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第37話 緑色は目に優しい、説明はめんどいから無しで

 部屋の中には、優雅な音楽が流れそれに合わせて人々が踊っている。俺はそんな様子を、壁際から眺めていた。そんな、俺にグレイが近づいてくる。


「おう、ちゃんとやってるか?」

「はい。ですが、どなたに気を付ければ良いか判りかねまして」


 俺がそういうと、グレイは周りを見渡す。


「うーんと、まずあれはライラのファンで、あいつもだな」


 そう言って次々に、グレイは人を示していくが、軽く十人は超える人数がいた。


「では、どのようにすれば?」

「ん、ライラが困ってる様だったら、助けに行ってくれ」


 困ってるようだったらって、どうやって判断すればいいのだろうか?


「グレイ、ここにいたんですね」


 今までどこかに行っていたのであろう、ミシェルさんがやって来た。


「おう、戻ってきたか。じゃあ、リューヤあとはよろしく」


 そう言って、グレイはミシェルさんを連れて行ってしまった。

 それにしても、グレイの許嫁がこの国の王女様だとは、驚きである。

 アラン・フェルディナント・ウェイ・コーランド、第126代コーランド王国当主にして現国王。その国王様の長女が、ミシェル・フェルディナント・ウェイ・コーランドつまり、グレイの許嫁である。最近習ったことだったが、さっきまで全く思い出せなかった。


 俺が、その後もライラの様子を確認していると、突然後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。


「星無し、あんたこんなところで何やってるの?」


 俺が振り返るとそこには、赤いドレスに身を包んだクレアが立っていた。髪も赤、目も赤、ドレスも赤、もうここまでくるといっそのこと清々しいが、できればもっと目に優しい色で揃えてもらいたい。


「これはこれはクレア様、いつもお世話になっております」

「その話し方、気持ち悪いわよ」


 俺だって別にこんな口調したいわけではないが、ミリィにばれたらと思うとどうすることもできない。

 そんなことを思っていると、クレアが俺の服を見て何かに気付いたように口を開く。


「その家紋……なるほど、そういうことだったのね」

「どうかしましたか?」

「何であんたに、ミリィみたいな良い従者が付いてるのかがわかったのよ。まさかグランツ家の客人だったなんてね」


 そう言って、クレアは俺のカフスボタンを指さす。俺がカフスボタンを見ると、そこには獅子とその背後に斜めに交差したハルバートが描かれていた。恐らくはこれがレインさんたちの家、詰まる所のグランツ家の家紋なのだろうが、それが俺にミリィが付いているのとどういう関係があるのだろうか?


「申し訳ありませんが、少々解りかねます」

「だから、あんたが三大貴族のところの客人だから、ミリィが付いてるって言ってるのよ」


 三大貴族? たしか、王族に次ぐ権力を持ってて、場合によっては君命ですら無効にできるとかなんとかって言うあの、三大貴族?


「マジか?」


 ついつい、素の口調で話してしまった。


「本当よ、あんた知らなかったの?」


 クレアは、呆れたと言わんばかりの雰囲気でそう言い放つ。俺はただただ首を縦に振る。三大貴族っていう存在自体は勉強したが、その一つがグランツ家だったとは知らなかった。

 しかし、クレアもここにいるってことは、こいつも貴族だったのか。


 そんなことを考えながら、ライラの様子を確認すると。いつの間にか、三人の男に囲まれておろおろしている。


「クレア様、申し訳ありませんが私はここで」


 俺はクレアに会釈をして、ライラの方へと歩きだす。

 ライラの近くまで来ると、男たちの声が聞こえてきた。


「ライラさんどうか、自分と踊ってください」

「いえ、こいつではなく、俺と」

「ライラさん、こんな二人は放っておいて、俺と」


 そう言って、ライラに手を差し伸べながら、男たちはお互いに火花を散らす。

 そんな中、どうすればいいのかわからずライラは、困った顔をしている。


 なんで男どもが、こんなに焦るかのようにライラのもとに集まったのかを渡されていた懐中時計を確認して理解する。もうすぐ舞踏会も終わり、つまり次の一曲がラストチャンスなのだろう。だが逆にもう舞踏会が終わるのならば、こっちにだって手はある。


「ライラ様」


 俺が、ライラのことを呼ぶとライラだけでなく、男たちまで俺のことを見てくる。

 俺は男たちに聞こえぬように、ライラに耳打ちをする。


「ここは俺がなんとかするから」


 俺がそういうと、ライラはうなずいたので、俺は男たちとライラの間に割って入る。


「申し訳ありませんが、旦那様からライラ様を呼ぶように言われましたので申し訳ありませんが」


 男たちも三大貴族の当主の名前を出されたらどうする事も出来ないようで、おとなしく引き下がった。後は、時間まで会場の外で適当に時間をつぶせば完璧だと思ったのだが。よく見るとライラのファンたちの目が光っていて、とても会場の外なんかに出られるような状態じゃない。

 

 まだ、やったことはないけどあれでも試してみるか。


「ライラ様こちらへ」


 俺はそう言って、ライラに出口近くの人ごみの方へと進ませながら、ファンたちの位置を確認する。そして、ファンたちから完全に見えず、それでいて出口に近い位置で俺は、行動を起こす。


 俺は、ライラを保存した。


 生物、特に人間を保存する場合は、その人という情報も同時に保存するので魔力の消費が激しいらしい。おそらく、もって数秒だが、それだけの時間があれば廊下までは出られる。俺は人ごみを早足で抜け、廊下に出ると同時にライラを目の前に放出する。


「あれ、私なんでこんなところに?」


 ライラは、いったい何が起こったのかといった具合で、周りを見ている。


「ちょっとの間、保存させて運ばせてもらった」


 まあ、もう魔力がないから次はないが、どうせ舞踏会も終わるんだから関係ない。とりあえず、魔力がほとんどなくなったことによる倦怠感が俺を襲う。しかも急激に魔力が減ったせいか、かなり怠い。


「そうだったんですか。ありがとうございます、助かりました」


 そう言って微笑む、ライラに俺は、だるそうに手を挙げて答えることしかできなかった。

 その後、音楽がやむのを確認してから会場に戻り、レインさんたちと合流して帰路へとついた。

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