第41話 チーム戦開始
「では、これより第3試合、チーム戦を開始する!」
タンニが高らかに宣言して、両代表の6名が闘技場に姿を現す。
シアニーを先頭にショウマとレリアが続き、反対側からはレグラスを先頭に、相変わらず上半身裸のマーチョと、それとは対照的にフード付きのローブで頭から足元まですっぽりと全身を覆い隠した騎士というよりも魔法使いを彷彿させる人物が続く。
「なぁ、あれって隠し玉のつもりなのかな?」
今のシアニーに話し掛けた所でスルーされるのがオチなので、ショウマは隣に居るレリアに尋ねてみる。
「もしかするとそう思わせる心理的な揺さ振りかもしれない」
遠目では影になって顔は判別出来ない。
大柄なマーチョの隣に立つと大人と子供程の差になって、やけに遠近感がおかしいが、結構小柄な人物のようだ。
それ程の小柄な男性はクラスには居ないはずなので、必然的に女性という事になる。騎士科には女性は12人しか居らず、それぞれ6人ずつに別れている。だからすぐに誰だか分かると思ったのだが、何度クラスメートの顔を思い浮かべても未だに誰かは判別出来ない。
「まぁ、闘ってれば分かるか」
「そうだな。フードが捲れて顔が見えれば、誰かは分かる訳だし」
どうにもモヤモヤとしたものが心の中に留まっているが、気持ちを切り替えて、試合に集中する事にする。
「このチーム戦は個人戦の時とは若干ルールを変更している。第2試合では爆煙によって防護魔動陣が発動したのかどうか判別出来ず、審判役を務める俺個人で判断したが、人数が多くなるとどうしても把握もし辛くなる。なので、少々時間は掛かってしまったが、防護魔動陣を調整し、魔動陣が発動した場合にこちらにカウントが表示されるように再設定した。その上で、このチーム戦に限っては2回目の発動があった場合に、その者を戦闘不能と見做すルールとした」
つまりはどんな強力な攻撃でも1度は耐えられるという事だ。
ただ、それは致命的な怪我を負わないというだけの話。
斬撃程度ならある程度ダメージは軽減されるだろうが、魔動器による致死性の高い攻撃の場合、相当なダメージが身体に残る事を覚悟しなければならない。
最悪、そのダメージによって意識を失い、戦闘不能になるという事もあり得るので、過信する事は出来ないだろう。
だが防護魔動陣が発動したかどうかが肉眼での確認で無くなったは大きい。
レグラス戦の時のように発動していないのに負けと判断される恐れが無くなる。
「説明は以上だ。それじゃあ、全員、戦闘準備をしろ!」
それぞれがそれぞれの武器を構える。
例のフード付きに視線を送ると、ローブの隙間から出した白い手袋をした小さな手の先から長くて無骨な鎖が伸びている。鎖の先端には扇型の小さな刃が付いているので、鎖分胴というよりは鎖鎌といった方が合っているだろう。
(近接武器が居ない?)
マーチョの持つ長槍は近接攻撃も出来無くは無いが、用途的には剣のような近接武器が届かない距離からの中距離攻撃が主だ。そしてレグラスの大楯“獄炎の守護者”から放たれる炎弾が最大の火力を発揮するのは遠距離。
「レリア!初っ端から風力最大だ!」
「え?あ、ああ。分かった」
ショウマの焦った声にレリアが慌てて頷いた直後、タンニの声が闘技場に響き渡る。
「では第3試合、開始だぁ!!」
開始の掛け声と同時に駆け出したのは、やはりシアニー。そしてそれを追い掛ける様にショウマが駆け出す。
レリアが今出せる一番強い追い風を背中に受け、一気にレグラス達の元へ向かう。
両者の間は約30m離れているが、2人の速さなら2秒もあればその懐に潜り込む事が出来るだろう。
しかしその数秒が命運を分けた。
マーチョが地面に長槍を突き刺した途端、シアニーが踏み締めた地面に足が減り込み、動きが止まる。
見れば、硬かったはずの地面はまるで砂漠のように砂地に変わっており、流砂の如く動いて、足を絡め取っていく。
(ちっ、やっぱり、そう来るよな)
個人戦での戦いから、マーチョが魔動器の扱いに相当長けているのは分かっていた。
その上で、全員が中距離以上の攻撃方法を選んでいる事からこちらの機動力を削いで足止めするのは目に見えていたのだ。
それに気付いたのが開始の合図の直前だった上に、聞く耳を持たなかっただろうからシアニーには告げる事が出来なかった。
足を絡まれ、動きが鈍ったシアニーの横をショウマはジャンプで追い越す。
流砂を飛び越え、未だ砂地になっていない地面へと着地する直前、フード付きが僅かに手を前方へ上げると、まるで蛇のように鎖が蠢き、ショウマ目掛けて真っ直ぐ襲い掛かってくる。
しかしその程度の事は予測していた。剣を振り下ろし、鎖を叩き落そうとする。
だが、剣と鎖が接触した瞬間、まるで壁に向かって剣を叩きつけたような衝撃が腕に走り、ショウマは大きく後ろへ弾かれる。なんとか空中で体勢を整えるも、着地した場所は流砂の真ん中で、シアニー同様に砂で足を捕らわれる。
「ちぃっ!やられたな」
鎖にはいつの間にか岩が張り付いており、しっかりと地面に固定されていた。
これでは地面を叩き付けたのと同じ。
自分の力でそのまま弾き返されてしまった訳だ。
先制攻撃は失敗に終わった上、状況は完全にレグラス達に有利に傾いている。
「こんなもの!」
「わっ、バカ!やめろ!!」
ショウマが制止する間も無く、シアニーは流砂に剣を突き立て、魔動力の上書きで凍らせていく。
だが足首まで砂に埋まった状態で凍らせてしまえば、どうなるか。
「自分から動きを封じてくれるとはね。さぁ、業火に身を焼かれるが良い!!」
地面が凍りついて完全に動きが止まってしまったショウマとシアニーに向けて、人間1人くらいなら丸飲み出来そうな程に巨大に膨れ上がった火炎弾が迫る。
ここまでレグラスが足止めに参加していなかったのは、この巨大な炎弾を作り出す準備をしていたのだろう。
いくら防護魔動陣で致命傷を避けられるとはいえ、直撃するのはあまりよろしくない。
幸いと言えば良いのか、熱によって足を縛り付けていた氷は解け、水分を含んで硬くなった砂は踏んでも沈まない。
足を引き抜きつつ、回避行動に移るが、到底間に合わない。
「2人とも伏せろ!!」
その声に、ショウマは反射的にシアニーの後ろ頭を鷲掴みしながら、地面へと引き摺り倒す。
その僅か上方を巨大炎弾が浮き上がりながら通り過ぎていき、客席に届く直前で観客を守るように張ってある防護魔動陣によって弾け、熱風を巻き散らして消滅する。
「助かったぜ、レリア」
ショウマはそれだけを背後に居るレリアに伝えると、すぐに立ち上がって剣を構える。
咄嗟の機転でレリアが背後からの追い風を上昇気流にしてくれなければ、伏せていても直撃したであろう。いや、それ以前に風によって炎弾の迫り来るスピードを低下させていなければ、回避行動さえ取る暇も無かっただろう。
「ぷはっ。ちょっと何すんのよ!」
砂に埋まっていた顔を抜いて、シアニーが怒鳴る。
「助けてやったのに、何だよ!その言い草は!!」
「誰も助けろなんて言って無いじゃない!私1人でもなんとかなったわよ!」
「足を抜くのに手間取ってたじゃねぇか!!」
「それでも避けるのには十分な時間があったわよ!!」
試合中にも関わらず、2人は口喧嘩を始める。
ショウマにとっては、この遣り取りが凄く懐かしい気がして、ついついヒートアップしてしまう。
その為なのか、その顔は微妙に綻んでいる。
「何、ニヤついてんのよ!気持ち悪い!!」
「ああ!?そっちこそ、ずっと目を吊り上げて狐みたいな顔しやがって!!」
「誰が狐よ!!」
この場に居る多くの者はその光景に唖然としてしまう。
いつも凛としていて近寄りがたい冷たい雰囲気を出していた氷結姫のイメージとはかけ離れた、まるで普通の少女のような剥き出しの感情を露わにした姿。
予科生時代からずっと同じクラスだった者でも、そんな彼女を見るのは初めてだった。
そして唖然としていたのはレグラス達も同じだった。
ただ1人、フード付きを除いて。
何やらフード付きがレグラスとマーチョの肩を叩くような仕草をして、それでようやく2人は我に返る。
「…おおっと、仲間割れしている今が好機の時!!」
流石に先程のような一撃必殺の巨大なものは時間が足りない為、生み出せないので、レグラスは小さい炎弾を無数に発射する。
それに合わせる様にマーチョも大量の岩礫を撃ち放つ。
2人が攻撃したのに合わせて、フード付きも鎖で同時に仕掛ける。
「全く!お前達はこんな時に何をやってるんだ!!」
レリアが慌てて風の縛めで迫り来る無数の攻撃を迎撃するが、動きを封じる事が出来たのは岩礫と炎弾の一部のみ。
残りの多くがショウマとシアニーに殺到する。
だがそんな状況にあっても2人の口喧嘩が止まる事は無い。
「大体、なんでいつもショウマは私を護ろうとするのよ!護って貰う程、私は弱くない!!」
シアニーが怒鳴ると同時に刺突剣を一振りすると、周囲に冷気が満ち、炎弾が冷気に包まれて消滅していく。
「お前がいっつも危なっかしいからだろ!身体が勝手に動いちまうんだよ!!仕方ねぇだろが!それに仲間を護るのに理由なんているかよっ!!」
ショウマが剣を薙ぎ、岩の礫を悉く叩き落していく。
「こっちの邪魔すんじゃねぇっ!!」
「ああ、もう!邪魔だなぁっ!!」
迫り来るチェーンサイズをショウマが叩き落とし、それと同時に3つの巨大な氷柱が中空に生み出されて、レグラス達に向けて射出される。
レリアの風の支援を受けて、高速で飛来する氷柱の1本はレグラスが大楯でなんとか凌ぎ、フード付きに向かっていたものを炎弾で砕く。しかし防げたのはそこまで。
岩礫を放った直後で身動きを取る事も、岩の鎧を生成する間も無く、氷柱はマーチョの腹部に突き刺さる。
防護魔動陣のおかげで串刺しにはならなかったが、衝撃を完全には吸収出来ず、そのまま後ろへと大きく吹き飛ばされてしまう。
そのせいで集中が途切れたのか、はたまた意識が途切れたのか、足元を掬っていた流砂が動きを止める。
その隙を逃さず、ショウマは一気にフード付きの懐まで潜り込む。
「こっちの喧嘩を邪魔してくれた礼だ!お前の正体を見せて貰うぜ!」
襲い掛かる鎖の鎌首を最小の動きで見切りながら、横一線に剣を薙ぎ払う。
手応えを感じないまま剣はローブを斬り裂き、両断してしまう。
「え?!ちょっ…まっ……!」
その事実に一番慌てたのはショウマだった。
防護魔動陣が発動しないという事故によって将来有望な騎士候補生を殺してしまった。
この世界にも新聞は存在し、明日の朝刊の1面にそんな見出しで発表される情景が脳裏に浮かぶ。
だが、カランという乾いた音がし、斬り裂かれたローブがハラハラと空を舞うだけで、悲鳴も血飛沫も無い。
ローブの中身を見ればそこには人では無く、胸の中心部に宝石のような綺麗な石が埋め込まれている人を象っただけの木作りの人形が、胴を真っ二つにされて横たわっていた。
時折ピクピクと鎖鎌を持った手が動くが、それ以上の大きな動きは無い。
「まさか人形遣いだったとはね……」
ショウマの隣まで来たシアニーが刺突剣でレグラスの動きを牽制しつつ、そう呟く。
「確かに、人形なら見覚えが無いはずだわな~」
基本的に魔動具は魔動力を常に流していなければ動きを止めてしまう。
動かす為には常に人間が触れていなければいけないのだ。
人間を乾電池だと思えば、分かりやすいだろう。
ただ魔動具の中で唯一、ライトだけが、常に触れていなくても長時間稼働し、光を放ち続ける。
ライトに使われている白光石が魔動力を一時的に蓄積する特性を持っているからだ。
数十年も前にその特性に気が付いた1人の魔動技師が魔動力を蓄積する魔動タンクを作り出し、その後に改良を重ねた結果、短時間ではあるが、触れていなくてもタンクに魔動力を注いだ人物の意思通りに動かす事が可能となったのだ。
ただし、魔動機兵や魔動器といった多大な魔動力を消費する物を動かす為にはそれ相応に巨大化させなければいけず、それだけの魔動力を充填させるのにもかなりの時間を要するので、現状では殆ど使用されていない。
だがこの木の人形のように回避や防御を捨て、チェーンサイズを振るう事だけに特化してしまえば、小さな魔動タンクでも試合の間中くらいは動かせない事も無いだろう。
「どっかに操ってた奴が隠れてるって訳か」
周囲を見回してみるが、それらしい人物は見当たらない。恐らくはマーチョの力で地面の中にでも潜っているのだろう。
奇襲に警戒しなければいけない。
「そこまで警戒しなくて良いはずよ。本人は隠れて、人形だけをわざわざ出してきたって事は、直接的な戦闘能力は低いんだと思うし」
ショウマの考えを察し、シアニーが答える。
「って事は、これで実質3対1って事だな」
「くっ……」
レグラスは歯噛みする。
元々の作戦では、足を止めさせて遠距離からの波状攻撃で仕留めるつもりだった。
万が一接近されたとしても、シアニーの攻撃では自分の防御を貫く事は出来ないだろうし、ショウマの方も先程の戦いからその実力が自分には及ばないと判断していた。 3人目に関しては個人戦に選ばれなかったという時点で前の2人より強い事は無いという確信があった。
確かにレグラスの読みは殆ど間違えていない。
ただし、ショウマの実力を測り間違えて居た事。そしてシアニーにも氷柱による遠距離攻撃を持っていた事。
その2点を読み間違えていた結果が、今の状況に繋がっていた。
「クックックッ、それで勝った気になるのはまだ早いぞ!私の魔動器の本当の力を見せてやる!!」
言うや否や、レグラスが“獄炎の守護者”を掲げると、炎弾の射出口を中心に大楯が小さく分割されていく。
分かれた楯は、今や小楯サイズとなったレグラスの楯にある射出口から伸びた炎の蛇と繋がっている。
その数は8本。
まるで日本神話に出てくる八岐大蛇みたいだとショウマは思ったが、この世界ではその話が通じる人物はアーシェライトしかいないので、なんとか呟
くのを抑える。
「いくらお前達が強かろうと、最強形態となった私に敵う訳が無い!」
「その台詞、完全に負けフラグよね」
「え、あ……うん、まぁ、そうだな……そうだよな……」
ショウマが思っていても敢えて言わなかった言葉だが、シアニーに遠慮は無い。
「あれ?そういえば……」
「何?」
「いや何でも無い。今はレグラスに集中しよう。いくら負けフラグ的な台詞を言ったからといって、油断は出来ないからな」
先程の口喧嘩以降、以前と同じように会話をする事が出来ている。どこか刺々しかった雰囲気もいつの間にか消え去っていた。
彼女の中で何かが変わったのか。
それとも単純に戦いに夢中になっている為なのか。
それは分からないが、どこか生き生きしていて、とても良い状態に見える。
彼女の性格上、もし今、それを指摘してしまうと再び意固地になって元に戻ってしまいかねないので、ショウマは何も言わない事を決めた。
というか、それ以前に、これ以上ゆっくりと喋っている暇を目の前の相手が許してくれなかった。
「くるわよ!」
その声に剣を構え直す事で応える。
その直後に炎を纏った8つの鎌首が一斉に炎を吐き出す。
それが、第2ラウンドの開始の合図だった。




