赤い鳥居さん
僕が小学生の時、僕の家の近くに「赤い鳥居」さんがあった。
「鳥居」さんの後ろには、大きな森のようなのがあって、「鳥居」さんの前には、門があって普通の人は入れないようになっている。
両親が離婚してから、ここに引っ越してきた僕は、その「赤い鳥居」さんが何かもわからずに、いつもその前を通り過ぎていた。
しばらくして友達もできたけど、僕は学校に行くのが嫌で、ママが仕事に行っている間に、よく学校をさぼったりした。
そのさぼった日、僕はたまたま「赤い鳥居」さんの前を通った。
僕は「鳥居があるってことは、神様がいるって事かな?」と勝手に思い、いつの間にかその場所を、サボり仲間と「森の神様」と呼んでいた。
「森の神様」は、気さくな人(?)だった。
ある日僕は、
「明日、学校に行きたくないので、熱を出させてください。」
と、「森の神様」にお願いしたことがあった。サボり仲間の1人と、手を合わせて本気でお願いした。
…すると本当に僕は、翌朝熱を出し、ママが「微熱だけどねぇ…」と言って、学校を休ませてくれた。
それから僕は、翌日も「森の神様」にお願いした。
「明日も、学校へ行きたくありません。」
すると「森の神様」はこう答えた。
『連続はだめだよー。またの日にね。』
僕は「わかりました。」と答えた。
…でも、それから何度か「森の神様」は、僕がお願いするたびに「仕方がないなぁ。今回だけだよ!」と言いながら、熱を出させてくれた。
……
運動会が近づいてきた。体育が苦手な僕は、運動会の練習の日を、ことごとくサボっていた。
だから、運動会にだって出たくなかった。
「明日の運動会、雨にしてください。」
僕は、さぼり友達と一緒にお願いした。
『仕方がないなぁ…。』
「森の神様」はそう答えてくれた。
……
「怪しい雲ゆきねぇ…。」
ママが朝、そう呟いていた。僕は黙っていた。
…結局、雨がひどくなり、運動会は中止になった。僕は「森の神様」が願いを叶えてくれたのだと思った。
翌日、僕は「森の神様」にお礼を言いに行った。
……
それから何日か経ったある日、友達と「森の神様」の前を通った。
「森の神様」には似合わない、ショベルカーみたいな大きな車が前にいる。
そして僕の目の前で、「森の神様」の象徴だった「赤い鳥居」さんが根こそぎ崩され、大きな車に積まれて運ばれて行った。
『ちーーっす!またなー!』
「森の神様」のそんな声がした。僕の脳裏に、ピースサインをした人の姿がよぎった。
「神様?」
僕は、何も出来なかった。
……
新しく建てられた「石の鳥居」さんは、何も口を利いてくれなかった。僕は、それからその「鳥居」さんの前を通っても、手を合わすことも、お願いすることもやめた。
……
それから1年が経った時、夜7時か8時ごろだったと思う…。さぼり友達だった2人と「石の鳥居」さんの前を通った。すると、遠く高く暗い空に、突然「緑色」の光が横切ったのが見えた。
「!?」
3人とも固まった。
「見た?」
「ん、見た!」
「隕石かな!?」
「そうかも!」
僕たちは、翌日のニュースに絶対に出ると思っていたが、新聞にも、ネットニュースにも何も出ていなかった。
僕たちは、首をかしげた。
「おかしいなぁ?」
「絶対に見たよな!」
「うん!」
3人共うなずいた。
「緑色のやつ!」
「え?」
隣の友達が不思議そうに、僕を見た。
「緑じゃないよ。赤だったじゃない!」
「赤じゃないよ!緑だよ!」
「赤だって!なぁ!」
隣の友達がそう言って、もう1人の友達に言った。だが、その友達は首をかしげた。
「…?何色だったっけ???覚えてない…」
「えっ!?」
その友達は最後まで、光の色を思い出せなかった。
…僕は何となく悟った。あの光を見たのは「赤い鳥居」さんが、燃やされた時だったんじゃないかって。
『またなー』
って、ピースをしながら、僕たちに別れを言いに来てくれたんだって。
僕は、心の中で神様に言った。
「うん。僕が死んだ時、きっと会おうね。」
(終)
……
お読みいただきありがとうございます。
これは、高校3年生になった息子から、最近聞かされた実話です。
この「森の神様」と言うのは、実は、天皇陛下の「御陵」で、息子の記憶どおり、何年か前に、赤い「木」の鳥居が、白い「石」の鳥居に変えられました。
また、運動会が雨で流れたのも本当の話で、当時、息子が何かと熱を出して、学校を休んだ事も本当の話です。
…天皇陛下が、気まぐれで息子の願いを叶えてくれたのか…。それとも「赤い鳥居」さんに何かが宿っていて、息子の願いを叶えてくれたのか…。
どっちかはわかりませんが、とても「気さく」で「やんちゃ」な方が、息子の願いを叶えてくださったのだと、母親として感謝しております。(息子が、学校をさぼっていたのを知らなかった事は、今になって親として反省しております。はい。)
…今も「森の神様」は、町を見守っています。息子が言うには「前にある建物が邪魔で、町が見えん!」と「森の神様」(石の鳥居さん?)が怒っているそうなんですが、それはどうしようもないことでしょう。
天皇陛下様、あるいは「赤い鳥居」様。気まぐれでも、息子のしょーもない願いを叶えてくださってありがとうございました。心から感謝をしております。
そして「石の鳥居」様、どうぞこれからも、町が見えなくても見守り続けて下さいね。(…わがままでしょうか?(^^;))
(母)