれ?ガルさんじゃないっすか。体調が悪いって聞い……あっ、もしかして具合が悪くても出ろとでも言われたっすか?まぁ、王命っすからね」


 倉庫番を任されていたキングス工房の若い職員が、男をガルさんと呼んで声を掛けて来る。

 どうやら2人は知り合いのようだ。


「ここはお前だけか?」

「ええ、そうっすよ。親方達は闘技場の方に出張ってましたし、他の奴らは別の倉庫に行って、魔動機兵の準備やら何やらをしているはずっす。ここにある機体はガルさん専用に調整してあったすからね。流石に他の人では乗りこなせないだろうけど、誰も居なくなるのは不用心だってんで、俺が留守番してるっす」

「そうか。運が良い。いや、お前にとっては運が悪かったな」


 男が腕を閃かせると一筋の銀光が走り、倉庫番の喉に赤い軌跡を残す。


「へ?」


 何が起きたのか分からず疑問顔の倉庫番の頭は一瞬の後、重さに耐え切れず喉を支点に後ろへとガクリと垂れ下がり、その喉からは噴水のように大量の血が噴き出す。

 そんな血のシャワーの中をキングス工房の職員から“ガルさん”という愛称で呼ばれ、約1週間程前にその実力を示して、キングス工房の闘機大会用の魔動機兵の操縦者の座に付いた、ランズラット傭兵団の副団長であるガレルエアは手にしていたナイフを鞘に収めながら、悠然と倉庫の奥へと歩を進める。

 そこには1機の濃い青色をした魔動機兵の姿があった。

 全体的にはややスリムな体型だが、両の肘から先だけがやや太めで通常の魔動機兵よりも拳2つ分ほど長い。その先には鋭い刃の付いた3本の爪が伸びており、そこまで含めれば機体の膝にまで届いている。

 前頭部には短めの角の装飾が2つ伸び、そのフェイスマスクには牙を思わせるギザギザの意匠が施されている。

 キングス工房が今年の闘機大会用に技術の粋を集めて造り上げた魔動機兵がこれであった。

 高性能さとガレルエアの戦い方に特化した調整が施されている故に、彼以外に操縦する事は不可能となってしまった特別な機体。

 これを手に入れる事が彼の目的であった。

 彼は今日、この王都でアルザイル帝国の残党が武力蜂起する事を事前に知っていた。

 その隙に機体を奪う機会を逃さない為に、体調不良で大会に出場出来なくなったなんていう嘘までついたのだ。

 案の定、代役への新型機の調整は間に合わず、この機体は倉庫行きとなり、そしてテロのおかげでこうして易々と目の前まで来る事が出来た。


「ふふふっ、これでまた駒が1つ……」


 普段のガレルエアからは考えられない程の艶やかな口調。

 だがこの場にそれに気付く者は誰も居ない。

 そしてガレルエアはやや妖艶な笑みを浮かべながら、新型機へと乗り込む。

 次の瞬間、倉庫の扉が破壊され、その奥から両肩にアルザイル帝国の紋章の付いた楯を装備し、手には破壊工作用の巨大なハンマーを持ったイルディンギアドライが姿を現す。


『おっ、動いてる魔動機兵みっけ!』


 王都の東側地区が担当となったテロリストは、正直に言って暇を持て余し、退屈していた。

 彼に与えられた仕事は魔動工房や倉庫を襲い、障害となる魔動機兵が動き出す前に破壊しておく事。

 ここまで5つの工房や倉庫を襲撃し、戦闘用、作業用含めて稼働前の魔動機兵を10機以上、破壊してきた。

 一方的な破壊はそれはそれで楽しいのだが、やはりただ壊すだけでは物足りなさを感じていた。

 だがこの他より大きな倉庫には稼働したばかりの魔動機兵があった。

 ようやく戦えるとテロリストの男は舌舐めずりをすると、手にしていたハンマーを離し、左肩の楯に内蔵されている長剣を引き抜く。


「機体の慣らしをするのに丁度良い相手だな」


 剣を抜いたイルディンギアドライに対し、ガレルエアはゆっくりと機体を前へと進ませ、3歩目を踏み出した瞬間には、跳ねる様に一気に飛び掛かる。

 咄嗟に反応出来るようなスピードでは無かった。

 気が付いた時には3本の爪痕がくっきりと左の楯に刻まれていた。


「切れ味はこんなものなのか?いや、使い方が悪いのか」


 この3本爪は、かつて鍛治が趣味だという変わり者の貴族が生み出したという、金属を叩いて伸ばす鍛鉄という製法で造られている。

 手間は掛かるが、元の金属より遥かに頑丈で切れ味も鋭くなり、アダマスコーティングより軽くなるという事で、注目され始めている技術だ。

 鉄という文字が入っているが、鉄しか鍛えられない訳では無く、様々な金属に応用する事が出来る。

 ガレルエアはイルディンギアドライの攻撃をかわしながら、今度は腕をしならせ、手首のスナップを利かせて鍛鉄製法の左爪を振るう。

 すると右の楯はキンという甲高い音を立てて、剣を持つ右腕ごと綺麗に切断される。

 それでコツを掴んだのか、爪を振るう毎に面白いようにイルディンギアドライは斬り刻まれていく。

 右脛。左手。右膝。左腕。右肩。左大腿。頭部。腰部。

 操縦席のある胸部だけが最後に残り、地面へと転がる。


『ひっ、ひぃぃぃっ!!!あ、悪魔だ…………』

「ふふふっ、悪魔か。それは良い。悪魔にちなんで、この機体の事はディアブローガとでも名付けようかな」


 自己陶酔したかのようにうっとりとした表情を浮かべ、ガレルエアは名前を付ける切欠となったテロリストの乗る胸部を見詰める。


「お礼に苦しまずに殺してあげよう」


 ディアブローガが脚を振り上げる。

 その踵には手の爪よりは短く太い棘のような形の衝角が生えており、踵落としのように勢い良く振り下ろす。

 腰にあった魔動力炉との接続は切り離されている為、魔動力が増幅された強固な防護魔動陣を張る事が出来ず、テロリストの男は全身を衝角に貫かれて絶命する。


「素晴らしい。ああ、もしこの機体と獣機を掛け合わせたら……」


 ガレルエアは男のものとは思えない妖しく艶やかな声音を放ち、それを想像して身悶える。

 彼の、いや彼を操る者の目的を達成する為の準備は着々と進んでいくのだった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



「クックックッ。良い感じで混乱しているようであるな」


 フォルテは狭く薄暗い場所で報告されて来る外の様子を楽しそうに聞いていた。


「たった10年程で戦争の怖さを忘れてしまった愚民共には良い薬となっている事だろう」


 だがこれはまだ前触れに過ぎない。真の恐怖はこれから訪れるのだ。


「陛下。準備が整いました」


 僅かにフォルテの脇から光が差し込み、そこからフォルテの半分程しか生きていないような魔動技師の男が顔を覗かせる。


「ですが、本当に陛下自らがお出になるのですか?」

「これはアルザイル帝国の象徴となるもの。余が乗らずして誰が乗ろうというのだ」

「はっ。承知致しました。陛下がこのフォーガンの王都を蹂躙するお姿を楽しみにしております」


 それだけを言うと魔動技師は、すぐに顔を引っ込める。

 再び、暗闇が周囲を包み込むが、すぐにほのかな黄色の輝きが灯り、辺りを照らす。

 そこは魔動機兵の操縦席。

 フォルテが左右にある水晶に手を置くと、瞬時に地下格納庫の光景が映し出され、それと同時に天井が割れていくのが見える。

 この地下格納庫は全体的に華やかなイメージのある王都の暗部とも言える北側区画の貧民街に存在していた。

 事業に失敗した商人や落ちぶれた貴族、夢を持って王都へやって来て夢破れた者などが集う場所であり、王国もそれを必要悪と感じて、貧民街には一切干渉してこなかった。

 そのおかげでフォルテを始めとした帝国残党はこの巨大な地下格納庫を建設する事が出来、そしてフォルテが乗る魔動機兵も造り上げる事が出来たのだった。

 地上から見れば突如として地面が割れた故に、運悪くその場に居たらしい薄汚れた布切れを纏っただけの人々が、幾人も落下していく。

 地面に落したトマトのように格納庫の床が赤く汚れるが、問題は無い。

 この機体が出来上がった以上、この場所はもう用済みである。

 天井が完全に開くと同時に、床が地上へとせり上がっていく。

 それと共にフォルテは機体を立ち上げる。

 その姿は異様にして異形。

 まず最初に目につくのはその形。

 上半身だけを見れば、やや豪華な装飾が施されたイルディンギアに見える。

 だが、下半身に目を向ければ、そこにはまるで蜘蛛や蟻のような胴と腹があり、そこから前後に2脚ずつ、そして左右に3脚ずつの合計10脚が生えている。

 それだけでも既存の魔動機兵と一線を画しているが、異様さはそれだけに留まらない。

 近くに比較対象が無い為に分かり辛いが、脚は一般的な魔動機兵の胴体程の太さがあり、長さも10m以上ある。

 脚の巨大さに比例している為、当然上半身も巨大化しており、その全高は悠に30mを越える。

 その巨大な質量を動かす為、4基の魔動力炉を内蔵し、出力は単純に4倍。

 見た目も性能も、全てが規格外な悪魔のような魔動機兵が、遂に王都フォーガンに姿を現す。


『フォーガンの王よ!恐れ戦くが良い!!余の名はアルザイル帝国皇帝フォルテ=ヴァン=ユスルフ=アルザイル!!そしてこの機体こそ、世界最強の超魔動機兵“フォルテギガンティス”である!!国を奪われる苦しみと悲しみを貴様らも味わうが良い!!!』


 フォルテギガンティスは、脚元に居る2機の護衛役のイルディンギアドライと共に、その巨体をゆっくりと王城へと向けて歩み出すのだった。

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