プロローグ
今思えば、あれがはじまりだったのだろう。
俺の中では、もう少し後の出来事が起因しているようにも思えるが……
四月。
俺は駅から学校への道を走っていた。
何故かと言うと、乗った電車が快速だったと言う、わかりやすい間違いをしたからなのだが。
「わわわわわわわーぁ!」
「うおぉ?」
突然の少女の悲鳴じみた声。それはドンドン近づいてくる。キキキと言う、ブレーキ音と共に。
発生源は向かって右手の上り坂。向うにとっては、下り坂になる道だ。
気付くのが遅かった。
俺と自転車少女は、ほぼ正面衝突の形で、路上に崩れ落ちた。
先に起き上がったのは女の方。髪形はポ二ーテール。釣り上がった細い目をした、気の強そうな女だ。
「ああー、傷ついたじゃん。入学祝いで買ってもらったばっかなのに」
人より先にMTBの心配かよ。確かに、高そうな自転車ではあるが。
「あたっ。ひざもすりむいちゃったじゃん。最っ悪」
次、自分かよ。
「あのな、ぶつかった相手に詫びの一つも無しかよ」
「詫び? なんでよ。あなたがトロっとつっ立ってるから、ぶつかったんじゃんか」
「そっちがハンドルきるか、ブレーキかければ、そもそもぶつかってないだろ」
「何よ。無傷のクセして。あたしなんか、ひざすりむいたし、ほら左手の袖だって破けちゃってるし」
「あのな、こっちだって出血はしてないけど、痛いもんは痛いんだよ」
「そんなもん、すぐ無くなるわよ。だいたいこっちは、あなたの相手をしてる時間なんて……」
「時間だったら、こっちだって……」
時間?
ちょうど、俺がそれを思い出すのと同時、学校からチャイムの音が聞こえてきた。
「ち、遅刻ー!」
あの女、一人で自転車乗って先に行きやがった。後ろに乗せてけ。
言い忘れてたが、今日はこれから入学式だったりする。
校門をくぐり、中庭へ。昇降口で、自転車を置くのに手間取ってたらしいさっきの女にあった。が、ここでまた時間を食う気はお互いに無い。
入学案内と一緒に送られてきたプリントで、クラスの教室を確認する。
「一組……」「一組……」
……え?
結論から言うと、入学式に遅刻した。
彼女の名前は巽心愛。
あの坂の上にある巽神社に住んでると言っていた。
このあたりで一番大きな神社で、俺も小学校くらいまでは、初詣や夏祭りなどで、親に連れて行かれた事がある。
どうでもいい事だが、教室では出席番号が同じで、隣の席だった。
今思えば、これがはじまりだったのだろう。
少なくとも、彼女の中では。