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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第1章 魔動学園春嵐編
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第17話 世界最強の機兵騎士

 残エネルギーを気にする必要の無くなったシルブレイドは、枷を外したかのように縦横無尽に駆け回る。

 冷却時間という制約は残っているものの、可能な限りブーストを使用してサルシェイドを翻弄する。


「シア!今だ!!」

「う、うん!」


 剣を振り下ろす瞬間、ショウマの言葉に応えてシアニーが魔動力を注ぎ込む。

 魔動力を得たブレイドソーが本来の唸りを上げて、サルシェイドの左肘を斬り刻む。手動時と異なり、鋸の刃は途中で止まる事無くざっくりと左肘を断ち斬る。

 右から迫る剛腕を後ろに下がって回避するが、その間に左肘から闇色の触手が伸び、切れた腕と繋がり、再生してしまう。


「くそっ、キリがねぇな」


 既に数えるのも嫌になるほどに繰り返される光景に、流石のショウマも辟易し始めていた。

 いくらシアニーの魔動力のおかげで稼働時間制限が無くなったとはいえ、乗っている人間は疲労する。

 特にショウマはここに来るまでに移動の為に数時間乗って体力的にも消耗している。更に戦闘が開始されてからは死と隣り合わせの戦いを続け、精神的にもかなりの疲労が溜まっている。

 その上にこの無限再生である。

 終わりが見えない事に対処するというのは予想以上に疲れを感じさせるもの。いくら体力に自信のあるショウマであっても、そう長くは保たないだろう。

 そんな矢先に疲労は彼の身体を蝕んだ。

 回避の最中、右足に違和感が走り、痙攣を起こす。すぐに治まったが、そのせいで踏み込みは若干甘くなり、それが命取りとなった。

 サルシェイドの左腕によって僅かに後ろへ下がるのが遅れた右脚をがっしりと掴まれてしまう。


「くっ、しまった……」


 そう思った瞬間には右の拳が唸りを上げて眼前に迫っていた。

 必死に上半身を仰け反らすと共に、自らの右脚に剣を突き刺し、斬り離す。

 サルシェイドの右拳が胸部鎧甲と頭部を削ぎ落し、左手に力を込めて斬り離された右脚を握り潰すと、鉄塊となったそれをシルブレイドに投げつける。

 言い表す事の出来ない程激しい衝撃が操縦席を揺らし、轟音と共に背後にあった木々を薙ぎ倒しながらシルブレイドは吹き飛ばされていく。

 樹木の1つに引っ掛かってようやく止まる事が出来たシルブレイドは酷い有様だった。背後の木のおかげでなんとか立っている状態ではあるが、右脚と左腕は失われ、左脚は先の衝撃で120度近く捻じれている。頭部と胸部に至っては前半分が完全に削ぎ落されていた。幸い、操縦席までは届かなかったが、乗っているショウマとシアニーは完全に丸見えとなっている。

 唯一無事な右腕もなんとか繋がっているという状態で剣を持っているのさえも奇跡という状態だ。


「ああ……やっぱりあの時逃げ出しとけば良かったなぁ……悪ぃな、シア」


 ショウマは既に操縦桿から手を離してシートに背中を預け、諦めきった表情でシアニーに謝る。


「何諦めてんのよ!私と戦った時は最後の最後まで諦めないで勝利を勝ち取ったじゃない!!」


 シアニーがそう叱咤するが、状況はあの時とは全然違う。

 あの時のように最後の一撃を見舞う事が出来たとしても、無限に近い再生能力がある以上、倒せる保証は無い。仮にそれで倒せる確証があったとしても、良くて相討ちだろう。

 操縦者であるザンスを殺せば、もしかしたら動きが止まるかもしれないが、それも確証は無い。その上、悪夢獣なら躊躇無く命を奪えても、人の命となると、その責任は重く、ショウマにその覚悟が出来ているとは言えない。

 それだって相討ちの覚悟で臨まなければいけないだろう。

 つまり確証があろうとなかろうと、どちらにせよショウマ達の死は免れないのだ。

 シルブレイドを捨てて逃げ出す事も考えてみるが、人の足では魔動機兵から逃げるなんて事は不可能。

 これで諦めるなという方が難しい。

 正面に目を向ければ、地響きを上げながらゆっくりとサルシェイドがこちらに向かって来ているのが見える。

 死の恐怖は当然ある。

 だがそれ以上に目の前にいる大切な者が死ぬという事の恐怖の方が上回っていた。


「シア。お前は少しでも遠くへ逃げろ!」

「だから私は逃げないって言っ……」

「このままじゃ2人とも死んじまうんだ!!誰かがこいつの事を知らせなきゃ、被害はもっと増える可能性があるんだ!!だから俺が囮になってる間にシアは逃げろ!!」

「囮だったら私の方が……」

「お前にシルブレイドは操作出来ねぇだろが!」


 それを言われたらシアニーは黙るしかなかった。

 一緒に操縦桿を握っていて初めて気が付いたのだが、シルブレイドは彼女の知っているどの魔動機兵とも操縦方法が異なっていた。

 2本のレバーと2つのペダル。そして各所にあるボタンを駆使して、複雑な動きを再現していた。長い期間、練習を繰り返せば操縦は可能かもしれないが、今すぐやれと言われても到底無理だろう。


「で、でも……」


 シアニーの手と足には鎖で繋がった重い枷がある。

 例えショウマが時間を稼いでも、それでどこまで逃げ切れるかは分からない。


「いいから早くしろ!!」


 ショウマは有無を言わない迫力で必死にシアニーを逃がそうとする。

 何故そこまでするのか彼女には分からない。けれど彼の意思は変えられそうにないし、時間が無いのは確かだった。

 後ろ髪を引かれる思いでシアニーがシルブレイドから降りようとした時、それは聞こえて来た。


『なんとか間に合ったようだね』


 その声と共にサルシェイドの左脚が鋭いもので貫かれる。

 針のように細く長い鉄色の杭。


「え?あの剣は!?」


 シアニーの言葉と杭の先にある持ち手が見えなければ、それが剣だとはすぐには気付かなかっただろう。

 サルシェイドがその背後にいるらしきものに対して上半身を反転させて拳を振り抜く。

 暴風の如き拳を流れる水のように受け流しつつ、2本目の剣杭で腕を串刺しにして地面へと縫いつける。

 そこでようやくその正体がショウマの目に入って来る。

 細身でまるで女性を彷彿させるようなフォルムをした、味方を鼓舞し、敵を挑発するかのような鮮やかな真紅の美麗な魔動機兵。

 やや幅広の肩にはまるでマントを羽織っているかのように長細い剣鞘が左右に3つずつ、前後に3つずつの合計12個ついている。

 両手にはサルシェイドを貫いているものと同じ剣杭を持ち、戦いの場とは思えない程、優雅な姿で佇んでいた。


「あの機体は?」

「ショウマ。もしかして知らないの?!あれは学園史上、最年少で騎士叙勲を受け、その2年後には王国最強…ううん、世界最強と言われる“騎士の中の騎士ナイトオブナイツ”の称号を授かったシルフィリット=パーシヴァル様の専用機“クリムズンフェンサー”よ!!」


 流石にショウマも騎士を目指すだけあってその名は知っていた。だが実際に目にするのはこれが初めてだった。


『確かショウマ=トゥルーリ君だったかな?君から貰った飴はエルアさんと一緒に美味しく頂いたよ。だから安心して後は僕に任せてくれ』


 その一言でショウマは全ての合点がいった。

 会った瞬間に相当に強い人だとは思ってはいたが、まさかここまで凄い人だとは思いもよらなかった。

 しかもその人自らが助けに来たのだ。


「まさかあんな人が最強の騎士だったとはねぇ…」


 ショウマはシルフィリットと出会った数時間前を思い返していた。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 シアニーが誘拐され、刻限に間に合う移動手段がシルブレイドしか無いと判断したショウマは休日のシンロード魔動学園に来ていた。

 普段と異なり、物静かで生徒の姿はほとんど見られないが、時折、どこかから誰かの声が聞こえるので自主鍛錬に励む生徒がいるのだろう。

 ショウマはそんな閑散とした学内のある場所に向かって急いでいた。

 屋外運動場の脇にある機兵倉庫。

 そこには学園が保有する魔動機兵と生徒個人が所有する魔動機兵が一挙に格納されている場所だった。そこにシルブレイドも運び込まれているはずだった。


「おや?こんにちは。休日にこんな所に来るなんて熱心だね。初めて見る顔だけど新入生かな?」


 ショウマが機兵倉庫に入り、自分の機体を探していると、学生服を着た1人の青年が声を掛けて来た。

 燃えるような赤い短髪の前髪の一房だけが黒いのが唯一の特徴とも言えるような凡庸な顔立ちの青年だ。


「あ、こんにちは。俺は……新入生っていうか編入生ですね」

「ああ、君が例の噂の。有望な後輩が入って来るのは僕としても嬉しい事だね」


 その言葉から彼が上級生である事が分かる。

 しかも無造作に立っているだけに見えるのに、両足には均等に体重が乗せられ、無駄な力が入っていない自然体である事がショウマの目から見ても分かる。

 いつ何が起きても即対応出来るような立ち方をごく自然に出来るというのは、相当な実力者だという証だ。


「あははは、どんな噂かは深く聞きませんけど、買被りですよ。俺なんてまだまだだって事をここに入る直前に痛感しましたからね。ところで先輩も自主錬ですか?」

「いや、僕は理事長に用があってね。これから向かう所なんだ」

「そうですか…っとそれじゃ俺、急いでますのでこれで」


 ショウマは先輩との会話の間に見つけた自身の愛機に向かおうとした所で、ふと立ち止まり、思い出したようにポケットを探る。


「あ、そうだ、これ。先輩もよかったらどうぞ」

「ん?これは飴玉かな?」

「はい。ここに来る前に迷子がいまして、親探しをしたら、そのお礼って事でいくつか貰ったんですよ。理事長の所に行くって事なんでエルアさん達にも渡して貰えますか…ってことでそれじゃ本当に急ぎますんで!」


 ショウマはそう早口で捲し立てると急いでシルブレイドの元へと走って行ってしまう。

 赤髪の青年はそれを笑顔で見送った後、機兵倉庫を出て、学舎の奥にある理事長の屋敷を訪れる。

 出迎えてくれたのは当然、エルアだ。

 

「お久しぶりでございます。シルフィリット様」

「ええ。エルアさんもお元気そうで。理事長は?」

「はい、あなたが来るのをお待ちしております」

「分かりました。ああ、そういえばここに来る前に例の黒髪の少年と会いましたよ」

「ショウマ様にですか?」

「ええ。急いでいたようなのでそれ程会話は出来ませんでしたがね。あ、そうそう。その彼から飴を貰ったんですよ。エルアさん達にも渡して欲しいって」


 シルフィリットはつい先程ショウマから貰った飴玉を取り出す。

 がそこで違和感を感じる。

 飴玉は持ち運びに便利なように水飴を玉状にして冷やして固めたものだ。溶けにくくするような加工も施されていたはずだ。

 にも関わらず、貰った飴玉の1つだけがやけに軽く柔らかい。しかもその柔らかさは飴が溶けたような柔らかさでは無かった。

 不思議に思ったシルフィリットはその場で飴玉の包みを開ける。

 そこには飴玉は無く、丸められた紙が入っていた。

 覗き込むエルアと共に中の紙を開き、そこに書かれてある内容に驚く。

 それはショウマが受け取った誘拐犯からの手紙。

 犯人の一味がどこで見ているか分からない為にこんなにまどろっこしい方法で救援を要請したのだ。

 シルフィリットが一味の可能性もあったので、一種の賭けではあったが、信頼出来るアイリッシュとエルアに渡して欲しいと頼んだのであった。


「恐らくは攫われた女性というのはシアニー様で間違いないでしょう」

「シアニーって……確か氷結姫と呼ばれている、あの王家の血筋の?」

「はい。ショウマ様と最も親しい女性は今の所、彼女だけですので」

「あれ程の腕を持つ彼女を簡単に誘拐する相手となると………ふっ、どうやら理事長との面会はまた後日ですね。エルアさんはすぐにこの事を理事長に」

「分かりました。それでシルフィリット様はどう致すの……いえ、聞くまでもありませんでしたね。あなたは騎士の頂点にして真の騎士。悪を許さない絶対の正義。ですがそれ以前に、より強い相手と戦う事を楽しみとする方でしたからね」


 エルアのその言葉にシルフィリットは歳相応の笑顔を浮かべることで答えるのだった。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



 クリムズンフェンサーが軽く腕を振るう。振り終わった頃にはその手に剣杭は無く、いつの間にかサルシェイドの右脚を地面と共に貫いていた。

 動きが特別早い訳ではない。

 だがあまりにも自然で無駄な動きが一切感じられない為、動き始めを目で追う事が出来ず、見えたのは腕の振り終わりの頃だけ。

 しかもショウマがあれ程苦労して貫いた闇色の障壁とその奥にある強固な鎧甲などまるで無いかのように、いとも容易く貫いている。

 おそらく剣杭という形状はあの障壁を貫く為だけに造られた代物なのだろう。


「あれが最強の騎士の実力……」


 ショウマは唇を噛み締め、苦い表情を浮かべる。

 3年間の修行でかなりの実力を手に入れたと思っていた。シルブレイドとこの実力さえあれば悪夢獣に負けるはずがないと思っていた。

 だからシンロード魔動学園を卒業するという課題もただの通過点に過ぎないと思っていた。

 だが現実はどうだ。

 シアニーと初めて戦い、剣技で圧倒的に自分の上を行く者の存在を知り、邪法を使っただけの本当の悪夢獣では無い相手に死の淵まで追いやられ、挙句、自分が倒せそうにないと諦めた相手を、今、たった1人の自分と然程歳の離れていない青年が圧倒している。

 心の底からどんどんと悔しさが込み上げてくる。

 だが同時に嬉しさも込み上げていた。

 これからの修練次第で、自分でもあの域まで達する事が出来るかもしれない。そして越える事が出来るかもしれない。

 今はまだ、足元にも及ばないかもしれないが、いつか必ず追いつき、追い越す。

 悪夢獣全てを殲滅するという漠然とした目標より、明確な目標の方が目指しやすいもの。

 その為にショウマは世界最強の騎士の駆る真紅の魔動機兵の動きを見逃すまいと目を凝らす。

 その間にもクリムズンフェンサーは次々と剣杭でサルシェイドを縫いつけていく。

 両脚を固定され、身動き取れなくなったサルシェイドに蹴りを見舞い、仰向けに倒すと、瞬く間に両腕に3本ずつ剣杭を刺して固定する。

 虫の標本のように大地に縫いつけ、更に腰の付け根にも1本ずつ突き刺す。

 まるで本物の悪夢獣のように、牙の生えた顎を大きく開いて首を振って抵抗しようとするが、その頭部にも突き刺して、その動きさえ封じてしまう。

 シルブレイドの鎧甲を一撃で粉砕する膂力を持つサルシェイドが、いまや完全に身動き取れなくなっていた。


『さぁ、これで終わりだ』


 クリムズンフェンサーが最後の剣杭を逆手に持ち、一気に振り下ろす。

 そこはザンスの乗る操縦席がある胸部。

 狙いが分かってしまったショウマは咄嗟に叫ぶ。


「駄目だ!先輩!!!!」


 その声が届いたのか、胸部の鎧甲に僅かに剣先が刺さった所でピタリとクリムズンフェンサーの動きが止まる。


『何故止めるんだい?邪法によって造られたこいつは魔動力があり続ける限り、それこそ操縦者の意思の有無に関わらず、乗っている限りは動き続ける。今はなんとか縫いつけて動きは止めているが、それも時間の問題だ。こんなもの、すぐに引き抜かれてしまう』

「けど、それに乗ってるのは学園の先生だ!」

『邪法に手を染めた人間の末路は死罪か永久禁錮刑のどちらかだ。僕としてはここで楽にした方が彼にとっても良いと考えるんだけど、それでも命を助けたいと言うのかい?』

「それでもだ!それに殺してしまったら、俺も…そしてシアもそいつを殴れないからな!」

「そうよっ!私をこんな目にあわせた奴には死んだ方がマシだったって思うくらいに痛めつけてやらないと気が済まないんだからっ!!」

『あははは、面白いな、君達は。実に面白い答えだ。気に入ったよ。それに免じて今回はその要望に応えるとしよう』


 クリムズンフェンサーは剣杭を器用に操り、胸部鎧甲を外すと、操縦席の中で闇色の触手に巻き付かれて埋まっているザンスを掴み上げる。

 闇は自身のエネルギー源を取られまいとザンスに向かって触手を伸ばすが、剣杭によってあっさりと吹き飛ばされてしまう。


『さぁ、これで本当に終わりだ』


 ザンスの居なくなった闇の触手に覆われた操縦席に剣杭を突き刺す。


『悪しき夢よ。業火の中で静かなる永劫の眠りを』


 シルフィリットが祈りのような言葉を発すると同時に、刺さっていた全ての剣杭が発火。一瞬にしてサルシェイドの全身を炎が包み込む。

 闇を纏った魔動機兵は彼の祈りの言葉通りに、燃え盛る炎の奥で静かに、そしてゆっくりと灰となって消えていった。

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