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3話




「ただいまー」



何はともあれ1度帰宅する事にした俺は自宅であるアパート"有象無象"の201号室の扉を開いた。

返事がないという事は妹が居ないという事だ。

これは好都合。妹が居れば俺はそのまま荷物整理を手伝わせられていただろうから無駄な手間が省けた。



とりあえず防寒対策用にフリーマーケットで土下座を決めて値切りきったダウンジャケットを紙袋に詰めて妹への伝言を残す。

チラシの裏に慣れない左手で遅くなる事を簡潔に書いた後部屋を出た。

向かう先は下の階の103号室。アパート有象無象は全部で6部屋しか無いため皆、顔馴染みなのだ。



103号室の扉を叩くとピコピコと音を立てて、中から1体の人型ロボットが出て来てくれた。

このロボットは103号室の主である博士が造った自宅警備用人型ロボットのニート君だ。人型と銘打っているが肌色の部分がないゴテゴテの機械まるだしロボットだ。名は体を表すを体現しているのか"働いたら負け"と書かれたTシャツを着こなしている。日々有象無象の平和を守ってくれているという設定なのだが基本的に103号室に引き込もっているドンマイなロボットだ。



「バンチョーサン。イラッシャイ。ハカセニヨウデスカ。」



ロボットにまで番長と呼ばれ少しゲンナリしつつ博士を呼んでくるようお願いするとニート君はピコピコと音を立て部屋の中に戻っていった。

数分後、部屋の中から1人の爺さんが白衣を翻しながら出てきてくれた。



この人がニート君の生みの親である博士。火星人のオトギで科学者らしい。なんでも火星に帰る為に宇宙船を直しているんだとか…有難い事に博士は頭はいいがポテンシャルがノーマル以下と、俺にとって無害そのものなので安心して絡む事ができる。



「なんじゃい、番長じゃねーか。ワシは宇宙船を造るのに忙しいと言っておるじゃろバカタレが!!」



相変わらずキツイ物言いだが普段からこんな口調なので気にせず話を聞いてもらう。



「すみません博士。ちょっとトラブルで…この腕輪を直してほしいんですよ」



腕輪を差し出し博士の返答を待った。



「オトギ用の腕輪か…めんどいからパスじゃ!!ワシは宇宙船の修理で忙しい。他を当たるんじゃなバカタレが!!」



断られてしまった。困った…博士以外に腕輪を直せる人物なんて俺は知らない。このままじゃ俺は右手とサヨナラしなくてはならなくなる…仕方ない。



「大家さんのパンツで」



「よかろう。すぐに直してやるから待っとれ」



交渉は成立した。



しかしどうしたものか…いくら優しい大家さんとはいえパンツはくれないだろう。選択肢は盗むの1択になりそうだ。だが大家さんは世界で5人しか確認されていない最強のオトギ、竜だ。バレたら死ぬ。



そんな事を考えていると部屋に戻っていた博士が意気揚々と部屋から出てきた。どうやら腕輪の修理が終わったらしい。



「これで大丈夫じゃろ」



なんとまぁアッサリ直るものなんですね…3分もかかってないだろうに。まぁ早い事に越した事はないけど。そう思いながら腕輪を受け取ろうと手を伸ばすと博士が俺の耳元で囁いた。



「いいか!!努努忘れるなよ!!大家ちゃんのパンチーじゃからな!!」



このドスケベ爺のパンツへの執着は博士の夢である火星へ帰る事より強いんじゃないかと疑いつつ、まぁ何はともあれ無事腕輪が直った。

博士にお礼を言った後、俺は再び摩訶不思議高校へ向かって歩き始めた。



☆☆☆



学校に到着し、携帯で時間を確認すると、まだ20時だった。

タイムリミットまでまだ4時間と余裕の到着だった。

ついでに着信履歴を確認すると妹のカナからの不在着信で埋めつくされていた。さらに1件だけメールが来ていたので開いてみると



『私が作った夕食が冷めるまでに帰ってこなかったら……』



どうなるんだ!!!!

不安になるメール内容だった。これは急がないとマズイ事になりそうだ。



急いで用意していたダウンジャケットを着て駆け足で保健室に入ると馬場園先生は無残にも完全な氷の彫刻と化していた。この人もオトギなのに、やはりオトギにも強さの幅はあるみたいだ。



とりあえず氷のオブジェと化した馬場園先生を激写した後、ベッドで眠る雪女の元まで滑らないよう慎重に歩いた。

近付けば近付く程に体感温度が下がり吐く息が白くなった。肺が痛い…



なんとか滑らずに雪女の元に辿り着いた俺は腕輪を嵌めてあげようと左手で雪女の腕を掴んだ。



左手も凍ったorz



両手が使い物にならなくなってしまった。だがここで諦めたら死んでしまうので四苦八苦しながらなんとか腕輪を嵌めるよう努力した。



口や肘まで凍ってしまった…orz



でもまぁその甲斐あって何とか腕輪を嵌める事に成功した。

瞬間、俺を苦しめていた氷や保健室を包んでいた氷が溶けていったのでまぁ良しとしよう。



だが俺の問題はこれからだ。急いで帰らなきゃ妹にどやされる!!



最後に雪女を一瞥すると何か目が合ったような気がしたが、急いでいる俺は氷が溶けゆく保健室を後にしダッシュで自宅までの道を駆け抜けた。



☆☆☆



雪女の腕輪を直してあげた次の日、俺はご機嫌だった。腕輪が直ったお陰なのか隣に座る雪女から、まったく冷気を感じなかったからだ。それだけで昨日頑張った甲斐があるというものだ。



ただ1つだけ不可解な事がある。授業中も休み時間もずっと視線を感じるのだ。犯人は雪女で確定なんだけど…一体なんなんだ??



考えても考えても理解出来ないので昼休みハロルドに相談する事にした。



「それは…恋だ!!番長惚れられたんだよ〜」



キャビアパンという奇っ怪なものを食べながらハロルドは得意気に言った。

しかしまぁコイツの恋愛力は小学生レベルのようだ。



「あのなハロルド、雪女と俺はただのクラスメイトでしゃべった事もないんだぞ??目すら合った事もないんだ。助けただけで誰かを好きになるとかドラマの見すぎだぞ」



「番長は本当に世界が狭いな〜。まっ別にいいんだけど。じゃあ恋じゃないとしたらお礼が言いたいんじゃないか〜??」



なるほど…確かに俺も誰かに助けられたとしたらお礼を言うだろう。きっと雪女は恥ずかしがりやさんなんだな。それでチラチラこっちを見ていたのか。



「ハロルドのくせにいい着眼点だね」



「くせに!!??…番長…言い方キツくね〜か??まーいいけど〜」



やはりハロルドはMで間違いない。あえて汚い言葉を選んだのにアッサリ納得してやがる…今度からもっと過激な言葉を使ってやるか。



そうこう思っていると昼休み終わりの鐘がなり俺達は教室に戻った。



☆☆☆



5時間目は保健の馬場園先生が風邪で休んだ影響で自習という事になった。

皆こぞって仲のいい奴と集まり遊んでいる。

この状況はチャンスだ。こちらから雪女に話しかける道理はないが…



ブレザーを返していただきたい!!



そのついでに軽くお礼を言う状況を作ってあげれば、雪女も納得してもう俺に視線を向ける事も無いだろう。

これ以上俺の学生生活に嵐はいらない!!



「…あの」



「…ッ!!……なによ!!!!」



決死の覚悟で話し掛けると、えらく強気な答えが返ってきた。

どうやら恥ずかしがりやさんではなかったらしい…

いきなりの予想外な反応に次の言葉がなかなか出てこない。話の取っ掛かりを探すべく改めて雪女の姿を観察する事にした。



背中の辺りまで伸びた艶のある真っ白な髪。

白い肌に映える青い瞳が印象的で目鼻も整っている。

背は160無いだろう。

格好はいつも通り白い着物に白い帯、昨日見たパンツも白かった事から清潔さを何より大切にしている事が伺える。

まぁ清潔さを大切にしている割には椅子に座る姿勢はあまり宜しくないが…



うん…話の切っ掛けになりそうなものが無い…

調子に乗ってパンツの話題なんて出したら100%氷漬けにされる。

どうしたものか考えていると雪女の方から話しかけてきた。



「…昨日…アンタが助けてくれたんでしょ??馬場園先生から聞いた…」



「どういたしまして。じゃっ!!」



残念だがブレザーは諦める事にして、俺は気にしていない旨だけ伝え、別れの挨拶を済ませた。これにて雪女との望んでいないイベントは終わりを告げた。



「じゃっ!!てちょっと待てーい!!どういたしましてじゃないわよ!!まだ私お礼言ってないじゃない!!!!」



まだ終われなかったorz



「…気にしなくていいよ。自分の為にやっただけだし」



「…ッ!!…それって…私を助ける事が…アンタの為になったって…事??」



頬を紅く染めて首をかしげる雪女。



何だこの俺が好きで雪女を助けたみたいな空気は??

違うよ。確かに雪女を助ける事が俺の為になったよ。でもそれは誰でもない自分の凍り付いた右の手のひらを何とかしようとしただけなんだよ…なのに何故雪女が頬を染めるんだ??

訳がわからない!!



そう言おうと口を開こうとした瞬間、その前に雪女が言葉を続けた。



「あっ…アンタがどうしてもって言うなら…アンタの身も心も(私色に)凍らして(実家の母親に紹介して)あげても…いいわょ……」



途中声が小さくなっていてよく聞こえなかったが今この野郎、俺を凍らすとか言わなかったか??

なんて恩知らずな奴なんだ!!

だけど怒りにまかせて怒鳴ったりなんかしたら逆に殺されてしまう…

明るい話題にチェンジさせよう。



「そっ…そういや自己紹介も済んでなかったね??」



「そそそそうね!!お互いの事もちゃんと知らないのにいきなりすぎたわね!!あはははは…」



真っ赤になって顔をブルブル振りだした雪女は犬っぽくて可愛かった。でもその行動が何か必殺技的な何かを出す前触れなんじゃないかと思いなかなか気を抜けない。



「わっ、私は雪女の雪子」



ハロルドから聞いていたので名前は知っていた。

そんな事より最悪な話題チェンジをしてしまった事に気付いて泣きそうだ。



このままじゃオトギに名乗らなきゃならねぇ!!



オトギに名前を知られてもいい事なんて絶対にない。なんとか誤魔化そう!!



「ご丁寧にどうも。俺は名乗る程の者ではありません」



「名乗る程の者でしょうが!!!!アンタは私の命の恩人なんだから!!てか番長でしょ!!知ってるわよ!!」



めっちゃ怒られたorz



「ハッ!!…べべべ別にアンタの名前を知ってた事に深い意味なんてないんだからね!!」



浅い意味でも深い意味でも既に名前を知られているという現実にゲンナリしてしまう。

もう無理矢理にでも会話を終わらせる事にしよう。俺の命の為に!!



「えっと…雪子。昨日の事は俺気にしないから雪子も記憶から抹消してくれ」



「よっ!!よよよ呼び捨てぇ!!??いいいきなり呼び捨てなんて、みみ皆に聞かれたらかか勘違いされるじゃないの…別に私はいいけど……」



良かった。どうやら雪子もノーマルである俺と関係があるなんて思われたくないみたいだ。最後に気を使って自分は大丈夫みたいな事を言ってくれていたが、お互いがそう思っているなら無理して関わる必要なんてない。ここは素直にサヨナラしよう。



「んじゃ、そういう事で!!サヨナラ」



笑顔で別れの挨拶を済ませ俺は、こっちを見てニヤニヤしていたハロルドの方へと歩き出した。

よくわからんが雪子がポカーンとしていたがこれで俺の命の危険は少なからず減っただろう。



グッバイ雪女☆

そう思って歩いていると



「そういう事って、どういう事じゃボケェー!!」



雪女の飛び膝蹴りが俺の後頭部に直撃した。頭を押さえ悶絶していると雪子は倒れる俺の前に仁王立ちすると大声で宣言した。



「なんかよく解んないんだけど!!今日からアンタと私は友達だからね!!」



唖然とする俺と何故か真っ赤になった雪子はクラスメイトの皆様から温かい拍手を頂戴した。



どうしてこうなったorz

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