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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第3章 王都祭典編
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第46話 王都へと続く道

「うわっ、スゲェ行列だなぁ~」


 王都へと続く街道を一目見たショウマの第一声はそれだった。

 シンロードからここまで、イーグレット学園長の護衛任務は何事も起こる事も無く、順調に進んでいた。

 それも当然と言えるだろう。

 イーグレットの乗る魔動馬車は、一般的な物より豪華だが頑丈な造りをしている。

 その両脇を魔動馬に跨った2人の衛兵が護衛し、その後ろからは頭部から剣が突き出たような兜と白銀の鎧を纏った巨兵・シルブレイドが続く。

 更に馬車の中ではレリアが万一に備えている。

 これだけ厳重な警備から一目見ただけで貴族かそれに類する人物が乗っている事は明白だ。

 しかし魔動機兵の姿が見えるだけで牽制になっていたのか、ただ単に盗賊が居なかったのか、ここまで襲撃される事は無かった。

 王都付近まで到着した今は、街道が多くの人間で埋め尽くされており、所々に警備の人間も立っているので盗賊が現れる事ももう無いだろう。


「しっかし、この行列はどこから繋がってんだ?途中で荷馬車でも倒れて街道を堰き止めてんじゃねぇのか?」


 王都を囲う外壁は肉眼で確認出来る距離にあるが、まだ視界内にその全てが収まる程なので、相当な距離がある事が伺える。

 これ程離れた場所で行列が出来ているのだから、ショウマがそう思うのも当然だ。


「いえ、多分、あの行列は王都まで続いているはずですよ。あ、正確にはその前にある検問所ですけどね」


 さも当然とばかりに涼しげでハスキーな声が頭上から注がれる。


「もしショウマさんがこの護衛任務を受けていなかったら、この行列の最後尾に並ばなければいけませんでしたよ」


 シルブレイドの操縦席の後ろ斜め上にあるサブシートで機体の状態をチェックしながら、アーシェライトは「毎年こんなものですよ」と苦笑する。

 何時間も待たされる事を想像しただけでげんなりとしたショウマは改めて、今回の護衛を依頼してくれたイーグレット学園長に感謝する。

 彼は招待客であるし、その身許もはっきりしている為、検問も顔パスだ。

 当然、その顔パスな人物が信頼する護衛役も同じ扱いとなる。

 おかげで行列に並ぶ事無く、その脇を悠々と進んでいる。

 流石に馬車が豪華である為か、表立って文句を言う人はいない。

 聞こえるのは、どこの貴族なのかとかとか、どこの偉い人なのか等々。

 時折、シルブレイドを見て興奮する子供達のはしゃぎ声も聞こえてくる。

 なんとなく盗み聞きしているような気分になるが、シルブレイドの集音装置が高性能過ぎる上にオンオフの切替が出来ないので仕方が無い。


「なぁ、シェラ」


 雑音が耳に届かぬようにショウマが頭上に向けて話し掛ける。

 こういう時に喋り掛ける相手が居るのは助かる。

 それにここまできたら盗賊の襲撃に警戒する必要も無いし、平坦な道では自動操縦で問題無く進める上、多少の段差などがあってもオートバランサーが効いているので、魔動機兵や悪夢獣がいきなり突撃してきたりしない限り、転倒する事も無い。

 つまりは暇を持て余している状況なのだ。


「はい、なんでしょうか?」


 アーシェライトの方も話を聞く態勢を取る。

 正直に言えば彼女もショウマ以上に暇だった。

 超時間耐久試験という一応はシルブレイドの調整が目的ではある為、時々各部の状態を確認しているが、そう簡単に摩耗もしなければ熱膨張したりしない。

 数時間に1回チェックする程度で十分なのだ。

 最初はシルブレイドの操縦席という密閉空間に2人きりということで緊張していたが、特段、何かある訳でも無く、流石にこの空気にも慣れつつあった。


「シェラしか居ないから聞くんだけど……」


 ショウマの口から暗に2人っきりだと言われ、アーシェライトの心臓の鼓動が跳ね上がる。

 慣れてきていたとはいえ、こうしてはっきりと言われると動揺は隠せない。


「……な…なんでしょうか………」


 そう尋ねるも、彼女の声は今にも消え入りそうな小さなものだった。

 一体、どんな事を尋ねられるのか。

 他に誰も居ない所で話す内容とは何なのか。

 自分にしか話せないものとは何なのか。

 ドクドクという自身の激しい心音が響く中、ショウマの言葉を待つ。


「この世界って電話とかメールとか、手紙以外の通信手段ってねぇのか?」


 アーシェライトのドキドキが一気に収まる。


(そうですよね。ショウマさんが脈絡も無く僕の期待するような事を言う訳がありませんよね……)


 それにショウマが彼女の事を異性として見ているかも疑わしい。

 自分と出会う前から一緒にいて、色々と噂の立っているシアニーと比べたら、王族と辺鄙な村の個人技師とでは身分に大きな違いはあるし、少年を彷彿とさせるこんな野暮ったいそばかすの浮いた顔では、キラキラと輝くような女性から見ても見惚れるような美しさには敵わない。

 女性の象徴とも言える胸も、掌で完全に覆えるささやかしか無い自分に比べ、彼女は…………。

 比べれば比べる程、惨めになっていく。

 だが唯一自分が彼女に勝っているものがある。

 それは向こうの世界の事を共有出来ている事だ。

 転生者である自分にしか話せない事柄。

 女性として見られていなくても、こうして自分としか出来ない会話が出来るだけでも嬉しいと感じるのだから、恋する乙女は単純だなと自嘲気味に笑う。


「あ、ごめんなさい。えっと…通信手段ですよね?」


 返事をするまでに少々間が空いたが、ショウマは気にする素振りも見せずに、アーシェライトに話の続きを促す。


「まず現状ではこの世界に電気という概念が確立していません。なので当然、電磁波の一種である電波も知られていません。まぁ、もし電波の存在が分かっていたとしても通信施設や電波塔がありませんので、通信出来ませんけれど。ただキングス工房の皆さんは今回の事で電気の存在を知って、僕も簡単なコイルの作り方を教えましたので、将来的には通信機器が作られる可能性はありますね」

「…え~っと、つまり、現状では出来ないって事でいいんだよな?」


 ショウマは小難しい事を言われても理解は出来なかったが、電話のような通信機器を作ったとしても、使えるようにはならないという事だけは分かった。


「って事はやっぱり手紙か言伝が一番早いって事か」

「そうですね。乗合馬車や行商の人に依頼しますので、到着には時間が掛かりますが。後は確実性は落ちますが、伝書鳩という手もあります。それと手紙が届く時間が最速という意味であれば、転移魔動陣を使うという手もあります」

「転移魔動陣か。でもあれって一方通行だよな?」

「そうですね。ですから騎士団では主に定期連絡の手段として使われているようです。定刻の時間になったら、本部が転移魔動陣で報告書を引き寄せるんです。異常が無ければ異常無しという報告書でしょうし、緊急に迫った危険や異常でなければ、その報告書を元に本部が対策を考えるでしょう。そしてもし定時報告が無かったら、報告書を書く余裕も無い有事が起こっていると判断出来る訳です」

「けど、それだと本当に緊急な連絡って出来ないよな?定時報告が無かったから様子を見に行ったら、既に全滅してたとかあるんじゃねぇか?」

「えっと、僕も騎士団に知り合いが居る訳でも無くて、色々と聞いた話を統合させて勝手に想像しただけなので、正確かどうかは分かりませんけれど、緊急用の対策もしていると思います」


 アーシェライトの言葉通り、実際に騎士団の駐屯地では周辺の地図に示された村や町の場所にマーカーを置き、村長などの代表者がそのマーカーを転移魔動陣で引き寄せる事で緊急事態を教える仕組みになっている。

 青色のマーカーはそこまで緊急ではないが、すぐにでも手紙を受け取って欲しいという事を表し、赤色のマーカーはすぐに騎士団を派遣する程、緊急な事態を表していた。

 ちなみに騎士団を纏める本部でも、周辺町村ではなく騎士団の駐屯地毎に、同じような緊急連絡対策を施している。


「それがこの世界の連絡手段って事か……」


 シアニーがザンスに誘拐された時、ショウマが約束を破って誰かに応援を頼んだとして、半日も離れた場所にどうやって連絡をするのか、事件が終わってから疑問に思っていたのだが、これで氷解した。

 ふとショウマが視線を前に向けると徐々に城門が迫っている。

 流石に全体を視界に収める事は出来ないが、まだ城門前に到着するには時間が掛かりそうだ。

 なのでもう1つ、雑談ついでに質問してみる。


「んじゃもう1つ。狩猟用に弓やボウガンは存在するけど、魔動機兵用ってのは無いし、銃みたいなのも無いよな?俺が知ってるのも“弓聖”クリフレイくらいだし」


 その“弓聖”という称号も一代限りで、クリフレイが亡くなって以降、後継者は存在しない。


「それに関しては僕よりショウマさんの方が経験上よく分かっているんじゃないですか?」

「って事はやっぱり、俺の想像通り、あの闇の衣と超回復のせいって訳か……」


 悪夢獣はある程度成長すると全身に闇色の衣のようなオーラを纏う。

 ショウマがその見た目から勝手に闇の衣と名付けたそれは、生半可な攻撃では貫く事すら出来ない。

 突進系の一点突破か同じ個所に継続的に同等以上のダメージを与え続ける事で、ようやく撃ち破る事が出来るのだ。

 その上、ようやく闇の衣を破って悪夢獣の体表を傷付けても、時間経過と共に徐々に自己回復するのだ。

 どちらの能力も悪夢獣の体力に依存しているらしく、能力を使わせ続けて疲労させれば、その力を失わせる事が出来るし、大ダメージを与える事が出来た場合、回復の方を優先させて闇の衣が発動しないという事も判明している。

 そんな闇の衣と超回復に対し、飛び道具は正直、全く効果が無いと言える。

 まず一撃で貫ける程の威力を出せない。

 零距離ならばそれだけの威力を出せるかもしれないが、そこまで近付けるなら近接武器の方が取り回しも良いし、攻撃だけでなく防御にも使える。

 次に飛ぶという性質上、空気抵抗の影響で全く同じ場所に当たるとは限らない。

 ほんの少し身動ぎするだけでも狙う位置が変わるので、継続的に同じ個所を攻撃し続ける事が難しい。


「“弓聖”クリフレイも矢を放ち続けて、悪夢獣をその場に釘付けにして、疲れ果てた所を貫いたらしいです。山を削る程大量に、そして3日間撃ち続けてようやくという話ですから、いくら安全とはいっても同じ真似をする人はあまりいないでしょうね」


 3日間も寝ずに警戒し続けるより、命の危険はあるものの短時間で済む近接戦を仕掛けた方が効率が良いと考えるのは当然だ。


「この世界で銃が発達しなかったのも同じ理由です。銃のような武器は50年以上前に作られた事があるのですが、悪夢獣はおろか魔動機兵の鎧甲も貫けなかった事から開発自体が中止になったんです。まぁ、コストパフォーマンスが悪かったというのも要因の1つですけれど」


 弓矢と違い、銃弾は使い捨てが基本だ。

 もし再利用が可能だとしても、矢尻よりも遥かに小さい銃弾を回収して回るのは一苦労だろう。

 その上、この世界に自動生産工場なんてものは無く、基本的に手作業だ。

 1発を作る間に何十発も消費するのだから、コストパフォーマンスが悪くなるのは当然で、需要と供給が見合わなければ、銃を使う者も減り、必然的に開発は中止となったのだろう。


「う~ん、通信関係にしろ銃火器にしろ、今後今の所は次第ってところか……あれば凄く便利になるんだけどなぁ~」


 向こうの世界の技術者だったアーシェライトなら何か手があるんじゃないかなという期待を込めて呟く。


「残念ですけど、僕の前世はヘビーギアの技術者であって、通信技師でも兵器開発者でもありませんからね。基礎知識はあってもそっち関連の専門知識はありませんから」


 呟きの意味を理解したアーシェライトはショウマの期待を切り捨てる。


「いや、ほら。出来たら儲けもの程度の考えだったから………おっ、そろそろ門の前に着くぞ」


 喋っている間に王都フォーガンは目の前に迫っていた。

 王都を囲う外壁はシルブレイドに乗っているショウマですら見上げる程の高さがある。目算だが30m程はあるだろう。

 魔動機兵や悪夢獣のサイズを考えれば、これくらい無いと防護壁の意味を成さないのだろう。

 正面に見える内外を繋ぐ巨大な門は僅かにしか開いていないが、門が巨大だからそう見えるだけで実際には馬車が通れる程の広さがある。

 しかし魔動機兵が通れる程の広さは無い。

 警備らしき兵士が2人慌ただしく動き回っている事からあそこで王都への入場許可証を発行しているのだろう。

 その手前に設置されている検問で荷物や人相、身分などのチェックは済んでいるはずなのだが、入場を担当している人員が足りていないので、行列になっているという所だろう。

 そんな行列を横目にイーグレットの乗る馬車は外壁に沿うように左に曲がる。

 少し進むと別の門が姿を現す。

 こちらは完全に閉じられていて、並んでいる者も居ない。だがその門を守るように兵士が2人立っている。


「シンロード魔動学園・イーグレット学園長御一行様ですね?」


 馬車が門の前で止まるとすぐに兵士がそう声を掛けてくる。

 魔動馬に跨った衛兵の1人が「そうだ」と答え、馬車の中からイーグレットが顔を見せると、兵士は頷き、門を開くようにもう1人の兵士へ合図を送る。

 頑丈そうな門がゆっくりと、だが静かに開いてゆく。

 魔動力によって動く仕組みのおかげでこうして簡単に開くが、その門は分厚く、魔動機兵のパワーでも容易には開ける事が出来ないだろう。

 門が開く様子を眺めていると下から兵士が声を掛けてくる。


「護衛の騎士殿!その魔動機兵はどう致しますか?こちらでお預かりする事も出来ますが」


 どうやらこのままシルブレイドに乗ったまま王都内には入れないようだ。


『えっと、キングス工房で預かってくれる事になっているんですが、やっぱりこのまま乗っていくのはマズイですか?』

「あははは、いくらお祭りだからって流石に街の中を警備用でも無い魔動機兵が歩いていたら皆が驚いてしまうだろう。そういう事ならこちらで運んでおくから、そっちの台車に乗せておいてくれ」

『分かりました』


 指示された方を見ると大型の運搬荷車があるのが見える。

 手早くその上に片膝立ちの駐機体勢でシルブレイドを乗せ、アーシェライト共に外へと出る。

 ずっと操縦席内に居た為に気が付かなかったが、やけに暑い。

 夏に差し掛かっているせいというのもあるが、それ以上に明日から始まる最大規模の祭を前に、街の雰囲気が、人々の興奮が、必要以上にショウマの身体をそして心を熱くさせていた。


「ここが王都フォーガン。そしてフォーガン王国祭!」


 開いた門の向こうに見える王都の景色にショウマは興奮を抑えきれずにいたのであった。


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