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第4話 天国と牢獄

 あれから数日がたった、しかしいまだに俺がここから解放される様子はない。今頃日本の友達はどうしているかなどと考えながらベッドの上でのんびりと過ごし、時々スキップのばかな話を聞く、そんな日々が続いていた。


 意外なことに異世界に来たことはすんなりと受け入れられた、両親は今頃捜索願いでも出して大変かもしれないが、今の俺には帰るすべがない。


 まぁ、そのうち帰れるなら帰ろうとは思うのが、俺が考えるにそんな簡単なことではないだろう。よって、こっちの世界でのんびり暮らしつつ帰る方法を探そうと思うのだが、まず牢屋から出れないことにはどうしようもない。


 いつものように昼飯が運ばれてきたとき、昼飯を運ぶいつもの人とは別にもう一人いることに気が付いた。


「ハシモトリューヤというのは君のことかい?」


 そのもう一人の男性は、顔にはきれいに整ったひげが生え、背は180cmほどで年は40くらいであろう。金髪は肩より少し下まで伸び先のほうがまとめられており、眼は緑色をしている、いわゆる金髪碧眼というやつだ。


「はい、そうですが」


 彼がなぜ、おれの名前を知っているのかを不思議に思いながらも返事をする。


「どうも、私はエリスの父のレインだ」


 なるほど、あいつの父親か。でもなんでこんなところに?


「エリスが君の国籍の申請をとってくれるといっただろう?」


 うん、確かに言われた。何の音沙汰もないもんだから忘れられてないかと心配になってたとこだ。


 俺はその問いに対し首肯で返す。


「実は、国籍を得るために君を預かってくれるところを決めなければいけなくてね」


 なるほど、俺は居候をしなきゃいけないわけか。


「それで、あちこちに掛け合ってみたんだが君の情報を出すとどこも首を縦には振ってくれなかったみたいなんだよ」


 そりゃ突然居候させてくれるようなところなんてそうそうないよな。


「その場合どうなるんですか?」

「このままでは国籍は手に入らないからここから出てもらうわけにもいかないんだ」


 そいつは困った。このままだと一生牢獄暮らしじゃねぇか。


「え、じゃ……」

「まぁ、もう少し聞いてくれ」


 まだ何かあるようなので、とりあえずは聞いてから判断しようと思い、俺は静かにレインさんのほうを見る。


「それで、君をうちであずかろうと思うのだがどうかね?」


 その言葉を聞いて叫んだ。


「何―――!!」


 ちなみに叫んだのはスキップだ。


「スキップ静かにしてくれ」


 俺にとっては死活問題なので少し静かにしていてほしい。


「だってお前こいつ、じゃなかった、この人って……」


 なんだか歯切れが悪い感じでスキップが何か言っているが、俺は諭すような口調で話しかける。


「もういいから少し静かにしててくれ」


 俺は話の途中で突然叫んだスキップを黙らせ、再びレインさんのほうに向きなおる。



「いいんですか?」


 俺の問いに対してレインさんは笑顔で答える


「あぁ、君さえよければ」

「よろこんで」


 これで俺の異世界生活がスタートできる。

 そんなことを考えていると、さっきまでぶつぶつとつぶやいていたスキップが話かけてくる。


「まぁ、よかったじゃねぇか」


 その言葉に感謝の言葉を述べ、お前も早くここ出ろよ、などと軽口をたたいてみる。

 レインさんの話だと、これからすぐにレインさんの家に向かうらしく、俺はスキップに別れを告げて牢の中を出た。


 そのあと廊下を歩いているときに聞いた話だと、俺は名前はリューヤ・ハシモトとして登録されて、晴れてこの国の国民になれるそうだ。


 そんな説明を受けながら、歩いているとレインさんはある部屋の前で立ち止まりその部屋の中に入っていったので俺もそれに続いた。レインさんは何もないその部屋のまん中で立ち止まった。


「あの、この部屋は一体?」


 そういうとレインさんは振り向き答える。


「ああ、いま転移の準備をするから待っていてくれ」


 そういってから数秒後、俺の足元には円とその中に幾何学的な模様の描かれた、いわゆる魔方陣が光の線によって形成される。徐々に魔方陣の光は強くなり、俺の体を包み込んだ。


 あれ、この感じって前にも……そうだたしかあの演習場から突然移動したときの……

 そうかこれが魔法ってやつなのかな、などと考えていると、俺はさっきとは全く別の場所にいた。


 目の前に広がる風景を一言で表すならば“荘厳”の一言に尽きる。


 左右に伸びる高さ2mほどの白い壁、眼前に構える鉄格子の門。そして、その奥に見える緑の芝生の中を走る真っ白な石畳の道、その途中には横に伸びる道や噴水まであるそしてその奥に見える家は細かな装飾の施された白い外壁、少し薄い色の青い屋根。

 その家は、言い表すなら家というよりもお屋敷といった感じだった。


 驚き、呆然としている俺の耳に初めて聞く声が飛び込んできた。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 その声の主は見た目50歳ほどであろうか、執事服に身を包み、銀色の髪は顔にかからぬようにオールバックにしており、立派なひげを生やしている。まさに絵にかいたような執事とでもいうのがふさわしいであろう人物が、そこには立っていた。


「クロン、わざわざ出迎えすまないね」


 そうレインさんが言うと、クロンさんは軽く首を振る。


「いえ、とんでもございません」

「彼は以前から話していたリューヤ君だ」


 俺は突然紹介されたことにあわてながらも、なんとか自己紹介をし、それに対しクロンさんも返事をしてきた。

 クロンさんはここで家令をやっているらしいが、俺は家令がなんだかわからない。


 この後、門を抜けあの遠くに見える屋敷まで歩くのだろうと思っていた俺に予想外の出来事が起こる。


「じゃあ、クロン頼む」

「承知致しました」


 クロンさんがそういうと、一瞬だけ目の前が明るくなり次の瞬間にはさっきまで遠くに見えていた屋敷の目の前にいた。


 今までの移動と違うところはとにかく移動までの時間が短いことである。今までは全身が光に包まれて徐々にその光が消えたかと思うと別の場所にいたが、今はカメラのフラッシュのように一瞬だけ光が見えたとおもったら別の場所にいた。


 まあ、そんな違いが何であるかなど分かるはずもない俺には、どうしようもないことである。俺もあれできないかなぁ~などと考えながら、扉へ向けて歩き出すレインさん達に続いて歩き出す。扉の前まで来ると、扉をクロンさんが引いて開ける。


 扉の奥に見えた光景に俺は驚いた。そこには映画でしか見たことのないような使用人たちが並んで頭を下げるなどという、怪奇現象並みにめずらしいものが待ち受けていた。しかもみんなで声を合わせておかえりなさいませってどんだけ統率のとれた集団なんだか。


「さあ、みなさん仕事に戻ってください」


 そう、クロンさんが声をかけると使用人の人たちは散り散りにどこかに行ってしまい、クロンさん自身も一礼をしてどこかに行ってしまった。


 そういや俺メイドとか見るの初めてだな、などと見当はずれなことを考えながらその玄関というかエントランスホールを見わたす。吹き抜けに大階段、天井からつりさげられたでかすぎるシャンデリア、すでに俺の住んできた世界との差異を感じすぎて気後れすることすら忘れてしまう。


「リューヤ君、ここが今日から君の家となる場所だ」


 そういって話しかけてくれたがあまりの事態に俺はテンパってしまう


「よ、よろしくお願いします」


 緊張から少し早口になってしまった気がする。


「もっと楽にしてくれ。わからないこともたくさんあるだろうけどそれは徐々に解決するとして、まずは妻のところにあいさつに行こうと思うのだが」


 当然俺は断るわけもなくレインさんについていく。


 家の中であの瞬間移動は使わないのかな、と考えながら歩いているとある扉の前でレインさんが立ち止まりノックをする。おそらくここがレインさんの奥さんの部屋なのだろう。


「どなたですか?」


 扉の向こうから聞こえてきた声はきれいな声だった。


「わたしだ」


 そうレインさんが言うとまた部屋の中から返事が返ってくる。


「あら、どうぞ」


 レインさんが部屋の中に入っていったので、俺も一礼をして部屋の中に入る。部屋の中で椅子に座っていた女性は、腰のあたりまで伸びた栗色の軽くウェーブのかかった髪、茶色の眼は優しげで、どちらかというと垂れ目気味である。

 それにしても、本当にレインさんの奥さんなのだろうか? 20代といわれても全く疑わないであろう容姿に軽く驚いてしまったが、その落着きからは大人の風格があふれている。


「そちらが前から話していた方ですか?」


 その女性は小首をかしげる。


「ああ、そうだ」

「橋本隆也です、よろしくお願いします」


 俺はそんなありきたりなあいさつをする。実際何を言えばいいかなど分からないから仕方がない。


「レインの妻のアマリアです、よろしくねリューヤ君」


 アマリアさんはそういいながら微笑んでいた。


 その後レインさんがアマリアさんに話があるというので、俺はいつの間にか現れたクロンさんにつれられて、これから俺が過ごす部屋へと向かった。


 俺が案内されてきた部屋はまるで最高級ホテルの一室のようで、この部屋を一人で使っていいのかという疑問さえ浮かぶほどに広かった。


 クロンさんに大まかな部屋の設備の使い方などを教えてもらい、詳しい説明は後で部屋係のものが来るので、そのものに任せているということなであった。


 俺はすでに着替えもクローゼットの中に用意してくれているという話なので、とりあえず牢獄生活で三日に一回しか入れなかった風呂に入ることにした。

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