第37話 疾風の少女
シンロード魔動学園屋外運動場。
夏が近い事を示すかのようにジリジリと照り付ける陽の下で、カキヨンの担当する騎士本科の生徒20名がいる。
キザーヲが担当する残り半分との選抜対抗模擬戦まで後1週間を切っており、全員が代表の座を得るべく、各々腕を磨くべく訓練に励んでいた。
この20名の中から代表として選ばれるのは3人だけ。
その内の1人は既に、正騎士にも匹敵するのではないかという高い魔動力を持ち、騎士本科1年生でもトップと思われる速さを生かした剣技を持つシアニーに決まっていると言っても過言では無い。
次点ではそのシアニーと互角の剣の腕を持つショウマであるが、未だ魔動器を扱えない為、他の者、特に魔動器を扱えるようになった者達は、その力で彼を追い抜こうとしている。
異世界人であるが故に魔動器のみならず、魔動力を必要とするものが全て使えないのだが、今ここに居る者でショウマに魔動力が無いと知っているのはシアニーだけ。
それを知らなければ、彼が魔動器を発動すら出来ない未熟者と思っても仕方が無い。
故にその剣技を買われてカキヨンに代わって戦技指導を行うショウマの前には、指導を受けるという名目の対戦者が、ズラリと並んでいた。
指導とはいえ実際には短時間の模擬戦である。
ここで勝利すれば確実にショウマを凌ぐ実力者と認められるだろうし、勝てないまでも追い詰めたり、善戦したりすれば、カキヨンへの印象も良くなる事は間違いが無かった。
しかも模擬戦である以上、剣技だけでなく、魔動器の使用も許可されているとなれば、勝負しない方がおかしい。
例え剣の腕で劣っていようと総合力で上回っていれば、勝つ事も出来ると誰もが信じていた…………のだが………
「火炎弾を放つんだったら、避けきれないように高速発射するか、大量に発射しないと。それに撃った後が隙だらけだから、こうして簡単に間合いを詰められてしまうんだ。次回までにその辺りの修正を。よし!それじゃ、次の相手は誰だ!」
「土で大盾を造り出すってアイディアは良いけど、それだけじゃ強度が全然足りない!もっと土を圧縮して硬くして完全に弾くか、逆に粘土みたいに軟らかくして武器をめり込ませて攻撃を無効化出来ないと意味が無い。はい次!」
「花に水遣りしてるんじゃないんだから、もっと強い水流にしろよっ!」
という具合で、いくら魔動器を使えるといっても所詮はまだ学生。
ショウマの余裕を崩す事は未だ出来ていなかった。
余裕があるとはいえ騎士同士の戦いに剣を鞘に入れたままというのは無礼だと思い、一応は抜いて右手に持っているが、ダラリと提げたまま。
見切りの訓練の為に回避に専念しているとはいえ、ここまで1度も振るっていない。
既に何度も実践を経験し、死を間近に経験した者と絶対に死ぬ事の無い模擬戦しか経験していない者で、ここまでの差が出てしまう。
(確か昔の偉い人が1回の実践は100万回の組手に勝るとか言ってたよなぁ……)
若干間違っている元の世界の格言を思い出しながら、ショウマは次々と模擬戦をこなしていく。
流石に10人を越えたあたりで息が荒くなってくるが、それも僅か。
回避をほぼ最小限の動きに留めている為、対戦相手よりも体力の消耗が少なくて済むのだ。
「ふぅ…さて時間的に午前中は次で最後かな?」
時計塔を見上げれば、昼休みまで後20分を切っている。
模擬戦自体は大体5分前後で終了するが、その後に今回の戦いを振り返って、指導をするのに10分程要する。
しかも午後からは個々人の訓練では無く、3人1組になってのチーム訓練である為、実質はこれが今日最後の1人という事になる。
「では私が相手をしよう!」
元気良く前へ進み出たのは、レリア=ウィンザーだった。
スラリとした長身で170cmはあるショウマよりもやや高く、風に靡くサラサラした空色の短い髪と凛々しい顔立ち。
ショウマと並んで街を歩いたら、女性の視線は絶対にレリアの方に集中する事は間違いない。
見た目だけで言えば、全てにおいてショウマを上回っているだろう。
だがレリアは女性だ。
言葉遣いが男っぽかろうが女性だ。
ショウマより背が高かろうが女性だ。
同年代の平均と、いや年下であるアーシェライトと比べても胸元に膨らみが無かろうが女性だ。
そんな彼女が今日の個人模擬戦の最後の相手だった。
「ウィンザーさんか。んじゃ、どれくらい成長したか見せて貰おうか」
レリアとはショウマが戦技指導を担当したばかりの時に戦っている。
その時は攻撃を掠らせる所か、5分間で殆どその場から動かずに全ての攻撃を回避しきり、圧勝してしまった。
そんな事があったにも関わらず、こうして再戦を申し込んで来るのだから、どれ程に腕が上達したか見物だった。
「せせ成長って……何処を見て言っている!これでも……って何を言わせようとしている!このバカ者がっ!!」
レリアは胸元を両手で隠しながら、何を勘違いしたのか怒り声を上げる。
「あ、いや、成長って……腕前の事を言ったんだけど…………」
「腕前……ババババカ者!そんな事は分かっている!!当たり前だ!!さささぁ、いざ勝負だ!!!」
自分の勘違いに気が付いたレリアは顔を真っ赤にしながら、そそくさと武器を取って構える。
彼女の武器と構えは独特だ。
まず“嵐気の瞳”と言う名の魔動器は上腕を完全に覆うような巨大で厳つい籠手の拳先に1本の短い刃が付いた、ブレードナックルと呼ばれる特殊な武器だ。
それを両腕に装着し、格闘家のようにファイティングポーズのような構えを取るのが、彼女の戦いの型であった。
“嵐気の瞳”はその名が示す通り、風を操って竜巻を生み出したり、かまいたち現象を起こしたりする事が出来るらしいが、レリアは扱いに慣れていないのか、まだ全然使いこなしておらず、微風程度しか吹かせる事が出来ていない。
「んじゃ、いつでもどうぞ」
ショウマはブレイドソーを抜きつつも、腕はダラリと下げ、両足を肩幅程度に広げてただ立っている。
「…ふぅ……では行かせて貰うっ!!」
レリアは駆け出すと共に先制の右ストレートを放つ。
しかしショウマは首を傾けるだけで、いとも簡単にそれを避ける。
続け様に放ったボディブローも、身体の捻りだけで避ける。
更にレリアは怒涛の連続攻撃を放つが、まるで風にそよぐ柳のようにショウマはその悉くを回避していく。
決してレリアの動きが遅い訳ではない。
以前に比べれば格段にスピードアップしていたし、戦い方のおかげで普通に剣や槍を振るうよりも予備動作が少なく、動きを予測するのが難しい。
だがそれでもシアニーの神速と言っても過言ではないスピードに慣れ、類稀なる動体視力を持っているショウマには遅く感じられるし、反撃をせず回避に専念しているので心に余裕があり、足運びや肩口の僅かな動きに注視すれば、次の動きをある程度先読みする事も出来る。
(なかなか鋭い攻撃だけど、ちょっと直線的で、コンビネーションもパターン数が少ないから見切りやすい。もっとフェイントみたいな揺さぶりがあるといいかな……)
ショウマは攻撃を回避し続けながら、模擬戦後の指導内容を頭の中で整理していく。
その最中、視界の奥の方に金色が揺れるのを見つける。
意識の一部をそちらに動かすと案の定、シアニーが黙々と剣を振り続けているのがはっきりと分かった。
相変わらず誰も近付けさせず、唯1人でイメージトレーニングを続けている。
仮想敵が誰なのかは分からないが、綺麗な顔を悔しそうに歪め、まるで怒りをぶつける様に突きを繰り出している。
「余所見をするなっ!!」
どうやらレリアにも気付かれてしまう程、意識の多くがシアニーの方に向いていたらしい。
注意散漫になっていたショウマの顔面に刃が迫る。
だがそんな状態でもショウマは紙一重で見切る。
更にここからのコンビネーションパターンは1種類しか無い事も分かっている。
左右のフックからの右ストレート。
それらを避けきった所で、ショウマは「ふぅ」と小さく息を吐いた瞬間、それは迫ってきた。
パターン通りで終わると思わせた直後、レリアは動きを止めず、身体を捻って上段回し蹴りを放ったのだ。
だがショウマも一瞬気を緩めたとはいえ、油断していた訳ではない。やや焦りは感じたが、顔を反らせてその一撃をやり過ごそうとする。
刹那、靴の爪先に仕込んでいたナイフが飛び出し、攻撃の届く距離が伸びる。
「うおっ、あぶねぇなぁ~」
ショウマの前髪がパラパラと舞う。
模擬戦という事もあり、防護魔動陣の効果は最大に設定されているので、人間の力では切り傷すら付ける事は出来無いだろうが、いつものように紙一重のギリギリの回避を行っていたら、両目に直撃していた事だろう。
若干の焦りが功を奏したと言った所だろう。
「危ないと言いつつもしっかり避けてるじゃないか。全く…折角の奥の手だったのに……」
「いや、でも今のを避けられたのは本当に運が良かっただけさ。わざと一手減らした攻撃パターンを意識に植え付けておいての急な変化と仕込み武器。俺みたいに先読み深読みする相手には結構有効な手ではあるな。ここからは仕込み武器のことも考えて行動しなきゃならんし……ちょっと本気を出さなきゃやられる可能性が出てきたな」
「ならばその本気をもっと出させてやる!」
レリアが再び飛び掛かる。
しかし余裕のある状態でも当たらなかった攻撃が、少しとはいえ本気を出し始めたショウマに命中するはずも無い。
拳も蹴りも空を斬るだけ。
だがレリアは諦めない。
自分より先に疲れるかもしれない。何かに躓いて体勢を崩すかもしれない。目測を誤るかもしれない。
攻撃し続け、戦う意志さえあれば、諦めなければ、何かが起きるかもしれない。
そんな彼女のその強い意志にそれは応えた。
ヴゥゥゥーンという低い唸るような音がした次の瞬間、レリアの身体は一気に軽くなり、そして風となった。
その突然の変化にショウマは驚いた。
レリアの放った一撃が袖口を掠める。
完全とまではいかないが避ける事が出来るスピードだったが、つい先程までとはまるで別人のように速い攻撃であった。もしかするとシアニーに匹敵するかもしれない。
ついさっきまでの彼女の動きが限界ギリギリのスピードだという事はショウマには何となく分かっていた。なのでいくらこの模擬戦の中でその限界を越える事が出来たとしても、アニメみたいに超絶的にパワーアップする事などありえない。
だが現実に目の前でレリアは、まるで風に舞うかの如く縦横無尽に駆け回っている。
今の所はなんとか避けきっているが、それは先程までと違い、反撃を考えていないから回避に専念している訳では無く、反撃の隙が無いので防衛に専念せざるをえないのだ。現に回避だけでは追い付かず、幾度か剣で防いでいた。
何故レリアが急に速くなったのか、考える暇さえ与えてくれない程の猛攻が続く。
下から潜り込んで斬り上げて来たと思った次の瞬間には足を払われそうになる。それを軽く飛び上がって避けたかと思えば、いつの間にか回り込まれ、背後からブレードナックルで突いて来る。
身体を捻りつつブレイドソーを地面に突き付けた反動で身体を跳ね上げて、なんとかその一撃をかわした時にはレリアは既に宙に舞い、両腕を振り下ろしていた。
「なめんなよぉぉーー!!!」
空中で体勢を整えながら、地面に刺した刃の腹を気合と共に強引に蹴って剣を跳ね上げる。遠心力と腕の力を合わせて、振り下ろされたブレードナックルに叩き付ける。
流石に踏ん張る為の地面が無い為、レリアは弾き飛ばされるが、地面に叩きつけられる直前、まるで見えないクッションに護られたかのようにやんわりと地面に着地する。
そして再び高速で間合いを詰めてくる。
だがその顔はやや蒼白で苦しそうな表情を浮かべている。瞳にもまるで生気が感じられない。
それを見たショウマは慌てて制止の声を上げる。
「ウィンザーさん!ストッ―――」
しかしショウマが声を上げている最中に、レリアが一気に懐に潜り込んで来る。
そこでショウマは耳鳴りと息苦しさ、そして妙な肌寒さを感じ、更には羽虫の飛ぶような奇妙な音を耳にして、瞬時にレリアの急激なスピードアップの理由を理解する。
そしてそのせいでショウマの声が耳に届いていない事も。
2つの斬撃が迫る中、意を決したショウマは避けるのではなく、敢えて一歩前へと進み出る。同時に持っていた剣を手放し、その両手をレリアの背中に回す。
ブレードナックルが腹部に突き刺さり、胃液が逆流するような衝撃が突き抜ける。
防護魔動陣のおかげで刃が刺さる事は無かったが、威力までは吸収してくれなかったようだ。
だがようやく捕まえたのだ。ここで不様に崩れ落ちる訳にはいかない。
ショウマは背中に回した両手をしっかりと繋ぎ、レリアが抜け出せないようにしっかりと拘束する。
そして耳元に口を近付ける。
「もう模擬戦は終わりだ!だから武器を…魔動器を離せっ!!」
その声が届いたのか、あるいは力を使い果たしたのか、レリアは全身を弛緩させ、それと同時にガランガランと嵐気の瞳が手から零れ落ちる。
「……トゥ…トゥルー…かはっ……げほげほっ」
「喋らなくて良いから、焦らずゆっくりと細く長く呼吸するんだ」
レリアの瞳に徐々に光が戻り、それからショウマに言われるままにゆっくりと深呼吸を繰り返す。
青白かった顔が少しずつ赤みを取り戻していき、その目にも生気が戻ってくる。
「どうだ?落ち着いたか?」
「……ふぅ…はぁはぁ……あ、そのトゥルーリ……私は一体?」
まだ完全に意識が覚醒していないのか、呆とした表情で乱れていた息を整えながらレリアが尋ねる。
「ああ、それは……」
ショウマが口を開き掛けた所で周囲から野次が飛んでくる。
「おいおい、お2人さん。授業中に何やってんだよ?」
「見せつけてくれるねぇ」
「え?ウィンザー×トゥルーリ?それともトゥルーリ×ウィンザー?あ、でもウィンザーって見た目は美男子だけど、女だから、正当なカップリングかぁ~。あ、いやでも見た目だけなら……後は脳内補完でイケる!」
周囲からの野次で、レリアは自分が置かれている今の状況をようやく理解して顔を真っ赤にすると、ショウマを突き飛ばして身体を離す。
だがショウマの手を振りほどいた瞬間、全身に激しい痛みと倦怠感が襲い、地面に崩れ落ちそうになる。
慌ててショウマが手を腰に回し受け止めるが、そのせいで再び抱きあう様な形となってしまう。
「トゥ…トゥルーリ!貴様、ななな何故ああああんな事をっ!!」
「仕方ねぇだろ!あの方法が一番手っ取り早く動き止められたんだよ!」
「だだだが、私は…自分で言うのもなんだが…こんな男っぽい姿ではあるが…その一応は女なんだぞ!しかも婚姻関係も結んでいない相手を…その…だだ抱き締める…など……」
「魔動器が暴走してたから形振り構っては居られなかったんだよ。もしあのままならウィンザーさんが死ぬ危険もあった訳だし!」
暴走とは言ったが、本来、邪法魔動器でもない限り、魔動器が暴走する危険は無い。
魔動器はただ力を発動させる為の道具に過ぎず、使用者の意思を反映して力を発揮するだけの道具に過ぎない。
だが使用者が人間である以上、自らの心を律し、力に慣れ、扱いに長けている者でなければ、制御しきれない感情の爆発によって魔動器が発動した場合、感情が制御しきれないのと同様にその発動した力も制御出来ないという事が起こり得るのだ。
レリアの先程までの状態が正にそれである。
“嵐気の瞳”は風を発する事が出来ると同時に、限定的ではあるが空気そのものを操る事が出来る。
範囲的には使用者本人の周辺に限られるだろうが、空気を薄くし真空に近い状態にする事で動く際の空気の抵抗を減らして加速するという荒業を行っていたのだ。
最接近した際に耳鳴りがしたり肌寒さを感じたのも気圧の急激な変化が原因であり、呼吸が苦しくなったのも酸素が殆ど無ければ当然の事だ。
もしあのまま続けていれば、レリアは呼吸困難に陥いるか、気圧低下による極度な冷却化によって命を落とす危険があった。
しかも朦朧とした意識の中で、強い闘志のみで限界を越えた動きをしたせいで、肉体に大きな負担が掛かり、体力も著しく消耗している。
レリアとしては一刻も早く異性に抱き付いているという状態から脱したいのに、身体は上手く動いてくれず、ショウマは逆に1人では歩く事もままならないと察したのか、あろうことか腰と膝の裏に手を回して抱え上げられてしまう。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「あ、おい!コラ!や、やめろ!やめてくれ!!」
「騒ぐなって。1人で歩けないんだから、ちょっと恥ずかしいくらいは我慢しろ」
「わわ私はお前を倒してでも対抗戦の代表の座を得ようとした、いわゆるライバルだぞ!」
間近に迫る対抗戦の体表の座もそうだが、学年主席の座、そして最強の騎士を目指すという意味でこの場に居る誰もがライバルと言えるだろう。
「ウィンザーさんの言う通り、確かにライバルだろうな。けどライバルだからって助け合っちゃいけないなんて事は無いだろ?それにライバルであると同時にクラスメイトだ。俺個人としてもウィンザーさんがクラスメイトで嬉しいし」
無意識下での発動とはいえ、魔動器の力を発揮したレリアは、ショウマが全力を出しても敵うかどうか分からない。
今の所、シアニー以外に腕を競える相手が居ないので、レリアの覚醒は素直に嬉しかった。
「えっ…ええっ?!うう嬉しいだって!?」
「ああ。これからお互いがどうなるのかも楽しみだしな」
「あ、いや…だが、学園に居る間はともかく、卒業してしまえば、そういう関係も崩れてしまうかもしれないだろうし……」
「いや、案外どこかでばったり再会するかもしれないし、それにもしかすると一緒になるってこともあり得るだろう?」
確かに学園卒業後はクラスメイトでは無くなってしまうだろう。
だが悪夢獣を倒すという同じ目的を持つ騎士である以上、どこかの戦場で共闘するかもしれない。場合によっては同じ騎士団に所属する可能性だってある。
「…い、一緒に……なる…………」
レリアはそう呟いた後、やけに静かになり、顔は真っ赤に染まっている。
最初に言っていた通りかなり恥ずかしいのだろう。このままだと茹で上がってしまいそうな気配だが、医務室に着くまでは我慢して貰うしかない。
学舎に入り、医務室の前まで来た所で、レリアが何やら小さく呟く。
「……ア……で……ない……」
「ん?ウィンザーさん、何か言った?」
「…ウィンザーではない!レリアと呼んで構わないと言ったんだ!ちゃんと聞いていろ、バカ者!!」
声が小さくて聞き取れなかったので聞き返しただけなのに、理不尽にバカ者呼ばわりされる始末。
だが素直じゃない天の邪鬼な女騎士に免疫のあるショウマはそれを軽く受け流す。
「はいはい。分かったよ。んじゃレリアも俺の事はショウマって呼んでいいからな」
そう返すとレリアは何故か顔を大きく背けながら、再び聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。
「……その……色々……ありが…と………」
今度はしっかりと聞いたショウマは小さく頷くと医務室のドアを開いた。
ショウマに見られないように背けた彼女の顔が完全に恋する乙女の表情になっている事にも気が付かず。
後日、ショウマに関する噂話に、女騎士を誑し込んでベッドに連れ込んだという噂が追加され、何度目かになる火消しに走り回る事になるのだが、この時の彼には知る由も無かった。




