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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第3章 王都祭典編
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第50話 オネエ口調は地味に精神力が削られる

 王都フォーガンの中央広場に併設された闘技場では、遂に王国祭の最後を飾る闘機大会が開催された。

 ルールは至って単純。

 戦意を喪失させて降参させるか、四肢を破壊して戦闘継続不能にする、あるいは頭部を破壊して、最後の1機に残るだけ。

 一応は1時間という制限時間があり、決着が着かなかった場合は観客にどの機体が一番強かったかを投票して貰う仕組みがあるものの、逃げ場の無い闘技場で制限時間まで逃げ切れる訳も無く、またそれでは盛り上がり欠ける。

 それに闘機大会に出場する各組織も、他の所より優れた魔動機兵を造り出しているという事をアピールする為にも積極的に闘い、そしてその全てを倒す事を目標にしている。

 故に開始直後から魔動機兵同士の激しいぶつかり合いが発生し、盛り上がりを見せるのだ。

 だが突然参加する事となったショウマが、そんな暗黙の了解を知る訳も無く、開始の合図と共に長剣を2本掲げて一気に間合いを詰めて迫り来るグランディスに虚を食らってしまう。


「くそっ、いきなり俺狙いか……いや、当然の結果か!」


 振り下ろされた両の長剣を後ろに退がりながら、なんとかブレイドソーで受け止める。


『あらあら。エリート候補生様の割には反応が遅いわよぉ?』

『ちっ、うるせぇー!』

『威勢が良いのは若い証拠ねぇ。ふふふ、食べちゃいたくなってきたわぁ~』


 グランディスの操縦者の言葉に、ゾクリと得も知れぬ怖気を感じる。

 言葉遣いは女性のものだが、その声は野太く、無理矢理甲高い裏声を発している。

 ねっとりと絡み付くような口調から、ショウマはこの人物がどのような人間か、おおよそ理解して、顔が引き攣る。


『うふふふ。優しくしてあげるから、その身を全て任せてしまいなさいなぁ』

『悪いけど、俺にはそっちの趣味はねぇっ!!』


 隙を突いてブレイドソーを振り下ろすが、片方の長剣で受け流され、反対の長剣がカウンターで頭部に迫る。

 なんとか首を捻ってかわしつつ、グランディスの胸部に回し蹴りを食らわせて、間合いを離す。


『乙女の胸を蹴るなんて野暮な男ねぇ~』


 乙女以前に性別が違うだろ、と心の中で毒付きながらも、その技量は侮れるものでは無かった。

 闘機大会に出て来ているという事は正騎士では無いのだろうが、その剣の腕は、正直に言ってショウマを遥かに凌ぎ、正騎士にも引けを取らないだろう。

 シルブレイドの高い機体性能が無ければ、今の攻防でショウマはやられていたかもしれなかった。


「ふぅ~、なんとか凌いだ。だが、ようやく身体も温まって来た」


 いきなりの事だった事もあるが、初めての大舞台による緊張とキングス工房を背負っているというプレッシャーが彼の身体を萎縮させていた。

 しかしこの攻防で脳にアドレナリンが大量に分泌したのか、それらの緊張やプレッシャーさえ今は楽しく感じられるようになっていた。

 性癖に難はあるものの、自分より強い相手と闘うのは少なからず心が高揚する。

 ショウマは知らず知らず口の端に笑みを浮かべて、グランディスを見据えて、次の動きに注視する。

 だが次の瞬間、グランディスの操縦者から感じたのとは別種の悪寒を背筋に感じ、条件反射的に飛び退る。

 グランディスの方も何かを感じたのか、シルブレイドに向かおうとしていた足を止めて、離れる様に後退。

 直後、巨大な鎌が目の前を通り過ぎる。


「そういや1対1の決闘じゃ無かったんだった」


 いつの間に接近していたのか、そこにはブラックサイズが赤い単眼を輝かせていた。

 その単眼がシルブレイドを見据え、そして最も近くに居たグランディスを無視して、シルブレイドへと斬り掛かってくる。


「くそっ、こいつも俺狙いかよっ!」


 前回の闘機大会の覇者であり、魔動工房の中でも世界一とも言えるキングス工房を背負う魔動機兵を倒せば、名実共に世界最高だという事を示せるだろう。

 新興のクローブ商会ならば尚更だ。

 だからシルブレイドを優先的に狙う理由は分かる。

 だが迫り来るブラックサイズからは、それとは別の感情が漏れ出ているように感じていた。


「くっ」


 迫る大鎌をブレイドソーで防ぐ。

 しかし初手で後ろへ退がったせいで、踏み込んで振るわれた大鎌の威力に圧される。

 重い一撃を放ち続けるブラックサイズに対し、それをなんとか防ぎつつもずるずると後退を余儀なくされるシルブレイド。

 気が付けばシルブレイドは壁際まで追い詰められていた。

 それを見た誰もが追い詰められたと思った。

 だが視界の隅にそれが見えたショウマだけはそうは思わなかった。


『アタシの獲物を横取りすんじゃないわよぉ』


 大鎌を振りかぶるブラックサイズの背後から、グランディスが長剣を掲げて迫って来ていた。

 乱入者の登場にブラックサイズは大鎌の矛先をグランディスに変更して、長剣を弾く。

 その一瞬を見逃さず、シルブレイドは更に後ろへと全力で飛び上がる。

 背後にある壁面を蹴り上げて更に上昇し、2機の僅かに頭上を飛び越える。

 手を伸ばせばその脚に届く距離だが、予想しなかったシルブレイドの動きと刃を交わした直後という事もあり、2機は咄嗟に動く事が出来ない。

 なんとか乗り切ったとショウマが思った矢先、息つく暇もなく、目の前に棘付き鉄球が迫ってきていた。

 1機だけ離れて戦況を見ていたおかげで逸早く状況を理解出来たエヌワースからの攻撃だ。


「なろっ!」


 シルブレイドは丁度真下に居たグランディスの頭を踏み台にして、更にもう1段飛び上がる。

 鉄球と繋がる鎖が足元を通り過ぎていくのを横目に、高々と舞い上がったシルブレイドはブレイドソーを振り被る。

 背後から「乙女の頭を踏み台に使うんじゃないよぉ」とか非難の声が上がっているが無視。

 落下の勢いのまま、エヌワースに剣を振り下ろす。

 ガキリという鈍い音と共にエヌワースの掲げた左のラウンドシールドに刃が食い込むだけに留まる。

 流石に防御特化なだけあって頑丈だ。

 追撃態勢に入ろうとするも、引き戻した鉄球が背後から迫って来ている事に気付いて、やむを得ず間合いを離す。

 シルブレイドのアクロバティックな動きに観客は熱狂的な盛り上がりを見せるが、ショウマとしては逆に身震いするような冷や汗をかいていた。


「連携してる訳でもないのにこれかよ……これが経験の差って奴か……」


 ブラックサイズの操縦者は勢い任せの操縦に見えるが、エヌワースの操縦者の方はどこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 冷静な状況分析や咄嗟の反応からグランディスの操縦者同様、相当な手練であるのは間違い無い。


「全く。断れなかったとはいえ、やっぱりまだ俺が出るような場所じゃねぇよな、ここは」


 キングス工房の面々は口では勝てなくても良いと言っていたが、シルブレイドの性能を知っているが故に、参加の打診をしてきた。

 確かに機体性能だけで言えば、他を圧倒する程だが、ショウマは未だその性能の全てを出し切れていない。

 現状ではその釣合いが取れて、互角と言って良く、4機のどれが勝ってもおかしくない。

 だがショウマも出場した以上は負ける気で闘ってはいない。

 やるならば勝ちたいと思うのが当然だ。


「…となると、俺がこの闘いの中で成長するしかないってことだよな……」


 劇的とはいかないまでも、シアニーやレリアのように短い時間で人が成長するのを見て来ているのだ。

 それは自分にも出来るはずだ。

 ショウマは1つ大きく息を吐いた後、気合を入れ直すように強い視線を正面に向ける。

 3機全ては視界に収めている。

 今は丁度互いに牽制し合って膠着状態にあるが、観客からの声援に後押しされて、すぐにまた激しい乱戦になるだろう。

 その僅かな時間で頭をフル回転させて、あらゆる可能性を考える。

 何が出来るのか、何をするのか、どう動くのか。

 勝つ為には何がベストで、何がベターなのか模索する。

 そして遂に膠着状態が崩れる。

 この状態に焦れたのか、最初に動き始めたのは、ブラックサイズ。

 相変わらず他には目もくれずシルブレイドに向かって突進してくる。

 それを隙と見たのか、エヌワースのフレイルがブラックサイズに襲い掛かる。

 大鎌で弾こうと振るうが、エヌワースは手の引きで僅かにフレイルの軌道をずらし、大鎌を絡め取る。

 2機の動きが一瞬止まった隙にグランディスがブラックサイズに、シルブレイドがエヌワースに肉薄する。

 大鎌を絡め取ったせいで自身の武器も使用不能になってしまったエヌワースだったが、躊躇する事無く、フレイルを手放し、シルブレイドに向き直り、楯を構える。

 シルブレイドの横薙ぎの一閃はその突進力も伴い、楯を弾いて重量級のエヌワースを大きく仰け反らせる。

 がら空きとなったその頭部に突きを繰り出そうとするも、絡め取られた大鎌が自由になり、グランディスの追撃を振り切ったブラックサイズが背後から迫る。


『させっかよ!』


 シルブレイドは上半身を180度回転させて、突き出した剣の遠心力で大鎌を弾く。

 更に今度は下半身を上半身が回転したのとは逆の方向に回転させながら回し蹴りをエヌワースに見舞って近付く事を許さない。

 そのシルブレイドの動作に会場内に居た全員が目を見開く。

 それも当然だ。

 魔動機兵にはそんな動きは出来ない。

 いや、構造上は可能だが、実際にこんな状況で咄嗟に行うには不可能な動きだ。

 魔動機兵の操作は操縦者の思考をフィードバックして動作させている。

 特に戦闘用ともなると、細やかな動きを再現する為にかなり詳細に動きを考えなければならない。

 歩く行動1つを取っても右脚の各部をどう動かし、どの角度でどの位置を踏み、更に左脚も同様に考えて、ようやく歩かせる事が出来るのだ。

 機兵乗りはそれらを瞬時に思考し、意識せずとも動かせるように訓練し、そしてまるで自身の身体の一部ように動かせるようになって、ようやくスタートラインに立つ事が出来るのだ。

 魔動機兵が人型なのも、操縦者の動きをスムーズにトレース出来る様にする為だ。

 だがその思考が完全に染みついているが故に、人間の身体では不可能な動きを魔動機兵にさせる事が難しくなる。

 関節は逆に曲がらないし、腰も180度以上も回転したりしない。

 意識して考えてやれば、それは出来ない事も無いだろうが、複数の動作を、それも瞬時にやろうとしたとして、自身の身体の動きを魔動機兵に完全に伝える事が出来る者程、そう簡単に出来るものではない。

 それが戦闘中ならば尚更だ。

 だがシルブレイドにはそんな常識は当て嵌まらない。

 今現在のシルブレイドは、その大部分にこの世界の素材を使い、キングス工房で修繕されたものだが、基礎的な部分は異世界でシルブレイドの開発スタッフだった前世を持つアーシェライトの知識と技術で造られているので、キングス工房製あると共に異世界製と言っても差支えは無いだろう。

 動力も魔動力で動かす事が可能であるが、電力を動力とする事も出来る。

 増設した副操縦席には一応、思考制御用の魔動石を組み込んで考えた通りに動かす事も可能になっているが、基本は主操縦席のレバーとフットペダルでの手動操作だ。

 つまりシルブレイドはこの世界で唯一、魔動機兵であって魔動機兵では無い機体なのだ。

 性能は低級の悪夢獣程度なら軽く凌駕する。

 その操作に長け、その特性をより良く理解し、その全てを引き出す事が出来れば、例え相手が最新最高の技術の粋を集めた最新鋭機であろうと、魔動機兵など敵では無い。

 今の腰を一回転させるという魔動機兵には出来ない動きもその1つだ。


「まだだ。俺はお前の力をまだ使いきれていない。俺はもっと、もっともっと、お前を強くしてやる!」


 ショウマはまるでシルブレイドに言い聞かせるように呟き、そしてシルブレイドはそれに応える様に頭部にある二つの緑色の瞳を輝かせる。

 視線を走らせ、未だエヌワースが十分な体勢で無い事に気付いたショウマは間合いを詰めるべく駆け出す。


『余所見は厳禁よぉ~』


 しかし寸前で上空から長剣を振り下ろしてきたグランディスに阻まれる。

 急制動を掛けて横っ跳びでその攻撃を回避するが、そのせいでエヌワースとの距離は離れ、その間に体勢も立て直していた。

 だが唯一の武器であったフレイルが手元に無い上に、その動きは鈍重。

 重装甲だが攻撃手段が限られていれば、速さで勝る現状では敵にならない。

 そう判断したショウマは注意を一番厄介なグランディスに向ける。

 ブラックサイズはグランディスより高性能のように見え、一見、ブラックサイズの方が厄介そうに思える。

 しかしショウマはブラックサイズに何処か自分と同じような感覚を覚えていた。

 そう、性能を完全に引き出せていないのだ。

 機体のパワーに任せた攻撃が多いのがその証拠だ。

 自分も同じなだけにすぐにそれは分かった。

 となれば機体性能を100%以上に発揮し、技量と経験で性能差の穴を埋めているグランディスが一番手強い相手という事になる。

 それに野太いオネエ口調は地味に精神力を削ってくる。


『うふふふっ、そんな熱い視線で見詰められたら興奮しちゃうじゃなぁい』


 ふざけた口調とは裏腹にグランディスが今までで一番の速度で間合いを詰めてくる。

 シルブレイドは地にしっかりと足を固定し、ブレイドソーを構えて迎え撃つのだった。

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