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1話



俺の通う摩訶不思議高校は普通じゃない。

名前の通り摩訶不思議な存在が集う、それはそれは摩訶不思議な高校だ。



例えば右隣の席に座る何故かハァハァと白い息を吐いている見た目は普通の白い着物を着た女の子は多分雪女だろう。2年に進級して1週間しか経ってないので話した事はないけど右隣からくる冷気が尋常じゃないところを見ると間違いないだろう。

左窓から吹くまだ肌寒い春の風と相まって、未だ防寒対策をとらないといけないのは運が悪かったと諦める他あるまい。



そして前の席に座っているのは多分透明人間だろう。椅子が勝手に動いたり、たまに激烈に臭い屁臭が俺の鼻を刺激する辺り、確かに誰かが存在しているのは間違いないんだが、如何せん見えないので透明人間という事にしている。

見えない事をいい事に俺の顔の前に尻を突き立てていないかが心配で授業が耳に入ってこないのが最悪だ。打開しようにも居るか居ないか解らない相手に注意できる程俺のハートは強くないので、これまた運が悪かったと諦める他あるまい。

世の中諦めが肝心だ。



と、まぁこんな感じにここは"ノーマル"な人間だけでなく、雪女や透明人間…つまり"オトギ"と呼ばれる人外の方も通う摩訶不思議な高校という事だ。



☆☆☆



「席替エヲシマスAh〜ウンッ!!」



教壇の前で仁王立ちする担任の阿吽先生(ムキムキの石像)の席替え発言に俺は心の中で両腕を天へと伸ばし歓喜のガッツポーズを決めた。



入学したての頃は、石像が動いたりしゃべったりする事に恐怖で怯えていたが1年も経てば何も解決していないが、そういうモンだと思えるようになり今では気にもならない。



むしろ今は阿吽先生の席替え発言に上がりきったテンションを留める事で精一杯だ!!



正直もう君達の近辺は勘弁願いたいんだよ!!窓際の一番後ろという最高の席は惜しいが寒さと臭さにはもうウンザリなんだよ。


そう思いながら雪女と透明人間を一瞥したが特にこっちに気付いた様子は無かった。雪女は相変わらずなんかハァハァ言ってるし透明人間に至っては一瞥出来たかさえも定かではない…



まぁとりあえずこれで春なのに防寒対策する作業から脱出できると意気揚々に阿吽先生の持つ箱から1枚の紙を引いて席に着いた。



紙に書かれた数字と黒板に書かれた簡易図の場所を照らし合わせて移動したら席替えは完了という訳なんだがどうやら俺は動かずに済むようだ。窓際一番後ろという絶好のポジションは俺を離してくれないようだ。



皆が紙を引いた後、阿吽先生の声でそれぞれが黒板に書かれた場所に机を動かし始めた。移動しなくていい俺は座ったまま優雅にその光景を見ていた…んだが同時に前の机が独りでに動くというホラー現象を見てしまい少しテンションが下がった。



まぁ少なくともこれで寒さとストレスからは解放されるだろう。2人には悪いが今日はラッキーな日になりそうだ。



グッバイ☆雪女&透明人間。



☆☆☆



明るい未来を妄想していると、いつの間にか皆が机を動かし終えていた。

ここで気になるは当然雪女と透明人間が居たポジションにどんな奴がおいでませしているのかだ。



"オトギ"と呼ばれるお伽噺に出てくるような普通の人間ではない存在が居る中で真人間ながら1年を耐えた実績があるとはいえ、流石に俺も雪女のような『近くに居るだけで凍える』みたいな存在の近くだけは勘弁してもらいたい。

そう願いながら目線の先の人物の後頭部を見てみる。



まず目についたのはその人物の色だ!!ナック星から来たと言われても100%信用できる濁りのない深い緑。髪も襟元から見える首も机の上に置いてある腕も緑。制服以外で唯一色が違うのは頭の上にある用途不明な土鍋の部分だけだ。そこだけが土のような色をしている。

確実に"オトギ"だ。頭に土鍋が付いてるけど…



おそらく河童だろう。



まず重要なのは俺にとって土鍋河童が安全かどうかだ。河童の生態に詳しくはないが確か尻の穴から尻子玉を取られるみたいな事を聞いた事がある。尻子玉というのが一体何なのかは定かではないが真人間の俺にとってそれは致命的な何かなんだと推測できる。



幸か不幸か俺の席は土鍋河童の後ろだ。仮に前の席だったなら常に背中を見せる事になってしまい下手したら授業中に尻子玉を抜かれていたかもしれない。だが後ろの席なら注意さえしていれば特に危険は無さそうだ。そう結論付けて次は右隣を見てみる。



そこには美人さんが居た。確か摩訶不思議高校3本の指に入ると言われている美貌の持ち主で名前はエリザベスだったか。

それ以外の事は知らない。俺とこの人では立っているステージが違いすぎる。とても気軽に話せる相手ではない。

とりあえず見た目は人間なんだが、"オトギ"の中の大半は普通の人間と同じ見た目をしているので、外見だけでは判断がつかない。

土鍋河童も緑色で頭に土鍋がついているから河童と決めつけたが本当はただのコスプレ人間という可能性もある。



まぁ何はともあれ、迂闊に話しかけなきゃ大丈夫だろう。そう思い机に伏せて近付くなオーラを出そうとした瞬間、前から誰かの声が聞こえてきたので視線を前に向けた。土鍋河童(仮)が手を上げて先生に発言を求めていた。



「ドウシタンダ??太郎…Ah〜ウンッ!!」



阿吽先生の言葉から察するに土鍋河童(仮)は太郎という名前らしい。実にどうでもいい…



「ハァハァ…この席…無理です…ハァハァ…日光で…土鍋が!!…ハァハァハァハァ…渇いて…しまいます…ハァハァ」



どうやら土鍋河童(仮)は河童で正解だったようだ。まぁそれはともかくとして河童は席替えの席替えを希望しているらしい。確かに窓際というのは教室内で1番日光を受けるスポットだから皿が渇くと死ぬと言われている河童には辛い席なんだろう。

ただ俺としては背後をとられない限りおそらく無害な河童には我慢してほしい。だって入れ替わった相手が悪魔とかだったら俺は登校拒否してしまう事になる。

だが俺のそんな想いとは裏腹に阿吽先生はアッサリ申し出を許可してしまった。



土鍋河童の太郎は机を運び俺の前から去っていってしまった。



サラバ土鍋河童の太郎。



そして代わりにやって来たのは机だけだった。

えっ??休みの人かな??とポジティブに考えてみたが机が独りでに動くはずは無い。



どうやら透明人間が再来日して来やがったようだorz



とはいえ実際のところ、透明人間は無害だ。1週間俺の前の席に居たが直接的な被害は何も受けなかった。精神的にちょいと負担は掛るが直接的な被害がある訳ではないのでまだマシな方だろう。



土鍋河童の太郎のせいで時間を無駄にした。今度こそと近付くなオーラを出して机に伏せようとした瞬間、今度は右隣から声が聞こえてきた。



右隣を見ると綺麗な姿勢で右手をピンと上げたエリザベスさんが先生に発言を求めていた。



「私…目が悪くて…」



初めて聞く綺麗な声に少しドキドキしてしまった。

危険度は不明だが確かに美人と噂されるだけの事はある。俺には縁遠い存在だが少し癒された。



「後ろの席だと黒板が見えないんでガッチョリンペス」



語尾がダイナミックすぎるだろ!!!!

癒しから一転、心の中でツッコまずにはいられなかった。

俺が語るのも何だが一般的に可愛いとされている語尾はニャン☆とかだろう。

それなら俺も悶えていたかもしれない。

だけどガッチョリンペスはさすがに無いだろ。

てかガッチョリンペスって一体何なんだ??



俺が唖然としている間にエリザベスさんは阿吽先生の許可を貰ったらしく机を動かし始めた。



サラバ語尾ガッチョリンペス。



そしてこんにちわ



…雪女さん。



流れからだいたい予想はしていたが、いざ雪女が机を動かし始めた時は以前飼っていた犬が逃亡してしまった時以上に絶望してしまった。

俺の春は次の席替えの時か本格的な夏が来るまでお預けのようだ。



まぁ…仕方ないか



☆☆☆



昼休み、椅子から立ち上がり教室内を見渡してみる。目標の人物を捉え俺は凍える体に鞭打って友達のハロルドの元へと向かった。と言っても距離にして2メートルもないんだけど。



向こうも俺に気付き軽い口調で声をかけてきてくれた。



「おっす、番長〜。昼飯どうする〜??ってどうした!!唇紫じゃ〜ん」



「うっす。なんか隣が多分雪女みたいでな」



ハロルドに答えを返しながら空いていたハロルドの隣の席に腰かける。



ハロルド・ボンボン、通称ハロルド。1年の時に知り合い意気投合した名前の通り金持ちのボンボンだ。後からオトギだと判明したが俺にとって特に危険がないので普通に仲良くしてもらっている。モテモテ金持ちリア充馬鹿野郎だ。



ちなみに番長というのは俺のあだ名だ。クレイジーな事に友達も教師も住んでいるアパートの住人達も俺を番長と呼ぶ。本名を何度言っても番長と呼ばれてしまう。だからもう諦めた。俺を知る全ての人が俺を番長と呼ぶのなら俺の名はきっと番長なのだろう。



「雪女〜??……ああ、あの白い着物の子か〜。確か名前は雪子だっけか〜??」



「いや、知らね…しゃべった事ないし、関わる気もないし」



「相変わらず世界が狭いな〜、番長は〜」



「仕方ないだろ。俺は自分の命が1番大事なんだ。下手にオトギなんかと関わったら俺みたいな脆弱なノーマルはアッサリ死ぬからな」



「あの〜、一応俺もオトギなんだけど〜??」



「ハロルドが危険だと判断した時はサヨナラだ」



「番長〜!!俺たちの友情ってそんなものなのかよ〜」



「当然」



オーバーリアクションで天を仰いでいるハロルドに簡潔に答えてやるとハロルドはゲンナリしながら笑っていた。Mなのか??



その後、ハロルドと購買に行き貧乏な俺は高カロリーなあんパンを、ブルジョワなハロルドはフォアグラパンという奇妙なパンを購入。その足で学内にあるベンチに向かい優雅にランチを楽しむ事にした。



☆☆☆



優雅に食事を終えた後、ベンチにだらしなくもたれ掛かり鐘が鳴るまでハロルドと他愛のない会話をする。それがいつもの日常だ。



「今日番長んち遊びに行っていいか〜??」



「悪い、まだ妹の荷物が片付いてなくてな」



「そういや今年から妹ちゃんと同居するんだったっけか〜。って番長のアパート6畳1間だよな〜??」



「まぁな。お前んちのトイレより狭いからな……死ね!!リア充が!!」



「いやいやいやいや!!何いきなり俺にキレてんのさ〜!!ってか問題はそこじゃないでしょ〜よ〜!!」



「なんだよ??」



「いくら兄妹っていっても〜、年頃の男女が狭い部屋で2人きり〜ってのは…マズくないか〜??」



「…ああ…マズいな…1年振りに一緒に暮らすようになったが…かなりマズい事になったな」



「うわ〜お!!予想外の返しだわ〜。何かあったのか〜??既に兄妹で禁断の何かが…あったのか〜??」



「妹の持ってきたベッドのせいで実質、居住区域は2畳になってしまった」



「どうっでもいいよ〜!!期待して損したわ〜」



「損って…お前から聞いてきたんだろ…」



「そういう意味じゃなかったんだよ〜…それで妹ちゃんはどんな子なんだ〜??」



「ん、普通だよ普通。ノーマルだし…まぁ強いて言えば料理の腕がいいって事くらいかな」



「料理上手か〜。いいな〜番長〜。うちも姉貴が居るけど120歳も離れてるからあんまり仲良くないんだよね〜…って番長!!何で俺から距離をとるの??」



「いや…お前がオトギという一端を垣間見た気がしてな…」



「はは、ほんと番長はオトギが嫌いだね〜」



「いや、別にオトギが嫌いな訳じゃないよ。アパートにも3人居るけど皆いい人達だし、お前もリア充死ねとは思ってるけど嫌いじゃないからな。ただ…」



「ただ〜??」



「安全が約束されない限り、俺はオトギには近付きません!!」



ハロルドはやれやれといった感じでため息を吐いていた。

でもこれがノーマルである俺の生きる道。



別にビビってる訳じゃないんだからね!!

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