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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第3章 王都祭典編
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第40話 インターバルの来訪者


 想定していた以上に個人戦が早く決着してしまい、チーム戦用の防護魔動陣の範囲や効果の設定調整が間に合わず、急遽、休憩を挟む事となった。

 1試合で20~30分は掛かると予想していたというのに、2試合の合計で10分弱ではそれも仕方が無い。今頃は裏方さんが悲鳴を上げながら作業している事だろう。

 そんな中、ショウマ達代表選手は闘技場内部にある控室へと一度、引き上げていた。


「よう、ショウマ!ド派手に負けちまったなぁ~!」


 勢い良く控室の扉を開いて現れたのは、熊のような体躯とスキンヘッドでありながら、その柔和な顔付のおかげで、怖がられるどころか、多くの者から慕われている“仏のイムさん”こと、イムリアスであった。

 その背後からは、おずおずと小柄で顔の半分以上が便底眼鏡で覆われた銀髪の少女・アーシェライトが顔を出して来る。


「…あ、あの……ショウマさん……お…お怪我は大丈夫…ですか?」

「ん?なんだ、やっぱり2人とも見に来てたのか」

「ひゃうっ!って…なななななんで上着を…その…着てないんですか…………」


 部屋に入ってきた2人を出迎えたのは上半身裸のショウマ。その傍に立っていたレリアも突然入ってきた2人の方に顔を向ける。

 裸姿のショウマを目にしたアーシェライトは顔を真っ赤にして、視界に入らないように慌てて後ろを向く。


「何だ、見るか?」

「みみみみ見ませんよ!エッチです!不潔です!」


 彼は先程の試合で焦げて穴が空いてしまった服を着替えているだけだ。

 そして怪我の具合を聞いてきたから、傷一つ付いていない事を確認させて安心して貰おうとしただけだ。

 ノックもせずに控室に飛び込んできたのはイムリアスとアーシェライトの方なのだから、非難されるのはおかしい気がする。

 ちなみに同じ部屋に居るレリアはそこまで動揺はしていない。

 第1試合でもマーチョが上半身、裸であったし、訓練中に暑くなったからと言ってシャツを脱ぎ捨てる者も居る為、上半身程度ならそれなりに免疫があるからだ。

 とはいえ、その対象が好意を抱いている相手となると流石に完全に平静という訳にはいかない。なるべく直視しないようにはしているが、ほんのりと頬は赤くなっている。


「ん?そういえば、やけに静かだと思ったらお姫さんの姿がねぇなぁ」


 レリアとイムリアス、アーシェライトがそれぞれ自己紹介を終えた後、いつもならこんなバカ騒ぎをしていれば、更に騒ぎを大きくするはずの人物が居ない事を不思議に思い、イムリアスが尋ねてくる。


「ああ。休んでる暇があったら訓練してくるって言って、どこかのトレーニングルームに行っちまったよ。完全なオーバーワークなんだけど、天の邪鬼だから休めなんて言うと、逆に更にやっちまうからなぁ~」


 ただでさえ思い込みが激しくて人の話を聞かず、意地っ張り。

 しかも騎士と王族という2つの無駄に高いプライドから、他人に弱さを見せる事を嫌い、相談しようともしない。

 人からの言葉を受け入れず、自分からも話そうとしないのでは、対処のしようが無い。


「なんか、この間の事があってから様子がおかしいんだよなぁ」


 レリアが居る為、口には出さないが、アーシェライトもイムリアスも『この間の事』が何の事を言っているのかは理解していた。

 クアクーヤが悪夢獣になった事件は街の住人には殆ど広まっていない。

 だがランズラット傭兵団副団長・ガレルエアから街の警備やイーグレット学園長、アイリッシュ理事長などにも報告は上がっているだろう。

 その内容も、ショウマ達が関わっていたという事は伏せられ、邪法の暴走によって人間が悪夢獣のように変化し、それを傭兵団が討伐したという、事実ではあるものの若干異なる内容ではあるが。

 西の森の戦闘の痕跡や、夜だった事もあって奇妙な遠吠えのようなものを聞いた者も居たので、状況証拠としては十分で、その報告は受け入れられたのだった。

 住人にその事が伝えられていないのは、西の森という街に近い場所で、原因はともかく悪夢獣が現れたとなれば、街全体が混乱と不安に覆われる可能性があるからだった。それが邪法を使った人為的なものであったとしても、悪夢獣という存在自体がこの世界において恐怖と絶望の対象なのだ。


「そういえばさっきの戦いも話に聞いていたのと随分違っていたな。実際に俺が見た訳じゃないが、まるで蝶が舞うように華麗に攻撃を避け、隙を見逃さずに蜂の一針のように的確に急所を刺すってのが、あの姫さんの戦い方だって聞いたんだが。けどさっきのは真正面から力尽くで粉砕したっていう感じだったな」

「そ…そうですね。勝った後も顔は険しいままでしたし、なんとなく鬼気迫るって感じでしたね……」


 イムリアスに続き、アーシェライトもそう感想を口にする。


「そうだな。あれでは氷結姫ではなく氷結鬼だ。彼女程の実力があれば、岩の鎧全てを凍らせなくても、一部分だけピンポイントで凍らせて破壊出来たはずだ。あのようなやり方は、自分が一番強い事を誇示しているだけにしか私には見えなかったな」


 レリアの感想にショウマは頷く。


「やっぱ、みんなもそう思うよなぁ。なんか強くなる事に焦ってるっていうか、余裕が無いっていうか、そんな感じなんだよな~」


 強くなりたいという願望はショウマにもレリアにも、いや騎士を目指す者ならば誰もが持っているし、それが早ければ早い程良いとも思っている。

 方向性は違うかもしれないが、魔動技師だって技術や知識の向上を望む。

 だから少しでも早く今よりも強くなろうとする気持ちは痛い程に理解出来る。

 だが同時にそれが危うい事も知っているショウマは、どうしても彼女の事を心配してしまうのだった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 一方その頃。

 シアニーは闘技場内に設けられたトレーニングルームの1つで、一心不乱に剣を振り続けていた。

 全身から汗を迸らせ、腕や足の筋肉が悲鳴を上げている事も意に介さず、ただただ見えない敵に向けて剣を突き刺す。


「ふぅ~ん。中々美人になったじゃないか」


 誰かが部屋に入って来たのは気が付いていたが、ショウマ辺りだろうと思って、気にも留めていなかったのだが、声を聞いた途端、彼女はピタリと動きを止める。

 一瞬だけ顔を顰めるが、すぐに表情を戻してから声の主の方へ振り返る。


「何故あなたがこのような場所に来ているのですか?」


 そこに居たのはシアニーと同じように、まるで小麦の穂のような黄金の髪を持った端正な顔付で一目で豪奢と分かる服装の男性と、その背後に付き従う執事服を身に纏った目付きが鋭い事以外は特徴があまりない青年が立っていた。


「想像以上に美しくなった君の姿を見に来たと言ったら怒るかな?」

「冗談はよして。あなたにそんな暇があるとは思えないのだけど。オーレリア卿」


 彼の名はアレス=オーレリア=ド=フォーガン。

 シアニーと同じ王族であるが、現王位継承権は第7位。彼の父親が継承権第1位である為、もし何事も無く現国王が退けば、必然的に継承権第1位の王子になる人物であり、王都フォーガンを守護する王都騎士団の団長でもある。

 最前線から程遠い王都騎士団は悪夢獣との実戦経験が殆ど無く、王侯貴族の長男や商会の長男といったような後継ぎや、カキヨンのように戦うより教える方が得意だったり、傷病等で戦えなくなったが、その技術や知識を伝える為だったりと、指導者を目指す者も多く在籍していて、全体の実力で言えば、他国の騎士団を含めた全ての騎士団の中でも最弱と言えるだろう。

 だがその団長を務めるとなれば、それなりの実力は持っている。

 恐らく今のシアニーが戦っても互角に渡り合えるか微妙な所だろう。

 いくら王都騎士団から派遣された正騎士が指導をしているとはいえ、そんな立場の人間が、たかが学生の模擬試合をわざわざ見学に来るはずが無い。


「君に会いに来たというのも本当さ。まぁ、学園長に用があったついでだけどね」


 アレスとは幼少の頃に王族の集まりがあった際に親に連れられて、王都へ出向いた時に幾度か会った事がある。

 しかもその際に彼はシアニーの事を気に入ったようで、親を通じて婚約の約束を交わす事となったのだった。

 王位継承権第1位のオーレリア家の人間に言われては、末席にいるアメイト家が断れるはずも無い。

 その後、シンロード魔動学園に入学してからは、学業が忙しい事を理由にその集まりには付いて行っていないので、こうして顔を合わせるのは数年ぶりだった。

 アレスがどんな風に思っているかは知らないが、シアニーの方は彼の事が苦手だった。

 理由は彼女自身もよく分かっていないが、なんとなく生理的に受け付けないのである。


「はいはい、そうですか。流石は日和見とご評判の王都騎士団長様。わざわざ学生1人に会いに来るなんて、相当にお暇だと言う事なんですね、オーレリア卿は」


 シアニーは皮肉を込めて軽く流し、再び訓練へと戻ろうとする。


「久しぶりに婚約者に会いに来たというのに……流石、氷結姫と言われているだけあって冷たい反応だね。せめてアレスと呼んで貰いたいものだな」

「婚約者といっても仮ですし、この数年以内には確実に破棄させて頂きますから」


 親によって、強引に決められてしまった婚約だが、そんなものに素直に従う様な彼女では無かった。

 王位継承権最上位の家からの婚約話そのものを断れば、いらぬ軋轢を生み、末席のアメイト家にとっては不利にしかならない。

 なので仕方無く婚約は受け入れたが、その代わりにある条件を出したのだ。


「綺麗な顔に似合わず強気な事だな。確か、学園に居る間に誰もが認めるような功績を残すか、首席で卒業した場合には、婚約を破棄するという約束だったかな」


 悪夢獣の脅威に晒されているこの世界では、1人でも多くの機兵騎士を必要としている。

 例え女性であろうと強い騎士と認められれば、貴重な戦力を、結婚して家に入れて失わせるような事はしないだろう。


「先程の戦いぶりは見させて貰ったよ。確かに今の君の実力は頭一つ抜き出ているようだ。しかしそれも今だけだ。自分でもそれを感じているんじゃないか?」


 その言葉に訓練を再開しようとした身体の動きが止まる。

 男女の体格の違いと筋量の差、それに伴う攻撃力の差はシアニーも痛感していた。

 いくらスピードで勝っていても、先のマーチョ戦のように完全に防御を固められてしまうと剣だけでは敵わない。

 周りから見たら、圧倒的な勝利に見えたかもしれないが、魔動器の力を頼らなければ勝てなかった事に、彼女は不満と自信の力の無さに悔しさを抱いていたのだ。

 それをこんな相手に見抜かれてしまった事が更に悔しさを増す。


「アレス様、そろそろお時間です」


 控えていた青年執事が告げ、アレスが頷く。


「久しぶりの逢瀬の時間ももうお終いか。もう王都へ戻らなければならないので、最後の試合は観戦出来ないが、君なりに頑張ってくれたまえ。こちらとしては早く見切りをつけて、俺のものになって欲しいものだがな」

「……私は……諦めない…から……」


 そう小さく呟いたシアニーの声が彼に届いたかどうか。

 アレスは最後に口の端を吊り上げる程度の薄い笑みを浮かべた後、トレーニングルームから出ていった。

 シアニーは訓練を続けもせず、ただアレスが出て行った扉を睨み続ける。

 手を強く握り込み、歯軋りをして、今まで以上に激しい怒りをその瞳に湛えて、尚も睨み続ける。


「……そんな事、言われなくても分かってる……だけど私は絶対に騎士になってやるんだから。出来ないと決めつけているあんたを絶対に見返してやるんだから!絶対に誰にも負けない強い騎士になってやるんだからっ!!!」


 まるで自分に言い聞かせるかのように、その声は部屋にこだまする。

 そして彼女は再び訓練を再開するのであった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 闘技場の準備が整い、まもなく試合開始という所になってようやくシアニーは控室に戻ってきた。


「ようやく戻って来やがったか。すぐに試合が始まっちまうから、簡単でもいいから作戦を――」

「いらない」

「――作戦を立てて…って、おい!いくらなんでも無策って訳には――」

「作戦なんて必要無い!私1人で十分なんだから!!」


 休憩前より更に苛立ち、張り詰めた表情のシアニー。

 ここまで頑なになってしまったシアニーを説得するには、相当な時間が必要であり、今、そんな時間は無い。

 なので、ショウマはシアニーの方は諦め、レリアに声を掛ける。


「この分だとあいつ1人で突貫しかねないから、援護してやってくれ。俺がレグラスの奴を引き受ける。3人目の実力が分からないけれど、シアの実力なら2人相手でも十分勝てるだろうし、そっちが片付き次第、俺の方を援護して貰えれば、十分に勝ち目はあるはずだ」


 作戦とは全く言えないものだったが、シアニーが聞く耳を持たない以上、これが最も効率的かつ合理的な策と言えるだろう。

 ショウマ個人としてもレグラスに借りを返すつもりだ。


「お前達、そろそろ時間だが、準備は良いか?」


 ショウマが話し終えたのを見計らったかのように、控室のドアを開けて、カキヨンが入ってくる。


「絶対に勝てよ!」


 カキヨンが必死の形相で激励を送る。

 ショウマ達にとっては教え子を鼓舞する言葉にしか聞こえないが、当の本人にとっては意味合いがまるで異なる。

 この対抗戦には、キザーヲと彼女への告白権を賭けている。

 もしショウマ達が負けてしまえば、彼女が女誑しのキザーヲの毒牙に掛かってしまうのだから、必死になるのも当然だ。

 流石にそんな私情を話す訳にはいかないが、その必死さはどうやらショウマ達には届いたらしい。


「負けるつもりなんて無いですから」

「そうです、教官殿。私を選んで頂いた事は後悔させません」


 ショウマとレリアが力強く答える。

 シアニーからは何も答えが返って来なかったが、カキヨンは頼もしい教え子にしっかりと頷き、会場へと送り出した。

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