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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第3章 王都祭典編
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第52話 もしかしてお前は

『なんとなんとなんとぉぉぉ~~~~!!!キングス工房のシルブレイドォ!!正に電光石火!!瞬く間に王立魔動研究所のグランディスを行動不能にしたかと思ったら、エイボルフ商社のエヌワースまでをも撃破ぁぁぁっっっ!!!これがキングス工房の魔動機兵の実力なのかぁぁっ!それとも2年前のシルフィリット=パーシヴァルと同様!これがシンロードの魔動学園の学生の実力なのかぁぁ!!!』


 司会役の実況に闘技場内は興奮の坩堝の中にあった。

 未知の実力の学生より、性格や性癖には難があるものの、昨年の準優勝という実績と正騎士にも劣らぬ高い剣の腕前を見込まれて、グランディスは今大会の最有力優勝候補となっていた。

 だがそのグランディスを倒し、更には続けてエヌワースも倒した事で、シルブレイドに注がれる注目は一気に跳ね上がった。

 番狂わせを期待して、祈るようにブラックサイズを眺める眼差しも多少はあるようだが、会場内の空気はほぼシルブレイド一色。

 既に優勝はシルブレイドで決まりだろうという雰囲気が闘技場全体を包み込んでいた。

 だがそんな中でアーシェライトだけは不安げな表情で闘技場に視線を送っていた。


「ショウマさん、勝てるでしょうか……」

「さっきの動きを見ただろ?あんな動きは正騎士でもそうそう出来はしないさ!それにあの目にも止まらぬと言っても過言じゃないスピード!!あれにはそう簡単には付いて来れないだろうさ」


 ぼそりと呟いた独り言に、隣に居るレリアが安心させるように声を掛けて来る。

 恐らく誰に尋ねても同じような答えが返ってくるだろう。

 だが開発者の1人だった前世の記憶を持ち、修理にも携わったアーシェライトはオーバードライブの欠点を当然ながら知っていた。

 機能自体は向こうの世界のヘビーギアだった頃から備わっていたが、耐熱素材をふんだんに使用していた為、過熱はするもののそこまで異常の熱さにはならず、冷却時間は長くても3分程度。

 対してこの世界の素材を使用して修理されたシルブレイドでは、材質の性質上、熱が篭り易く、最低でも10分は冷却時間が必要だ。

 それも静止状態での話なので、戦闘稼働状態では場合によっては30分近くを要するだろう。

 残り時間的に考えて、時間終了少し前にようやく再使用可能になるかどうかだ。

 そしてクールダウンしている間は、今以上に機体が加熱しないようにリミッターが付けられていて、3割近く機体性能が下がってしまう。

 これで性能差は互角か逆転してしまったかもしれない。

 つまりは本当の勝負はここからだという事だ。

 その事実を知るアーシェライトはただ祈るように闘技場の中央に立つシルブレイドを、そしてそれを操縦するショウマを見詰める。


「これだけ優勢なのにそんなにショウマの事が心配なのか?はっ、えっと…その…やややっぱり、アレなのか?おおおお前とあああいつは…その……つつ付きああ合ってるとか、そそそそういう関係だだだったりするののののか???だだだだだから、そそそそなんな顔をすすすすするのか?だだだだとしたらわわわわわ私はずずずずっと…その……じゃじゃじゃ邪魔だったりしたのか?」


 アーシェライトの表情をどう捉えたのか、レリアはいきなりそんな事を聞いてくる。

 というかレリアも自分で言っておいて相当動揺している様子だ。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………へぁ?!」


 暫くの思考停止の後、自分が何を尋ねられたのかにようやく気付く。


「なななななななな、そそそそそそんな関係じゃないですよ僕達は!そそそそれはそういう関係になれたらとは…………って、なななな何でも無いです!僕とショウマさんはそういうのじゃなくて………」


 恥ずかしさで真っ赤になるアーシェライト。

 確かに向こうの世界を知っている者同士という点で、ショウマとは特別な関係と言えなくも無い。

 だがそういう特別とはまた別種の特別な関係になりたいという気持ちは彼女にもあるし、日に日にその想いが募っているのも気が付いている。

 本人の前ではなるべくその感情を抑えているつもりなのだが、無意識についつい視線をショウマに向けてしまうのだから、イムリアスが気が付くのも当然だ。


「全然そんなんじゃないですから………………だってショウマさんは………」


 アーシェライトにそんな気持ちがあろうと、相手となるショウマにはその気が無いのか、それとも鈍感で気付かないだけなのか、2人の関係は友人の域を越えていない。

 いや、そもそも女性として見ているかも疑問だった。

 最初は、強くて美人で感情豊かなシアニーが隣に居るのだから、仕方が無いと思った事もある。

 だがいつも彼の事を見ていたからこそ分かった事なのだが、ショウマはシアニーに対しても自分と同じような目で見ているのだ。

 つまり彼女程の美少女が相手でもショウマは靡かず、友人としての関係を貫いている。かといって男色家なのかと言えば、そういう訳でも無い。

 ショウマ自身が何も言わないので、聞くに聞けないのだが、アーシェライトは1つの仮説を立てている。

 恐らくだが、ショウマはいつか元の世界に戻ってしまう時の事を考えているのだろう。

 アーシェライトの前世が引き起こしたシルブレイド起動実験時の暴走暴発事故が原因で、どういう理由でかあの場に居なかったはずのショウマはこちらに飛ばされてきてしまった。

 そして人為的にあっちとこっちを行き来する術が無い以上、突然何かの拍子に向こうに戻ってしまう可能性がある。

 そしてもしもって来れなければ、愛した者と永遠に離れ離れになってしまう。

 しかも世界が異なる以上、その後にどうなったのかを知る術は無い。

 それは死別するよりも辛く、絶望的な事のように思える。

 恋人以上の関係にならなくても同じ事が言えそうだが、そこにはショウマ自身になんらかの線引きがあるのだろう。

 と、そんな仮説を立てているのだが、だからと言って自分の気持ちを抑えられるわけでは無い。

 だから彼女なりのやり方でショウマの心を紐解いていきたいと思っているのだ。

 まだまだ道程は遠いが。


「ととととにかく、僕とショウマさんはそんな関係じゃありませんから!」

「そそそそうか、それなら良かった……な、なら、私にもまだチャンスが………はっ!いや、何でも無い何でも無いぞ!」


 アーシェライトは自分と同じくらい顔を真っ赤に染めながら、ホッと息を吐いているレリアの姿を見て、彼女も自分と同じでショウマの事が好きなのだと確信する。

 レリアと出会ってから1週間と経っていないが、そうでは無いかと薄々勘付いてはいた。

 王国祭の間は殆ど3人一緒に行動している。

 アーシェライトが無意識にショウマを見詰めていると、必ずと言って良い程、レリアの姿が視界に入っていた。

 しかもクールそうな見た目に反して嬉しそうにはしゃいだり、アーシェライトと同じように頬を赤くして熱っぽい視線をショウマに送っていたりするのを何度も見掛けていた。

 更に寝室は別とはいえ、同じ宿の同じ部屋に泊っているという事もあり、夜はそれなりに女性同士で会話を交わす機会が多かったのだが、その内容の多くが「ショウマはああした」「ショウマがこうした」というものばかり。

 多分、本人は気が付いていないだろう。

 それらを踏まえた上での今の態度。

 恋愛に疎いアーシェライトでも分かってしまう。

 いや自分がショウマに恋をしていると自覚していたからこそ、気が付けたのかもしれない。

 もしショウマに出会わなければ、ここまで他人に興味を持たなかっただろうし、恋に落ちなければ、些細な言動や行動を気にも留めなかっただろう。

 そして気付く。

 もしかしたら自分もイムリアスや他の者から見たら同じように見えていたのではないかと。

 そう思うと羞恥で穴に篭ってしまいたくなる。

 だが残念ながらここに篭るような穴は無いし、もしあったとしても隣にライバルとなる女性が居る以上、逃げ出したくは無かった。

 一瞬、ぎゅっと目を瞑って大きく息を吐き、意を決した後、決死の思いでレリアに向かって言葉を放つ。


「レリアさん!僕はショウマさんの事が――」


 ガキィーンという激しくぶつかり合う金属音と続く大歓声に、アーシェライトの勇気を振り絞った一世一代の言葉は遮られてしまい、レリアに届く事は無かった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 シルブレイドはしっかりと地に足を付け、ブレイドソーを正眼に構えて、ブラックサイズを牽制するように見据える。

 全身からゆらりと急速冷却による蒸気が立ち昇る以外、シルブレイドに動きは無い。

 動かない時間が長ければ長い程、冷却時間クールタイムは短縮されて、機能回復、オーバーブーストの再使用時間も短縮される。

 なので先程の動きを警戒して慎重になり、こういう膠着状態が続いてくれるのは、ショウマとしては大助かりだ。

 しかし事態は、そう思うようには進まない。

 膠着していたのは、僅かな間。

 ブラックサイズが一気に加速して間合いを詰めてくる。

 だがシルブレイドは動かない。

 ギリギリまでクールタイムを伸ばす為に。

 大鎌が振り下ろされようとした次の刹那にシルブレイドがようやく動き出す。

 といっても動いたのは僅かに腕だけ。

 最小の動きで大鎌に剣を合わせ、その一撃を受け止める。

 今回はしっかりと足を踏み締めているし、完全に力が乗り切る前に防いだので、競り負けない。

 パワーはほぼ互角らしく、ギリギリと刃同士が音を立てて軋む。


『……何故、貴様は僕の前に立ち塞がる』


 これまで沈黙を保って来たブラックサイズの操縦者からの声が聞こえる。

 それは独り言のようにも聞こえるが、どこか怨嗟や怒気といった感情も含まれている気がした。


『……ショウマ=トゥルーリ!!貴様は何度、僕の邪魔をすれば気が済むんだ!!』

『!?なんで俺の名前を……誰だ、お前は!』


 シルブレイドの姿はともかく、ブレイドソーという特徴的過ぎる剣を見れば、ショウマを知る者ならばその正体に気付いてもおかしくは無い。

 とはいえここまで恨まれるような事を、誰かにした記憶は無い。

 だが、シアニーの側に居るというだけで、怒りを買っていたりするし、自分の耳にも入って来てない変な噂があるかもしれないので、そういう類かもしれない。

 それにショウマはつい最近、似たような声を聞いた事があった。

 それはつまりショウマに声を掛けた事がある人物という事になる。

 だがその声に一致する人物が思い浮かんでこない。


『僕の事を分からないだとっ!』


 ブラックサイズは1度、間合いを大きく離してから、再び大鎌を薙ぐが、シルブレイドは剣の腹でしっかりとガード。

 そのまま剣を滑らせながら、更に懐に踏み込み、ショルダータックル。

 カウンター気味に入った一撃にブラックサイズが大きく吹き飛ぶ。

 本来なら剣で斬り上げていた所だが、性能低下によって反応が鈍っていた為に、体当たりという形になってしまったのだ。


「ちっ、やっぱり反応系の方が露骨に下がるな……けど、こいつ、一体誰だ」


 考えるも一向に思い浮かんでこない。


『邪魔をするだけでなく、平民如きがこの僕を覚えていないだとー!!!』


 吠えながらブラックサイズが大鎌を振り上げて襲い掛かる。

 だがフェイントも何も無いそんな攻撃を避ける事は、いくら機体性能が低下しいるといっても容易い。


『ええ~い、鬱陶しい!思い出して欲しけりゃ、名乗れば良いじゃねぇかっ!!』


 上半身を逸らして大鎌の一撃をやり過ごしながら、ブレイドソーの鋸刃は防刃マントへと押し当てる。

 そして勢い良く柄を引く。

 唸りを上げて高速回転するチェーンソーが防刃マントをただの布切れのように斬り裂く。

 これまでどんな斬撃も防いできた自慢のマントを斬り裂かれたブラックサイズは慌てて、身を引いて、本体へのダメージを避ける。


『装備を過信し過ぎだ!!』


 身を引いた好機を逃さず、シルブレイドは更に1歩を踏み出して、ブレイドソーを振り抜く。

 流石に本体には届かなかったが、大鎌の長い柄を半分程に斬り落とす事に成功する。

 長い刃を持つだけの片手鎌に成り下がった大鎌では、その本来の威力は発揮出来なくなるだろう。


『さぁて、まだ続けるか?』


 軽い口調でショウマは告げるが、油断はしない。

 今は相手が単調な攻撃しかしてこなかった上に、チェーンソーという隠し玉のおかげで、いくらかのダメージを与える事は出来たが、致命的とは言えない。

 一度見せてしまった以上、チェーンソーは警戒されるだろう。

 だが、防御力が自慢だった防刃マントを斬り裂き、武器である大鎌も半分にしたので、これで戦意を喪失してくれれば儲けものだ。


『き、貴様は!どこまでも僕を愚弄する気か!!ああ、いいだろう。僕が誰か思い出させてやる!!』


 そう言うとブラックサイズは大鎌を投げ捨て、マントの下の背中に背負っていた八角形の大楯を取り出す。


(ん?あの楯って……)


 その大楯には見覚えがあった。

 そしてそれを切欠にそれまで断片的にしか浮かんでこなかった欠片がパズルのように組み上がっていき、1人の人物を頭に浮かばせる。


 大楯。あの声と口調。戦い方。恨み。怒り。また邪魔をする。クローブ商会。手伝い。


『もしかしてお前、レグラスなのか!?』


 ショウマが操縦者の正体に気付いた瞬間、ブラックサイズを中心に巨大な8本の炎の柱が立ち昇り、その中から炎蛇は姿を現した。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 王都フォーガンの中心部で立ち昇る巨大な炎の柱。

 それを見た瞬間、フォルテは口の端を吊り上げる。


「ほう、これは面白い。まるでこの都が燃え盛る前触れのようではないか。全員に伝えよ。戦いの狼煙を上げろとな」

「し、しかし陛下。今はあの剣聖がおります。あの者が出て来たならば……」

「構うものか。あの老いぼれ1人に全てを覆す程の力はあるまい。もしもの時は我が力で潰しても良いし、あの者に剣聖をどうにかして貰っても良い」

「御意」


 フォルテの命を受けた男は闇の中に消える。

 間も無くして、王都に潜伏している帝国復興の同志が一斉に蜂起するだろう。

 それと同時に自身の野心の為にフォーガン王家を裏切ったあの男もまた行動を開始し、現フォーガン王を亡き者にする事だろう。

 本当ならフォルテ自らの手でフォーガン王を始末し、復讐を果たしたい所だが、そんな小さなこだわりはとうに捨てていた。

 今は祖国であるアルザイル帝国を復興させ、再び覇権を取り戻す事が最優先事項なのだから。


「だが、これがあればそれも実現する。フォーガンの王の死。我が手にある絶大な力。そして多くの同志」


 フォルテは加齢により弱った足腰に力を入れて立ち上がる。

 そして正面の虚空を見上げる。


「さぁ、聖戦を始めようぞ!!」


 フォルテの言葉に合わせるかのように、闇に覆われていた室内に光が差し込む。

 光の差し込んだ室内。

 そこには並みの魔動機兵を凌駕する程の巨大さの横砂色の魔動機兵がフォルテを見下ろしていた。

 その全高は悠に20mを越え、その自重を支える為か脚部は従来の魔動機兵とは異なり4脚。

 両肩にはその上半身程の長さ、つまりは一般的な魔動機兵と同サイズの楯があり、その中央にはアルザイル帝国の国旗が描かれている。


「この10年で造り上げた我が名を冠する魔動機兵・フォルテギガンテス。これさえあれば我が野望も近いうちに成就することだろう。ふははははははっ!!!」


 フォルテは誰憚ることなく哄笑を上げながら、フォルテギガンテスへと乗り込む。


「さぁ、まずはこの王都を恐怖と絶望の海に沈めてくれるわ」


 今、フォルテの復讐は始まろうとしていた。

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