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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第2章 魔動学園蒼空編
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第28話 リベンチマッチ

 季節的には春の陽気から夏の照り返すような暑さへと移行する時期。

 陽が出ていると徐々に汗が滲み出す青空が広がる屋外運動場に騎士本科1年生の半数である20名が立ち並んでいる。

 場所の都合上、残り半分は闘技場の方へ行っている。

 どういう割り振りで半分に別けたかは分からないが、ショウマとシアニーは同じ屋外運動場に割り当てられていた。

 整列する騎士候補生達の前に、引き締まった筋肉と体格を持ち、だが歴戦の勇士とは程遠い愛嬌ある笑顔の人物が現れる。


「我が名はカキヨン。王都より諸君らを鍛える為に派遣された現役の機兵騎士だ。暫くの間、宜しく頼む」


 まさかの現役の騎士の登場に周囲がどよめく。

 ただ悪夢獣との最前線から最も遠い王都配属という事は、実力の方は良くても中の上。ショウマやシアニーなら相手にならないという実力だろう。

 しかし学生に教える分にはこれからいでも十分なのだろう。

 もしかすると、この愛嬌ある笑顔が講師向けだとか、教えるのが上手いだとかの理由なのかもしれない。


「さて…まず最初に話しておくけれど、この組み分けに際し、諸君らのこれまでの成績を見せて貰った上で平均的になる様に別けさせて貰った」


 シアニーに匹敵する実力があると言われていたレグラスがこっちの組に居なかったので、成績上位と下位で別けたのではないだろうとショウマは思っていたが、そう言う別け方だったのかと納得する。


「これからの約1ヶ月間はこのメンバーで模擬戦や演習を行って貰う。その結果を元に代表を3人決め、向こうの代表と勝負する事となる。以上だが、何か質問はあるか?」


 勝負すると聞いて、生徒の間に若干の戸惑いはあったが、質問らしい質問は出なかった。

 カキヨンとしては質問や疑問が出なかった事に安堵を覚えていた。

 学園長からこういう形式でやりたいという許可は貰っていたが、例年とは異なるやり方だ。

 原因は今回の講師の人選のせい。

 もう1組を担当する機兵騎士はカキヨンの同期であり、ライバルであり、恋敵であり、いけ好かないギサーヲという貴族出のキザなチャラ男だ。

 騎士団長からシンロード魔動学園での講師の話を聞いた時にギサーヲが提案してきたのだ。


「私とお前。どちらがより強い候補生を育てるか、彼女を賭けて勝負しようじゃないか。ああ、当然、断ったら私の勝ちという事になるから、断っても構わんぞ?」


 そんな事を言われて引き下がる事は出来なかった。

 カキヨンにとって彼女は結婚したいと思う程に愛している女性だ。

 断られるのが怖くて、未だ告白は出来ていないが、かといって他の男、それもギサーヲなんかに渡したくは無い。

 ギサーヲは騎士としての腕前も、容姿も、そして血筋もカキヨンより上。外面も良い為、人気も高い。

 だが、彼が彼女を結婚したい程に愛しているかと言えば、否だ。ギサーヲは女癖が悪いという事で男達の間では有名であり、彼女の事は遊び相手の1人としか見ていないのだ。

 その証拠に彼女に声を掛け始めたのは、丁度、カキヨンが彼女に好意を抱き始めた頃であり、騎士団内で競い合ってた頃だ。

 つまりライバル視しているカキヨンへの嫌がらせの為だけに彼女を狙っているのだ。

 カキヨンとしては絶対に負けられない勝負なのだが、これは彼の私情に過ぎず、生徒達には全く関係の無い事だ。

 だから理由を問われた場合、事前に考えていた苦しい言い訳を言わなければならなかったのだ。


「よし。それでは早速だが諸君らの実力を見る為に模擬戦を行いたいと思う。対戦相手はほぼ互角になるようこちらで決めてある。今から呼び出すので呼ばれた者はペアとなって準備を始めてくれ」


 そう指示を出すが、正直、数字上だけでは互角かどうかは分からないし、成績も本科進級時のものである。

 春からこの2ヶ月の間に頭角を現している者もいるかもしれない。

 だが、カキヨンが今、一番気になっている相手は彼の事であった。


「……次はトゥルーリとフォーガンだ」


 ショウマ=トゥルーリ。

 理事長の推薦で本科への中途特別編入をした彼だけ成績が不明なのだ。

 特別編入なら相当な実力の持ち主だろうと思い、ここに居る候補生の中では突出した実力を持つシアニーと組ませたのだが、実物を見た瞬間、思わず溜息を吐きそうになってしまった。

 救世の騎士に憧れているのか、髪を真っ黒に染めた背は高いが細身の少年。細身の身体にあまり似合わない独特な形をしたゴツイ剣を持っているが、どうにも実力者には見えない。

 あまり期待は出来そうに無いなとカキヨンは思ったのだが、周囲の反応は全くの逆だった。


「おお!あの2人が戦うだと?!」

「早くも頂上決戦だ!!」

「カキヨンせんせ~!この2人が戦う所、見学してちゃダメですか~?」


 想像を越えた盛り上がりに、カキヨンの方が動揺し、ついつい生徒の1人に尋ねてしまう。


「一体、なんだって言うんだ?フォーガンの方は成績を見れば相当な実力者だというのは分かるが、トゥルーリはそんなに凄い奴なのか?」

「そうですよ~。だってトゥルーリ君は悪夢獣を殴り倒したらしいですから」

「それにあのシルフィリット先輩の再来って呼ばれてるっすよ」

「2人の戦いを見る方が絶対に勉強になるって!」

「先生も見てれば分かりますよ。ってわけで全員で見学決定~!!」


 あれよあれよという間にショウマとシアニーが戦いの準備をしている区画に人が集まっていく。2人の前に呼ばれて、準備を進めていた生徒達も集まってくる。


「え~っと……なんか周りが凄い事になって来たんだけど……」


 ショウマは苦笑いを浮かべながら、周囲を見回す。

 半径10mの円形に防護魔動陣が組み込まれた演習スペースの周囲に全員が集まって来ている。


「良いじゃない。これだけの人の目があれば、どっちが勝ったか一目じゃない。けど早速、あの日の雪辱が出来るなんてね」

「いや、だからあれは……」

「今度こそ私が勝つからね。あっ、それとも魔動器を使わないってハンデでも欲しいのかしら?」

「だぁ~!!そんなのいらねぇよ!手加減してたから負けたって言い訳はさせねぇ!最初から全力で来い!それに俺だってずっと鍛えて来たんだ!俺の方こそ完全勝利をもぎ取ってやるよ!!」

「そっちこそ負けても言い訳なんてみっともない真似しないでよね!!」


 

 互いにニヤリと笑みを交わし合った後、円の中央へと向かう。

 お互い防御よりも軽さを重視したレザーアーマーを身に纏い、だが大きく肉厚で重さと破壊力のありそうな剣と鋸を掛け合わせたブレイドソーと、しなやかで軽く細身の急所を突く事に特化した刺突剣“氷雪の女王クイーン・オブ・ゲヘナ”という相反するような武器を手に円の中央で向かい合う。

 大きく息を吐いた後、ショウマは剣を正眼に構え、シアニーは刺突の構えを取る。

 こうして唐突なリベンチマッチは始まった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 先に仕掛けたのはどちらだろうか。

 突風が吹いたような音と風を切る音。

 僅か数瞬の出来事をカキヨンは唖然として見詰めていた。

 シアニーがたった一瞬で突き出した3連の突きをショウマは紙一重で回避し、剣を振って反撃までしてのけていた。


「マジでこいつら同じ年齢か?」

「速ぇ~。目で追うのがやっとかよ」

「凄過ぎ……」


 生徒達の感想はカキヨンと似た感想でもあった。

 外から見ていたから最初の攻撃が3連撃だと分かったが、もしも学生の頃の自分が相手だったら今の一撃で終わっていただろう。

 いや、もしかしたら今の自分でも防ぐだけで精一杯かもしれない。

 悪夢獣との戦いから最も縁遠い王都騎士団に所属しているとはいえ、カキヨンはこれでもこの学園の卒業生だ。

 今の騎士団に所属する前は、何度か悪夢獣との実戦も経験しているし、毎日の修練も欠かした事は無い。

 王都騎士団だからといって正騎士である以上、決して弱い訳ではないのだ。

 だが今戦いを繰り広げている2人はまだ成人したばかりにも関わらず、そんなカキヨンとほぼ同等の実力を持っているように見える。


(これからどれだけ成長するか楽しみではあるが…末恐ろしいな)


 顔を強張らせながら見つめるカキヨンの思いを他所に、当の2人はまだまだ余裕なのか、その表情には笑みが浮かんでいる。


「へ~、今回は掠らせもしなかったみたいね」

「そっちこそまたスピードが増したんじゃないか?まさか追撃出来ないとは思わなかった」

「完全に見切った上でそんな事を言われても皮肉にしか聞こえないわ…よっ!」


 再びシアニーが駆け、刺突剣で顔面を狙ってくる。

 ショウマはそれを上半身を仰け反らせて避け、反らせた勢いのままに足を跳ね上げて伸び切った腕に向けて蹴り上げる。

 だがシアニーもそれを予想していたのか、すぐに腕を引き、蹴りをやり過ごす。

 体勢の崩れているショウマに向けて追撃を仕掛けるが、ショウマは蹴り上げの力を利用したバク転で剣の間合いから離れる。

 息も吐かせぬ一進一退の攻防に全員が息を飲み、周囲を静寂が包み込む。


「どうしたの?そろそろ本気を出して掛かって来ないとどんどん動きが鈍くなるわよ?」


 体術的にはほぼ互角。

 しかし戦闘開始時から発動している“氷雪の女王クイーン・オブ・ゲヘナ”の効果は徐々に、だが確実にショウマの体温を奪い、行動に影響を与え始めている。

 屋外な上に陽も差しているので、以前ほど急激な変化は見られない。だがそれが逆に変調をあまり気付かせず、気が付いた時には手遅れの事態になっている可能性があった。


(見た目で分かり辛いってのは厄介だよなぁ)


 今の所はまだ吐く息は白くないし、肌寒さも感じない。

 だがレイピアから冷気が放たれているのは一目で見て分かる。数分もしない内に防護魔動陣内は極寒の地に変わるだろう。

 その前に決着を着けなければいけない。


「それじゃあ、続けようかっ!」


 シアニーが踏み出そうとするより一瞬早く、ショウマが動く。

 ブレイドソーを自身の斜め後ろへ引き、まるで地を這うような低い姿勢で駆ける。そして駆け出そうと前へと踏み出した右足首を刈るように剣で薙ぎ払う。

 体全体が前へと向かおうと動き始めているので、ここから後ろに退がることは物理的にほぼ不可能。かといって剣で受け止めるにも細身の刺突剣では役不足。

 このまま何もしなければ足首を斬り落とす致命的なダメージとなるだろう。

 となればシアニーがとれる行動は唯の1つ。

 地面に着いた右足に力を込めて、大きく跳ねる。僅かな差で剣はシアニーの足元を掠める様に過ぎ去る。

 避けられた事に動揺する事無く、ショウマは振り抜いた剣の遠心力を利用して身体を回転させると、空中で回避が行えないシアニーの横っ腹に向けて後ろ回し蹴りを見舞う。


「くぅっ…!」


 流石のシアニーでもこの攻撃は防ぐだけで精一杯だった。腕を下げて直撃は避けたものの、踏ん張りの効かない空中であった為、大きく吹き飛ばされる。

 好機とばかりに一気に間合いを詰め、大上段からブレイドソーを振り下ろす。


「そこまでだっ!!!」


 カキヨンの制止の声に応じ、ショウマが振り下ろした剣はシアニーの顔の目前で寸止めされる。だが同時にショウマの目の直前には鋭く尖った氷の刃が寸止めされている。

 ショウマがもう半歩でも踏み込んでいれば相討ちになっていた事だろう。


「今日の所は引き分け…かな?」

「ふん。まぁ、そう言う事にしておいてあげるわ」


 相変わらず負けず嫌いで意地っ張りなシアニーの言葉と同時にパリンと氷の刃が砕け、霧散する。

 ショウマは苦笑を浮かべながら剣を収めると、倒れているシアニーに手を差し伸べる。


「お嬢様。お手を」

「も、もう。ショウマの手なんて借りなくても1人で起き上がれるわよ……」


 そう口では文句を言いながらも差し出されたショウマの手に自身の手を伸ばす。

 

「まぁ、皆の手前上、俺はシアに仕えてるって事になってるんでね」


 シアニーにだけ聞こえるようにそう小声で呟く。


(もう。わざわざその一言を口にしなければ格好が良いのに…って違う違う!べべ別にこいつの事なんて格好良いなんて思わないんだから!!……ああ、もう!!本当にデリカシーが欠落してるんだからっ!!)


 シアニーは頬が赤くなるのを誤魔化すかのように、心の内の怒りをショウマをキッと睨みつける事でぶつける。

 対するショウマは、いつものように自分には理解不能な理由で怒っているなくらいにしか思わない。けれどこの程度なら放課後までそっとしておけば、治まるだろう。

 そんな2人にカキヨンが近付いてくる。


「2人ともご苦労様……って寒っ!!」


 冷気は魔動器を発動させているシアニーを中心に広がっている為、彼女に近い程、気温は低くなっている。恐らく見学していた場所と今の場所とでは20℃近くは違うだろう。

 その寒さに驚いていたせいでカキヨンはシアニーの怒りに気付かない。

 タイミングの悪い講師の登場にショウマは顔を覆って顰める。

 今の彼女は氷結姫という異名とは真逆で、怒りで噴火寸前なのだ。しかも最近はショウマが軽く受け流していたり、ほとぼりが冷めるのを待っているので、あまり発散していない。

 そんなタイミングで声を掛けたらどうなるか。


「カキヨンさん!何故、止めたんですかっ!!」


 怒りの発散先はカキヨンに移った。

 掴みかからんばかりに詰め寄り、抗議する。

 見た目が美少女であるシアニーに間近に迫られて、カキヨンはドキリと顔を赤らめるが、その形相に一瞬で浮かれ気分は沈んでしまう。


「あのままやっていればぜ~ったいに私が勝ってたのに、どうして止めたんですか!というか実力を見る為なんですから、どっちが強いかはっきりさせた方が良いじゃないですか!?というか邪魔しないで下さい!!」

「え、あ、いや……そ、それはね…………」


 矢継ぎ早に質問と自己願望と不満をぶつけられタジタジのカキヨン。

 更なる不満と怒りをぶつけようとシアニーが口を開き掛けた所で、それまで静寂だった周囲が一気に湧き立つ。


「スゲェー!こんなハイレベルな戦い初めて見たぜ!!」

「ああ。氷結姫の戦闘を初めて見たけど、人間ってあんなに速く動けるんだな」

「いや、でもトゥルーリの奴もそれを見切った上で反撃までしてんだぜ?どんだけ動体視力良いんだよ!?」

「これ…俺だと瞬殺レベルだ……」

「もう次元が違うよね。もう代表の内の2人はあの2人で決まりね」

「氷結姫様~~♪萌え~~~♪♪♪」


 周囲の思わぬ反応にシアニーは言い掛けた言葉を飲み込み、ショウマもその盛り上がりに圧倒されながら、周囲に視線を送る。

 特にショウマは、シアニーが学内でも強い方だという話は聞いていたが、他の生徒達もスカウトや試験で選抜されて入学してきた人物なのだから、それ程の差は無いのだろうと考えていた。

 それにこれまで出会ってその戦いを見た人物が造聖に始まりシアニーとシルフィリットだ。全員が彼と同等以上の実力を持つ人物だった為に自分の実力はまだまだ低い方だと思っていたのだ。

 だが周りの反応を見て、どうやら自身の実力は一般的よりかなり高いのだという事に気付かされる。

 称賛の声は悪いものではないが、どうにも居心地が悪い。

 ショウマはなんとか強張った笑顔を作り歓声に応え、シアニーはというと慣れているのか、先程までの怒りを霧散させて、胸を張ってドヤ顔で応えている。

 こうして2人の再戦は、シアニーのリベンジとはならなかったが、幕を閉じたのであった。


最近、忙しい&書き溜めが尽きた為、次回よりしばらく隔週更新としたいと思います。

ストックが溜まってきたらまた週間に戻します。

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