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異世界の機兵騎士  作者: 龍神雷
第1章 魔動学園春嵐編
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第11話 トゥルーリという名

「ちょっと付き合いなさい!!」


 クラスメイトに囲まれる中、唐突に金髪の美少女からの告白を受ける。


「え、あ、ああ。いいよ……」


 それに対する黒髪の少年の返事はYES。

 学園生活における甘い思い出……なんてものでは断じて無い。

 金髪の美少女であるシアニーは椅子に座る黒髪の編入生であるショウマを強い意志の宿った目で見下ろしている。

 言葉だけを見れば、確かに告白のように思えなくもないが、仁王立ちするその身から漂う剣呑なオーラとか睨むような目力とかのせいで、そんな雰囲気は微塵も感じられない。

 編入生という物珍しい人物であるショウマの周りを取り囲んでいたクラスメイトも、その無言の威圧感に知らず知らず気圧され、徐々に彼を取り囲んでいた輪が大きくなっていく。

 その輪の中心に居るショウマも冷や汗を垂らしながら、頷くしかなかったのである。

 そして2人は今、学舎から少し離れたカフェに来ていた。

 昼の時間という事もあり、他学年の生徒達でそれなりに賑わっていた。

 だが流石にシアニーの放つ殺気的な威圧感のおかげでクラスメイトは追って来てはいないようだった。育ち盛り食べ盛りの年齢でもある為、このカフェよりも学食の方へ行く人数の方が多いというのも理由の1つだ。


「いや~、けど助かった助かった。あのままだったら昼飯を食べ損ねる所だったよ」


 大量のサンドイッチをテーブルに置きながら、ショウマは連れ出してくれたシアニーに感謝する。

 1ヶ月遅れという編入、しかも予科を飛び越えて本科への編入という異例の事態のおかげで、彼に対する様々な噂や憶測が飛び交い、更に尾ヒレ羽ヒレまでついており、休憩時間になる度にその噂の真偽を確かめる為に人が集まり質問攻めに遭っていた。

 その殆どが眉唾ものばかりだが、流石に否定しておかないと後々、その噂のせいで酷い目に遭うのは自分自身だと分かっているので律儀に対応していたのだが、流石に昼飯時まであんな状態では辟易してしまう。

 ちなみに今この時点でも本人達の知らぬ所で、問答無用で連れ出したシアニーとの恋人疑惑が深まったという噂が一部で広がっていたりする。


「べべ別にあんたの為に連れ出した訳じゃないわよ!!」


 相変わらず不機嫌そうな表情のシアニー。その原因が朝の自己紹介に因るものだという事は何となく分かっているが、理由が全く分からない。


「で、なんでそんなに不機嫌かっていう理由をそろそろ聞きたいんだけど?」

「そ、そうよ!別にショウマと2人でお昼を食べたいと思って連れ出したんじゃないんだからね!あんたの名前について聞きたい事があったからであって、別に他の理由は無いんだから、勘違いしないでよね!!」

「俺の?ああ、トゥルーリってやつか…って以前、説明したと思うんだが?」

「そうよ!最初の時は……ってあれ?そう言われてみれば言ってたような……」


 確かにショウマの方もあの時はフォーガンというシアニーの姓については気が付かなかった。そんな自分よりも頭に血が上っていたシアニーが覚えていないのも仕方が無いのかもしれない。

 ショウマは深く大きな溜息を吐いた後、改めてシアニーに自身の事を説明する。


「トゥルーリはシアも知ってる“造聖”の名だ。俺は名義上はあの人の養子って事になってる。まぁ、戦い方とか騎士としての心得とかしか教わってねぇから養父というより先生だな。だから俺は師匠って呼んでるんだ。あ、ちなみに言っておくが嘘を付いてる訳でも無く師匠も偽物じゃねぇからな!」


 ショウマは一応、念を押しておく。

 最低でもそれくらいはしておかないとシアニーは勝手に妄想を暴走させて自己完結した後、自分の勘違いを正当と捉えてしまうからだ。


「俺は12歳より前の記憶が断片的にしか無くて、名前もショウマって事以外は未だ思い出せないんだ。だから学園に通うのなら不都合があるだろうって事でトゥルーリを名乗らせて貰ってるんだよ」

「え?記憶?!あっ…そそその……なななんかゴメン!」

「ん?なんで謝るんだ?別に昔の記憶が無くても問題無く生活出来るし、不便は感じてないから」


 ショウマとしてはどちらかと言えば記憶よりも魔動力が無い方が不便で仕方が無いのだが、それをシアニーに言った所で何の解決にもならないので口にはしない。


「んで、騎士になる為の最後の試練とか言って、この学園に入るように言われたんだ。まぁ、最初はここに入らなくても十分に騎士としてやれるって自信はあったんだけど、シアみたいな強い奴に会って自分がどれ程弱かったかも分かったんで、今はここに来て良かったって思ってるよ」

「私に勝っておいて弱いですって!」

「あれは運が良かっただけだって。どう見たって1ヶ月も入院してた俺の方が負けだろ。良くて引き分け……」


 とショウマはそこまで言って、自分の失言に気付く。

 エルアの裁定はショウマの勝ち。ショウマ本人の思いと結果は別物で、シアニーとしてはそれを事実と受け止め負けを認めているのだ。

 彼女の性格上、負けを認めた相手がそんな風に言う事に抵抗を感じるどころか反感を覚えてもおかしくない。


「あ~んたは~!!私にあんな屈辱を味わせて置いて、何よ、その言い分は!!初めての時も強引に押し倒して……」

「ちょっと待てぇ~!なんか誤解を生みそうな事を言うんじゃねぇよ!!それにあの時は俺の方が被害者だ!!」

「あれはあんなトコであんなコトしてたあんたの方が悪いんじゃない!!」

「勝手に勘違いしたのはお前だろ!!」


 2人の遣り取りはヒートアップしていき、店員や他の生徒も何事かと2人に視線を送る。


「痴話喧嘩か?」

「なになに?別れ話?」

「男の方が無理矢理とかなんとか聞こえたような」

「おい、あれって氷結姫じゃないか?」


 周囲のざわつきがどんどん膨れ上がっていく。

 シアニーとの白熱した遣り取りをしながらも、一部冷静な部分が残っていたショウマは周囲の状況がヤバそうな事に気付き始める。


「シア!一先ずここを出るぞ!」

「なな何よ!逃げる気!!!」

「そうじゃねぇ!ほら、来い!!」


 ショウマは右手で食べかけのサンドイッチを、左手でシアニーの手を掴むと逃げるようにカフェを飛び出す。

 ちなみに学園内の施設は全て、学生ならば無料で使える為、決して食い逃げでは無い。



 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



「ふぅ、ここまでくればとりあえず大丈夫かな」


 カフェから逃げ出した2人は綺麗に整えられた中庭へとやって来ていた。

 石畳が広がる中央には噴水があり、その周囲にはいくつかのベンチが置いてある。花壇に目をやれば、ぽつぽつと赤や黄色の花が見て取れる。もう少し暖かくなれば、色とりどりの花で埋め尽くされる事だろう。


「ちょっ、ちょっと!そろそろ離してよっ!!」


 ここまで無理矢理走らされたせいか、頬をやや上気させたシアニーは握られていた手を振り払う。


「もう!いきなり何だって言うのよっ!!」

「ああ、悪い悪い。あのままだったら店に迷惑が掛かるかもしれなかったし、それに……」


 シアニーは熱しやすいが意外とすぐに冷める性格だ。

 ほんの少しの時間でも置けば、怒りが治まると踏んだのだが、それを言うとまた怒り出しそうなので口には出さない。


「それにシアは可愛いし、割と学園内では有名人みたいだからあんまり騒ぎになると困るだろうと思ったんだよ」

「かかかか可愛いって、あああ相変わらずななな何いきなり言い出してんのよ!へへへ変な事言って、からかわないでよ!!」


 照れて赤いのか、怒りで赤いのかは分からないが、シアニーの顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「前も言ったけど、見た目だけなら相当良い線はいってるって素直に思ってるぞ……性格はアレだけどな……」

「うるさいわね!こういう性格だってのはわざわざ言われなくても自分で分かってるわよ!……けけけけど可愛いだなんて…………」


 シアニー自身も自分の容姿が平均よりは優れているという事は自覚している。しかし世の中には自分よりも綺麗で美人で可愛い女性が数多くいる事も知っている。

 小さい頃から、煌びやかなドレスを身に纏い、優雅にお茶を嗜む親類や貴族の婦人や娘達を見ていた。

 騎士となるべくずっと身体を鍛えていた自分とは異なり、彼女達は白く柔らかく、そしてか弱い。

 同性のシアニーですら、守ってやりたいという庇護欲に駆られる程、彼女達は可愛いと感じたものだ。

 シアニーにそうなりたいという願望は全く無かったが、可愛い人というのはああいう人達の事を言うんだろうなという思いは常にあった。

 しかし目の前の少年は臆面も無く、同じ年齢の少女より遥かに強く、筋肉質な自分の事を可愛いと言う。

 その目を見ればそれが本心だという事はよく分かるし、ショウマが言いたい事を素直に口にする性格だという事も分かって来ていた。

 王族としての地位や名誉に擦り寄って来る輩に「美しい」だの「綺麗」だのとお世辞を言われる事はあったが、その裏に透けて見える打算のせいで素直には受け取る事が出来ず、嫌気を通り越して怖気さえ感じていた程だ。

 しかし彼に言われるとそれ程嫌な気分にはならない。寧ろ言われる毎に心が華やぎ、うまく受け流そうとしても出来ずに赤面してしまう。

 動揺を隠すように否定的な言葉が出てしまうが、全く隠しきれていないかもしれない。


(うううぅぅ~、ショウマが相手だとなんか調子が狂っちゃうんだよ~)


 人生経験の浅い彼女には自分自身が抱いている想いが何なのかはまだ分からない。

 しかしその想いは彼女自身にしか分からない事。そしてその想いが何なのか気付く事が出来るのも彼女だけ。


「ととととにかく!あんまり変な事ばかり言わないでよね!!」

「はいはい、分かりましたよ。あ、そうだ!1つ聞こうと思ってた事があったんだ」

「何?また変な事じゃないでしょうね?もしそうならぶっ飛ばすわよ!」

「違ぇよ!それにさっきのも変な事って訳じゃないんだがなぁ……って、まぁ、いいや。聞きたい事ってのは師匠の事だ。俺の名前にシアは反応したけど他の奴は全然反応しなかったじゃん。どうしてだ?」


 それは朝の自己紹介の時からずっと疑問に感じていた事だ。

 称号持ちの騎士や技師は世界に数える程だ。更に全く同じ称号を持つ者は世界にただ一人しか居ないのが普通だ。

 先代から称号を受け継ぐ事もあるが、その場合も称号を受け渡した先代はその称号を名乗る事は無い。

 ショウマの師匠は“造聖”という称号を持ち、後継者が居ないという事で、未だ名乗り続けている。つまりトゥルーリという名を聞けば、普通ならばシアニーのように驚くのが普通だろう。

 だが自己紹介の時も、その後の質問攻めの時も自分と“造聖”との関わりを尋ねてくる者は皆無だった。


「え~っと…それは多分、造聖様はあんまり表舞台に立つような人じゃなかったから、騎士としては知名度が低いんだと思う。機兵騎士というよりも魔動技師としての方が主だったみたいだし。それとショウマのお師匠様を悪く言うつもりは無いんだけど、人によっては騎士と技師、どっちにも手を出してる半端者って言う人もいるの。あ、でもでも称号を得るくらいだからどっちも相当な腕前なのは確かなはずよ」


 シアニーがフォローするまでも無く、その事実はショウマの方がよく知っていた。

 3年間を共に過ごし、まるで自分の全てを注ぎ込むようにショウマに修業をつけてくれていた。齢70歳を越えているのにショウマと互角に戦えるのだから大したものであると言わざるを得ない。


「確かウェステン連合国軍の正式採用魔動機兵のファルライドは造聖様が開発に関わっていたはずだから、技師科ならかなり反響はあるんじゃないかな?」


 それ以外にもブレイドソーを始めとした、これまでに見た事も無いような武具や魔動具を数多く生み出している。

 面白いものでは穂先を射出する機構を持たせた槍があるが、一度撃ってしまうとわざわざ拾ってつけ直さなくてはいけない為に不評でお蔵入りになっていたりする。


「まぁ、私は勉強家だから騎士、技師問わず、誰がいつどの称号を得たのかって事くらいは全部暗記してるわよ」


 えへんと胸を張るシアニー。

 凄い事は凄いが、あんまり役には立ちそうにない知識である。


「納得した。それならわざわざ周りに説明しなくても良いって事だな。まぁ、流石にここまで噂が氾濫してる状況だとそんな事の1つや2つ増えた所で関係ねぇ気もするけど。さてとそろそろ教室に戻ろうか……って流石に2人一緒には戻らない方が良いかもな。ただでさえ俺とシアが恋人だとか許嫁だとかって噂もあるみたいだし」

「ここここ恋人!?いいいい許嫁!?ななななななんで、そそそそんなうううう噂が…………」

「まぁ、原因は色々とありそうだけどなぁ~」


 朝といい昼の呼び出しといい、2人に関する噂の火種には困らないだろう。

 更に言うと今正にカフェでの騒動を聞きつけた噂好きがあれこれとあらぬ噂を広めていたりするのだが、それは本人達の知らぬ所。


「まっ、そっちに関しては尋ねられたらちゃんと否定しておくから安心しろって。それにいくら俺でも相手は選ぶっての」

「な、何よ!それじゃあ、私に魅力が無いみたいじゃない!!さっき言った可愛いって言葉は嘘だったのね!!!」

「あのな~、それは見た目の話。初対面で勘違いで殺され掛けたら、誰でも魅力よりも先に恐怖とか憎悪の方を感じるに決まってんだろうがっ!!」

「まっ!まだ1ヶ月も前の事を根に持ってるの?!なんて器が小さい男なのかしら!」

「あれはトラウマになってもおかしくねぇ事だったぞ!くそっ、やっぱり温情なんてかけないで全裸土下座させとけばよかった!!」

「うわっ、やっぱり男ってケダモノね、サイテー。やっぱり私の身体が目的だったのね!だけど、もうショウマとの約束は叶えたんだからあれは無効よ~だ!」

「くそ!ほんとに可愛げのねぇ女だな!」

「ショウマに可愛いなんて思われなくても結構よ!恋人でも許嫁でも無いんだし、好きになんて絶対にならないんだからねっ!!」

「ああ、俺だってシアに好かれようなんて、これっぽっちも思ってねぇよ!!」

「何よーっ!!!」

「何だよっ!!!」

 2人の口喧嘩は昼休憩が終わるまで続く。

 しかし彼女は気付かない。

 これまで彼女が王族だという事で擦り寄ってご機嫌取りをしていた貴族達や、その美貌に惹かれて恋愛感情で寄って来た男達とは異なり、ショウマが打算も下心も何も無く、純粋に自分の言いたい事を言い、友人という対等の立場で彼女と接しているという事に。

 しかし彼は気付かない。

 シアニーが王家の人間という仮面を被らず、また女としての立場からでも無い、友人同士という同じ目線で彼と接している事に。

 まだ会って間も無い2人だが、その間には絆のようなものが確実に築かれていくのであった。

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