幕間 裏で蠢く女達
1本の蝋燭の光だけが揺らめく薄暗い部屋にその少女は居た。
一糸纏わぬ女の肢体が淡い光に照らされ白く浮かび上がる。
顔は影となって見えないが、肌の張りからその若さは伺える。
胸の膨らみはささやかで腰のくびれも僅か。足元まで届かんばかりの長い漆黒の髪は水に濡れ、前髪から滴る水滴が少女の腕で跳ねて蝋燭の灯りを反射してキラキラと輝く。
「ふぅん。やっぱりまだまだ制御は難しそうね~」
少女は弾けた水滴を見つめながら残念がった声を発する。
「野生の獣じゃ凶暴になるだけで制御すら出来なかったから人間を核にしてみたけど、もっと実験を繰り返さないと完全に制御するのは難しそうかぁ……」
少女はその口元に薄い笑みを浮かべる。
まだまだ多くの事が試せる。それが楽しみで仕方が無いという表情だ。
「あら?どうしたの?とても楽しそうな顔をしてるけど」
「あっ!お姉様♪♪」
背後から掛けられた声に少女は喜色の表情を浮かべて振り返る。
お姉様と呼ばれた彼女も何も着ていない、一糸纏わぬ姿だった。
張りとボリュームのある胸を揺らし、まるでどこかのモデルのようにくびれた腰と豊かなヒップライン。ややウェーブの掛かった腰まである銀髪の彼女からは、幼児体型の少女とは正反対の淫靡で妖艶な雰囲気が漂ってくる。
「それで、何か楽しい事があったの?」
女は少女を後ろから抱き締め、耳元で囁くように尋ねる。
少女はお姉様と慕う彼女からの抱擁と背中に感じる柔らかな感触に頬を染めて恥ずかしがりながらも言葉を紡ぐ。
「…は、はい。私が造った魔動機獣が1機壊されちゃったんですけど、色々と改良点が見つかったので、早く試してみたくてワクワクしてるんですよ♪」
「ふふふ、そうなの。でもあれを壊せる人間はそうそう居ないはず。五武聖あたりかしら?」
武聖とは称号持ちの総称である。その中でも“剣聖”“槍聖”“弓聖”“斧聖”“楯聖”の5つは騎士の中でも最高位の称号とされ、一括りに“五武聖”と呼ばれている。
「いいえ、更にその上です。相手は“騎士の中の騎士”さんでした」
「あらあら。まぁ、彼が相手じゃ仕方無いわね。あれは別格だもの」
たった1人で悪夢獣を10体以上倒したというのは他に類を見ない。部隊単位でみれば、討伐数はその10倍を悠に超えるだろう。
歴史上で見てもこれ程の活躍をした騎士は見た事が無い。
しかもまだ20歳にも満たないのだから末恐ろしい事この上無い人物だ。
「だけどもっと善戦できると思ったんですよ?なのに手も足も出なかったんです!あの人が来る前に銀色の変な奴を相手にしてなきゃ、もっと戦えたと思うんですけど……」
少女は憤る。
武聖でも無い初めて見るタイプの白銀の魔動機兵に手傷を負わせられた事だけが、今回の最大の汚点だった。
「ふふふっ、怒った顔も可愛いわね。けど実戦データも手に入って、改良点も分かってるんでしょ?ならそれを元にもっと強いものを作りなさい。それに、もし“騎士の中の騎士”を倒したいというなら、悪夢くらいの強さが無ければ太刀打ち出来ないわよ」
「悪夢?悪夢獣とは違うのですか?」
「ええ。悪夢っていうのはこの世界の理から外れた存在。異世界の人間がこの世界に絶望した時に生まれる負の塊のような存在。そしてあなたがこの世界に来るより遥か前に完全に討ち滅ぼされた存在よ……いえ、完全ではないわね。最後の悪夢が飛び散った影響で悪夢獣という異形が生み出されたのだし、あなたがここに居るという事は、どこかで悪夢の種が再び芽生え始めているという事」
「わ、私は絶望なんてしませんよ!お姉様さえいれば私はいつまでだって幸せなんですから~」
「ふふふ、ありがとう。そうね。折角の妹分をそう簡単に悪夢になんて変えさせたりしないわ」
女は更に強く抱き締め、指は艶めかしく少女の肌の上を滑る。
「は、はうっ…お、お姉…さ…ま……」
少女の上擦った声を聞きながら、女は嬉しそうに微笑む。
(あなたは今の所、たった1つの手駒…愛玩人形なのだもの。そう簡単に切り捨てたりはしないわよ)
女の淫靡な微笑と少女の嬌声が響く中、不意に蝋燭の灯りが消える。
部屋の中を暗闇が染め、2人の姿は闇の中へと消えていった。




