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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第1章 魔動学園春嵐編
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第15話 悪しき夢を纏う者

『貴様ら!よくもこの私を愚弄してくれたな!!』


 禍々しい姿の黒い魔動機兵からザンスの声が響く。

 どうやらシアニーを助け出して、操縦席に迎え入れるまでの間に彼が乗り込んだようだ。


『学生だから命まではと思っていたが、ここまでコケにされては私の怒りは収まらんし、このまま貴様らを見逃せば、私は学園から追放される!ここで始末してやる!!』

『え、あ、いや、シアの枷の鍵だけ貰えれば俺は別にそこまで追求なんかしないし……』

「何よ!ショウマ!私を誘拐した奴を見逃すって言うの!!」

「いや、実害は無かったんだし、いいじゃんか!それに俺は別にザンス先生と争う理由なんて無いしなぁ」


 ショウマとしては無用な争いは避けたかった。

 シルブレイドを持ち出したのも戦う為では無く、単なる移動手段として使っただけだし、相手がどう思っていようが、ショウマはザンスに対して恨みは抱いていない。

 それにシルブレイドは魔動機兵と違って稼働制限時間が存在する。まだ日が出ているので発電が出来ているが、それも稼働中は微々たるもの。その上、帰りは時間的に完全に日が暮れる。

 そうなると残エネルギーだけで動かす事となり、正直に言えばシンロードまでギリギリ間に合うかどうかという残量だ。

 その上、目の前にいる黒い魔動機兵からは嫌な予感しか感じられない。

 弱い部類の悪夢獣を見た事があり、直接戦った事のあるショウマだが、この魔動機兵から感じるものは3年前の悪夢獣よりも強い禍々しさを感じる。

 シアニーの枷の鍵の事が無ければ、今すぐにでも逃げ出したい所だ。

 なのでショウマとしては素直に鍵を渡してくれる事を祈る。

 だがそんな彼の思いとは裏腹に、ザンスは更に声を荒げる。


『貴様のような下賤な者の言う事など信じられるものか!!このままでは私の…私の人生が……だからこそ、貴様らはここで私の手で葬る事こそ最善なのだ!!』


 ザンスのその声には鬼気迫るものがあった。

 どうやらショウマ達が無意識に、というか勝手に自分で自分を追い詰めてしまった様子だ。


「ほら、向こうもその気なんだからさっさとぶっ潰しなさいよ!」

「え、あいや、俺としては、鍵は諦めてこのまま逃げた方が得策だと思うんだけどなぁ」

「何よ!私に一生こんなもんを付けて暮せっての!!」

「そうじゃねょ!一旦学園に戻って理事長や学園長に相談した方が良いって言ってんだよ!鍵が無くてもぶっ壊して外す事が出来るかもしれないし。それにあの魔動機兵を俺だけでどうにか出来るとは限らない訳だし」


 そう言われてはシアニーも黙るしかない。

 当然、彼女もその禍々しさが姿形だけが原因とは思っていない。何か根本的な所からその禍々しさが感じられるのに気が付いていた。

 それが何が原因で何処から感じるのかは分からないが、得も言われぬ不安を煽られるのは確かだ。


『くっくっくっ、分かるぞ。貴様らが私のサルシェイドに怖れを感じている事がな!それも当然だ。こいつは魔動機兵10機と互角に渡り合った悪夢獣の爪や骨などをふんだんに使っている特注品!そこらの魔動機兵とは一味も二味も違うのだよっ!!』


 それが言い知れぬ不安と禍々しさの正体。

 その言葉にシアニーは青褪める。


『悪夢獣って……それって邪法じゃない!!』


 昔から悪夢獣から獲れる素材を武具や魔動機兵に利用するという考えは存在した。

 それも当然だ。

 最も弱いとされる悪夢獣でも魔動機兵の攻撃を弾き、アダマス鋼製の盾に傷を付け、互角以上の戦いをする事が出来る。

 そんな悪夢獣の爪や皮や骨は、悪夢獣と戦う武具としては既存の素材を使うより最適と言えた。

 しかしその作製中、不幸な事故が起こったり、発狂する者が出たり、止めとばかりに勝手に動き出して暴走したりもした。

 死して尚、悪夢獣はその名が示す通り悪夢を振り撒く存在だった。

 それ故に先代のフォーガン国王は悪夢獣の素材を使用する事を邪法として全世界で禁止し、悪夢獣を討伐したらすぐに焼却処分するように通達したのだ。違反した者には死刑、あるいは軽くても一生を牢獄の中で過ごす事となる。

 だがそれでも人の目を盗んで邪法に手を染める者は存在するのだ。


『邪法だろうと何だろうと力は力!!この力で私を卑下した者達を叩き潰してやるのだ!!』

「うわ~、なんて器の小さい男なのかしら。けどアレは危険な感じしかしないし、話し合い出来るような理性もなさそうだから、ショウマの言う通りに一旦退いた方が良さそ……って、ショウマ、聞いてるの?!」


 シアニーはザンスの様子に心底ウンザリした様子で呟くが、ふと、先程からずっと俯いたまま、一言も喋らないショウマに気が付く。


「なぁ、シア…………」


 ショウマが俯いたまま、ようやく口を開く。

 普段通りの変わらない口調。だがシアニーはただその一言だけで、背筋に冷たいものを当てられたようなゾクリとした感覚に襲われ、冷や汗が流れるのが分かる。


「アレが邪法の……悪夢獣の素材で造った魔動機兵だってザンス先生は言ったよな……」

「う…うん………」


 ゆっくりと伏せていた顔を上げるショウマに、シアニーはサルシェイドから感じたものとはまた違う不安というか不穏なものを感じる。


「……逃げるのは止めだ。あいつは……悪夢獣は俺がぶっ壊す!!!」


 叫ぶと同時にシルブレイドが一気にサルシェイドとの間合いを詰める。

 腰部に差していた剣を抜きざま、その胴を薙ぐ。

 その剣はショウマが持つブレイドソーと同じ形状をしている。ただしその大きさは機兵が持っても違和感が無い程に巨大。“造聖”が造り出したもう一振りのブレイドソーだ。

 奇襲的な一撃。

 だがその肉厚な刃はサルシェイドの長い腕によって防がれてしまう。払い除けるように振るった腕の力を利用してシルブレイドは間合いを遠く離し、油断無く剣を構え直す。


「ちょっと、ショウマ!急に動かないでよ!それにどうしちゃったっていうのよ!!」


 シアニーの言葉はショウマの耳には届かない。いや届いてはいるが、聞く耳を持たなかった。

 シアニーは知らない事だが、ショウマは3年前に大切な愛すべきこの世界で得た家族を悪夢獣によって失い、その存在そのものを憎み、存在の痕跡さえ残らぬように殲滅する目的の為、造聖のトゥルーリの元で修行に励んでいたのだ。

 普段はその事をおくびにも出さず、3年前の事など忘れたかのように日々を過ごしているショウマだが、悪夢獣への憎悪が消えた訳ではない。心の奥底に溜め込んで蓋をしていただけ。

 しかしサルシェイドの禍々しいオーラを感じ、ザンスから悪夢獣という言葉が出た瞬間、蓋は一瞬で噴き飛び、溜め込んでいた憎しみと怒りがどんどんと膨れ上がっていった。

 だがそれで我を忘れたという訳では無い。

 初めて悪夢獣と戦った時と同様、悪夢獣を憎み、怒りに震える自分と同時に、冷酷で冷徹で冷静な自分も同居している。憎しみと怒りが悪夢獣の痕跡を消せと足を前に進ませ、冷静さが今ならば十分倒せると後押しをする。

 しかしその事を説明する時間も、気も無い。

 だからショウマはシアニーに答える事無く、再度サルシェイドに斬り掛る。

 横薙ぎの一撃も上半部で防がれ、下段からの斬り上げも大きな掌で弾き返される。


『これなら!!』


 飛び上がり最上段から勢いを増した一撃もクロスした両腕で阻まれてしまい、隙間を縫うように繰り出した突きも振るわれた腕の前にあっさり弾かれる。


『くっくっくっ、そのような悪趣味で下品に光る魔動機兵如きでこのサルシェイドに敵うと思っているのかぁ?』


 斬撃を全て弾き返している為か、ザルスは余裕の笑みを浮かべている。


『確かにその装甲…いや鎧甲か。それは厄介だ。だけど硬いだけで戦いに勝てんなら誰も苦労なんかしねぇよっ!!おい、シア!今度はしっかりと掴まってろよ!!』

「え?きゃあぁぁぁぁ!!!!」


 ショウマはシアニーの返事を待たずにシルブレイドを一気に加速させる。

 肩口と腰と脚部の後ろ側に内蔵されたファンから爆発的な風が吹き出すと僅か2歩で白銀の機体は最高速に達し、一瞬でサルシェイドに肉薄する。

 ザンスから見たら、シルブレイドがまるで瞬間移動したように見えた事だろう。

 一瞬でサルシェイドの側面まで来た所で地面に剣を突き刺し急制動を掛けつつ反転。背後から剣で左の肩口を薙ぎ払う。サルシェイドが斬られた事に反応して振り向く瞬間、すぐさま再加速して反対側に移動して同じ要領で同じ場所に斬撃を見舞う。更に左右からの攻撃も混ぜて連続攻撃を叩き込む事、十数秒。

 各部の負荷が限界域に近付いている事を示すアラームが鳴り響いた所で、シルブレイドは攻撃の手を止め、飛び退くように間合いを離す。


 プシュー


 着地と同時にファンから噴き出していた爆風は穏やかな涼風に変わり、限界まで加熱されていたファンと各部を冷却していく。


「うぅっぷ、シ、ショウマ……私が一緒に乗ってるって事忘れてない…よね……ううぅ」

「あ?シアなら大丈夫かと思ったんだがなぁ?」


 学園ではまだ魔動機兵による訓練が始まっていないのでシアニーの魔動機兵は見た事が無かったが、彼女の戦闘方法自体が速さを要する戦闘方法だったので、魔動機兵だろうと戦法に変わりは無いだろう。だから高速機動でも耐えられると思っていたのだ。


「自分が操縦するのと人が操縦するのじゃ大違いよっ!!それにここじゃ身体が固定出来ないんだからっ!!」


 気持ち悪そうにはしているものの叫ぶ元気があるのなら大丈夫だろう。

 そんなシアニーを一瞥してから、ショウマは油断無くサルシェイドに視線を集中させる。

 高速連続攻撃によって、鎧甲の隙間や関節部に手応えを感じる強烈な一撃を見舞う事が出来た。

 サルシェイドは確かに強固だ。それ以外の性能でもシルブレイドとほぼ互角だろう。確かにこれだけの機体を造れるならば、邪法に手を染める者が数多くいるというのも頷ける。

 しかしいくら機体が強力でも操縦者であるザンスは本格的な訓練を受けた騎士では無い為、戦い方を知らないし、動かし方も拙い。

 有効打を与えられたのは、操縦者の差と言えた。

 現に、今目の前に見えるサルシェイドは片膝をつき、右腕を杖代わりにして立っている状態だ。左腕は肩口から半ば千切れ掛かっていて、力無く垂れ下がっている。

 どんなに硬くても鎧甲の無い可動部、それも全く同じ個所を幾度も斬りつければこうなるのは必然だ。


『さて先生。どんなに強力な機体に乗っていようと結果はこの通りです。素直に負けを認めてそいつから降りて下さい』


 ショウマは降伏を促す。

 ザンスの罪は許せないが、彼自身に対して恨みは無い。

 ショウマが怒り憎んでいるのは、サルシェイドに使われている悪夢獣。その素材だけなのだから。

 背後で「もっとボコボコにしちゃいなさいよ」とか聞こえてくるが、当然無視。もしやるとしても最後の手段だ。

 動けば動く程、エネルギーは消費される。日も傾き始めている為、無駄なエネルギー消費は抑えたいのだ。


『負けを認めろ…だと?下賤な者の分際でこの私に頭を下げろというか!?おのれおのれおのれぇ~!!!!この私を侮辱するな!蔑むな!!見下すな!!!許さん許さん許さん許さん許さんユルサンゆるさん許さんユルサンゆるさん許さんぞぉぉぉっっっ!!!!!』


 まるで呪詛を呟くようにザンスは怒りと憎しみを言葉に込めて解き放つ。

 彼の人生に何があったのか、ショウマもシアニーも知らない。だがその怒りと憎しみはショウマの持つものと同等かそれ以上だった。


『やっぱり無理矢理引き摺り出すしかねぇか!』


 シルブレイドが再び駆ける。

 今のままではまだ反撃の余地が残っている為、四肢を全て分断して身動きすら出来ないようにしてからザンスを引き摺り出す算段だ。

 大上段から振り下ろされた重く鋭い一撃が右肩の付け根に打ち込まれる。

 鈍い手応えと共にギィンという鈍い音が周囲にこだまする。

 そして弾かれたのはシルブレイドの剣の方だった。


『なんだって?!』


 剣は確実に右肩の付け根に振り下ろされたはずだ。左肩の時は一撃で斬り落とす事は出来無くても手応えはしっかりと伝わってきていた。だが今回はまるで刃が届く手前で何か見えない力で防がれ弾き返されたような手応えしか感じなかった。

 一瞬、防護魔動陣が発動したのかとも思ったが、魔動機兵クラスの大きさのものを守る防護陣となると学園の闘技場にあるくらいの相当巨大なものにしなければならない。

 そんなものがこの辺りに設置されている様子は無かったし、そもそも防護魔動陣が発動した際に発する輝きを見ていない。


「ちょっ、ちょっとショウマ!なんなのよ、あれ!?」

「俺に聞くなっ!」


 シアニーが声を上げるが、ショウマだってこんなものを見たのは初めてた。それが何なのか分かる訳も無い。

 2人の視線の先には、闇がわだかまっていた。正確に言えばサルシェイドが闇色の何かに包み込まれつつあり、まるで闇がわだかまっているように見えるのだ。

 「許さないユルサナイゆるさない許さない……」というザンスの呟きが響く中、闇が完全にサルシェイドと同化する。

 黒い鎧甲は光すら反射しない闇色に染まり、千切れ掛けていた左腕はその闇色の何かで繋ぎ直され、元に戻っている。全身から漂う禍々しいオーラは更に強くなり、頭部には今まで存在していなかった口と牙らしきものが生えている。

 先程より一段と獣に、いや悪夢獣に近付いているような感じだ。


「おいおい、まさか第2形態とかありえねぇだろ。しかも切れ掛けた腕まで完全再生とか……」


 ショウマの記憶の中には、相手を倒したと思ったらそれはまだ実力の半分も出していない状態で、変身や変形をする事で真の力を発揮するというパターンがよくあったという記憶はある。

 だが、まさかそれを実際に目の前でやられるとは思わなかった。

 

「どうするの?あれはさっき以上に尋常じゃない気配がするわよ」

「ああ、それは俺も良く分かってる。けど逃げるにしたって……」

「さっきのは使えないの?」

「冷却にもう少し時間が掛かるし、ブーストを使える時間も10秒ちょい。完全に逃げ切れる保証は無い」


 その上、あれはエネルギーを大量に消費する。一時的にこの場を離れる事は出来るだろうが、今の心許無いエネルギー残量では、途中でエネルギー切れになるのは確実。もし追い付かれたら為す術は無くなってしまう。

 となればブーストを温存したまま、逃げ切るか、サルシェイドを倒すかの2択。

 しかし背中を見せて逃げたら危険だとショウマの直感が訴える。死の予感さえ感じる。

 つまり2つあると思っていた選択肢など最初から無く、戦って倒すしか生きる道は無かったのだ。


「くそっ、やっぱりさっさと逃げ出すべきだったのか……」


 今更後悔しても仕方が無い。

 戦うと、悪夢獣の痕跡を全て消すと、そう決めたのはショウマ自身なのだから。

 覚悟を決め、長く大きく息を吐くと、ショウマは闇色のサルシェイドと対峙した。


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