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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第2章 魔動学園蒼空編
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第26話 9番目の真実

 シンロードの街の南西区。

 ここは魔動工房が軒を連ねる一画であり、この街で昼夜を問わず賑やかな場所である。

 とは言っても露店街や商店街のように通りに活気があって賑やかな訳ではない。それどころか逆にこの辺りは人通りは疎ら。

 賑やかな理由はひしめく魔動工房の至る所から甲高い金属音が響き、魔動力炉が駆動する音が響き渡るから。

 工房内部ではほぼ毎日のように“ライト”や“チャッカ”のような小さな魔動具から魔動機兵のような大きなものまで、修理や整備、建造が行われているのだ。

 その中でも一際広い敷地を持つのが、魔動王国が滅びて以降、初めて戦闘用の魔動機兵を独力で造り上げた世界有数の“キングス工房”である。

 そしてその敷地のほぼ中央に位置する研究開発棟は、未だ解明されていない魔動技術や新たな技術を研究している場所であり、工房の職員でも僅かな人数しか立ち入ることが許されていない。

 そんな場所にショウマとアーシェライトはイムリアスと数名の職員に連れられてやって来ていた。


「お前らのように魔動王国語が堪能な奴は最新の技術よりも貴重で絶対に他の工房には秘密にしておきたい事なんだ。その上、アーシェライトは異世界の技術なんて持ってるから、どこも欲しがるだろうな。それこそ工房を襲撃してでも手に入れようと考える奴も出てくるだろう」


 イムリアスに先導されて進んだ先には、地下へと続く螺旋階段があった。階段を暫く降りると漸く開けた場所に出た。


「だからこそこういった他の工房の人間が入り込む事が出来ないような秘密の場所が必要なんだ」


 10m四方くらいの空洞。

 だが周囲の岩壁は人工的に削って平らにされ、崩落を防ぐ為か金属の骨組で補強されている。

 床も金属板が貼られ、魔動機兵の操縦席周りにも使われている衝撃吸収装置のおかげで魔動機兵が床を歩いても振動すら感じない。

 

「ここがキングスの隠し工房……都市伝説だと思っていましたけど、本当にあったなんて……」


 世界でも王立魔動研究所と並び最新鋭の設備が整っている場所はキングス工房の他には殆ど無いだろう。

 アーシェライトは初めて見る設備に瞳をキラキラさせながら周囲を落ち着きなく見回す。

 ショウマもこの場所に最初は驚きはしていたが、すぐに視線は1点に向いて、離す事が出来なかった。

 壁際に吊り下げられ固定された1機の魔動機兵の胸部。四肢も頭も鎧甲さえも外された状態だが、それがシルブレイドのものだという事は一目見ただけで分かった。


「操縦者の安全を最優先に考えられてたんだな。他の部分はあれだけ壊れてたのに胸部と腰部のフレームだけは傷一つ付いていなかったぞ」


 イムリアスは感心したように呟く。


「操縦席周りの内部フレームが強固に造ってあるのはもちろんですが、衝撃吸収装置と共に操縦席と鎧甲の間を比較的軟らかい金属にしています。その為、見た目上は激しく壊れているように見えますけど、逆にその軟らかさが緩衝となって操縦席への被害を最小限に抑える構造になっているんです」


 物珍しい設備に心を奪われたせいで遅れていて、ようやく2人に追いついたアーシェライトが説明をする。

 本来ならもっと多くの、この世界では確立していない技術や発明されていない合金などが使われているのだが、難しい専門知識を説明した所で彼女以外は理解出来ない代物なので、簡潔に分かりやすく説明しているのた。


「ほ~、多層鎧甲みたいなもんってことか。っと、感心してばかりじゃ先に進めねぇな。んじゃ、時間もねぇ事だし、早速始めようか」


 そう言うとイムリアスは1冊の書物を取り出す。

 書物といったがそれは革製の表紙と一緒に綴っただけの紙の束のようにしか見えない。


「こいつはうちに伝わる所謂、秘伝書ってやつだな」


 ショウマとアーシェライトは興味深そうに書物に視線を向ける。

 革製の表紙には現在の言葉で“9番目”とだけ書かれていた。


「魔動王国時代の魔動機兵の設計計画書らしい。最初は曾祖父さんが手に入れたものらしいが、実際にこれを元に魔動機兵を造ったのは祖父さんだ。そしてそれは救世の騎士の乗機にもなった代物だって話だ」


 アーシェライトはそんなものが実在した事に驚きながら、慎重に表紙を捲る。

 そしてすぐに何かに気付いて目を瞠り、まるで貪るように無心にそこに書かれている内容を読み解いてゆく。

 数分後、最後のページに差し掛かった所でハッと一瞬息を飲み、もう1度、目を瞠る。

 そして一呼吸置いてからゆっくりと最後のページを閉じる。


「……そうだったん…ですね……本当にあの人は…………でも…良かった……」

「ん?シェラ?」


 声は震え、でもどこか嬉しそうな様子のアーシェライトの顔をショウマは覗き込む。


「ひ、ひうっ!かかかか顔が…近い…ですよ……」


 ショウマと彼が重なって見えて、思わず赤面し後退るアーシェライト。


「あ、ああ、悪かったな。いや、なんか様子がおかしかったからどうしたのかと……ん?泣いてる…のか?」

「…ふぇ…あ、いや……こ、これは……」


 ショウマに指摘され、自分の頬を流れるものがあるのにようやく気付く。

 だがこの涙は悲しみの涙でも後悔の涙でも無い。嬉しさから出た涙だった。


「…実はこれを見て分かったんです。この設計書は彼が書いたものだって」

「へ?でもこれって魔動王国時代のものなんだろ?って事は600年近く前じゃんか」

「はい。でもこの独特な書式は忘れようがありません。何より完成図が……けど、良かった……生きて…こっちで夢を叶えてたんですね……」


 9番目という設計書の書式は、まるでプラモデルの組立説明書のように絵図入りで部位毎に作成するような書式となっている。

 アーシェライトはこの独特の書式とそこに書かれてある筆跡には前世の記憶で覚えがあった。

 そしてそこから導き出された答えに思わず涙してしまったのだ。

 あの爆発事故で彼が死んではいなかったという事実に嬉しさが込み上げて来てしまったのだ。

 アーシェライトの想像でしかないが、あの爆発事故で向こうの世界とこちらの世界が一時的に繋がったのだろう。

 爆発で死んでしまった彼女の前世は記憶を持つ魂が、爆発の中心点だったシルブレイドはそれ自体が、そして死にはしなかった彼は肉体もろともこちらの世界に飛ばされたのだろう。

 他の人達がどうなったかは未だ不明だし、あの場に居なかったショウマが何故シルブレイドと一緒にこの世界に来たのかも分からない。

 しかし彼に関しての安否だけはほぼ確実に判明したと言っても良い。

 転生や転移の仕組みというものがどんなものなのかはさっぱりだが、こちらの世界の時間軸とのズレによってシルブレイドは3年前に転移し、アーシェライトは14年前に転生。そして彼は今より600年近く前に転移してしまった。

 魔動王国を建国したのが救世の騎士と同じ黒髪の人物だと、どこかの誰かから聞いた事があったので、彼は転生では無く、生きて転移したのだという事で間違いは無いだろう。

 魔動王国語が前世の母国語だったり、魔動具の名前が向こうの世界でどこか聞いた事があるような名前が多いのも、そういう理由であれば納得も出来る。

 それにシルブレイドの型式番号はPHG-B09。正式には“試作型ヘビーギア ベータ9型”であり、向こうの世界で9番目に試作された機体だ。

 だがこの9番目の設計書はシルブレイドとの類似点は多数あるものの完成予想図は似て非なるものであった。

 多くの魔動技術が使われている事も違いの1つと言える。

 そしてその完成予想図は前世で彼らが出会う切欠となったロボットアニメに出てくる機体に似ているのだ。その造形は向こうの世界では造られていなかったはずのもの。

 同じ9番目の機体でありながら、異なる姿形をした機体。

 それこそが彼が魔動王国時代に生きていたという証拠とも言える。

 アーシェライトはその事をショウマとイムリアスに告げる。

 涙が止まらなかったので、上手く喋れなかった部分はあったかもしれないが、2人は最後までちゃんと話を聞いていた。


「そうか。けど良かったな。世界は違ったかもしれないけど、こうして後世に残るまでの事をやり遂げたんだ」

「…は、はい。僕のせいで彼の夢が断たれなくて……本当に良かった……」


 彼の夢は人間のように動く巨大人型ロボットを生み出す事。

 世界は異なるがその夢は実現されていた。

 その事実に心が救われていくような気がして、アーシェライトの顔を濡らすものは溢れて留まる事を知らない。

 それを見かねたのかショウマはスッとハンカチを差し出す。


「ほらっ、これで顔を拭けよ。涙と鼻水で婆さんみたいなくしゃくしゃな酷い顔になってるぞ」

「うぅ~…一瞬、紳士的かと思ったのに……シアニーさんの言う通り本当にデリカシーに欠ける人なんですね……そういう事は分かってても言わないで下さいよ……」


 ハンカチを受け取りつつも、つい文句の言葉が口から出てしまう。

 だがそんなに嫌な気はしなかった。

 幼い頃から大人達からは天才と持て囃され、元々の人付き合いの苦手さのせいで同年代からは敬遠され、話す機会があってもまるで腫れモノを触るように接して来る事がほとんど。

 だからだろう。

 特別扱いせず普通に接してくれているという事に嬉しさを感じていた。

 わだかまりを感じる事無く、他愛無い遣り取りが出来る事に楽しさを感じていた。

 彼と雰囲気の似たショウマの隣に居るだけで温かさを感じていた。


「……あ、あの……ショウマさん……ありがとう…ございます……」


 とてもとても小さな声。

 伝えるべき相手には届いてはいない。

 だがハンカチに顔を埋めながらアーシェライトは感謝の篭った小さな笑みを浮かべる。その頬に朱が差している事に、本人すら気が付いてはいないのであった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 アーシェライトがひとしきり泣いて落ち着いた頃を見計らって、イムリアスが本題へと入る。


「さて、それでどうだ?この設計書は使えるか?」

「…はい。僕も完全に設計図が頭に入っている訳では無かったので、これがあればかなり楽になります。ですが…その……問題が……」

「使用する材質だな」


 言い淀むアーシェライトに代わり、設計書に目を通していたショウマがきっぱりと答える。

 造聖という師の元で剣だけでなく技師としての知識や技術もある程度教えを受けていたので、問題はすぐにそれだと分かった。


「シルブレイドは電力…あ~、え~っと、魔動力とは違うエネルギーでも動くから、既存の魔動機兵みたいにフレームは魔晶石じゃ駄目なんだ」


 魔動機兵は大別すると4つの基幹から成り立っている。

 1つ目は乗り手の魔動力を増幅し、魔動機兵が動く為の莫大なエネルギーを生み出す魔動力炉。

 全ての魔動具の心臓部であり、これが無ければどんな強力な力を秘めていようとただの鉄屑に過ぎない。

 2つ目は様々な動きを行わせる為の魔動制御回路。

 単純な操作で複雑な動きをさせるには必要不可欠であり、特に戦闘用魔動機兵はより人に近い動きをさせる必要がある為、複数の制御回路を持っている事が多い。

 3つ目は鎧甲。

 これは単純明快で外からの衝撃から魔動力炉などの内部機関や操縦者を守る為の外部装甲である。

 元々魔動機兵は騎士鎧を発展させたものであると言われており、その流れから見た目は騎士に似せて造られる事が多い。

 近年では回避と速度を重視し、必要最低限しか鎧甲を取り付けない魔動機兵も出て来ていたりするらしい。

 そして最後が今、話に出ているフレームである。人間の内骨格と言えば分かりやすいだろう。

 この他に魔動力で伸縮し筋肉と同じ働きをする魔動筋というものがあるが、フレームに付随している為、まとめてフレームと呼ばれている。

 フレームは魔動機兵のほぼ全ての動作の要である。人のような複雑な動作もフレームの可動性と柔軟性が無ければ実現しない。

 このフレームは魔動力を抵抗無く通す魔晶石を使用している事から魔晶フレームとも言われていて、使われている魔晶石はその辺の山を掘ればいくらでも湧いて出てくる。

 魔動機兵に使われるのは巨大で加工も必要な為、無料タダとはいかないが、それでも魔動機兵の素材の中では最も安価で手に入れやすい代物だ。

 だがシルブレイドには魔晶フレームは使用出来ない。

 なぜなら魔晶石は電気を通しにくいからだ。


「その向こうの世界のエネルギーと魔動力の両方を効率的かつ有効的に使う為には、これによると雷鉱ってのが一番効率が良いらしいけど……俺の記憶が正しければ、これって……」


 雷鉱はその名の通り、雷を通しやすい鉱石である。

 ただしその性質のせいで雷鉱が掘れる場所には常に雷が落ち、非常に危険な所となっている。

 その上、電気エネルギーが普及していないこの世界では全く必要としない鉱石である為、鉱石自体の価値は無いに等しい。

 命懸けであるにも関わらず採算は0という誰の特にもならない事で有名な鉱石だった。

 当然、そんなものを販売している所は無く、頼んだとしても採掘に行くと頷くような物好きはそうそう居ないだろう。


「市場には出回らないものをどうやって手に入れる?自分達で掘りに行くなんて無謀な事は俺はしたくねぇぞ?」

「入所困難なものはまだいくつもあります。試作機という事もあってか予算度外視で設計されてる為に、この世界ではかなり高価に取引されているものもあります。せめて代用出来るものがあればいいのですが……」


 いきなりの難題に2人が悩み始めるのに対し、イムリアスの表情は明るい。


「それなら問題無い。近いうちにあいつが持ってくるはずだ。アイリ婆さん…理事長が素材集めを依頼してたからな」


 あの時点でアイッリッシュはここまで予想していたのだろう。

 いや、イムリアス自身がこの話を受けるにしろ受けないにしろ、キングス工房に修理の依頼をする事は決まっていたのかもしれない。

 救世の騎士やこのキングス工房と深い繋がりのある彼女なら、9番目の設計書の存在も知っていただろうし、そこに書かれてある素材に入手が困難なものがある事を知っていてもおかしく無い。


「あいつ?」

「ん?ああ。シルフの奴だ。シルフィリット=パーシヴァル。世界最強の称号を持つ騎士で俺の幼馴染。この間、あいつが珍しく学園に居たんだが、どうやらその依頼の為に理事長が呼び出していたらしい」


 ショウマの疑問にイムリアスが答える。


「…イム先輩があの騎士の中の騎士ナイツオブナイトと幼馴染……」


 先に反応したのはアーシェライト。

 何やら小さな声でブツブツと言っているが内容までは聞き取れない。


「ああ。それでこの間、休みなのに学園に居たのか。確かにあの時、理事長に呼ばれてるって言ってたしな」

「えっ?ショウマさん!彼に会ったことあるんですか?!」

「おう。本人にも会ったし、シルブレイドがこんな有様になった事件では危ない所を助けて貰ったんだ」

「という事はクリムズンフェンサーにも?!」

「そういえばあの赤い魔動機兵ってそんな名前だったっけ……」

「もっと、く、詳しく教えて下さい!足の可動部の形は?肩とそこにある鞘の付け根の強度は?動力のトルク比は?鎧甲の強度と素材は!?」


 一言毎に詰め寄るアーシェライトに圧倒されて、顔をやや引き攣らせてじりじりと退がるショウマ。

 クリムズンフェンサーは数々の悪夢獣を葬っている最強の騎士の駆る最強の魔動機兵である。

 作製者は不明で、一説によると、魔動王国時代の発掘品ではないかという噂さえある機体で魔動技師なら憧れるのも当然だ。


「まてまてまて!ちょっと落ち着け!そんな詳しい事を俺が知る訳ねぇじゃねぇか」

「え?見たんでしょ?動いてる音を聞いたんでしょ?だったらその構造くらい……」

「だから落ち着けっての!俺はシェラと違って本職でもねぇし、見たり聞いたりしただけでそんなもん分かるかぁっ!!」


 怒鳴った事でようやく我に返ったのだろう。

 先程までの積極的な姿は霧散し、恥ずかしそうに俯く。


「…あ、あう……ご、ごめんなさい………つい…興奮しちゃって」


 アーシェライトのような生まれながら、いや、生まれる前からの技術屋ならば、各部を見ただけで構造を把握し、音を聞いただけで性能がある程度分かるのだろうが、ショウマにそんな特殊な能力は無い。

 だからアーシェライトの期待に応える事は出来ない。と思ったが、思わぬ所から救いの手が差し伸ばされる。いや、それは思わぬ所では無く、ある意味、必然だったのかもしれない。


「クリムズンフェンサーならおやっさんが専属で整備してるっすよ?」


 たまたま近くを通り掛かったキングス工房の若い職員の1人がそう教えてくれる。

 

「はぁ?そいつは俺も初耳だぞ!?」


 一際驚きの声を上げたのはイムリアスだった。

 職員の彼が言う“おやっさん”とはイムリアスの父親であり、キングス工房の現工房主なのだ。

 シルフィリットがイムリアスと幼馴染ならば、その父親と親しくても不思議では無い。

 その上、キングス工房は世界最高峰とも言われている魔動工房だ。その工房主が最高峰の魔動技術を持っていない訳が無い。

 本人が面倒臭いと言って断り続けているので称号こそ持っていないが、魔動技師の中では間違いなくトップクラスであろう。

 魔動技師の最高位の称号である“技師の中の技師マイスター”が空席なのは、彼がいつか受け取ってくれるとフォーガン王が信じているからだという、まことしなやかな噂もある程だ。


「という事は?」


 アーシェライトの眼鏡の奥の瞳がキラキラと輝きを放ち、イムリアスに熱の篭った視線が注がれる。


「ああもう、わかった、わかったよ!今度、親父を紹介してやるよ!だから今は目の前の事をやってくれ!」

「んふふふっ、イム先輩……絶対ですからね」


 上機嫌のアーシェライトと困り顔のイムリアス。


(なんとなく父親に嫁を紹介するみたいな台詞だなぁ)


 ある意味、お似合いだなぁという目で2人を眺めるショウマ。

 その表情から察したのだろう。


「いや、こいつは妹みてぇなもんだ。嫁とかありえねぇから」


 イムリアスがきっぱりとそう言い切り、それによって気が付いたアーシェライトが慌てふためいて否定する。


「イ、イム先輩は尊敬してます…けど……そ、そういう相手とは…見て……ないですから……あの…その……僕は…………」


 アーシェライトが上目遣いでチラチラと見詰める相手はイムリアスではなく、ショウマの方。

 何故か彼と居ると飾る事も肩肘を張る事も無く、自然体で居られる気がして、とても居心地が良いのだ。

 転生者と転移者の違いはあるものの向こうの世界を知る者同士だからというのもあるのかもしれないが、それ以上に、過去世から憧れていた相手に似ているからなのかもしれない。

 これが憧れの延長なのか、恋愛感情なのか、アーシェライトにもはっきりとは分からない。

 だが1つだけはっきりとしている事は、今度こそは絶対に彼を裏切るような行為はしないという思いだけだった。


「よーし、無駄話はここまでだ。時間は限られてんだ。シルフが材料を持ってくるまでの間、うちにある在庫で出来る所までやっておこう」


 パンと1つ手を叩いてからイムリアスが作業開始を告げる。


「ああ、そうだ。この修復作業が終わるまで、アーシェライトは無理に授業を受けなくて良いそうだ……ってか、今までも殆どサボってるからあまり変らんが、今回はちゃんと学園長からも許可を貰っておいたから、こっちに集中してくれ。俺らと同じようにこの作業を評価の対象にするらしいから、そこは安心しろ」

「あ、はい……あ、ありがとうございます!」


 学園の授業を受けるより、ここで作業を手伝い、工房職員の技術を見ている方が何倍も身になるだろうから、アーシェライトとしてはこの上無くありがたい事である。


「あれ?シェラだけ?俺は?」

「お前が未熟だったから、この有様になったんだろ?だったらしっかりと授業を受けて腕を磨いて来い」

「…た、確かに。それは先輩の言う通りだな……」


 正に正論。

 イムリアスの言葉はショウマの胸に深く突き刺さる。

 シルブレイドが完全に修復されたとして、それを操るショウマ自身が未熟なままならまた同じような事になり得る。

 あんな不甲斐無さと悔しさはもう味わいたくない。

 それに今回の事でシルブレイドの修理には希少で貴重で高級な素材が必要な事が分かった。

 今回はアイリッシュが手を回してくれたおかげで材料を揃える事は出来そうだが、今後はそう簡単に手に入るとは限らない。

 敵の前で無残に横たわったシルブレイドの姿を思い返しながら、ショウマはもう二度と同じ過ちは繰り返さないと心に誓うのだった。

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