2-3.うたかたの白
殿下がお戻りになり、学園は表向き平穏を取り戻したように見える。
わたくしと信奉者たちが嫌がらせを止めても、巫女姫は未だにわたくしを見て怯えるし、子息はその度にこちらを睨み付けてくる。
それは別に構わないし、わたくしも利用させてもらうだけだ。笑顔を少しだけ、寂しそうに見えるようにすればいい。
「巫女姫様に嫌われてしまったようですわ……」
「マリアネラ様は、巫女姫様が神の妻として相応しくない振る舞いをなさっているのを諌めていらしただけですのにね」
「えぇ、巫女姫様のためを思って厳しい態度をとって参りましたけれど……この真心が伝わらなくて残念ですわ」
「まぁ、なんてお痛わしい……」
わたくしの主張は正当性を認められるだろう。やっていたことは陰湿だけれど、そもそも巫女姫が恋に現を抜かしたりしなければこんなことにはならなかったのだ。それは誰もがわかっている。
巫女姫と侯爵子息はどんどん孤立していって、お互いに依存していく。
なんて愚かで、悲しい人たち。
焚き付けたのはわたくしだけれど、火種を抱いていたのは貴女たちだもの。
あとは勝手に燃えていけばいい。お願いだから、殿下に関わらないで。
わたくしの願いは、それだけなのに。
前回のこの時期、わたくしと巫女姫が一緒に課題をやっているところへ殿下がいらっしゃって、お話をすることがよくあった。殿下はわたくしの隣に座ってくださって、けれどその目は巫女姫を見ていらした。巫女姫と楽しそうにお喋りをなさっているのを、わたくしは微笑んでただ見つめていた。
そして今回、巫女姫と侯爵子息がべったりとくっついているところへ、殿下が加わられることはない。勿論、巫女姫と一緒にいないわたくしのところへ足をお運びくださるわけもない。
それでも、わたくしは気付いてしまう。
翡翠色の瞳が、誰を追いかけていらっしゃるのか。殿下を見ていれば、わかってしまう。
「巫女姫様を、どう思われますか?」
前回は最期まで訊けなかったことを勇気を振り絞って口にしたわたくしに、殿下は凪いだ笑みを返してくださった。
「嫉妬しているの?」
頷くことができたら、どれだけ楽だろう。肯定してこの醜い胸の内をお見せしたら、殿下はどんなお顔をなさるだろう。
答えられないわたくしに、殿下は肩を竦めて笑みを強められた。
「心配することは何もないよ。国益にならないことは私も重々承知している」
「はい、殿下……」
決して見せてくださらない翡翠色の深奥で、確かに揺らめいた悲しみ。
ご自分のお立場を理解して、お心を封じようとなさっている。前回と、同じように。
訊かなければよかった。前回と同じように、何も見ていないふりをしていればよかった。わたくしが訊かなければ、殿下はご自身のお心が僅かにでも巫女姫に向いていらっしゃることを、お認めにはならなかっただろうに。
自業自得の現実に、打ちのめされる。
『湯殿の件』は衝撃的だったとはいえ、それまでほどんど交流のなかった殿下のお心を巫女姫はたった一度のことで射止めた。
わたくしがいくら未来を歪めたところで、行き着く先は変わらないのだ。
冬の足音が日一日と近付いてくる。
巫女姫は相変わらず侯爵子息と仲睦まじく、殿下との距離が縮まる様子は見受けられない。それでもジリジリと不安は募る。起きてほしくないと願っていて、けれど起きてしまうことを確信している。
運命の夜は、十二月二十四日。
◇◆◇
年の瀬も迫るその日が、我が国の統一記念日だ。
その昔、戦乱に明け暮れ疲弊した諸侯の一人が周辺一帯の諸侯をもれなく夜会に招待した。そこから一週間、歌い踊り笑い食べ飲み明かし新しい年を一緒に迎えた諸侯は、それまでの争いをすべて水に流し夜会を提案した男を王と頂いて一つの国となった。
この統一の経緯は『夜会の王様』という、暴力ではなく楽しいことで人々を一つにしたお伽噺として語り継がれている。
勿論そこに至るまでには、力で平らげた史実やその裏で繰り広げられた駆け引きがあり、多くの血と涙が流れた。けれど実際に一週間続いた夜会が、国が一つになったことを内外に示す重要な儀式であったことは間違いない。
そういうわけで、この一週間の夜会は単なる夜会とは一線を画すものなのだ。食事、音楽、出席者の衣装にも、伝承に則った事細かな決まりがある。
中でも人々が最も心を砕くのが、一夜目の衣装だ。
伝承には『諸侯は自らを示す色を纏い王の下に集った』とある。その集った諸侯の末裔である十二の侯爵家が当時から受け継ぐ“家の色”を全身に纏い、伯爵家以下も、かつて主君と仰いだ侯の色を衣装の一部に取り入れる。
珊瑚、翡翠、二藍、青碧、紅紫、伽羅、猩々緋、萌黄、蘇芳、琥珀、千歳緑、金糸雀。これに王家直参の貴族が身に付ける山吹、王家や十二侯とは縁のない新興貴族のための勿忘草、公爵家の白藍、各国の大使などが身に付ける国旗や国章にちなんだ色が加わる。
通常の夜会以上に色鮮やかで、混沌としていて、けれど誰が何色を纏うか明確に決められているのだ。
そして、色の洪水とも言い表せる中に、何者にも染まらぬ真っ白な姿で王家の方々が降臨される。それはそれはお美しく、神々しくて。お伽噺が現実になったように思える。
だから一夜目において、白は王家の方々にしか許されない禁色だ。男性のシャツや手袋でさえ生成りや練色を使う。
そんな中わたくしは両陛下から、白を身に付けるお許しをいただいていた。
「お嬢様、お美しゅうございますよ」
フェリシアーノ侯爵家の色は翡翠。殿下の瞳と同じ色だ。その美しい色で仕立てた細身のドレスに、手袋と髪飾りと首飾りに使った白がよく映える。
「まるで百合の花のようですわ。なんて誇らしいことでしょう」
艶やかな絹は殿下の白銀の髪にも似て、わたくしの想いの丈を表したようなその姿が、恥ずかしくて嬉しくて誇らしくて、とても浅ましく思えた。
前回は無邪気に喜べた装いが、こんなにも苦しい。殿下の色を纏い、殿下のお隣に立つ。それはわたくしの望みだったはずなのに。
今のわたくしに、似合うわけがない。
◇◆◇
自分の醜さを、よくわかっている。
政略によって選ばれた婚約者であるのに、殿下のお心を欲しがって、嫉妬を笑顔で取り繕って、他人の不幸を願い続けた。
だからこれは、わたくしへの罰なのだろう。
「巫女姫様……その、お召し物は……」
「神の妻たる巫女姫様の最礼装に、何か問題でも?」
エスコートしている侯爵子息が、冷たい、けれど勝ち誇ったような声色で、わたくしの言葉を跳ね返す。その子息の腕に絡み付いたまま震える巫女姫は、純潔の乙女に相応しい、真っ白なドレスを着ていた。
その夜、わたくしは両親と共に入場し両陛下と殿下にご挨拶をして、貴賓席にいる巫女姫を見て血の気が引いた。気が気ではないまま延々と続く儀式をやり過ごし、自由に歓談できるようになるとすぐ貴賓席へ向かったのだ。
国内の貴族より先に入場しひたすら挨拶の繰り返しを見せられる外国の賓客のために会場の一画に設けられた、貴賓席という名の休憩スペースから引っ張り出された巫女姫は、水色の瞳に涙を溜めて弱々しさを全面に押し出していた。
「……白は、禁色ですわ。ご存知でしょう?」
「聞いてません」
「そんな……」
目をあわせようともせずぼそりと答える巫女姫に、言葉を失う。
聞いていないなんて、そんなことが罷り通る問題ではない。そもそも知らないはずがないのだ。前回の巫女姫は隣国の国花を模した躑躅色のドレスを着ていたのだから。ドレスに合わせる宝石について、わたくしと相談したりもした。
それが今回は何故、白なのか。
「案内役がきちんとお伝えしなかったからでは?」
巫女姫を背に庇いながら言う子息は、銀とコバルトの細い縦縞のシャツでミッドナイトブルーを重ねたコートの釦には侯爵家の家紋が入っている。文句の付けようがない装いだ。
「貴方は、ご存知だったのでしょう?」
「元から予定していた意匠です」
「そう。随分と思い切った色使いですこと」
夜会に招待されているのは巫女姫で、子息はそのエスコート。これが普通の夜会なら彼の装いは派手すぎる。つまり彼も巫女姫も、わかっていてこんな格好をしてきたのだ。
案内役であるわたくしの落ち度とするために。
息が苦しくなっていく。胸を占めるのは、怒りと悲しみ。
国の大切な儀式を台無しにされた。両陛下を、殿下を、この国に生きるすべての人を、侮辱された。
けれどこれは、わたくしが巫女姫に対してしてきたことが、廻り廻ってきたことなのだ。そうわかってしまったから、この感情を巫女姫にはぶつけられなくて、千切れてしまいそうな理性の糸を必死に手繰り寄せ笑った。
◇◆◇
「何をしている?」
そのお声がどなたのものかなんて、考えるまでもない。振り返って礼をとれば、下げた視界の端を白い裾が走り抜けた。
「王太子様っ、私……知らなくて……」
巫女姫の涙声がわたくしの心を掻き乱す。顔を上げてしまえば、真っ白に輝く二人の並ぶ姿を見なければならない。
そんなのきっと、耐えられない。
完璧に結い上げたはずの髪が一筋、はらりと落ちて視界を黒い線で切った。
「マリアネラ、巫女姫殿に夜会のことをお教えしなかったのかい?」
殿下のお声はとても落ち着いていらして、きつく責められるよりも辛い。
「はい、殿下。わたくしの落ち度でございます」
「……そう」
顔は、上げない。上げられない。
ざわざわと、好奇と戸惑いに満ちた囁きが渦巻いているのに、殿下の落とされた小さな溜め息がやけに近く聞こえた。
「顔を上げなさい」
「……はい、殿下」
深呼吸をしてから、ゆっくりと白を辿って視線を上げた。
白銀の間から覗く凪いだ翡翠色。そのすぐ側に、波打つ淡い黄金と不安げに揺れる水色。
嗚呼……前回と、同じ。
痛くて、苦しくて、悲しくて。上手に笑えている自信がない。
殿下が巫女姫に向き直られる。
「巫女姫殿、部屋付きの侍女はそのお支度に何も言わなかったのですか?」
「……このドレスは大切なものなので、国から連れてきた侍女に、支度を……」
「会場までのご案内中に城の衛士や小姓からは?」
「……わかりません」
「どなたかのおかげで、巫女姫様はすっかり周囲からの視線を怖がっておいでなのです。お痛わしい」
侯爵子息が巫女姫を庇って口を挟む。
「なるほど。では巫女姫殿に声掛けしようとした者は貴殿が遠ざけた、と?」
「巫女姫様をお守りするためです」
子息は殿下と巫女姫に近付き、二人の間に割って入ろうとした。それを巫女姫が止める。
「ま、待って! 子息様は悪くないんです。お願い、ケンカしないで……」
「巫女姫殿……」
困ったような、傷付いたような、そんなお顔は、わたくしには見せてくださらなかった。
「ちゃんと確認しなかった私が悪いんです。子息様でも、勿論マリアネラ様でもないの!」
突然わたくしまでもを庇い立てする巫女姫。彼女が何をしたいのか、さっぱりわからない。けれど、ここから事態がいい方へ向かうとは思えない。
「でもこのままじゃ、二人が悪者にされちゃう……から、王太子様。私と踊ってください!」
「は? 踊る?」
突拍子もない巫女姫の申し出に、殿下も目を丸くしていらっしゃる。けれど巫女姫は自信満々に頷いてみせた。
「王太子様が私と仲良く踊ってくださったら、皆も『許してもらえた』って思います。私のことは後で何かしら処分してください。とにかく今は、この場を切り抜けましょう」
そんな子供のような屁理屈が、罷り通るわけがないのに。
信じられないことに、殿下はゆっくりと頷かれた。
殿下が巫女姫の手を取って、広間の中央へ向かって歩き出された。白い背中が、遠くなる。
そんなの、駄目。
国賓が禁色を纏うなんて前代未聞の暴挙。王太子殿下ともあろう御方が、簡単に許してはいけない。
丁寧な謝罪を受けて寛大なお心でお許しになるかどうかは、陛下のご裁量だ。
嗚呼、でも、それよりも……
お揃いの白い衣装。
その場所は、わたくしの夢なのに。
なのに、どうして?
胸が痛くて、息ができなくて、目の前が真っ赤なのに暗くなっていく。
誰かの制止を振り切って、白い背中を追いかけた。
『邪魔してやる』
頭にあるのはそれだけで、途中で手にしたグラスの中身を、肩を掴んで振り向かせた巫女姫の真っ白なドレスにぶちまけた。
◇◆◇
悲鳴とどよめき。
泣き崩れる巫女姫をぼんやり見下ろしていると、誰かがわたくしの手から乱暴にグラスを奪った。
「なんてことを!……」
激しく詰め寄ってきた侯爵子息は、けれど言葉尻を弱め憐れみと驚愕の入り交じったような複雑な顔をした。貴族たるもの、感情を表に出してはいけないというのに。
でもこれはきっと、わたくしのせい。わたくしが、酷く醜い顔で笑っているからだろう。
「マリアネラ……」
殿下からのお声掛けに返事をしないのは、初めてのことだ。
わたくしは殿下ではなく、巫女姫を見据える。その視線に気付いたのだろう。巫女姫も顔を上げて、涙の残る目でわたくしを睨んできた。
「巫女姫様。貴女様のなさったことはこの国に対する侮辱。国賓としても巫女姫としても、あるまじき行いですわ」
「貴女だって、私にいっぱい意地悪したじゃない!」
「そうだ! そもそもの原因は貴女が巫女姫様に辛く当たったからだろう」
真っ当な小言から陰湿な嫌がらせまで、わたくしが巫女姫にしてきたことがつまびらかにされていく。
自業自得。
その言葉が相応しいのは、わたくしか、巫女姫か。
「もうよい」
厳かに一言そう仰せになったのは、国王陛下。
一気に静まり返った広間へ語り掛けるように、陛下はお言葉を続けられた。
「未熟者たちが、やり方を間違っただけのこと。これ以上は、聖なる夜会に似合わぬ」
一同が頭を下げて御意を示すと、陛下は一つ頷かれて巫女姫へお声をお掛けになった。
「巫女姫殿。今宵、貴女が受けた苦痛は、その美しいドレスが我が国の人心に与えた苦痛と同等かそれ以上かと思われる」
「いいえ。私、よく考えもしないで酷いことを……」
「おわかりいただけたのであれば、私も嬉しい。どうぞ部屋に戻ってお休みください」
巫女姫は侯爵子息に付き添われ、逃げるように広間から出ていった。
「王太子。そなたも謹慎せよ」
陛下のお声は巫女姫に向けられたものよりずっと冷たく厳しさを増していらして、殿下もお顔を強張らせて一礼なさった。
近衛と共に広間を出ていかれる殿下の横顔を、背中を、目に焼き付ける。翡翠の瞳はわたくしを映してはくださらなかったけれど、きっと最期だから。
「……さて、マリアネラ・エヴァ・フェリシアーノ」
「はい、陛下」
「何か……申し開きはあるか?」
「ございません」
夜会を汚したのは、間違いなくわたくしだ。わたくしがすべて背負って消えなければ、あとの六夜にも差し障る。
千切れてしまったと思った理性の糸は、むしろボロボロになった感情を繕うかのごとく急速に張り直されていた。
「沙汰は追って言い渡す」
深く深く一礼し、近衛に待ってもらって身に付けていた白をすべて外した。手首に直接巻かれた縄が肌を摩る。
広間の扉が閉まる瞬間、誰かが泣いてくれた気がした。
◇◆◇
鉄格子の向こう側、薄暗がりの中から、大好きな声が聴こえた。
「統一四百年なんて待たずに、結婚していればよかった」
それは断罪ではなく、後悔の言葉。
仰っていることの意味がわからない。否、わかりたくない。
再来年。わたくしが学園を卒業する年が、我が国の四百周年だった。
「夜会の式典と併せて、歴史に残る盛大な結婚式にしよう」だなんて、凪いだ笑顔のまま仰っていた殿下。
大好きな人。
殿下の偉業の一つとして刻まれるなら、何年だって待てた。
わたくしの、儚い夢。
真っ白な花嫁衣装に身を包み、国中に見守られて、あの広間で殿下と踊りたかった。
けれどその夢を壊したのは、わたくし自身の愚かさなのだ。
「王太子妃であったら、死罪は免れたのに」
「……王太子妃であったら、国の汚点になるところでしたわ」
「そんなこと……」
声は震えてしまったけれど、言葉に嘘はない。わたくしが王太子妃でありながら巫女姫にあんな仕打ちをしていたら、自分の命だけでは償いきれない大問題だったろう。
国王陛下は国際問題に発展することを、わたくしと巫女姫の個人的な確執として納めてくださったのだ。たとえ高位貴族の娘であっても、王族のしかも巫女姫に無礼を働いたのだから死を賜るのは当然のこと。
「殿下もおわかりのはずでしょう?」
「……あぁ」
「……巫女姫様は?」
「国へ帰ったよ。侯爵子息も一緒に」
「そうですか……」
これから隣国は荒れるだろう。巫女姫が子息に向けていたのは“好き”とは違う気もするけれど。
もうこの国には、関係のないことだ。
「侯爵夫妻が……君の両親が、連座を申し出ている」
「それは……!」
自分のことばかりで考えが及ばなかったけれど、陛下に絶対の忠誠を誓っている父なら言い出しかねないことではあった。
「“監督不行き届き”を持ち出されたが、君は成人しているし当日の振る舞いはエスコートするはずだった私の責任だ」
「そんな……」
責が殿下にまで及ぶだなんて、そんなことでは、わたくしは死んでも死にきれない。
「結局、丸く納めるために君一人に罪を被せてしまうんだが……」
殿下が疲れたような表情で仰った。父や父を消したがる他の貴族と押し問答をしてくださったのだろう。心に暖かいものが広がる。
ほんの僅かでも、わたくしが一人で逝くことを忍びないと思ってくださったのなら。もう、十分。
「いいえ……ご温情、感謝いたします」
「それでいいのか?」
「はい。これは、わたくし一人の咎ですもの」
ずっと思っていた。美しく光り輝く殿下のお隣には、不似合いな色だと。だからせめて心だけは相応しく、清く正しくあろうと。
一度目も、二度目も、その思いは変わらないつもりだったのに。
貴方が愛する国と民を、わたくしも同じように愛していた。
だけど貴方が“好き”な彼女を、わたくしは憎んでしまったの。
ごめんなさい。
愛しています。
それでも、貴方の“好き”を『邪魔してやる』と。
彼女の幸せを『邪魔してやる』と。
強く思ったの。
思わずには、いられなかったの。
わたくしの望んだ通り、殿下と巫女姫が手を取り合う未来はなくなった。
だから、大丈夫。
殿下のお隣に立つのは、わたくしでなくても問題ないのだ。
殿下の“好き”は、失われたのだから。
わたくしは安心して、絶望して、差し出された杯の中身を飲み干した。
ここまでのお付きあい、ありがとうございます。どうにか二周目の終わりです。
毎日更新されている方を本気で尊敬します。
今後ものんびりお付きあいいただければ幸いです。