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長い一週間

作者: 竹仲法順

     *

 休日が終わった。また今日から通常通り仕事だ。あたしは朝ベッドから起き出して、キッチンへと歩いていく。そして薬缶にお湯を沸かし、ホットコーヒーを一杯淹れた。眠気覚ましのため、エスプレッソで淹れて、焼いていたトーストを齧りながら飲む。昨日までこのベッドに一緒に寝転がっていた宏隆(ひろたか)は昨夜自宅マンションへと帰っていった。互いに家はすぐ近くなのだ。勤め先の会社も距離的に近い。ただ、彼は仕事帰りに居酒屋などで飲むので通勤には市営バスを使っている。定期代は購入時に領収書を発行してもらえば、会社の経費で落ちるらしい。会社まで二十分ほど揺られる合間に携帯をネットに繋ぎ、情報を見続けている。さすがにビジネスマンだ、情報の最前線にいて抜かりはまるでない。あたしも会社に勤めていたのだが、勤務時間中にネットで配信されてくるメインの情報を見ながら、

〝へえー、こんなことがあってるのね〟

 と思い、閲覧し続けていた。大概パソコンのキーを叩き、書類などを作るのが仕事だが、合間にネットも併用する。情報ツールとしてこれ以上いいものはないからだ。ネットでは過去のニュースなども(さかのぼ)って見ることが出来る。便利なのだった。昔はこんなものがなかったのだが、今はあって年齢制限なども特になく、誰でも情報源として使えるのだった。

     *

 現役の会社員にとって週末の休みはとても楽しい。特に土日は宏隆と過ごしながら充電する。彼とあたしは十歳年齢差があった。宏隆の方が年下である。あたし自身、最初は思っていた。彼と初めて抱き合い、体を重ね合ったとき、

〝ホントにこの男性とあたしって釣り合うのかしら?〟

 と思って抱擁後(ほうようご)、感じたことを率直に言ってみた。確かに三十代半ばで、一番人生が充実する年齢の男性に、十歳年上の四十代中盤の女性が付き合ってもいいのかなということを、だ。すると宏隆が、

「別に構わないんじゃない?だってお互い独身同士なんだし、愛し合えてるし。俺は若い女より、絵美子ちゃんぐらいの年齢の女性の方がいいよ」

 と言った。つまり互いに愛し合うことに対して何ら抵抗がないということを彼の方が明言してくれたのだ。それを聞いた後、嬉しくなり、抱き寄せてキスする。またゆっくりと体同士を重ね合い、二人で無我夢中で抱き合った。この季節は一週間が何かと早かったり反対に遅く過ぎたりもする。やはり秋というシーズンだからか、お互いの想いが深まっていた。すでに寒風が吹くところもあるのだが、気候は比較的良好である。大抵あたしの方が宏隆を部屋に呼び、一通り料理を作って一緒に食べてから、ゆっくりと寛ぎながら過ごしていた。

     *

 仕事は絶対に持ち帰らない。自宅は息抜きするところだから、午後五時半で終わって一時間残業したらすぐに帰る。帰宅途中スーパーなどに寄り、食材や、夕食のおかずなどを買い込んでいた。別に抵抗はないのである。昼間はランチ店でランチを食べるし、夕食も仕事で疲れたときは出来合いのものを買うのだが、それでいいと思っていた。職場では腱鞘炎(けんしょうえん)になるまでキーを叩くのである。さすがに夜は食事を取ってしまったらお風呂に入り、疲れを取って眠る。自宅マンションが1Kでキッチンとリビングしかないから、ベッドもリビングにあって、常に地デジのテレビを付けていた。タイマーをセットしていたので、テレビは時間が経てば自動的に消えてしまう。眠る前に宏隆にメールを打つ、大抵携帯からだ。自宅にもパソコンはあったのだが、こっちのマシーンの方は休日に彼が来るのを待つ間、芸能人や著名人のブログなどを見たり、好きなサイトを閲覧したりする際に使っていた。ネットはオフィスでも十分活用している。もちろん業務のためだが、ディスプレイを見続けて疲れたときはなるだけ目を休めるようにしていた。いろんなサプリメントを飲み合わせている。ブルーベリーにアイアン、コラーゲン、ヒアルロン酸などを飲んでいた。普段の食事じゃ取り足りない栄養素である。ランチ店などでも日替わりメニューは肉類や脂っこいものが中心で、とてもじゃないが栄養は(かたよ)り、不足していた。その分はサプリメントで補う。補助食品で上手に栄養を取ることで何とかなっている。もちろんランチにハンバーガーやフライドチキンなどジャンクフードを食べることも月に一度ぐらいはあったのだが……。

     *

 何かとウイークデーは気だるい。仕事が詰まっているから、単純処理で疲れてしまうのだ。だけど残業まで終わってしまえば「お疲れ様」と言ってすぐに帰る。帰宅してから買っていた食事を取り、同時に軽くアルコールを含むのだ。梅酒が美味しい。甘いカクテルなども好きだったが、飲むときは梅酒とか日本酒などの方が圧倒して多かった。ビールも買っていたのだが、大抵宏隆が来たときに出すようにしている。彼はビール好きなのだ。あたし自身、宏隆のお酒の好みは知っていた。ビールかウイスキーの水割りのどちらかで飲めば大抵かなり酔う。アル中などじゃなかったのだが、確かに酒量が多い。おそらく普段も居酒屋などでかなり飲むのだろう。だけど、あたしといるときは程々にするつもりでいるようだった。いつも仕事でストレスが溜まっているようで、飲酒は気分転換だ。部屋に来たときもゆっくりと飲んでいる。宏隆に缶ビールを差し出すと、彼はあっという間に三百五十ミリリットル入りの缶ビールを丸々一缶飲み干してしまう。そして言った。「俺も最近疲れちゃっててさ」と。「そんなにお仕事きついの?」と問うと、一瞬表情を変え、鋭い目付きをして、

「ああ、疲れない方がおかしいよ。俺も生身の人間だからな」

 と言った。やはり憂さ晴らしで飲むことの方が多いようだ。忠告する意味で、

「程々にね」

 と言い、彼と遠慮なしに抱き合う。

     *

 腕同士を絡め合わせると、自然とリラックス状態になった。覚えていた疲れがいつの間にか取れてしまう。確かにあたしも幾分倦怠していたのだが、特に何も言わない。ただ宏隆が少しでも寛げるように配慮したいということだった。これはカップルにとってとても大事なことだ。特に週末や互いに仕事が休みの日しか会えないし、一週間を長く感じる。だけどこれも長い人生において一過性のものだろう。焦らず(たゆ)まず、互いの手を取り合ってこれから先の人生を送っていくつもりでいた。出会えた事から何もかもが始まったのだ。愛ある生活も、互いに注ぎ合う潤いなども。そしてそんなことを思っているうちに、いつしか自然にお互いの心のうちも分かってくる。いつもは言いようのない苦労をしていても、休みになれば羽を伸ばす。あたしも長崎にある実家を出てから、もうずっと帰ってない。だけど父親や妹とは一切縁を切ったのだった。それでいいのである。互いに意見が合わない者同士なので。いくらこっちが歩み寄っても無駄なのだった。何ら接点はないのである。これからもこの街で宏隆と週末同棲生活を続けるつもりでいた。邪魔する人間は誰もいない。それに仮にそういった人間がいたとしても(たもと)を分かってしまえばいいのだから……。用はないのである。確かに孤立することはあるのだが、彼と朝晩メールし合ったり、休みの日を狙って会ったりすればそれでいいのだし……。不足することは何もないのだ。休日は実に貴重な時間である。お互いスケジュールを空けて会う。楽しみなのだった。何にも増して。宏隆とあたしは目には見えない絆で結ばれているのだから……。

                                (了)


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