第8話 中国4000年の歴史? ぬるいな
俺が部屋に帰ると早速勉強が始まった。
まずはこの国の歴史の勉強なのだが、次々と出てくる長い名前の人物たちの名前を覚えるので一苦労、さらにわけのわからない地名ばかりで頭を抱える。ついでに、この国は約7000年の歴史があるせいで呆然自失に陥った。
「無理だ……ちなみに聞いておくが、今何年だっけ?」
「今は、世界歴で1万と7865年ですね」
世界史は一万八千年分も覚えることがあるのか……
「最難関となるこの歴史が終われば後は数学、魔法学、言語学あとは戦闘訓練で終わりですから頑張ってください」
「俺、数学ならたぶんできるよ」
本当ですか? と疑われながらミリィが差し出してきた本を手に取って驚く。その本の内容は、まるで中学生の数学そのものであった。
この程度、俺にとっては何の問題もないということを伝え、一教科勉強しなくてよくなったことに胸をなでおろす。
「では、歴史を頑張りましょう」
その一言で、俺の胸に絶望が舞い戻ってきた。
俺がこの国の歴史を学んでわかったが、この国においては化学は全くと言っていいほど発展していない、しかし、代わりに魔法学が発展し、魔力というクリーンエネルギーによって人々の生活は成り立っており、地球のような環境問題は発生していない。
しかし、この世界においては魔物というものがおり、それらのせいで未開発の土地が多い。
魔物についてミリィに聞くと、基本的なところはほかの生物と変わらないが体内に異常な量の魔力を保有しており、非常に強靭な体を持っていること。ほとんどの魔物はそれを制御できないため攻撃的になるということを教えてくれた。
同時に、体内に生まれながらにして魔力を持つ人種を魔族と呼び、彼らは自然の中にある闇の魔力を感知でき、約4000年前までは人間と争っていたが、現在は友好的な関係にあるということまで教えてくれた。
その後も勉強を続け、夕食を食べに行き、食後のコーヒーを飲んでいるとクロンさんが話しかけてきた。
「リューヤ様、魔力を覚醒させるための準備が整いましたが、いかがいたしましょう?」
俺はその言葉を聞いて思い出す。
「ああ、そういえば今日やるって言ってたの忘れてました」
はっきり言って、今は歴史のことで頭がいっぱいだったので忘れていた。けれど、思い出したからにはやっておきたい。
「お願いできますか?」
「かしこまりました」
そういえばエリスの協力が必要とか言っていたが、協力してくれるのだろうか?
俺は気になってエリスのほうに視線を向ける
「安心しろ、朝の件は私のほうに非があることは分かっている。ここで駄々をこねるようなことはしない」
ひとまずは安心できそうだな。
そのあと俺はクロンさんにつれられてある部屋につれてこられた。
そこの床には魔方陣が2つ描かれておりそのうちの一つに入るように促される。
「少々きついでしょうが、頑張ってくださいませ」
俺はそこで体に違和感を覚える。
「あれ、体が動かないんですけど?」
俺が不安な声色で尋ねるも、クロンさんはいつもと変わらぬ口調で返答する。
「魔力を覚醒させる際に、魔方陣の中から出ていただくと失敗してしまいますので、暴れられないように拘束させていただいております」
「いや、暴れたりはしない予定ですけど」
暴れたところでメリットがないのだから暴れるわけがない。
そんなことを言っているとエリスがもう一つの魔方陣の上に立ち、口を開く。
「暴れるつもりがなくとも、痛みにより暴れてしまうから拘束しておるのだ、それぐらい理解しろ」
その言葉に俺は顔が引きつる。
「え、そんなに痛いの?」
「親の魔力で覚醒するならともかく、親族でもない者の魔力で覚醒させるのだそれなりの苦痛であることは覚悟しろ。ちなみに、私は5歳の時、母上に手伝っていただいたがそれでもかなりの苦しみを伴った」
「あ、ちょっとまって、心の準備が……」
俺の頼みは、むなしく切り捨てられる
「貴様も男ならば潔くしろ」
そういうと、エリスの乗っている魔方陣が光りだし、俺の乗っている魔方陣の光も一段と増した。
「ぐっ、頭いてぇ」
突如として襲ってくる頭痛、それは徐々に強くなっていく。
「あ、くっ……がはっ……」
すでに俺は言葉など喋れる状態ではなかった。あまりの痛みにすでに言葉にならない声を出し続けて耐える。
気絶でも出来れば楽なのだろうが、なぜか意識は覚醒していく。
頭の中の考えはすべて痛みによってかき消され、すでに痛みは頭痛だけでなく体中に広がっていた。おそらく拘束されていなければ、魔方陣の上から飛び出していたであろう。
あれからどれほどの時間がたったかわからない、すでに口からは音が出ず、ただただ苦しむ。苦しみ続けていた俺だが、徐々に痛みが弱くなっていくのを感じた。そしてそれから数秒後、痛みは消え去りそれと同時に俺は気を失った。
「あ、あれここは」
「おはようございます」
俺はいつもの部屋にいた。
「俺、たしか魔力の覚醒させて……気絶したような気が」
「はい、リューヤ様が気を失いましたので、クロン様がお部屋まで連れてきてくださいました」
俺は徐々に頭がはっきりとしてきて、昨日のことを思い出す。
「ああ、そっか」
「朝食のほうはどういたしましょうか?」
そう言われて気を失ったせいで昨日風呂に入っていないことに気が付く。
「出来れば汗を流したいから、後でまた迎えに来てくれるかな?」
「かしこまりました」
そう言って、ミリィは部屋を後にする
俺は、汗を流した後、またベッドに転がる。そこで体の中に、何か変なものがあるような違和感に気付く。
「これが魔力か?」
つい、思ったことを口に出してしまった。
「それが魔力だと思うんだったら、それなんじゃないか?」
俺は突然声をかけられて驚く。
「うおっ、グレイいつ来たんだよ!?」
「お前がベッドに寝転がったあたりかな」
俺はそれを聞き、ため息を吐く。
「全く部屋に入る時はノックくらいしてくれよ」
俺の頼みを聞く気など、全くないと言った感じでグレイが口を開く。
「そんなことよりも体内の魔力に気付いたら、次は外にある魔力に気付けるようにならないとな」
「外の魔力か……何も感じないな」
俺は、何か変わってないかと思い周りに意識を集中させるが、全く何も感じられなかった。
「そんな簡単に感じれるもんじゃないからな」
早く魔法を使ってみたい俺は、グレイに尋ねる。
「なんかコツとかないのか?」
「ないな、とにかく集中することだ」
それを聞き、俺は軽く落ち込む。
「しょうがない頑張ってみるか」
その後、ミリィが迎えに来るまで頑張ってみたが結局何も感じられずに終わった。その日はそのあといつも通りに勉強をして過ごし、この国の歴史のうち3000年ほどのところまで学んだ。
――三日後
なんとか、コーランド国の歴史の勉強を終え、いったん休憩をしていると部屋に何か紙を持ったクロンさんが訪ねてきた
「どうかしましたか?」
背もたれによりかかりだらけていた俺は背をただして尋ねる。
「保存の能力に関する情報が入りましたので、持ってまいりました」
俺はそれを聞き少し心が踊った
「ありがとうございます」
魔力を覚醒させたはいいが、自然の中の魔力にはいまだに気付けず、固有属性の能力も使い方がわからずにいた俺にとってこれは朗報であった。
「こちらが保存の能力に関する資料です」
そう言って手渡してきた資料を俺は、さっそく読み始めた。