第38話 対抗戦代表メンバー発表
シンロード魔動学園の闘技場で今日の訓練が終わりを迎える直前、カキヨンの前に彼が担当する生徒達が集まっていた。
対抗試合までは後2日。
タイミング的に対抗戦に出るメンバーを発表する頃合いだと、誰もが理解していた。
ここにいる誰もが自信に満ちた表情をしているが、大事な発表という事で緊張した面持ちは隠せていなかった。
彼ら彼女らの中から代表として選ばれるのは3名。
だがその内の2人は全員の心の中でも確定していた。
「では対抗戦のメンバーを発表する。最初の1人目はシアニー=アメイト=ラ=フォーガン!」
カキヨンの言葉に全員が納得の表情を浮かべる。
予科生時代から成績優秀。容姿端麗で家柄も末端とはいえ王族。それに驕ることなく、人一倍の訓練を積み、高い魔動力と類稀なる剣技を持つ、このクラスどころか学園でも十指に入るのではないかと言われている実力者。騎士として、そして王族として高い誇りを持ち、誰からも畏敬の念を寄せられる孤高の氷結姫。
そんな彼女が選ばれるのは分かり切った事実であった。
「2人目はショウマ=トゥルーリ!」
これにも皆は納得する。
魔動器は扱えないものの、その剣技はシアニーに匹敵し、冷静な分析力と判断力を持ち、同じ学生の身でありながら戦技指導を任される程に信頼される人物。
その上、模擬戦で彼に一撃を入れる事が出来たのは、僅かに数名。
それもショウマが反撃しない事が分かっている状態での捨て身の攻撃によるものが殆どで、それですらある程度受け流して、ダメージを抑えている。
このクラス随一の回避・防御能力を有していると言っても過言ではないので、代表に選ばれるのも当然だ。
「そして最後の1人だが…レリア=ウィンザー。お前に任せようと思う」
最後の1人の発表に、多くの者が驚きの声を上げる。その中には当のレリアも混ざっていた。
確かに4日程前のショウマとの一戦で暴走したものの魔動器の力に覚醒し、今では風の扱いに慣れつつあって、その暴走もする事は無くなった。
だが微風が強風になった所で、彼女より早く魔動器の力を発動させ、慣らしてきた者に比べれば若干見劣りするし、空気抵抗を減らし、更には風を噴射させる事でスピードアップを成功させた運動能力を持ってしても、単純な体力勝負では負けを喫してしまう事がよくある。
そんな自分よりももっと実力のある適任者がいるはずだ。
それを一番自覚しているレリア本人が、周囲から声が上がる前に自ら異議を唱える。
「カキヨン教官殿。私を選んで頂いた事には感謝致しますが、今の私の実力では力不足であると自覚しております」
選ばれた事は確かに嬉しい。
だが自分の未熟さを痛感している彼女は、素直には喜べていなかった。
レリア自身が代表には不相応と言ったので、表立ってそれに同意する者はいないが、彼女より模擬戦で良い成績を修め、彼女より強いと自負している何人かは目だけでその意見に賛同していた。
「どうやら本人を含めて納得していない者もいるようだから説明してやろう。まず今回の対抗戦だが、試合形式は個人戦が2試合、チーム戦が1試合となっている。当然、個人戦は個人の能力が高い方が有利だ」
それ故に高い戦闘能力を持つシアニーとショウマが選ばれた。
「だがチーム戦はチーム員の総合力が必要となる。ウィンザーの風の力は自身の強化が可能であり、他者に対しても強化が可能。つまり直接の戦闘だけでなく支援するのにも長けているという事だ」
レリアの持つ“嵐気の瞳”による気圧操作は自身周辺にしか効果を及ぼさないが、魔動器そのものから発せられる風は、その効果範囲がかなり広い。
遠くなれば風の威力は小さくなってしまうが、半径100mは十分に効果の範囲と言えるだろう。
「味方の背中側から追い風を吹かせるだけでも突進力は上がり、相手は風に抵抗しながら迎え撃たなければならない。魔動の力に特化した者で代役を立てる事も出来るだろうが、もし相手に狙われて味方が援護に回れない状況の場合、自己強化が可能である程度剣の腕も立っていれば、簡単には落とされる事はないだろう」
確かにレリアは暴走中だったとはいえ、シアニー以外で唯一、本気のショウマと互角に渡り合っていた。
その後のお持ち帰り事件のせいで、やや印象が薄れ気味だが、その事実に変わりは無い。
「後は魔動器の相性もある。フォーガンの使う力は冷気だ。火炎系の魔動器では相殺される……いや、余程強力でなければ炎の方が掻き消されるだろうな。水や土では凍り付いてしまってフォーガンの下位版にしかならない。だが風ならば凍る事は無い。それらを鑑みた結果で選んだ。それにフォーガンとトゥルーリの動きについて来られる奴が他に居るか?」
カキヨンの説明には納得するのに十分な内容だったが、一番最後の言葉が最も効果的であった。
ショウマもシアニーも高速戦闘が主体だ。
共に前線に出るにせよ、援護するにせよ、2人のスピードに対応出来なければ足手纏いになるのは明白だ。
だが風による支援は直接的な攻撃や付与と違って大雑把でも問題ないし、暴走時のような荒業を使えば、短時間だが2人の動きについていく事が出来る。
結局の所、やっぱり一番の適任者はレリアだったのだ。
「意見、質問、反論等無ければ、今日の訓練は終了とする。以上だ。解散!」
代表に選ばれなかった事に肩を落とす者。
選ばれた3人にエールを送る者。
両手に花のショウマを冷やかす者。
選ばれなかった事は仕方が無いとして、対抗戦を楽しもうと心を切り替える者。
三々五々、解散する中、対抗戦の代表に選ばれた3人だけがその場に残っていた。
「んじゃ、改めてよろしくな。シア、レリア」
「うむ。代表となった以上、私も全力を尽くすだけだ。よろしくな、ショウマ」
「…ふ~ん、いつの間にか名前で呼び合う間柄になってるんだ。さっすが、嫌がる女騎士を無理矢理ベッドに連れ込んだ男ね~」
シアニーはジト目…というよりも半ば射殺さんばかりに殺気の篭った視線をショウマに向ける。
「いや!確かに言葉だけで見れば間違っちゃいねぇけど、そのいかにも悪意が漂っている言い方は止めろよ。俺は単に医務室に運んだだけなんだから!」
「…いや…まぁ……うん……そ…それに…間違いは…ない……が………」
「ってそっちもなんで歯切れが悪いんだよ!何も変な事はしなかったじゃねぇか!!」
「別に私は2人の間に何があろうと気にはしてないから」
「ふふふ2人の間…って……わわわ私達は……えと…その………」
「最近はメイドの娘とアレコレしてるし。ああ、そうよね。トゥルーリ戦技指導官様は色々と実戦経験が豊富だものねぇ」
「メ、メイドとアレコレ?!そそそれに、じ…実践だと!?……そ、そうか…そうなのか……それならば………」
「だぁぁぁ~~!!頬を赤くして何考えてやがる!!メイド服は単なるあの店の制服なだけで、シェラ自体は本当のメイドって訳じゃねぇよ!っていうか、アレコレしてるとか誤解を招くような言い方はするな!単にシルブレイドの調整をしてるだけじゃねぇか!それと実戦ってのは悪夢獣と実際に戦った事があるって意味だからっ!断じて今、レリアが考えているようなものじゃないからっ!!っていうかシア!この間からなんかお前、おかしいぞ!!
俺に何の恨みがあるってんだよっ!!」
「別に。嘘偽りの無い事実を語っているだけだし」
取りつく島が全く無い。
というかショウマは、こんな感情が露わになっていないシアニーを初めて見た。
やけに刺々しく近付く事さえ拒絶するような冷たい今の感じは、確かに氷結姫の名に相応しい。
だが感情表現豊かな彼女しか知らない身としては、どうにも違和感を感じてしまう。
当初、他愛無い会話でチームを組む事となるシアニーとレリアの絆を少しでも深めようと画策していたショウマだったが、何に対して頑なになっているのか分からないが、シアニーは聞く耳を持たないし、レリアはシアニーの言葉で何を妄想しているのか顔色を赤くしたり青くしたりしている。
先の思いやられるチームに対し、ショウマは嘆息する。
「ふん。何を心配しているか分からないけれど、私が全員蹴散らしてあげるわよ……そう。私は誰よりも強くならなきゃいけないんだから……」
相手がどれだけ成長しているかも分からない状況なのに、シアニーは自信満々に宣言する。
だがショウマは、更なる強さを求める彼女にやや心配そうな目を向けるのだった。
* * * * * * * * * *
「お疲れっした~」
キングス工房の地下秘密工房。
最近の放課後の日課となったシルブレイドの調整テストを終え、ショウマは操縦席から這い出る。
「よう。お疲れさん」
「イムさんの方こそお疲れ様」
イムリアスが投げ寄越したタオルで顔の汗を拭きながら、ショウマは隅に設置された休憩用の椅子に全身を投げ出すように座る。
「あ、あの、ショウマさん、お疲れ様です」
そこにアーシェライトが声を掛けながら、キンキンに冷えたジュースを差し出してくる。飲食店でアルバイトしているだけあって、そんな他愛の無い仕草にも関わらず様になっている。
「おう。サンキュー。で、テストの状況は?」
「あ、はい。工程の約9割が終了しましたので、後は鎧甲を取り付けての最終調整だけです」
「ああ。鎧甲の取り付け作業には2日間掛かるから、お前達はその間は休んでて構わないぞ」
シルブレイドを動かす事も、調整作業を行う事も無ければ、ショウマとアーシェライトに出番は無い。
「おっ、そうか。丁度、対抗戦があるからこっちの作業が無いのは助かるな」
「…そそれじゃ、僕は…ショウマさんの…応援にでも……」
「わざわざ応援なんて良いよ。それに対抗戦っていても学生同士だし、魔動機兵にも乗る訳じゃないから大して面白いもんじゃないと思うぞ?」
最近はシルブレイドに掛かりっきりであった為になりを潜めてはいるが、アーシェライトは人よりも魔動具、とりわけ魔動機兵の観察が好き……いや、そんなレベルを飛び越え、極度のマニアとかオタクと呼んでも構わないレベルに達している。
そんな彼女が魔動機兵を使わない人同士の戦いに興味を抱くとは思えない。
「はぁ~。お前ぇはなんでこういうのには鈍いんだか……戦う姿が見たいって言ってるんだよ、こいつは」
「イ、イム先輩……そそそんな…は、はっきりと……言わないで……下さい………」
顔を赤くしたアーシェライトがイムリアスの口を塞ごうと手を伸ばすが、大人と子供くらいの身長差がある為、背伸びをして更に目一杯手を伸ばしても、イムリアスが顎を少し上げるだけでその口元に手は届かない。
「戦う姿が見たい?」
アーシェライトが必死になっている横で、ショウマはイムリアスの言葉を反芻する。
彼女が焦っている所を見る限り、それが的を射ているのは間違いないだろう。ならばその理由は何なのか。
ショウマの知るアーシェライトという異世界からの転生者にして魔動技師である少女と今のイムリアスの言葉を結びつけ、脳をフル稼働させて考える。
そして頭に浮かんできた答えにポンと手を打つ。
「ああ。もしかしてそういう事なのか?」
「ふぇっ?!ももももしかして……ききき気付い…ちゃい…ました………か?」
もじもじと恥ずかしがるように俯き、上目遣いでチラチラと様子を伺うアーシェライト。
「はぁ~、全く。ここまで言ってようやく気が付いたのか」
やれやれといった顔をするイムリアス。
「ああ。シェラのこれまでの行動や言動を考えたら、理由はすぐに分かった。そうだよな。魔動技師のシェラなら魔動機兵だけじゃ無く、魔動器にも興味があって当然だ。シアとレリアは確実に使うし、相手もきっと全員が魔動器を持っているはず。うん。俺以外の全員が魔動器を使うと考えれば、確かに技師としては見に来る価値があって当然だな」
ショウマは1人、うんうんと頷いて自己完結する。
それを見たイムリアスは大きな溜息と共にアーシェライトの肩を叩く。
「はぁ……ここまで鈍感だと、ある意味尊敬するな……」
「………うぅ~……なんか…1人で動揺していた自分が……馬鹿みたい………です………………」
とんだ1人相撲を取っていた事に更なる羞恥心を感じ、アーシェライトには珍しく恨みがましい視線をショウマに送りながら、小さく小さく呟くのだった。




